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情動
16
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警備員を殴り倒して裏口から別荘内への侵入を果たしたわたしは、呼吸を整え内部の様子を窺った。
海の異変とわたし達の脱走が伝わって人員を外へ割いているのか、別荘内はひっそりとして、目に付くところに人の姿は見当たらなかった。
用心深くひとつひとつドアを開けながらしらみつぶしに一階の部屋を当たっていく。給仕服姿の男に何人か遭遇したけれど、いずれも声を上げられる前に気絶させることが出来た。
一階はキッチンや大広間、来客用の控室などが主で、特に怪しいところはなさそうだった。クンツの姿も見当たらない。
裏側に地下への入口が隠されている無駄に豪華な階段を上がり、未知数の二階へと足を進めると、奥にたくさんのドアが見える通路の両端に鎧を着込み帯剣した男が二人立っていた。周囲に視界を遮るものはなく、二階へ上がる人物が必ず彼らの目に留まるような造りになっている。
階段の半ばで息を潜めてそれを確認したわたしは、一気に加速し階段を駆け上がると、男達へ肉薄した。突如姿を現したわたしに虚を突かれて剣を抜ききれない一人の喉を柄で突き昏倒させ、狼狽の声を上げるもう一人の口に拳を叩き込む。くぐもった悲鳴を上げるそのうなじを返した剣の柄で突くと、そちらの男も白目を剥いて床の上に崩れ落ちた。
その時だった。
「女だてらに大したものだ……」
背後に気配を感じた、と思った瞬間響いた、低くて掠れた声と共に何かが空気を切り裂いてわたしに迫った。とっさに身体を捻ったけれどそれを完全にはかわし切れず、頬や二の腕、ふくらはぎの辺りに小さく裂ける痛みが走る。
この声……!
剣を構え振り返ったわたしの瞳に映ったのは、黒衣を纏った四十代前後とおぼしき眼光鋭い男の姿だった。その顔には見覚えが、その声には聞き覚えがある。
バルコニーでクンツの傍らに控えていた男だ。黒髪に白いハイライトが一筋混じり、前髪をオールバックにして、サイドから後ろは無造作に流されている。裾が長いスタンドカラーの黒衣を身に纏い、細身の黒いパンツを履いていて、その両手は黒衣の中で腰の後ろに回されており、わたしから手元が見えないようになっていた。
先程わたしに投げつけられたのは先端にギザギザの返しが付いた、くないのような飛び道具だった。
この男、暗器の使い手か……!
「驚嘆に値する身のこなしだ……エントリー用紙に書かれた『雑貨屋の店員』ではあるまいな? 何者だ」
口元を歪めこちらをそう皮肉る相手の名をわたしは口にした。
「……シュライダー」
「オレの顔と名を知っているからには……生かして帰さんぞ」
切れ長の青灰色の瞳が細められると同時にシュライダーが動いた。投げつけられる暗器を薙ぎ払い迫るわたしの顔を狙い、金属製のヌンチャクが繰り出される。ボッ、と空気を貫く音と共に、擦過熱が額をかすめ、前髪を何本か持って行かれた。
「……ッ!」
こんなのの直撃を食らったら……顔が、陥没する!
ひやりとした余韻を覚えながら奴の胴に剣を見舞うと、予想外の硬い衝撃が伝わり、甲高い金属音を響かせて刃が弾かれた。ただの黒衣じゃない、何か特殊な金属が編み込まれている。
立て続けに繰り出されるヌンチャクをかわしながら剣を振るうが、奴の腕にも足にも刃を弾かれた。全身がこの仕様か。くそっ……間に合わせのこの剣では強度に欠ける、壊劫があれば……!
