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おまけ
ハッピー☆ハロウィン 前
しおりを挟む44話のハロウィン話。 ◥(ฅº₩ºฅ)◤
――――――――――――――――
今日は10月31日、ハロウィン。
朝。リュカと起きて、トイレや歯磨き洗顔を済ませたら、昨日それぞれ買ってきたハロウィン衣装に、さっそく着替える。
「着替えるまで、お互い見ないようにしよっか」
「……わかった」
確かに変装してから披露した方が、盛り上がるか。なのでリュカと離れて、背を向ける。
俺が買ったのは、黒猫セットだ。袋の中を改めて確認してみると、猫耳に猫尻尾、猫グローブ、それから赤色の首輪が入っていた。……首輪は着ける必要無いだろう。
そんなことを考えながら、まずは洗濯してもらったばかりの、黒猫パーカーと黒ズボンに着替える。そして猫耳を装着した。すると感覚が伸びたような気がしたので、猫耳に触れてみると……さすがは錬金術で加工された仮装グッズ、本当に神経が繋がっている。
尻尾が付いているベルトも腰に巻いて、意識してみたら尻尾が揺れた。最後に、掌部分が肉球になっている指無しグローブをしたら、完了。
「リュカ、終わった」
「俺もあとちょっと……よし、出来たよ」
そう声をかけられたので、振り向いてみる。
リュカの変装は、ゲーム同様ヴァンパイアだった。ヴァンパイアといえば、女性を襲って首筋を噛んで血を吸うイメージなので、エロゲ主人公らしいチョイスなのだろう。
しかし実際こうして目にすると、王子だなという感想ばかりが浮かんでくる。貴族街で購入してきたというベストやシャツは、とても気品溢れていて格好良く、リュカによく似合っていた。黒マントと尖った歯があるから、ああヴァンパイアかと判断出来るくらいだ。
ちなみにリュカは、俺を見て感激していた。
「ヤバい、ザガン可愛い。すっごく可愛い。それ、自分で選んだんだよね?」
「これなら、お前が喜ぶと思った」
ついでに耳をピクピクさせて、尻尾をゆらゆら動かすと、さらに悶えるリュカ。
「んんんんっ。俺の為に選んでくれたの? 俺のザガンが可愛すぎるんだけど。今すぐ食べて良いかな。トリック・オア・トリート」
「それは夜にしてほしい」
これからノエル達とリビングでパーティーだし、午後にはハロウィンの街並みをデートする予定なので、動けなくなるのは困る。
断ったのにもかかわらず抱き締めてくるリュカの腕をぺしぺし叩き、離してくれるように促す。それでも離してくれなかったし、さらには猫耳にキスして、軽く噛んできた。少しだけ感覚が繋がっているせいで、くすぐったく感じる。
「……リュカ、噛むな」
「だって本当に可愛いから。でもザガンにとっては、今日が初めてのちゃんとしたハロウィンなんだから、台無しにしたら駄目だよね」
「ん。ハロウィン、楽しみにしていた」
屋敷から出るまでも、オロバスに手伝ってもらって仮装はしていたし、父上からお菓子も貰っていた。だが外には出られなかったので、ハロウィンの街並みを仮装して歩いたことがない。
なのでとても楽しみにしていたし、リュカには事前にそう告げてある。
名残惜しいのか頭や猫耳にスリスリ頬を寄せてくるが、無言のまま抱き締められていると、しばらくして離してくれた。
「よし、それじゃあリビング行こうか」
代わりに手を差し伸べられたので、その手を取ると、リュカは嬉しそうに微笑んで握ってきた。
リビングに行くと、すでに仮装した女性陣がいて、パーティーの準備をしていた。扉を閉めれば、ノエルがこちらに寄ってくる。
「兄様、おはようございます! その猫耳、兄様らしくて可愛……格好良いですね!」
今、可愛いと言いかけなかったか? いや、気のせいということにしておこう。
ノエルの仮装は、やはりゲームと同じくオバケだった。しかしスチルとは比べものにならないくらい、現実の方が可愛い。
難を付けるとすれば、オバケワンピースが短めで、足がだいぶ出ていることか。白タイツだけでは心許無いのではないか? 兄は心配である。まぁ肌が見えているわけではないし、普段から露出している女性達に比べたら、見た目の防御力の低さくらいで心配するべきではないかもしれない。
その筆頭たるミランダはというと、全身に包帯を巻きながらも肌を見せた、艶やかなミイラになっていた。傷や血などの化粧もしている。
