31 / 31
31
しおりを挟むもうひとりの元プレイヤーのルサレテは放課後、学園の庭園で白い猫を撫でていた。
この猫は、以前木の上に登って下りれなくなったところを助けてやったことがある。あのときは子猫だったが、今はひと回りもふた回りも大きく成長した。
助けてもらった恩を覚えているのか、白猫はルサレテに懐いていて、たまに様子を見に行く度に擦り寄ってくる。
「ふ。すっかり君に懐いているね」
猫と戯れているところに声をかけてきたのは、ロアンだった。彼はルサレテの横にしゃがみ、猫の顎を撫でる。撫でられた猫は心地よさそうに目を瞑り、甘えるようににゃあと鳴いた。
「この猫、見る度にぶくぶく太ってない? ついこの間はもっと痩せていたのに」
「多分、生徒たちが餌を与えているんでしょうね」
しかし、過度に餌を与え続けていたらこの猫の健康によくないだろう。
このままにしておくのは心配だと呟くと、ロアンが理事長に相談して、自分がこの猫を引き取ろうと提案した。
「それは……ロアン様が大変になるのでは?」
「でも、この子を引き取れば、君が俺の屋敷に会いに来る口実になる」
「ふっ。そういうことですか」
今は婚約者同士だけれど、いつか結婚したら、ロアンと一緒に猫と生活することになる。そんな未来を想像するのも楽しい。
ふたりは一緒に猫を連れて理事長室に行った。学園に住み着いている野良猫の糞に悩まされていたため、一匹引き取ることを快く了承してくれた。
ロアンが猫を抱えたまま、馬車の停車場へと歩く。
「この猫の名前、君がつけてよ」
「じゃあ……シャロ」
「はは、早いね。可愛い響きだ」
「私の小さな友人の名前なんです」
この猫と妖精シャロは真っ白な毛並みと青い瞳がよく似ていたので、ぴんと閃いたのだ。妖精の方のシャロとは、もう二度と会うことはないだろうけれど。
ルサレテが妖精のことを思い出していると、ロアンの腕の中で猫が呑気に欠伸をする。
爽やかな風が吹いて、猫を抱くロアンの金髪が揺れる。
彼はこちらに視線を向けながらおもむろに言った。
「ルサレテはさ、俺の病気が治ったのは、俺が頑張ったおかげだって言ってくれたけど……」
「……?」
そっと歩みを止め、真剣な表情でこちらを見つめるロアン。
「きっと君のおかげだよ。ルサレテ」
「え……」
まさか、乙女ゲームのことや妖精の力のことがバレてしまったのだろうか。身を強ばらせてぐっと息を呑む。
「病は気からっていうだろう? 君ともっと一緒にいたいっていう気持ちが、こんな奇跡みたいな回復を現実にしたんだと思う」
そういう話かと安堵しつつ、照れくさくなった。でも、ロアンが元気になりたいと思う原動力になれていたなら、嬉しいことだ。ルサレテは小さく微笑む。
「奇跡はたくさん起こりますよ。これからも、ずっと一緒にいましょう」
好感度-100から開始した乙女ゲームの世界で、最後に辿り着いたのは最高のハッピーエンドだった。
希望のある未来を想像しながら並び歩くふたりと一匹。
夕焼けの光が彼らを暖かく包み込んでいた。
〈おしまい〉
-----------------
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。少しでもお楽しみいただけていたらとても嬉しいです。
次作は3月、中華ファンタジーの予定です。
また、お気に入り作者に追加していただけると、投稿時に通知が届くので、もしよろしければお願いいたします。
585
お気に入りに追加
1,011
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
もうすでに2、3度読み直しています。何度読んでも、またしばらくしたら読んでるかなってくらいお気に入り。コミカライズされるとアルファポリスで読めなくなるけど、漫画になってるとこも読んでみたいと思います。小説って想像力が溢れてくるので大好きですね。年食ってても常に読み続けています。今後もよろしくお願いします🙇
わー!ありがとうございますㅠㅠ♡
気に入ってくださったようで、すごく嬉しいです。励みになります…!
こちらの作品は今のところ商業化予定がないのですが、私もぜひコミカライズを見たいです。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします🙂↕️🫶
無駄に話を膨らませたり引き延ばしたりせず、爽やかな作品で楽しく一気に読ませて頂きました。ありがとうございました😊
ご感想いただきありがとうございます!
貴重なお時間を使ってくださって、また楽しんでいただけたようで本当に嬉しいです🥲こちらこそありがとうございました!
サラリと、とても楽しく読ませて頂きました。
有難うございました~♪
コメントいただきありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、とっても嬉しいです♪♪