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連載
72話
しおりを挟む今まで二度、闇組織と対峙している。6月には、邪神を復活させて共にソレイユ王国を滅ぼそうと勧誘してきた彼らを、拒絶した。
9月には俺から確実に星の欠片を奪う為、ダークドラゴン5体を召喚してきた。ドラゴン討伐後、ノエル達を人質に取られたことで星の欠片を渡してしまったが……その時も俺は、他属性は殺すべきという彼らの意見と、完全に対立した。
二度も跳ね除けたのだ、今更こちらから歩み寄ろうとしたところで、拒否されても仕方無い。そう思っていたのだが。
「は!? 駄目に決まってるよね!? ザガンを、そんな変態と2人きりになんて出来無いよ!」
まさか後方から異議が飛んでくるとは想定しておらず、思考が止まりかけた。しかも理由が酷い。
いや、2人きりにさせたくないリュカの気持ちも、わからなくはない。なにせ奴は、俺に対して陵辱するのも厭わないと言ってきたことがあるから。すぐに自爆していたけれども。
予想外の展開に身動き取れないでいる間にも、リュカは俺のところに来ようとしてミランダに止められており、そのあとゴスゴス突かれる音まで聞こえてきた。
「いたっ、痛い、カミラ痛い」
「空気を読まんか、馬鹿者が」
友人達がリュカを注意してくれているが、すでに荘厳で美しい空間も、場の緊張感も台無しである。ニナのあちゃーという声に、激しく同意したい。
闇組織の方も、中年男は疲れたように眉間を揉んでおり、他7人も呆れていたり困惑していたりと、微妙な空気を漂わせていた。リュカの異議は無視して、話を進めて構わないだろうか。それとも先にリュカを説得すべきか?
そんなことで悩んでいたら、パンパンッと、手の叩く音が聞こえてくる。
「お話するのなら、休憩にしましょうかぁ。ね?」
「でしたら僕、皆さんにお茶を入れますね」
シンディの提案に、ベネットがすぐさま乗る。そうだな、まずはこの微妙な空気を、変えるべきだろう。
「では私は、テーブルをセッティングします!」
ノエルの追随で完全に休憩する流れになったので、ひとまずリュカのところに戻ろうとした。すると振り返るよりも先に触手が腰や手足に巻き付いてきて、後ろへ引き戻される。ポスンとリュカの両腕に収まると、抱き込まれ、頭にグリグリ頬を押し付けられた。
「もう! ザガンってば、なんで勝手に1人で決めちゃうかな!? でも格好良いよ!」
どうやら複雑な心境に陥っているようだ。
リュカの言うように勝手に決めてしまったのは申し訳無いが、相談するタイミングが無かったのだから仕方無い。
まさか事前に、ダンジョン内で中年男と遭遇するはずだからサシで対話させてくれ、なんておかしいことは言えないし。かといって、敵対している人間と対峙している状況で、相手を待たせて相談するのも無理だろう。リュカもわかっているからこそ、俺の行動を格好良いと言ってきた。
「リュカ、心配してくれて嬉しい。感謝する」
心のままに礼を告げると、リュカはうううぅと唸りながら、さらに顔を埋めてきた。
あれこれ葛藤しているリュカに抱えられているうちに、友人達が茶を準備してくれた。物怖じしないシンディによって闇組織の者達も席に座らされ、ベネットが入れてくれた紅茶を前に、飲むかどうか悩んでいる。ミランダから威圧される前に、飲むことを推奨しておくぞ。
リュカも椅子に座ったが、やはり俺を抱えたまま。
「だってアイツは、ドラゴンを5体も召喚して、ザガンを殺そうとした張本人だよ? しかも陵辱なんて、ふざけた言葉を俺のザガンに言うような、変態なのに。あんな害虫と2人きりで話したら、ザガンが穢れちゃう」
その程度で穢れるほど柔な精神はしていないし、奴から陵辱という言葉が出てきたのは、同属性でありながら仲間にならない俺を許せず、どうにかダメージを与えようとしたからだ。本気でなかったことは、すぐあとの自爆で判明している。
少々心配が行きすぎて過保護になっているので、俺はそんなに頼りないのかと、問うべきか? そう考えた直後。
「アイツのせいで、ザガンが死にそうになったんだ。…………アイツの、せいで」
地を這うような声と、滲み出てきている怒りに、何も言えなくなった。
そうか。そうだよな。あれは弱かった俺自身のせいだが、そもそも闇組織がドラゴンを嗾けてこなければ、魔力が尽きることはなかったのだ。
俺を殺そうとした元凶。そんな輩と2人きりにするなんて、リュカからすれば嫌に決まっている。俺だって逆の立場であれば、暗殺する算段を延々と考えるだろう。実行はしないが。
ちなみに闇組織に対して、俺は恨んでいない。差別という理不尽で残酷な境遇の中、もがき苦しみながらも自分達なりに立ち向かってきた彼らを、どうして同属性である俺が恨めようか。
「リュカ。対話はそれほど長くならないし、腰に触手を巻いたままで構わない。だから我慢して、待っていてくれないか」
怒りを鎮めろとは言わない。リュカにとってそれだけのことを、向こうはしているのだから。しかし奴に魔導バリアを渡すことは、100人という命を助ける為に必要な過程である。だからしばらくの間だけ、我慢してほしい。
じっと見つめていると、リュカは苦しげに表情を歪めていたものの、気を落ち着かせるように深く息を吐いた。
「わかったよ。異変を感じたら、すぐに引き戻すからね」
ちゅっと頭にキスされる。頬と唇にも。それから下ろしてくれたので、俺もリュカの頭にキスを送った。感情を圧し殺して微笑んでくれるリュカが、とても愛しい。
「では行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
頷いて、リュカに背を向けながら周囲をサッと見渡す。
問答無用で座らされていた闇属性の者達は、すっかり休憩ムードになっており、友人達に見守られながらベネット作の菓子に舌鼓を打っていた。錬金中のカミラに近寄り、話しかけている者もいる。興味ある分野においては、垣根など無いのかもしれない。
そして目的の人物はというと、離れた場所にセッティングされたテーブルに1人座り、紅茶を飲んでいた。あそこなら、周囲に声が届くことはないだろう。
そちらへ向かう途中、ティーポットを持ったノエルと合流。ついでにリュカの触手がそこらに引っ掛からないよう引っ張ってくれるのだから、相変わらずよく出来た妹だ。
「すまない、待たせた」
声をかけて対面に座ると、ノエルがカップに紅茶を注いでくれた。頭を下げ、すぐにリュカ達のところへ戻っていく。
ノエルが入れてくれた紅茶だ、とりあえずは飲もう。そう思い、ふうふうと軽く冷ましてからカップに口を付けると、無言で見てきていた男が溜息をついた。
「見事な、漆黒ですね」
そういえば初対面の時、言われたか。『貴方の髪は、私よりも濃いのでしょうね』と。当時は見せるつもりが無かったので答えなかったが、今は自分から晒しているのだから、男からすれば理不尽に感じるかもしれない。
「邪神そのものだと母から恐れられ、育児放棄された髪だがな」
「…………同属性の私でも、手元に置いておくには危険を感じる色ですよ。仲間にしたところで、制御出来る気がしない」
返答に迷いを見せたのは、反射的に慰めの言葉をかけようとしたからか。彼は基本的に、闇属性には優しい人間である。しかし俺は敵なので、嫌味に切り替えた。
それに実際、男の言葉は正しい。かつて仲間になっていた俺は、あまりにも強いうえに傍若無人だったせいで制御出来ず、ドラゴン5体を召喚して殺すしかなかった。
そして、もし俺が昔から闇組織と接触していたなら、他属性の命を奪うな、国への復讐など止めろと言い続けていただろう。実行しようものなら、武力でもって悉く邪魔したに違いない。俺としては、そうするべきだったと反省したが。
「髪を晒しているのは、俺なりに差別を無くそうと考えた結果だ。独りでは途方もなく無謀に思える方法でも、リュカが傍にいてくれるなら、きっと可能だから」
「まぁ……リュカ王子は、すごい人物です」
なんと、この男から他属性に対する賛辞が出てくるとは。驚いて中年男を見つめると、また溜息をつかれた。
「闇属性を差別していた女の腕を切り落とし、処刑しようとする人ですからね。騎士共に対しても、善悪の判断も付かない無能と罵っていましたし。そもそも闇属性の、しかも私でさえ接するのに躊躇するような髪色のザガン殿を本気で愛するのだから、そこらの他属性とは何もかもが違うと認めるしかないじゃないですか」
今だって殺気を放ちながら私を睨んできていますよ、と疲れたように言ってくる。リュカから殺気を向けられ続け、疲弊しているようだ。背後を振り向いて、リュカを咎めるべきか? ……いや振り向いた途端、問題があったと勘違いされてさらに殺気が強くなるか、触手で引っ張られそうなので止めておこう。
「確かにリュカは、すごい男だ。悪として何百年も差別の対象となっている闇属性の、しかも黒髪の俺を、なんの偏見も持たず好きになってくれたのだから。そしてアイツが王子だから、全国紙で闇属性への差別問題が提議されるようになった。闇属性の赤子を産んだ母親から、礼を言われたりもしたんだ」
「知っています。どんな情報でも逃さないよう、街を訪れたら必ず新聞を購読しますので。街を偵察していた仲間から、闇属性の子についての報告も貰っていますよ。親に愛されていたし、問題無く育ててもらえるようだから、拐ってこなかったとも」
そうなのか。つまりゲーム設定だと、女性が抱えていた赤子は、闇組織に保護されるのだな。女性を殺して奪うのか、会話して双方納得したうえで、譲渡するかは不明だが……後者であると良い。
「まったく。貴方は貴方で属性関係無く守るなんて言うし、エロワは眼鏡のお嬢さんにプロポーズしてきたと言うし、ソフィーも斧を持っているお嬢さんと友達になったと言うし。どうしてこう、次から次へと私の決意を揺るがしてくるんですかね」
それで彼から、他者を見下すような雰囲気が消えていたらしい。今まで憎悪の対象だった他属性を、憎めなくなってきているから。しかも主戦力である残念眼鏡やソフィーが、他属性相手に結婚だ友達だと言っていては、遣る瀬無くもなるだろう。
「そのまま国を滅ぼすのは止めて、集めた魔瘴を俺に渡してくれないか」
今なら、俺の言葉を聞き入れてくれるかもしれない。そう思ったので、以前は諦めた説得を、試みた。
女神リュヌは、俺が復活させれば良い。そうすれば王都の破壊を最小限に抑えられるし、何か問題が起きたとしても確実に魔導バリアを使用するので、死ぬこともない。
こちらの提案に対し、男は苦悩するように眉を寄せながらも、睨んできた。
「サシで話をしようと言われた時から、説得してくるだろうと思っていました。ですが、私の決意は揺るぎません。どれだけ貴方がたが差別を無くそうと行動したところで、もう遅いのです。闇属性というだけで迫害されてきた憎しみも、殺害されてきた者達の悲しみも苦しみも怒りも、決して消えやしない。どれだけ説得されても――私は絶対に、この国を滅ぼします」
やはり何百年と差別され殺されてきた数多の命を思えば、たった数人の他属性を認めた程度では、革命は止められないか。
「私を殺しても無駄ですよ。星の欠片はすでに使用済みですし、魔瘴を入れているマジックバッグも、私は所持していません」
「安心しろ。俺は人を殺したことなど一度も無いし、これからもするつもりは無い」
「…………。……貴方は我々と同じ闇属性でありながら、根本から違ったのですね」
「父が愛してくれたんだ。10歳になる前には家を出たが、それまで誰にも気付かれないよう守られていたし、別れる最後まで心配してくれた」
「だから、人を殺したいほどの憎悪を抱いたことが無いと。羨ましい限りです」
嘲る声だったが、その対象は俺なのか、それとも自分自身なのか。
