上 下
111 / 120
リュカ(本編補足)

エピローグ

しおりを挟む

 あのあとザガンから誕生祝いと一緒にプロポーズを返されたり、ライル先生に報告したり、みんなが誕生日を祝ってくれたりした。いろいろあったなぁと、しみじみ思ってしまう。ずっとずっと大変だったけれど、今はとても幸せだ。

『幸せなのは良いことだ。お前達が幸せなほど、今日という日は、素晴らしいものになる』

 祭壇上にいる神ソレイユから、思念が届いてきた。周りの様子に変化は無いので、俺だけに伝えているものだろう。そもそも最近の神ソレイユと女神リュヌは、他者との会話ではきちんと声を発している。

 6月下旬、本日はザガンとの結婚式。場所は王城、謁見の間。この日の為に、数日前から大量の長椅子が並べられ、結婚式用の装飾が施された。だからかいつも以上に神秘的で、華やかな雰囲気になっている。

 ウェディングロードの絨毯さえも変更されていて、まるで星屑が散りばめられているみたいに、キラキラ輝いていた。しかも神ソレイユの魔力操作により、ウェディングロードに淡い光が注がれていた。

 その美しい道を、祭壇側からその中央まで、俺1人で歩いていく。本来は祭壇下で待つのだけど、ウェディングロードがあまりにも長いので、位置を変更した。

 拍手してくれている参列者達は、祭壇に向かって右側が俺の関係者で、左側がザガンの関係者だ。ただし本来最前列であるはずの両親や兄弟達は、今回ばかりは2列目に座っていた。

 最前列を陣取っているのは、神ソレイユと女神リュヌ以外の、この大陸周辺を縄張りにしている7神。ザガンがお世話になった女神テールと、その隣国の3神。そしてソレイユ王国の隣神である山神に、やはり隣神の海神。最後にソレイユ王国の近いところに浮かんでいる、天空島の神。みんな人化して、式が始まるのを静かに待ってくれている。

 ちなみに祭壇上にいる神ソレイユは神父姿だし、女神リュヌはザガンと一緒に入ってくる予定だ。とにかくこれだけの神に見守られる結婚式なんて、代々語り継がれるくらい、すごいんじゃないかな。

『お前達が成したこと自体、すでに代々語り継がれていく偉業であり、再編修される歴史参考書にも掲載される予定だがな』

 ふふ、そうでしたね。
 今まで書物から消されていた女神リュヌの存在や、千年前の隠蔽された大戦。それらに加えて、女神の救出および神の怒りを収めた人物として、俺とザガンの名前は書物に残されることになる。

 その決定をザガンに告げた時、ザガンは無言で俺をじっと見つめて、不服を訴えてきた。でも頭や頬にキスしつつ説得すれば、すぐに諦めて頷いてくれたので、そんなに嫌というわけではなかったみたいだ。たぶん気恥ずかしかっただけだろう。

 とにかくザガンの成した偉業の素晴らしさは、ザガンの関係者席を見てもよくわかる。
 女神達の後ろにはノエル、ニナ、オロバス、ブレイディ伯爵夫妻。さらにカミラ、ベネット、ミランダ、ソフィー、シンディ、エロワが座っているんだけど。そこから後ろは、うちで働いている闇属性の使用人達、そして神立大図書館に住んでいる300人以上の闇属性と、同じく大図書館で働いている100人以上の魔物達が腰掛けていた。

 全員が座っている中を歩いているので、ザガン側に広がっている紫色がよく見える。これだけの闇属性が王城での挙式に参加するなんて、ザガンがいなければ不可能だったことだ。しかも魔物達も、女神を救った眷族を称える為か全員紫髪に人化しているので、本当に紫ばかりである。

 しかも彼らはあくまでも、自分達から希望してここに参列している。明日には大図書館で2次会を行うので、わざわざ式に出向かなくても問題無かったのに、俺側の人数に負けないようにと来てくれたのだ。それだけ彼らは、ザガンに感謝しているから。

 ついでに俺側はというと、両親達の後ろには大臣6人が座り、その後ろに4大公爵家、次に8大侯爵家。それから王城内および周辺に住んでいる王族、親戚の公爵家達と続いて、たくさんの王侯貴族が参列していた。