ニナはサキュバスで、やはり彼女もいつも通り、生足を出していた。頭には小さな角、背中にはコウモリの羽を付けている。
カミラはカボチャっぽい魔女。つまり色以外は普段と変わらないが、夜のセックス相手に選ぶと、開発途中の薬を飲んで、数時間だけ大人に戻るというイベントが発生する。
ベネットは狼男、もとい狼娘か。狼耳と尻尾を付けて、ワンピースもふわふわしている。
シンディは清楚なシスター衣装に身を包んでいた。けれど大きな胸のせいか、清楚から少々離れてしまっている感が否めない。
「おはよう。みんな可愛いね。よく似合ってる」
「おはよー。リュカは相変わらず格好良いねー」
「あ、ありがとうございます……。その、リュカさんもザガンさんも、とってもお似合いです」
準備の手を止めないまま、挨拶や賛辞を返してくる彼女達のところへ行こうとして、ふと気付く。俺はまだ、リュカに何も言っていないと。
なのでちょっと足を止めて、繋いでいる手を引っ張った。するとリュカは、不思議そうに首を傾げつつ、俺を見てくる。
「どうしたの? ザガン」
「……リュカ、格好良いぞ」
ぽつりと呟いた。我ながら声が小さくなってしまったが、まだ近くにいるノエルには聞かれたくなかったし、どうにも恥ずかしかったし。
けれどリュカにはきちんと聞こえたらしく、パァと笑顔になったあと、ぎゅっと抱き締めてきた。
「ありがとうザガン、すごく嬉しい!」
これだけ喜んでくれるなら、羞恥を我慢して伝えた甲斐があった。
しかしホッとして腕の中に収まっていたものの、数分経っても離してくれない。パーティーの準備はそろそろ終わりそうなのに。何もしていないのは、さすがに駄目だと思うぞ? 案の定。
「そこの2人! いつまでもイチャイチャしてないで、最後くらい手伝いな!」
ミランダから怒られてしまった。もちろんすぐに離れて、コップに飲み物を注いだ。
昨日のうちに飾り付けしておいたハロウィン仕様のリビングで、軽食や菓子を摘まみながら、皆でゲームをして遊んだ。
料理はどれもこれもジャックオーランタンの形をしており、見ているだけで楽しかったし、ベネットが作ってくれただけあって、とても美味かった。ゲームもいろいろしたが、カードゲームだけは、やはりシンディが強かった。
たくさん遊んで、昼過ぎになったら、皆で外出する。
『リュミエール』だとここでヒロイン1人を選択し、きちんと誘いの言葉もかけたはず。しかしリュカは、屋敷から出た時には当然のように横に立っているし、そのまま俺の腰を抱いてきた。
「それぞれ行きたい場所があるだろうから、ここで解散ね。5時には戻ってくるように」
はーいと返事をした女性陣は、2人ずつに分かれると、さっさと歩いていってしまう。俺は……。
「ハロウィンパレードって、やってるよな?」
「中央広場だね。さっそく見に行こうか」
頷いて、ハロウィンの街並みを眺めながらリュカとのんびり歩き、中央広場に向かう。
光り輝いているカボチャのランタンとか、傍を通ると口を大きく開けてくる狼の飾りとか、ゆらゆら飛んでいる幽霊だとか。やはり普段と違っている街並みはとても楽しいし、加えて今日は、街に出ている全員が仮装しているので、別世界に来たような錯覚を与えてくれる。
中央広場に近付くにつれて、音楽が聞こえてきた。そして目的地に到着。
広場はとにかく賑やかだった。広場の中央ではオーケストラが音楽を奏でていて、そこを中心に仮装したスタッフ達が踊りながら、進行している。派手なパレード車もあり、その上でパフォーマンスしている者達も。あとカボチャの馬車や、ジャックオランタンの大きな風船も見える。
それから広場の外周では、ハロウィンらしく装飾された露店が、ズラリと並んでいた。ついつい、何か買いたくなるような光景だ。
ひとまず邪魔にならない場所に移動して、パレードを観覧した。芸術については正直よくわからないけれど、眺めているだけで楽しい。心躍るような光景に感化されて、心がワクワクしてくる。
15分ほどで音楽が終わり、パレードが小休憩に入ったので、露店を回ることにした。人とぶつからないよう、合間を縫いながら歩いていく。
「ザガン、ここでクジ引きやってる。実は俺、クジ引きやったこと無いんだよね」
「そうなのか。俺も無いから、一緒にやろう」
ということでその露店前に移動して、金を払った。記念なので、1枚ずつだけ。まずはリュカが箱に手を入れる。引いたクジの紙を、開いてみると。