他者の命を奪うことは、正直とても簡単だ。俺など短剣を振るだけで、首を落とせてしまう。だがその一瞬に対して、背負わなければならない責任はあまりにも重い。奪った者のこれからの長い人生に、周囲の悲しみや怒り。その重圧を背負ってでも他者を殺せる憎悪を、俺は抱いたことが無い。
「しかし、だからこそ冷静に判断出来る。邪神を復活させて国を滅ぼしたとしても、復讐の連鎖が止まらなくなるだけだと。殺せば殺すだけ、さらに闇属性が憎まれ差別されるだけだと。よってお前達の野望は、必ず阻止する」
溢れ続けた憎悪を止められないのなら、それで構わない。代わりに俺達が止めるから。お前達がこれ以上、罪を重ねないように。
そうして生きて罪を償い、いつか闇属性への差別が消えたこの国で、幸せに暮らせるように。
なので本来の目的を果たそうと、マジックバッグから改良した魔導バリアを出した。円盤6枚とリモコン、取扱説明書。テーブルには置けない大きさだったので、一纏めにしてそのまま男に差し出す。
「これを持っていけ」
「? ……なんですか、これ」
「魔導バリアとその説明書だ。今まで自然に復活していた邪神を無理矢理起こすのだから、どんな問題が起こるかわからない。制御しようものなら、魔力が枯渇して死に至るかもしれない。だから危険と判断したら、これを可能な限り広げて、魔力の流れを遮断しろ」
軽く説明すると、男は眉間に皺を寄せながらも、受け取ってくれた。
「なんでこんなものを。確かに、邪神相手に制御魔法を使用すれば、魔力枯渇に陥るかもしれません。ですがもし私達が死んだとしても、貴方にはなんの利も無いでしょう」
「言ったはずだ。俺にとっては、お前達も守るべき存在だと」
そう告げた途端、彼は魔導バリアを見つめたまま、目を見開いた。咄嗟に言葉を発しようとしたのか唇が震え、しかし何も言うことなく俯いてしまう。
様子を見守っていると、目元に手を置き、はあぁぁと盛大に溜息をついた。それから数秒後、再び顔を上げてくる。
「…………貴方のそういうところ、本っっっ当に、腹が立ちます」
泣きそうな声だし、嘲笑しようとして失敗したような、歪んだ表情だった。だが指摘するのは無粋だろう。なので頷くだけにしておく。
応酬せず冷めてきた紅茶に口を付けると、男は何度目かわからない溜息をつきながらも、魔導バリアをマジックバッグにしまった。そしておもむろに立ち上がる。
「話は終わったようなので、我々はお暇させていただきます。美味しいお茶とケーキを、ありがとうございました」
「こちらこそ、対話に応じてくれて感謝する。それと、最後に聞いておきたいことがある。お前の名前は、なんという?」
ずっと中年男のままでは微妙な気がしたので質問してみると、男は呆れたように眉を寄せた。
「今更聞くんですか。まぁ今まで名乗らなかった私にも非はあるので、良いですけど。……クラージュです」
「クラージュか。覚えておく」
彼が席を離れたからか、友人達と話していたはずの闇属性達が、集まってきた。
座ったまま見送るのは駄目だろうと思い、俺も立ち上がる。するとすぐさま触手が絡んできて、持ち上げられた。大人しくしておくと、再びポスンと、リュカの腕の中に収まる。
「お疲れザガン。大丈夫だった? 変なこと言われてない?」
「大丈夫だ、問題無い」
「そっか、良かった。本当に良かった。愛してるよザガン」
嬉しそうにすりすり頬を寄せられたあと、ちゅっちゅっと顔中にキスされる。闇組織達からの視線を思いっきり感じるが、気にしてはいけない。
無心でリュカからの愛を受けている間に、ノエル達が彼らを見送り、戻ってきた。
「リュカ、見送ってきましたよ」
「ありがとう、任せちゃってごめんね。みんなもお疲れ様。気を張っていて疲れたよね。もうちょっと休憩してから、出発しようか」
「助かるー。ホント疲れたから……」
ニナがグッタリした様子で返答してきた。気を張っていたにしては疲れすぎているようだが、どうしたのだろう? 友人達も疑問に思ったようで、ニナの傍に寄る。
「ニナさん、どうされましたか?」
「奴らから何か言われた、というのは無いか。ニナは離れておったし」