 また両壁際には魔導騎士達がズラリと立ち並んでいるので、参加者1000人以上の結婚式となっている。いつの間にかこんな大規模な結婚式になっていたのだけど、ザガンは大丈夫かな? 俺は王子だから人から注目されるのは慣れているけど、ザガンは緊張してしまうかもしれない。

 そんなことを考えながらも、ウェディングロードの中央に到着。足を止めると拍手が止んでいき、神ソレイユが式を進行させていく。

「次にパートナーの入場だ」

 会場内に厳かな声が響くと、音楽隊が演奏を始めた。柔らかな曲だ。合わせて扉が開いていき、ザガンの姿が見えた。
 黒のタキシードに身を包んでいて、ベールは付けてないけれど、華やかなウェディングブーケは持ってくれている。それだけで可愛い。ザガンの隣には黒ドレスを着ている女神リュヌがいて、ザガンは彼女の腕を控えめに持っていた。

 2人が、ゆっくりと俺の方へと歩いてくる。たくさんの目に晒されている中、ザガンはじっと、俺だけを見つめてくる。強烈な輝きを湛えている赤い双眸に、愛しさが募る。

『やはりあれでは、リュヌが花嫁のように見えないか? 手を繋ぐのでは駄目だったのか?』

 駄目です、ザガンの手を握って良いのは俺だけです。それに手を繋いだら、兄妹のように見えるでしょう? だからかその案が出された時、ノエルがちょっと嫌な気持ちを抱いたみたいです。それを女神リュヌが察知した結果、ああなりました。幼い頃に手を繋いでくれた大好きな兄を、取られた気分になったのかもしれません。

『……そうか。ならば仕方あるまい』

 心配しなくても、女神リュヌが貴方の伴侶であることは、ここにいる全員が重々承知していますよ。ザガンが俺の伴侶であることも。

 そんなふうに神ソレイユと内心で会話しながらも、ひたすらザガンだけを見つめた。だんだん近付いてきて、あと少しで手が届きそうなところまで来る。

 するとふと、ザガンが微笑した。その笑みが一瞬かつてのザガンのように見えたのは、いつもより口角が上がっていたからだ。でもあくまでも唇が違っていただけで、俺を見つめてくれる双眸は力強く美しいまま。それにすぐ無表情に戻った。

 きっと俺に対して、とても嬉しいことを考えてくれているんだね。それが自惚れでないことは、数秒後、俺の前まで来てくれたザガンによって判明する。

「やはり、俺のリュカは格好良いな。そのタキシード、よく似合っている」

 満足そうにコクコク頷くザガンが可愛くて、つい笑みが零れてしまう。

 俺が着ているタキシードは、ザガンが選んでくれたものだ。全体的にオフホワイトで、襟やタイは少しだけ黄金みを帯びたアイボリーホワイト、ベストはベージュ。自分に似合っているかどうかはともかく、黒タキシードに銀色ベストなザガンと対のような色合いなので、俺自身とても気に入っている。

「ふふ、ありがとう。ザガンも、とても格好良くて素敵だよ」
「そうだろう。お前が選んだものに間違いは無い」

 格好良いと褒めたからか、嬉しそうに得意気になるザガンがとても可愛い。しかも自信満々に告げてきた言葉は、俺への賞賛だ。俺のことを褒めながらドヤッてるザガンが、愛しくて堪らない。抱き締めたいけど、今は我慢。

 俺達が話していても女神は気にせず、俺の手を取り握手してきたあと、ザガンの手を俺に渡してきた。

「どうぞ、ソレイユの眷属」
「ありがとうございます、女神リュヌ」

 礼を告げると、彼女はザガンと同じように満足そうにコクコク頷いてから、ズワッと大量の黒粒子に変化した。その粒子は祭壇へ飛んでいき、神ソレイユの横で再び人型になられる。ただしドレスではなく、シスター姿だ。

 ザガンと腕を組んで、祭壇上で待っている2神の元へと、ゆっくり歩いていく。たくさんの人達に見守られながら、2人で歩調を合わせてウェディングロードを進んだ。ちょっとだけ緊張したけれど、それ以上に嬉しくて、幸せだ。触れているザガンからも同じような感情が伝わってくるから、さらに嬉しくなる。

