7 / 31
07
しおりを挟む「――わあ!?」
敷地の中にいたはずなのに、瞬きをする間もなく外に転移していた。空中に転移したため、僅かな浮遊感とともに地面に落ちて体を打ち付ける。
(いたた……。ようやく怪我が治ったとこほなのに、手荒なんだから)
立ち上がると、自分が王立学園の制服を着ていることにきづく。先ほどまではドレスを来ていたのに。ここは学園の敷地内だった。ルサレテとペトロニラ、そして攻略対象たちは王立学園に通っている。ルサレテは怪我をしたため休学中だった。
今ちょうど自分がいるのは、敷地内の芝生広場。お昼になると、レジャーシートを敷いて昼食を食べている人や、お喋りをしているカップルを見かけることがある場所だ。そして、ルサレテの手には薬が入った紙袋が握られている。
(なるほど。最初のイベントはこれをロアン様に届ければいいのね。簡単じゃない)
薬を買った分のポイントは減っていた。
すると、芝生広場に佇む気の周りを生徒たちが囲んでいるのが見えた。
「どうかなさったのですか?」
「ルサレテ様……」
噂を知っているのか、生徒たちは目配せし合って、ルサレテに対する不信感を一瞬見せた。
「……あそこを見てください。高いところに子猫が登って降りれなくなっちゃったみたいで」
「そっとしておけばそのうち降りてきますよ。人が集まっているから警戒しているのかも」
「それが――2日前からあそこにいるんです」
女子生徒が指さした先に、木の幹の上で白い猫が震えているのが見えた。助けを求めるかのように、にゃあにゃあとか弱く鳴いている。登ったはいいものの、怖くて降りれなくなってしまったのだろうか。
これもイベントのひとつかと思って画面を確認するが特に反応がないため、これはゲームとは無関係らしい。
ルサレテは前世の実家で飼っていた猫を思い出した。好奇心で屋根の上から降りれなくなり、消防署に連絡したことがあった。
(猫って本当……世話が焼ける)
でも、可愛い。手がかかればかかるほど可愛いのだ。鳴き続ける猫を見上げ、小さく息を吐いたルサレテは言った。
「私が捕まえてきます」
「ええっ!? でもこの木、高くて危ないですよ!?」
「あの猫ちゃんが足を滑らせて怪我でもしたら大変だもの」
紙袋を一旦女子生徒に預けて、木の幹に手をかける。貴族令嬢だった今世は木登りなんてしたことがなかったけれど、前世で日本人だったときは、よく幼稚園や小学校の木を登って先生に叱られたものだ。
「よいしょ――っと」
太い幹に手をかけて、足の力で軽々とよじ登っていく。ルサレテのことを不審がっていた生徒たちだが、子猫救出のために体を張る様子を見て、懐疑心は応援に変わった。
「頑張れー!」
「あと少しよ!」
下から応援の声が聞こえてくる。応援に励まされながら子猫がいる高さまで登り、手を伸ばして宥めるように声をかける。
「ほうら。もう大丈夫よ。こっちへおいで~」
ゆっくりと近づいてきた子猫の体を腕で抱き抱える。あとは降りるだけ。そう思ったとき、下から怒鳴り声が聞こえた。
「そこで何をしている!」
突然怒られて驚いたルサレテは足を滑らせ、猫を抱き抱えたまま下にずり落ちる。
「きゃっ――」
柄でもないことをするものではないと、本日二度目の浮遊感に包まれながら反省する。
せっかく怪我が治ったのに、今度はどこかの骨が折れるだろうか。足? それとも腕?
ぎゅっと目を閉じて覚悟したが、予想していたような衝撃はなく、代わりに柔らかいクッションの上に乗っていた。いや、こんな場所にクッションが落ちているはずがない。そう思って恐る恐る視線を下に落とすと――下敷きになっているロアンと目が合った。
250
お気に入りに追加
975
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる