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 もうひとりの元プレイヤーのルサレテは放課後、学園の庭園で白い猫を撫でていた。
 この猫は、以前木の上に登って下りれなくなったところを助けてやったことがある。あのときは子猫だったが、今はひと回りもふた回りも大きく成長した。
 助けてもらった恩を覚えているのか、白猫はルサレテに懐いていて、たまに様子を見に行く度に擦り寄ってくる。

「ふ。すっかり君に懐いているね」

 猫と戯れているところに声をかけてきたのは、ロアンだった。彼はルサレテの横にしゃがみ、猫の顎を撫でる。撫でられた猫は心地よさそうに目を瞑り、甘えるようににゃあと鳴いた。

「この猫、見る度にぶくぶく太ってない? ついこの間はもっと痩せていたのに」
「多分、生徒たちが餌を与えているんでしょうね」

 しかし、過度に餌を与え続けていたらこの猫の健康によくないだろう。
 このままにしておくのは心配だと呟くと、ロアンが理事長に相談して、自分がこの猫を引き取ろうと提案した。

「それは……ロアン様が大変になるのでは?」
「でも、この子を引き取れば、君が俺の屋敷に会いに来る口実になる」
「ふっ。そういうことですか」

 今は婚約者同士だけれど、いつか結婚したら、ロアンと一緒に猫と生活することになる。そんな未来を想像するのも楽しい。

 ふたりは一緒に猫を連れて理事長室に行った。学園に住み着いている野良猫の糞に悩まされていたため、一匹引き取ることを快く了承してくれた。
 ロアンが猫を抱えたまま、馬車の停車場へと歩く。

「この猫の名前、君がつけてよ」
「じゃあ……シャロ」
「はは、早いね。可愛い響きだ」
「私の小さな友人の名前なんです」

 この猫と妖精シャロは真っ白な毛並みと青い瞳がよく似ていたので、ぴんと閃いたのだ。妖精の方のシャロとは、もう二度と会うことはないだろうけれど。
 ルサレテが妖精のことを思い出していると、ロアンの腕の中で猫が呑気に欠伸をする。

 爽やかな風が吹いて、猫を抱くロアンの金髪が揺れる。
 彼はこちらに視線を向けながらおもむろに言った。

「ルサレテはさ、俺の病気が治ったのは、俺が頑張ったおかげだって言ってくれたけど……」
「……?」

 そっと歩みを止め、真剣な表情でこちらを見つめるロアン。

「きっと君のおかげだよ。ルサレテ」
「え……」

 まさか、乙女ゲームのことや妖精の力のことがバレてしまったのだろうか。身を強ばらせてぐっと息を呑む。

「病は気からっていうだろう? 君ともっと一緒にいたいっていう気持ちが、こんな奇跡みたいな回復を現実にしたんだと思う」

 そういう話かと安堵しつつ、照れくさくなった。でも、ロアンが元気になりたいと思う原動力になれていたなら、嬉しいことだ。ルサレテは小さく微笑む。

「奇跡はたくさん起こりますよ。これからも、ずっと一緒にいましょう」

 好感度-100から開始した乙女ゲームの世界で、最後に辿り着いたのは最高のハッピーエンドだった。
 希望のある未来を想像しながら並び歩くふたりと一匹。
 夕焼けの光が彼らを暖かく包み込んでいた。





〈おしまい〉



-----------------
あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。少しでもお楽しみいただけていたらとても嬉しいです。
次作は3月、中華ファンタジーの予定です。

また、お気に入り作者に追加していただけると、投稿時に通知が届くので、もしよろしければお願いいたします。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

narumin #
2024.08.31 narumin #

もうすでに2、3度読み直しています。何度読んでも、またしばらくしたら読んでるかなってくらいお気に入り。コミカライズされるとアルファポリスで読めなくなるけど、漫画になってるとこも読んでみたいと思います。小説って想像力が溢れてくるので大好きですね。年食ってても常に読み続けています。今後もよろしくお願いします🙇

曽根原ツタ
2024.08.31 曽根原ツタ

わー!ありがとうございますㅠㅠ♡
気に入ってくださったようで、すごく嬉しいです。励みになります…!
こちらの作品は今のところ商業化予定がないのですが、私もぜひコミカライズを見たいです。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします🙂‍↕️🫶

解除
1962rmf
2024.07.11 1962rmf

無駄に話を膨らませたり引き延ばしたりせず、爽やかな作品で楽しく一気に読ませて頂きました。ありがとうございました😊

曽根原ツタ
2024.07.12 曽根原ツタ

ご感想いただきありがとうございます!

貴重なお時間を使ってくださって、また楽しんでいただけたようで本当に嬉しいです🥲こちらこそありがとうございました!

解除
hiyo
2024.07.10 hiyo

サラリと、とても楽しく読ませて頂きました。
有難うございました~♪

曽根原ツタ
2024.07.11 曽根原ツタ

コメントいただきありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、とっても嬉しいです♪♪

解除

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