「あぁ残念。ハズレだって」
それを店員に渡せば、小さなカボチャクッキーと交換してくれた。次に俺がクジを引く。
「あ、2等……」
「ザガンすごいね! おめでとう!」
確かに、1枚引いただけで当たるのは、運が良い。店員に紙を渡せば、おめでとうございます! と言って、景品と交換してくれた。
景品はカボチャのランタンだった。ちなみに素材は本物のカボチャではなく、スライムゼリーを伸ばして固めた、スライム板である。照明の方は魔導具。試しにランプの底に触れると、中央に鎮座している光属性の魔石が輝いた。また触れると消える。
何かしら当たったことは嬉しい。だがランタンなので、陽が出ている時間帯は、持っている意味が無い。むしろ人の多いところでは邪魔なので、マジックバッグにしまっておこう。
そう思ってバッグを開いたところ、ふと気になる声が聞こえてきた。
「兄ちゃん、僕もランタン欲しいぃ!」
「当たらなかったんだから、しょうがないだろ?」
「だったらもう1回引いてよぉっ」
「3回までって約束したじゃんか。他にも見たいし、お小遣いが無くなくなっちゃうから、もう駄目」
「うえぇぇん! 兄ちゃんの、バカァ!」
俺達の次にクジを引いた、子供達の声だった。兄が12歳くらいで、弟が6歳くらいか。弟はよほどこのランタンが欲しいのか、兄の腰にしがみ付いて、泣いてしまっている。
……子供とは、本来こういうものだよな。どうにもならないことだと理解していないのか、いくらでも我儘を言うし、すぐに泣く。
いくら、闇属性だから魔法を使うなと叱られたところで、我慢出来るはずがないのだ。むしろよく、俺は9歳まで我慢していた。
とりあえず店員が困っているし、リュカもどうするべきか迷っているので、弟にしがみ付かれて動けずにいる兄の肩を叩いた。
「邪魔になるから、あっちに移動するぞ」
露店や通行の邪魔にならない空いている場所を指差すと、少年は脅えながら頷いた。見知らぬ子供への対応などわからないので、悪いがそのまま行かせてもらう。
「大丈夫だよ。ザガンは冒険者だからか、ちょっと怖くて近寄りがたく感じるかもしれないけど、実際はとても優しいからね」
それにリュカがフォローしてくれたので、問題無いだろう。ただしその本人は、第2王子という、本来なら俺以上に近寄りがたい身分の人間だが。
先行して端に寄れば、子供達もやってきた。泣いていた弟は、リュカと手を繋いでいる。その子供達の前に膝を付き、改めてランタンを見せた。
「欲しいのは、これで良いんだよな?」
「……う、うん」
「ならば交換条件だ。その手に持っているクッキーと交換するのなら、譲ろう」
兄の持っているハズレのクッキーを指差せば、彼らは戸惑いながら、しかし嬉しさを隠しきれずに頬を紅潮させた。
「えっと。これで良いんですか?」
「ああ。正直に言うと、このランタン、大人の俺には不要なものだ。それにクッキーなら、コイツと同じものを食べられるから、嬉しい」
「……じゃあ、お願いします」
クッキー3枚全部差し出してきたので、そこから1枚だけ抜いて、ランタンを弟に渡す。
「わぁ! ありがとう猫さん!」
「ありがとうございます、猫さん!」
「落とさないようにな」
もう用は無いので立ち上がると、少年達は仲良く手を繋いでから、別れを告げてきた。それに返答して、歩いていく兄弟の背を見守る。しばらくすれば人波に紛れ、見えなくなった。
「2人とも嬉しそうだったね」
「そうだな。しかし、猫さんか」
「ふふ、可愛らしい呼び方されちゃったね。けれど確かに、俺の猫さんはすごく可愛いし、優しいよ」
「……可愛いは余計だ」
ムッとして言葉を返したら、宥めるように頬にキスされた。そのあと2人で一緒に食べたクッキーは、しっとりしたカボチャ味で、美味かった。
約束通り夕方5時には、全員屋敷に帰ってきた。まずは訪問してくる子供達の為に、門前にメニューボードを設置する。『お菓子あります、訪問大歓迎!』と書かれているやつだ。
それから皆でハロウィンの街並みについてや、何を買ったかなどを話しつつ準備して、ハロウィンディナーを食べる。
食事中にも時々ドアベルが鳴り、子供達が訪問してくるので、順番で対応した。俺はノエルに誘われるまま、ペアに。
「トリック・オア・トリート!」
仮装した子供達が元気いっぱいで言ってくる光景には、なんだか感慨深さを感じる。