 祭壇への階段を上っていき、2神の前へと辿り着いた。すると音楽がいったん止み、すぐに賛美歌が流れた。歌ってくれるのは女神リュヌだ。その透き通るような美しい歌声は、高い高い天井まで響き渡っているようである。

 歌が終わり音楽も消えたあとは、神に祈りを捧げて、誓約する……とはならない。何故なら司式者が、神ソレイユだから。彼は俺達の目をしっかり見たあと、こう告げてきた。

「我らは、お前達2人がどれだけ将来を誓い合ってきているかを、知っている。どれほどの絆を結び、愛を交わしているかを知っている。その愛が、我とリュヌを救ってくれた。ゆえに約束しよう。お前達のこれからの人生において、もしも何かしらの理由で離別するようなことが起こりそうになったら、その前に我らが尽力して修復すると」

 それから女神リュヌも。

「もちろん、君達の愛が壊れることは、絶対に起こらない。私達はそれを知っている。だから約束する。君達のこれからの人生を、ずっと幸せであれるように守り続けると。君達の関係を壊そうとする存在が現れたとしても、君達に気付かれる前に、私達が必ず排除する」

 神ソレイユはかなりオブラートに包んできたのに、さすがは負の感情を具現化する女神リュヌ、単刀直入に排除すると宣言してきた。こういうところは、ザガンとよく似ている。もちろん病を排除するというようにも取れるけど、それだけでないのは、彼女に纏わる歴史が証明している。

 約千年前、王家の一部および賛同者達によって、女神リュヌ殺害計画が実行された。自分達の国と神ソレイユを、邪神から守るという大義名分を掲げて。だが実際の理由は、彼女が邪魔だったからだ。

 負の感情を具現化する女神リュヌ。しかも趣味が人間観察ということもあって、小さな不正ですら瞬時に見破るほどの能力を備えている。彼女がいる限り、悪事を働くことが出来無い。私利私欲で税金を上げようとしても、却下される。悪巧みを考えても全部阻止される。気に入らない相手を嵌めようとしても、全部見破られて牢獄に入れられる。

 またソレイユ王国の法律を制定したのも、女神リュヌである。ひたすら人間達を観察しながら、何を善として何を悪とするか、細かく調整してきた。そんな彼女の考えに考え抜かれた法律を、簡単に変えられるはずがない。彼女がいたら悪事を働けない。だから欲にまみれた一部の王侯貴族は、彼女を殺そうとした。

 けれど結局、女神が神ソレイユを封印して表舞台から消えても、法律が変わることはなかった。彼女が邪神になろうと、闇属性が差別されようと、大臣達によって守られ続けた。

 というわけで2神が告げてきた誓約を要約すると、どんな理由であろうと俺達に手出ししようとしたら処罰する、というものである。神々にそう言われた以上、欲にまみれた人間は俺達に近付けなくなるだろう。
 闇属性だから、男だから、貴族じゃないから。そんなくだらない理由でザガンの心を乱そうとする者達がいなくなるのは、純粋にありがたい。

「お心遣いありがとうございます、神ソレイユ、女神リュヌ」
「ありがとうございます」
「うむ。では生涯消えぬ愛の誓いを、我らに示せ」

 神の言葉に頷いて、ザガンと向き合う。無表情でじっと見つめてくるその頬は、人前でキスするのが恥ずかしいのか、ほんのり赤らんでいる。

 こんな可愛いザガンを見せ続けたくなくて、腰を引き寄せて距離を縮めたら、すぐに口付けた。するとザガンも背中に腕を回してくるから、このまま強く抱き締めたくなる。でも我慢して唇を離せば、彼は驚いたようにパチパチ瞬きした。

「思ったより短かった」
「ふふ。長いのは、2人きりになった時にね」

 そっと囁けば、大きく頷いてくれるザガン。あまりにも可愛くて、やっぱり我慢出来無くて、ぎゅっと抱き締めてしまう。黒髪にすりすり頬を寄せてしまう。

 でもザガンは嫌がらなかったし、それどころか委ねられた身体から幸せが伝わってくるから、愛しさで胸がいっぱいになった。


 ...end.

――――――――――――――――

これにて完全完結になります。
リュカ編を通じて、本編では語れなかったリュカの過去や、かつてのザガンのこと。そして設定や場面など、全部書き切れたと思っています。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

次回はおまけ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。