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 その日から療養生活が始まった。階段の下に毛の長い絨毯が敷かれており、それが緩衝材になって怪我はひどくなかった。
 食べて、寝て、本を読んで、ゆったりと過ごすルサレテ。一方、人気者で交友関係が広いペトロニラにはひっきりなしに誰かが見舞いに来ていた。

 そして、ペトロニラはお見舞いに来る人全員に、姉に階段から突き落とされたと吹聴した。
 家族も婚約者もペトロニラの話をすっかり信じていて、裁判沙汰にしない代わりにルサレテを家から追い出すという流れになっていた。

「どうしてこんなことに……」

 ルサレテは寝台に座り、ため息を吐く。相変わらず、視界には変なものが見えている。好感度メーターに関してはペトロニラの取り巻き令息に対して以外は見えていないが、視界の端に、『アイテム』『ポイント』の文字が浮かんでいる。
 これは一体なんだろう。見え始めてから無視し続けていたが、触れそうな気がする。
 恐る恐る、手を伸ばした瞬間。ノックもなしにペトロニラが部屋に押し入ってきた。

 階段を落としたときの彼女が思い浮かび、心臓が跳ねる。脈動が加速し、手が冷たくなる。
 彼女はつかつかとこちらに歩んできて、ぽすっと隣に腰を下ろした。

「これでよーく分かったんじゃない? 私を敵にしたら怖いってこと」
「……どうしてこんなことするの? 私……ペトロニラに何かした?」

 ルサレテが質問攻めすれば、彼女は綺麗な顔を歪ませて、こちらを睨めつけた。

「ロアン様に色目を使ったじゃない。それに、言ったでしょ。私から大事なものを奪ったって……」
「奪ったって、どういうことなの? もしかしてこの、空中に浮かんでいる変な文字のことと何か関係あるの……?」
「これ以上悪い思いをしたくなかったら……私の言う通りにして」

 家を追い出す以上の悪いこととは何だろうか。ペトロニラは自分のことを脅している。階段から突き落としておいて、尚も姉のことを追い詰めようとしているのだ。
 ルサレテには彼女に従う以外に選択肢がなかった。何をすればいいのかと尋ねると彼女は言った。

「その目の前の空中ディスプレイに、ぜーったい、触らないで。一生よ一生!」
「空中でぃすぷれい……。もしかして、この光ってる絵のこと?」
「そーよ。それ以外にないでしょ」
「これは何の意味があるの?」
「さぁね。なんにも教えてあーげない。とにかくいい? 分かった?」

 小さく頷くと、彼女は憂鬱そうに息を吐いて立ち上がり、こちらを見下ろして、「お姉様なんか死ねばいいのに」と吐き捨てて部屋を出て行った。
 ずっと可愛い妹だと思っていた彼女に突き放されて、ずきんと胸の奥が痛む。

 ペトレニラが出て行ったあと、もう一度空中ディスプレイを眺める。ペトロニラに触るなと釘を打たれているので触ることはしないが、呪いの道具とかなのだろうか。未知の存在に、あれこれと想像を掻き立てては身を竦めていたそのとき――。

 どこも触っていないはずなのに、画面が強い光を放ち始めた。びっくりしたルサレテは後ろに仰け反り、シーツに手を着く。

「きゃっ、何……!?」

 画面から白い光の塊が飛び出してきて、宙を浮遊している。もふもふで真っ白、丸い謎の物体。

(毛玉……?)

 かと思えば、ぴょんっと小さな耳と長いしっぽが生え、つぶらな青い瞳がこちらを見据えていた。太った猫のような風貌のそれは、長いしっぽを振りながら喋った。

「おめでとう! あなたはボクら妖精族の乙女ゲーム転生プログラムの被験者に選ばれたよ!」
「乙女ゲーム……転生プログラム?」
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