何合かやり合った後、距離を取って荒い息をつくわたしにシュライダーが声をかけた。
「赤い髪の女……一昨日、入り江の洞窟でオレが差し向けた連中をやったのはお前だな? 何故オレ達の邪魔をする……お前の目的はなんだ? 誰に頼まれた? どうやって黒幕へたどり着いた?」
「答える義務はないな。わたしはな……嫌いなんだよ、お前達みたいな、はき違えた自己至上主義者が!」
「力を有する者が他を圧するのは自然の理だろう。あの魔物の幼生は我らに更なる力を与える為の試金石……その価値が分からぬなら、邪魔立てするな!」
怒号と共に再び暗器が飛んでくる。かわすわたしに襲い来るヌンチャクの脅威。避けながらわたしも攻撃を仕掛けるが、相手の黒衣に刃が通らない以上、狙えるところはそれ以外に限られてしまい、当然相手にも読まれているから、かわされる。おまけにこちらは水着姿で防御力など無いに等しいから、あちらは狙う場所に事欠かない。しかも飛び道具を使われ、武器の届く範囲があまりに違い過ぎた。
こんなに不利な条件は久々だ。敏捷性ではこちらの方が上だが、著しく攻撃力と防御力に欠ける。逃げ回っているだけではいずれやられてしまう。
ヌンチャクを飛び退って回避したわたしを追ってシュライダーが跳んだ。突き出されたその膝から、仕込まれていた鋭利な刃が現れる。とっさに身体を深くくの字に折ったが、回避しきれず腹部を浅く薙がれた。そのまま横合いから飛んでくるヌンチャクを剣で受け止めると、重い衝撃と共に鈍い音がして、刀身がへし折れた。
「くっ……!」
バランスを崩しながら体勢を立て直そうとするわたしの足元を狙い澄まし、シュライダーがヌンチャクで打ち据える! 左の足首に熱い痛みが走り、わたしはもんどりうって床に倒れた。
しまった……!
「ほう、その足、折れなかったか……見た目以上に頑強だな。だが、これでお前は生命線とも言える敏捷性を失った。片翼をもがれた鳥も同然だ。しかも武器がその様ではな……さあ、どう出る?」
腰の後ろから抜き放った小太刀をわたしの鼻先に突き付けたシュライダーが口角を吊り上げた。
右手に残る柄にはわずかな刀身しか残っていない。左足首は折れてこそいないものの、脈打つような痛みと熱を訴えてくる。恐らくは骨にひびが入っている。
「オレは徹底主義でね。立てついた奴は絶対に許さないと決めている」
シュライダーの瞳が残忍な光を帯びた。
「言え。お前はどこの手の者で、仲間は何人いる? どういう目的で、どういった手段でここへたどり着いた? 素直に吐けば、楽に殺してやろう」
冷たい輝きを放つ刃の切っ先がゆっくりと下へと滑り、わずかな音を立ててラッシュガードの生地を裂いていく。
「お前らのおかげでオレの信用はガタ落ちだ……分かるだろう? せめてお前達を皆殺しにして、あの魔物の幼生を回収しないと、今後この世界で生きていきづらくなるんだ」
ラッシュガードを裂き終わった切っ先がわたしの大腿へと移り、肌を薄く傷付けた。
「四肢を順に切断してやってもいいが、出来れば五体満足で、ひと思いに逝きたいだろう?」
「……わたしも甘く見られたもんだ。そんな脅しに屈する、とでも?」
シュライダーをにらみつけると奴は薄く笑って、先程より深く大腿に刃を押し当てた。
「痛みはシビアだ。どんなに頑強な男でも、最後は屈する。必ずな」
刃を当てがわれた箇所から鮮血が滲み出て、肌を伝い、流れ落ちる。
この男はこれまで幾度もこういう場面に立ち合い、それを実行してきたのだろう。恐らくは、ただの一度も失敗することなく―――。
「次は骨が見えるまでいくぞ」
眉をひそめ、奥歯を噛みしめるわたしの顔を覗き込むようにして宣告するシュライダーに、わたしは皮肉交じりの言葉を返した。
「……ずいぶんと、顔が近いな? シュライダー」
言い様、目にも止まらぬ勢いで突き出された折れた剣を、シュライダーの小太刀が跳ね上げる。
「この程度、オレが読めぬとでも―――!」
嘲笑うシュライダーの声が鈍い悲鳴へと転じたのは、次の刹那。
隠し持っていた折り畳み式ナイフで、わたしが奴の右目を貫いたのだ。折れた剣を突き出したのは陽動だった。
「き―――貴っ様あぁぁぁ!」
怒号を上げて襲い来るシュライダーから身体を回転させるようにして身をかわし、先に昏倒させていた見張りの剣を抜き取って、顔面を朱に染め憤怒の形相を見せる男と対峙する。
「そんな鈍らで、このオレを殺れるかあぁ!」
「やれるさ。お前如きがわたしに敵うわけ、ないだろう」
軸足は負傷して踏ん張りが効かない。
この剣は、強度が足りない。
けれど、魔具を携えていなくともわたしは魔眼だ。その自負がある。金色の双眸を持つ、あの男のパートナーだという誇りがある。何より、託された依頼は必ず成し遂げる、その矜持を持っている。
やり遂げる―――絶対に!
「ふざけるなあぁぁ!」
激高して強襲するシュライダーの胴の一点を捉え、全身全霊の力を込め、剣を振るう!
これまで顔に集中して斬りつけているように見せかけながら、実は胴の同じ部分に狙いを絞って何度も何度も斬りつけるのを織り交ぜていた。
―――ここだ!
狙い澄まして放った刃に確かな手応えが伝わってくる。黒衣を貫かれ悶絶するシュライダーの後頭部に、わたしは勢いよく剣の柄を振り下ろした。
ゴキンッ、と嫌な音が響き渡り、シュライダーの四肢が一瞬硬直した後、弛緩する。
フロアに静寂が訪れ、わたしは肩で息をつきながら、倒れ伏した黒衣の男を油断なく見据えた。それから慎重に近付いて、完全に奴が気絶していることを確かめてから、その身体を検めた。
すると、他のものとは明らかに雰囲気が違う怪しい鍵が見つかった。
どこの鍵だ? 分からないけど、とりあえずいただいておこう。
その時だった。
待ち望んでいた気配を背中に感じ、振り返ったわたしはそこに、階段を駆け上がってくるドルクの姿と彼が携えた壊劫を見つけ、思わず顔をほころばせた。
海の異変とわたし達の脱走が伝わって人員を外へ割いているのか、別荘内はひっそりとして、目に付くところに人の姿は見当たらなかった。
用心深くひとつひとつドアを開けながらしらみつぶしに一階の部屋を当たっていく。給仕服姿の男に何人か遭遇したけれど、いずれも声を上げられる前に気絶させることが出来た。
一階はキッチンや大広間、来客用の控室などが主で、特に怪しいところはなさそうだった。クンツの姿も見当たらない。
裏側に地下への入口が隠されている無駄に豪華な階段を上がり、未知数の二階へと足を進めると、奥にたくさんのドアが見える通路の両端に鎧を着込み帯剣した男が二人立っていた。周囲に視界を遮るものはなく、二階へ上がる人物が必ず彼らの目に留まるような造りになっている。
階段の半ばで息を潜めてそれを確認したわたしは、一気に加速し階段を駆け上がると、男達へ肉薄した。突如姿を現したわたしに虚を突かれて剣を抜ききれない一人の喉を柄で突き昏倒させ、狼狽の声を上げるもう一人の口に拳を叩き込む。くぐもった悲鳴を上げるそのうなじを返した剣の柄で突くと、そちらの男も白目を剥いて床の上に崩れ落ちた。
その時だった。
「女だてらに大したものだ……」
背後に気配を感じた、と思った瞬間響いた、低くて掠れた声と共に何かが空気を切り裂いてわたしに迫った。とっさに身体を捻ったけれどそれを完全にはかわし切れず、頬や二の腕、ふくらはぎの辺りに小さく裂ける痛みが走る。
この声……!
剣を構え振り返ったわたしの瞳に映ったのは、黒衣を纏った四十代前後とおぼしき眼光鋭い男の姿だった。その顔には見覚えが、その声には聞き覚えがある。
バルコニーでクンツの傍らに控えていた男だ。黒髪に白いハイライトが一筋混じり、前髪をオールバックにして、サイドから後ろは無造作に流されている。裾が長いスタンドカラーの黒衣を身に纏い、細身の黒いパンツを履いていて、その両手は黒衣の中で腰の後ろに回されており、わたしから手元が見えないようになっていた。
先程わたしに投げつけられたのは先端にギザギザの返しが付いた、くないのような飛び道具だった。
この男、暗器の使い手か……!
「驚嘆に値する身のこなしだ……エントリー用紙に書かれた『雑貨屋の店員』ではあるまいな? 何者だ」
口元を歪めこちらをそう皮肉る相手の名をわたしは口にした。
「……シュライダー」
「オレの顔と名を知っているからには……生かして帰さんぞ」
切れ長の青灰色の瞳が細められると同時にシュライダーが動いた。投げつけられる暗器を薙ぎ払い迫るわたしの顔を狙い、金属製のヌンチャクが繰り出される。ボッ、と空気を貫く音と共に、擦過熱が額をかすめ、前髪を何本か持って行かれた。
「……ッ!」
こんなのの直撃を食らったら……顔が、陥没する!
ひやりとした余韻を覚えながら奴の胴に剣を見舞うと、予想外の硬い衝撃が伝わり、甲高い金属音を響かせて刃が弾かれた。ただの黒衣じゃない、何か特殊な金属が編み込まれている。
立て続けに繰り出されるヌンチャクをかわしながら剣を振るうが、奴の腕にも足にも刃を弾かれた。全身がこの仕様か。くそっ……間に合わせのこの剣では強度に欠ける、壊劫があれば……!
何合かやり合った後、距離を取って荒い息をつくわたしにシュライダーが声をかけた。
「赤い髪の女……一昨日、入り江の洞窟でオレが差し向けた連中をやったのはお前だな? 何故オレ達の邪魔をする……お前の目的はなんだ? 誰に頼まれた? どうやって黒幕へたどり着いた?」
「答える義務はないな。わたしはな……嫌いなんだよ、お前達みたいな、はき違えた自己至上主義者が!」
「力を有する者が他を圧するのは自然の理だろう。あの魔物の幼生は我らに更なる力を与える為の試金石……その価値が分からぬなら、邪魔立てするな!」
怒号と共に再び暗器が飛んでくる。かわすわたしに襲い来るヌンチャクの脅威。避けながらわたしも攻撃を仕掛けるが、相手の黒衣に刃が通らない以上、狙えるところはそれ以外に限られてしまい、当然相手にも読まれているから、かわされる。おまけにこちらは水着姿で防御力など無いに等しいから、あちらは狙う場所に事欠かない。しかも飛び道具を使われ、武器の届く範囲があまりに違い過ぎた。
こんなに不利な条件は久々だ。敏捷性ではこちらの方が上だが、著しく攻撃力と防御力に欠ける。逃げ回っているだけではいずれやられてしまう。
ヌンチャクを飛び退って回避したわたしを追ってシュライダーが跳んだ。突き出されたその膝から、仕込まれていた鋭利な刃が現れる。とっさに身体を深くくの字に折ったが、回避しきれず腹部を浅く薙がれた。そのまま横合いから飛んでくるヌンチャクを剣で受け止めると、重い衝撃と共に鈍い音がして、刀身がへし折れた。
「くっ……!」
バランスを崩しながら体勢を立て直そうとするわたしの足元を狙い澄まし、シュライダーがヌンチャクで打ち据える! 左の足首に熱い痛みが走り、わたしはもんどりうって床に倒れた。
しまった……!
「ほう、その足、折れなかったか……見た目以上に頑強だな。だが、これでお前は生命線とも言える敏捷性を失った。片翼をもがれた鳥も同然だ。しかも武器がその様ではな……さあ、どう出る?」
腰の後ろから抜き放った小太刀をわたしの鼻先に突き付けたシュライダーが口角を吊り上げた。
右手に残る柄にはわずかな刀身しか残っていない。左足首は折れてこそいないものの、脈打つような痛みと熱を訴えてくる。恐らくは骨にひびが入っている。
「オレは徹底主義でね。立てついた奴は絶対に許さないと決めている」
シュライダーの瞳が残忍な光を帯びた。
「言え。お前はどこの手の者で、仲間は何人いる? どういう目的で、どういった手段でここへたどり着いた? 素直に吐けば、楽に殺してやろう」
冷たい輝きを放つ刃の切っ先がゆっくりと下へと滑り、わずかな音を立ててラッシュガードの生地を裂いていく。
「お前らのおかげでオレの信用はガタ落ちだ……分かるだろう? せめてお前達を皆殺しにして、あの魔物の幼生を回収しないと、今後この世界で生きていきづらくなるんだ」
ラッシュガードを裂き終わった切っ先がわたしの大腿へと移り、肌を薄く傷付けた。
「四肢を順に切断してやってもいいが、出来れば五体満足で、ひと思いに逝きたいだろう?」
「……わたしも甘く見られたもんだ。そんな脅しに屈する、とでも?」
シュライダーをにらみつけると奴は薄く笑って、先程より深く大腿に刃を押し当てた。
「痛みはシビアだ。どんなに頑強な男でも、最後は屈する。必ずな」
刃を当てがわれた箇所から鮮血が滲み出て、肌を伝い、流れ落ちる。
この男はこれまで幾度もこういう場面に立ち合い、それを実行してきたのだろう。恐らくは、ただの一度も失敗することなく―――。
「次は骨が見えるまでいくぞ」
眉をひそめ、奥歯を噛みしめるわたしの顔を覗き込むようにして宣告するシュライダーに、わたしは皮肉交じりの言葉を返した。
「……ずいぶんと、顔が近いな? シュライダー」
言い様、目にも止まらぬ勢いで突き出された折れた剣を、シュライダーの小太刀が跳ね上げる。
「この程度、オレが読めぬとでも―――!」
嘲笑うシュライダーの声が鈍い悲鳴へと転じたのは、次の刹那。
隠し持っていた折り畳み式ナイフで、わたしが奴の右目を貫いたのだ。折れた剣を突き出したのは陽動だった。
「き―――貴っ様あぁぁぁ!」
怒号を上げて襲い来るシュライダーから身体を回転させるようにして身をかわし、先に昏倒させていた見張りの剣を抜き取って、顔面を朱に染め憤怒の形相を見せる男と対峙する。
「そんな鈍らで、このオレを殺れるかあぁ!」
「やれるさ。お前如きがわたしに敵うわけ、ないだろう」
軸足は負傷して踏ん張りが効かない。
この剣は、強度が足りない。
けれど、魔具を携えていなくともわたしは魔眼だ。その自負がある。金色の双眸を持つ、あの男のパートナーだという誇りがある。何より、託された依頼は必ず成し遂げる、その矜持を持っている。
やり遂げる―――絶対に!
「ふざけるなあぁぁ!」
激高して強襲するシュライダーの胴の一点を捉え、全身全霊の力を込め、剣を振るう!
これまで顔に集中して斬りつけているように見せかけながら、実は胴の同じ部分に狙いを絞って何度も何度も斬りつけるのを織り交ぜていた。
―――ここだ!
狙い澄まして放った刃に確かな手応えが伝わってくる。黒衣を貫かれ悶絶するシュライダーの後頭部に、わたしは勢いよく剣の柄を振り下ろした。
ゴキンッ、と嫌な音が響き渡り、シュライダーの四肢が一瞬硬直した後、弛緩する。
フロアに静寂が訪れ、わたしは肩で息をつきながら、倒れ伏した黒衣の男を油断なく見据えた。それから慎重に近付いて、完全に奴が気絶していることを確かめてから、その身体を検めた。
すると、他のものとは明らかに雰囲気が違う怪しい鍵が見つかった。
どこの鍵だ? 分からないけど、とりあえずいただいておこう。
その時だった。
待ち望んでいた気配を背中に感じ、振り返ったわたしはそこに、階段を駆け上がってくるドルクの姿と彼が携えた壊劫を見つけ、思わず顔をほころばせた。
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