「あー、うん。なんでもない。なんか疲れただけ」
言いたくないらしい。俺ならそのまま黙って待つことを選択するが、もちろん彼女達は違うわけで。
「ニナ、内側に溜め込むのは無しですよ! 前に約束したじゃないですか!」
「ほらほら優しくしてあげるから、全部ゲロっちまいな」
両手を握ったり背中を撫でたりしながら、何がなんでも吐かせようとしていた。真剣な友人達に囲まれているからか、ニナは狼狽えながらも口を開く。
「えっと。ホント、たいしたことじゃないんだけどさ……あの人達が産まれたばかりの弟を拐ってくれていれば、今日再会して、一緒にお茶してたかもなぁとか。ママも死ななかったかもしれないとか。そういうのが頭ん中グルグル回っちゃって、あの人達は悪くないのに、どうして弟を助けてくれなかったのって責めたくなって。喚きたくなるのを、抑えるのに必死で……あーもう、私ダメだぁ!」
ワーッと声を上げたニナを、ノエルがすぐさま抱き締めた。ミランダ、ベネットとあとに続く。
「よしよし、よく言ってくれた。悪いモンは全部吐き出しちまえば良いんだ」
「これからはずっと、私が傍にいますからね。大丈夫ですよ、ニナ」
「大好きなニナさんの悩み、いくらでも受け止めてみせますっ」
「あーもー! みんな優しいよー! 大好きー!!」
ニナが叫びながら抱き返すと、彼女達から明るい笑い声が聞こえてきた。大きな問題にならずに解決したようで、ホッとする。
ぎゅうぎゅう抱き締め合っているノエル達を眺めていると、カミラとシンディがこちらに寄ってきた。
「ザガンの方はどうだったのじゃ? ここで出会えたのは僥倖だったが、あの者達の魔力枯渇は防げそうか?」
「時間的に、神様のことまでは説明してないわよね。神々を救うには邪神を復活させてもらわないといけないけど、彼らの怒りを利用すると考えると心苦しいわ。危険も伴うし……カミラちゃんが作ってくれたMPポーション、今のうちに渡しておいた方が良かったかしら」
そうだな、いろいろ気になるよな。なので順を追って説明していく。
クラージュも新聞を読んでいたこと、残念眼鏡やソフィーのこと。説得出来そうだったから魔瘴をこちらに渡してほしいと頼んだが、断られたこと。邪神を復活させる意思も変わらなかったので、王都で必要になるかもしれないと改造していた、魔導バリアを渡したこと。
「アイツは組織のリーダーであり、闇属性である仲間達を大切にしている。よって仲間が危険となれば、敵対している俺からの施しであろうと、迷わず使うだろう。MPポーションについては、先に渡したら魔瘴収集で消費される可能性が高いから、そのままシンディが持っていて良かったと思う」
「ふむ。少しずつ差別が減っていると知ってもなお、邪神を復活させる意思は覆らないか。ならば神々について話したところで、やはり心変わりはしなかったろう」
「ああ、だからシンディが心を痛める必要は無い。それに王都に着いたら、俺達が全力でお前を闇組織のところまで連れていく。リュカ、構わないだろう?」
俺達のリーダーであるリュカに確認を取ると、ニコリと微笑んでくれた。
「もちろんだよ。ソレイユの民を守るのは王家の義務だもの、彼らだって絶対に死なせないよ。まぁザガンを殺そうとしたことは許せないけど、全部終わったあとに、きちんと謝罪させるからね。その為にも、生きていてもらわないと」
「ザガン君、リュカ君……ありがとう」
礼を言うのは早いだろう。まだどうなるか、わからないのだから。
ただとりあえずは、魔導バリアを渡せた。魔力枯渇の危険性についても助言出来たので、成果としては上々である。
ゲームでは必ず死んでしまう、闇組織の者達。しかし俺自身、決められていた死を乗り越えてきた。やれることも全てやってきている。ならばきっと、彼らの未来も変えられるはず。そう信じて、最後まで進んでいくしかない。
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