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68話*

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「ところでリュカ、あくまでも仮定なんだが」

 夜。風呂から上がってきたリュカに、どうしても気になったので聞いてみることにした。

「もし男でも妊娠可能なアイテムが発見されたとしたら、お前は俺に子を産んでほしいか?」

 このような仮定、本来なら無意味だ。しかし俺は、カミラが実際に妊娠薬を作れることを知っている。だから産めないのは前提で、それでももし妊娠薬がそこに置かれていたら、リュカはどうしたいか気になった。

 唐突の質問、しかも帰宅前の話題を蒸し返されたにもかかわらず、リュカはすぐさま首を横に振る。

「いらないよ。子供がいたら、ザガンの意識がそっちに向いちゃうもの。そんなの我慢ならないからね。……――ザガンは俺だけのものだ、絶対に誰にも渡さない」

 ベッドに押し倒されたかと思えば、ギラギラした双眸で見下ろしてくるリュカ。とんでもない執着に、嬉しいけれど息が詰まる。少し動いただけで、喉元から喰われそうだ。

 強く艶やかな視線に動けないでいると、リュカはふっと笑みを浮かべた。そして頬に優しいキスをしてくる。張り詰めていた空気が緩くなり、ほっと吐息が漏れた。

 ちゅっちゅっと眦にもキスしたあと、再び間近から目を覗き込んでくる。

「逆に聞くけど、そういう薬があったら、ザガンは産みたいの?」
「いやまったく。子がいたら、冒険者を辞めなければならない。魔導具製作の時間も取れなくなるかもしれない。考えるだけでも苦痛だ。それに子が欲しいのなら、リュカの想いには応えていない」

 俺は男である。そしてリュカ以外の男など完全拒否するくらいには、異性が恋愛対象だ。よって本当に子を望んでいるなら、女性を選ぶだろう。まぁそもそもの前提として、黒髪の俺を恋愛対象にしてくれるのがリュカしかいないのだが、それは横に置いておく。

 ちなみにベネットがゲームで妊娠薬を欲するのは、元々性別にコンプレックスを抱いているからだ。子を産める女性に嫉妬してしまうから。しかし俺はリュカを好きになろうと、男であることを肯定している。貴族の女達から男だ闇属性だと罵られても、小鳥が囀っているようにしか聞こえない。男で何が悪い?

「ずっと独りで生きていくつもりだった。そんな俺が、リュカのおかげで孤独ではなくなった。リュカが傍にいて、俺を愛してくれる。これ以上、望むものは無い」
「そっか、それなら良かった。ふふ、愛してるよザガン。俺だけのザガン」

 リュカの多大なる愛に応えるだけで、精いっぱい。そんな回答に満足したようで、リュカは顔中にキスしてきた。くすぐったくて喉が震える。小さく笑うと、リュカも嬉しそうに微笑んだ。

「ザガン可愛い。今日もいっぱい気持ち良くなろうね」

 頷けば、ちゅっと唇にキスされる。いつもであればそのまま深く口付けられ、舌が触れ合うのだが、今日は何故か離れてしまった。

 首を傾げると、スッと目を細め、意地悪い笑みを浮かべてくる。嫌な予感がして咄嗟に逃げようと身体に力が入ったものの、上から押さえ付けられていて無理だった。

 逃亡を謀ったからか、さらに笑みを深くしてくるリュカ。

「でも、知らなかったなぁ。君がエッチなことをたくさん言われて、苛めてほしいと思っていたなんて」

 …………ファ!? き、気付かれていた、だと?

 リュカが指摘してきたのは、明らかに数時間前の、日没直後のことである。妊娠どうこうについて慌てて弁明してきたリュカを宥めていたのに、うっかり『赤ちゃん出来ちゃうね』発言を思い出して動揺した、あの瞬間。
 あの時リュカは訝しげに俺の名を呼んできたし、周囲は暗かったものの顔はとても近かったので、紅潮した頬に気付かれてもおかしくない。だがまさか、何を考えていたかまで把握されていたとは。恐るべしリュカの趣味。

「だ、誰もそんなことは言っていない」
「顔に書いてあったよ。俺がザガンのことで間違うなんて有り得ないと、自負してるんだけど……もしかして違ってたのかな。俺、愛する君のことなのに、間違っちゃった?」

 途端にしおらしくなるから、慰めようと口を開いたものの、すぐに閉じた。
 間違っていないと否定してやりたい。だがそうすると、言葉責めで苛めてほしいと肯定してしまうことになる。しかし間違っていると返すのはリュカに嘘をつくことになって心苦しいし、悲しませてしまうかもしれない。

 つまるところ、完全に逃げ道が塞がれているのだ。この男、ズルすぎである。いや、あんな些細な変化に気付くのがすごいと、称賛すべきか。

「…………ま、……」
「うん」
「……間違って、いない」

 答えた瞬間、ぶわわっと頬が熱くなった。苛めてほしいと自分から意思表示するのは、どうしたって恥ずかしい。しかもリュカは、とても幸せそうな蕩けた笑顔で、頷いてくる。

「良かった。それじゃあザガンの望み通り、今夜はエッチな言葉で、たくさん苛めてあげるね」

 耳元で囁かれた、脳まで犯すような艶やかな声に、ふるりと背筋が震える。うぐぐ……せめてお手柔らかに頼む。





「ふぁ、ん……あ、あん、……あ♡」

 ぬちゅ、ぬちゅりと、腰が動くたび、粘着質な音が鳴る。すでに2回、結腸奥で射精されているせいだ。
 それに今の体勢は背面座位で、自分の体重で自然と奥までペニスが埋まっているから、溜まっている精液と相俟って下腹部が少し膨れている。

 そこを愛おしそうに、撫でてくるリュカ。掌の感触ですら快感となり、ひくひくと身体が震えた。もう終わってほしくてリュカの膝から立ち上がろうとしても、触手に両足を抱えられ、むしろズッポリ奥までペニスを咥えてしまう。

 いつの間にか俺を抱きながら触手を何本も動かすようになっているほど、魔力操作が上達している。本来なら素晴らしいことだ。しかし現状を鑑みると、まったく褒める気がしない。

「ひぅ……ふぁ、あ、あん、……んっん」
「ん……ザガンのエッチなお尻、また締め付けが強くなってきた。きゅうきゅう蠢いて、早く妊娠させてって催促してきてるよ。女の子のところ、いっぱいトントンされて気持ち良いね?」
「や、違う……あん、だめ、だめ……ん、ん♡」
「違わないでしょ? 乳首も女の子みたいに、ぷっくり勃ってるじゃない。すごくエッチで可愛いよ」

  耳元で囁かれながら、乳首を摘ままれた。すでに何度もイかされているせいで、耳にちゅっとキスされるだけで震えてしまうし、乳首を捏ねられると、じわじわした快感に侵されて身体がくねってしまう。すると自分から腸壁を刺激することになり、さらなる快楽に襲われる。

「ふ、あぅ……リュカぁ、んぁ、あ、あん……♡」
「ほら、もっと種付けしてほしいって、自分から腰を揺らしてる。もう俺の子種でいっぱいなのにね。ふふ、そろそろ赤ちゃん出来たかな?」

 意地悪なことを言われるせいで、羞恥と快楽で頭がぐるぐるして、涙がボロボロ零れた。頼むから、もう苛めないでほしい。官能的なイイ声で囁かれるたび、恥ずかしいのに気持ち良くて、アナルがきゅんきゅんしてしまうから。

 強すぎる感覚から逃れたくて、下腹部から力を抜くよう努めた。無闇にペニスを締め付けなければ、溢れてくる快感を止められるはず。しかし大きく息を吐いて落ち着こうとしても、現状で腸壁がめいっぱい拡がっているほどリュカのペニスは大きく、あまり効果は無い。

 せめて動いてしまう腰を止めようとしたら、咎めるように後ろから腰を抱えられ、下から突き上げられた。

「や、あぁんっ……あ、あ、あ♡」
「うんうん、気持ち良いね。もっと気持ち良くしてあげるからね」

 奥をトントンつつかれながら、括約筋から結腸までを擦られる。どんどん快感が湧いてきて、我慢出来無くて、きゅううとペニスを締め付けてしまう。
 気持ち良い、気持ち良い。あ、あ、だめ、だめ。

「リュカ、またイく、あ……あん、ん、ん――……ッ♡」

 身体が弓形に反れる。胎内を強く締め付けたまま絶頂し、とてつもない快楽が溢れる。
 ぶわぶわぶわっと脳から足先まで駆け巡っている感覚に、どうにかなりそうだった。気持ち良すぎて全身が大きく痙攣するし、頭は靄が掛かったようにふわふわする。

「あ、あぅ……ぅ……ふぁ……♡」
「はぁ……ザガンが一生懸命締め付けてくれたから、俺もすごく気持ち良かったよ。すでに2回出していたせいで、一緒にイけなかったのは残念だけど」
「ん……あん、ん……う……」
「ふふ、また女の子イキしてる。ホント可愛いなぁ。ちっちゃいハートもいっぱい出てるし」

 背中を反らしたまま震えていたが、その言葉にハッとなり、慌てて周囲を両手で払って散らした。

 抱かれていた当初は1、2秒で消えていたらしく、俺自身は見たことがなかった、黒い魔力のハート。だが回数を重ねるたび少しずつ持続時間が長くなり、いつしか自分でも視界の端に捉えるようになっていた。それでも基本的にはイっている最中なので、見たような気がする程度だったが。

 なのに最近は何故か、10秒以上残っているのだ。快楽を素直に受け入れるようになったからか、リュカの魔力が全身を巡りやすくなったせいか、それとも俺自身の魔力が以前よりも強くなったからか。すでに2回中出しされているのは、明らかに原因の1つである。

 とにかく周囲にたくさんハートが漂っているのは恥ずかしい。指摘されなければ気にならないのに、されるとどうにも気になってしまう為、さっさと消した。リュカには苦笑されたけれども。

「そんな急いで消さなくても。ハートを浮かべてるザガンすごく可愛いし、俺とのエッチが大好きって伝えてくれるの、とても嬉しいよ?」

 俺は嬉しくない。ムッとして背後にいるリュカへと顔を向けたら、涙で濡れていた頬にキスされた。それから唇にも。もっとリュカが欲しくて舌を出せば、すぐに舌先が触れ合う。

「……ふぁ、ん、……ん、ふ」
「ん、ザガン……ん、ちゅ」

 掬うように絡められ、くちゅりくちゅりと音が鳴った。舌裏をなぞられるとゾクゾクして、身体が震えてしまう。ふぁ、気持ち良い。

 キスしているうちに、再びリュカが動き出した。胎内を嬲られ、前立腺や括約筋もずりずり擦られる。ぶわぶわっと快感が湧き上がり、また涙が零れてしまう。

 だいぶ快楽が溜まっていたらしく、動きはすぐに激しくなった。何度も奥を穿たれ、感じすぎてつらい。
 でも俺の身体でリュカが気持ち良くなってくれることが、とてつもなく嬉しい。うなじに感じるリュカの荒い呼吸とか、背中を覆っている汗ばんだ肌とか、何もかもが愛おしい。

「ふぁあ、リュカ、リュカ好きだ。大好き、……あ、あ♡」
「ザガン、俺も大好き……ん、また、奥に出すよ。俺との赤ちゃん、孕んで……っ」
「あ、や……ふぁ、ん……は、う――~~っ♡!」

 どぷどぷどぷっと勢いよく種付けされる。奥の奥までリュカで満たされ、光の魔力が全身へと巡っていく。あまりの気持ち良さに、蕩けてしまいそう。

「ひあ、……あ、あぅ……あ……♡」

 快感に震えていると、ようやくペニスを抜かれた。ずっと埋められていたせいで、アナルがぽっかり空いているような感覚がする。それに少し身じろぎするだけで、胎内の奥からぬちゅりと音が聞こえてきて、その感触にすら小さく震えてしまった。かなり恥ずかしい。

 ハートがまたいっぱい出ていたが、消す気力が湧かなかった。蕩けてしまっている身体をリュカに預け、頭を肩に乗せて、ぐずぐず鼻を啜りながらぼんやり消えていくハートの魔力を眺める。そうしていると、ちゅっと頬にキスされた。

「お疲れ様ザガン、とても気持ち良かったよ」
「ん…………」
「ザガンのここが、俺の精液でたぷたぷになるほど満たされていると思うだけで、すごく幸せだ」

 後ろから緩く抱かれ、愛おしげに下腹部を撫でられる。リュカに優しく包まれている状態は心地良く、安心するからか、だんだん眠くなってきた。瞼も落ちていく。
 うつらうつらすると、またちゅっと頬にキスされ、頭に頬を寄せられた。