「ハッピーハロウィン!」
とノエルが笑顔で返して、パンプキンケーキを配っていく光景にも。
渡し終えると、子供達はありがとー! と元気良く礼を言って、離れていく。その背中を見送ったあと、玄関に戻りながらも傍にいる妹をじっと見つめると、不思議そうに見上げてきた。
「兄様、どうされました?」
「……俺が子供時代に街を歩けていたら、俺達もあんなふうに仮装して、2人でランタン片手に歩いたのだろうかと、考えていた」
「そう、ですね。きっと兄様は、私の手を引いて歩いてくださったでしょう。そう出来無かったことが、とても残念でなりません」
と言いながら、こっそり手を繋いできた。少々驚いてしまったからか、イタズラっぽく笑ってくるノエル。
「兄様、トリック・オア・トリート」
「……さらにどんなイタズラをする気だ?」
「えへへ、言ってみたかっただけです」
とても嬉しそうな妹に溜息をつきながらも、手を繋いだまま屋敷に入った。
夕食を終えて部屋に戻り、いつものように風呂の魔導具を作動させてからソファに腰掛けると、リュカも隣に座ってきた。
「ディナー、とても美味しかったね。ついつい食べすぎちゃって、お腹いっぱいだよ」
「俺もだいぶ食べてしまった」
元々食べる方ではあるが、どれもこれもハロウィンでしか出てこない、ハロウィンらしい料理だったせいか、いつも以上に手が伸びてしまった。
なので腹いっぱいだが、ゲームでは基本的に仮装したままセックスしていたし、リュカもしたい、よな? だが俺としてはまだ休憩していたいし、ぶっちゃけ先に入浴したい。
そう思うものの、リュカはすでに触れたい気分らしく、尻尾を撫でてきていた。猫耳も甘噛みしてくるから、擽ったくてムズムズする。
ん、と声が漏れてしまうと、嬉しそうに喉を鳴らしてくるリュカ。まぁ、互いに腹いっぱいなので、しばらくは触るだけだろう。しかし止めなければ、そのまま身体を繋げることになる。
「リュカ、俺は先に風呂に入りたい」
「えっ。……お風呂から上がったら、また猫耳と尻尾、付けてくれる?」
頷けば、ううっと呻いたあと、尻尾から手を離してくれた。代わりに頭に頬を寄せてきて、悩ましげにハァと息を吐く。
申し訳無いが、俺としてはきちんとリュカを感じられるコンディションになってからセックスしたいので、我慢してもらうしかない。
「そういえば先程、少しだけ、ノエルと手を繋いだ。イタズラのつもりだったようだ」
ふと思い出したので告げると、不思議そうに顔を覗き込んでくるリュカ。
「先程? ……ああ、子供達が訪問してきた時のこと? それは、俺が聞いて良いのかな」
「問題無い。ただ、アイツの手を引いて歩いたことが無かったと、気付いただけだ」
ハロウィン自体は、屋敷にいた頃から毎年祝っていた。ハロウィン仕様の料理だったし、オロバスから渡されるまま仮装した。父上からいただいた菓子は、どれも美味かった。
ただ、もしも闇属性への差別が無かったら……俺はきっとノエルと2人で仮装して、中央広場で出会った兄弟のように、仲良く手を繋いでハロウィンの街並みを歩いたのだろう。
夜になってさらに雰囲気が出てくる中、看板の出ている家の呼び鈴を鳴らせば、ドアから出てくるのは同じく仮装した大人達。そんな少々怖さもある相手に、一生懸命トリックアトリートと告げる小さな妹の可愛い姿を、見られたかもしれない。
そう出来無かったことが、今になって残念に感じるようになった。
「独りでいた時には、このようなこと考えもしなかった。二度と会うことがなかったはずの妹と再会して、共にいるようになったからこそ、昔に想いを馳せるようになった。贅沢な後悔だ」
「……うん」
リュカは頷いただけだった。どう言葉を返せば良いのか、わからなかったのだろう。けれどぎゅっと抱き締めてくれたし、全身から切なさが伝わってくる。
つい湿っぽいことを話してしまった詫びを込めて、頬に頬をくっ付けた。すると嬉しそうに笑みを零して、スリスリしてくる。
触れ合っているのが心地良いし、愛しい。リュカ好きだ、大好き。もっともっと、お前を感じたい。
「……リュカ、そろそろ風呂に入ってくる」
「ふふ、了解。待ってるよ」
気合を入れて告げると、すぐに腕を離してくれた。
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