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しおりを挟む「それで? 何を反省していたの?」
「自分の社交性のなさをだ」
「なるほど」
「エルヴィアナは凄いな。いつも誰かに囲まれている」
エルヴィアナはうーんとしばらく考えてから言った。
「わたし、勉強って凄く苦手。体を動かすことも苦手。でも絵を描いたり刺繍をしたり、手先の作業はとても得意なの」
確かに彼女は、地頭は悪くないと思うが、勉強が得意というイメージはない。ただ、とても器用で、刺繍をやらせても絵を描かせても大人顔負けで、先生たちによく褒められている。ついでに楽器も得意だし、矢を射るのまでうまい。
「……それがどうかしたか?」
「クラウス様は勉強がとても得意よね。座学だけでなく、武術も優秀だし。あ、でも絵心はあんまりないわね。字は流麗だけれど」
「……」
「わたしは短絡的で感情的だから失敗しやすい。その点、クラウス様は物事を俯瞰で見ていて理性的だと思うの」
「確かに君は、よく喧嘩したり教師に叱られたりしているな」
「う……それは内緒で」
意外と彼女はクラウスのことをよく知っていて驚いた。
「俺のことをよく知っているな」
「婚約者だもの。当然よ」
そう言って得意げに鼻を鳴らす彼女。
「要するにね、人には得意不得意があるということよ。苦手なことがあったっていいじゃない。人間だもの。人付き合いが苦手でも、そう思い悩んで自分を追い詰める必要なんてないわ。それに……」
彼女の言葉で、すっと体の力が抜けた気がした。今まで、次期公爵家当主として完璧であるようにと教育されてきた。それが、苦手なものは苦手なままでいいという考えはあまりに新鮮で。
彼女はこちらを振り向き、真っ直ぐ顔を見つめて言った。
「クラウス様が苦手なことはわたしが補うから。わたしはいつか、あなたのお嫁さんになるんだもの」
「…………!」
微笑むエルヴィアナがあまりにも眩しくて、あまりにも素敵で、息をするのを一瞬忘れそうになった。
「俺なんかで、いいのか? ……エリィに俺は、ふさわしくない」
「もっと自分に自信を持ちなさいよ。クラウス様はわたしよりずっとずっと素敵よ。向上心があって、一生懸命頑張っていらっしゃる。尊敬しているわ」
エルヴィアナはクラウスの重めの前髪をそっと退けて、顔を覗き込んだ。
「それにすっごくかっこいい。どうしていつも前髪で隠してしまうの? とても綺麗な顔をしてるのに。わたし、すごく好き。つつじの花弁のような色の瞳が」
クラウスは自分の顔が好きではなかった。女の子に似ていると言われるのが嫌で。さらさらした髪の毛に、長いまつ毛が縁取る瞳は、男のくせに女みたいだと馬鹿にされるのだ。
(初めて褒められた)
「俺は……君のタイプの見た目なのか?」
「え……まぁ、嫌いじゃない、わ」
途端に言葉に詰まる彼女。クラウスは更に畳み掛ける。
「ルイス王子より?」
近ごろ若い少女たちで最も人気なのは、上の学年のルイス第七王子だ。背が高くて爽やかで、男らしくて、女子の理想だと言われている。ルイスはよく、エルヴィアナとリジーに話しかけている。その度になぜか胸がきゅっと締め付けられるのだ。エルヴィアナがルイスを好きになってしまうのではないかと。
「どうして急にルイス様の名前が出てくるのよ」
「……彼は君に気があるんじゃないのか。それに彼は男から見てもいい男だ」
「まさか。ルイス様がお好きなのはリジーの方。ルイス様も素敵だけれど、あなたにはあなたにしかない魅力があるわ。比べたって意味のないことよ」
エルヴィアナは卑屈な言葉をことごとくポジティブに変えて返してくれた。凄く励まされた。
どきどきと心臓が早鐘を打つ。衝動に駆られ、つい口をついたように出てしまった。
「好きだ」
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