「おやすみザガン。愛してるよ」

 ん。おやすみ、リュカ……。







 翌日12月9日。朝は普段通り、ノエル、ミランダ、ニナとの鍛錬。
 昼食後には昨日言っていたように、オロバスに俺の写真があるか聞いていた。何枚も持っていたことには驚いたが、赤子時代はどれもしっかりフードを被っていたので、良しとしておこう。ただしノエルと一緒になって、可愛い可愛いと連呼していたのは、咎めさせてもらったが。

「リュカはそんなに、昔の俺が良いのか。今の俺はいらないのか。そうか」
「ああああ、ごめんねザガン! もちろん今のザガンが最高に可愛いし、格好良いよ。だから絶対に離れないでね!」

 ちょっと拗ねてみせたら、即行でぎゅうぎゅう抱き締められた。本当、こんなにチョロくて大丈夫か? 王都に戻ったあと、悪徳貴族共に利用されないか心配になる。

 ちなみにカミラが焼き増しをしている間の鍛錬相手は俺で、夕食後はやはり普段通り、カミラ、ベネット、シンディとの鍛錬だった。







 12月10日。明日にはダンジョン攻略が開始される。なので今日は武器装備のメンテナンスや、アイテムの補充、その他荷物の準備となった。

 その日の夕食後。

「ザガンよ、2人で茶を飲もうぞ。リュカ、少しだけザガンを借りるからな」

 良いだろう、と俺が返答する前に、カミラはリュカに断りを入れると、俺に毛布や座布団を渡してきた。そしてカミラ自身はお盆を持ち、テラスに出る。

「リュカ、外に出てくる」
「あ、うん。風邪引かないように暖かくしてね。寒くなったら、すぐ中に入るんだよ?」

 頷いてからカミラを追った。彼女がお盆をテラスの床に置いたので、対面になるよう座布団を置く。それからカミラに毛布を1枚返して、2人で腰を下ろした。風邪を引かないよう、きちんと毛布に包まっておく。

 お盆の上には、急須と湯飲み2つ。食後なので茶菓子は無い。
 カミラが茶を注いでくれたので、さっそくいただいた。ん、美味い。

「たまには緑茶も良かろう?」
「ああ、良い味だ」
「そうじゃろう、そうじゃろう。それに今宵は空が晴れていて、星がよく見える」

 確かに。雪は降らずとも雲で覆われていることが多い季節だが、今夜は星空が広がっている。

 緑茶を飲みつつ、のんびり星空を見上げた。魔力が使える世界だからか環境破壊はされておらず、本当にたくさんの星が輝いている。それでも、月は見えないけれども。

 緑茶を飲みつつ空を見上げていると、カミラにクッと笑われた。

「お主は相変わらず、思慮深い男よのう。何故2人きりになったか気になるだろうに、聞いてこんのだから」
「話を切り出せるタイミングというものが、あるだろう。こちらから急かす理由も無い」
「そうじゃな。そんなお主だからこそ、共にいて楽なのだが」

 嬉しい言葉だが、言われ慣れていないせいか、少々照れくさい。それにそんなことを言ってくるなんて、どうしたのだろう?
 首を傾げつつカミラを見返すと、複雑そうな笑みを返された。

「お主は子供姿のわらわに対し、最初から対等に接してくれている。もちろん中身が大人ということは、事前にリュカから聞いていたじゃろう。たぶん、その理由も。だがそれでも、最初は疑念を覚えるものだよ」

 リュカから聞いたわけではなく前世の記憶だが、事実を言うわけにもいかないので、相槌を打っておく。

 カミラが今の姿になったのは、錬金術で失敗した薬品を、誤って飲んでしまったからだ。その数日後、リュカ達がカミラの店に立ち寄ったことで、仲間になる。元に戻るアイテムを開発するには、リュカ達に同行するのが近道だと考えたから。第12都市まで回るのであれば、珍しい素材が見つかるかもしれない。作成方法を知っている錬金術師が、どこかにいるかもしれないと。

 だがゲームでは結局、カミラルートを攻略しても、元には戻らない。

「誰もがザガンのように、見た目で判断しないなら楽なのだがな。しかし残念ながら、あまりいないのが事実じゃ。この前のパーティーで、改めて痛感したよ」

 モデスト侯爵が主催した、ダンスパーティーのことか。外見のせいで、ダンスに誘ってくるのが子供だけだったとか?
 いやカミラは、そんな些細なことを気にするような、度量の小さい女ではない。俺と2人になり、愚痴を零したくなるようなほどの何かがあったのだろう。

「……何があった?」

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