仕込みちゃん

教養

　置屋おきやに入って三ヶ月。
　姐さんは、五体満足ごたいまんぞくやったら、言語能力げんごのうりょくが他の子たちより劣おとっとっても、問題あらへん言うた。むしろ、告つげ口ぐちされるリスク低ひくうて、扱あつかいやすそうや思われるさかい、得や言う。
　未熟みじゅくな肉体は、好色家こうしょくかからの需要じゅようぎょうさんあるし、ちっこいだけで付いとるもの同じやさかい、小柄こがらなことも、問題あらへんそうや。

　言うとることの意味、すぐに理解した。姐さんらは中身足りひんし、考える力あらへん。綺麗きれいなおべべ着とるさかい、それなりに立派りっぱに見えるけど、馬子まごにも衣装いしょうや。例に漏もれんと、芸だけやのうて、色を売っとる――そらもう、遊女ゆうじょやえ。
　いっぺん下しもの世話せわしてもうたら、その後は、飼かわれることしか出来ひん。
　おんなじ轍てつ踏まへんため、教養きょうよう身に付けたいけど、舞妓ちゃんには要いらへん。姐さん言うた通り、考える力あらへん方が扱いやすい。

　胡桃くるみは、尋常じんじょう小学校へ通わしてもろうとる。義務教育ぎむきょういくやさかい、行かなあかんちゅうことになっとるけど、どうにでもなる。
　いろんな事情じじょうで、通かようてへん子たちはおる。

　置屋おきやには、胡桃くるみの他に尋常じんじょう小学校へ通うてる子いいひん。宿題しゅくだい出されるさかい、なんぼ勉強しとっても怒られへん。胡桃くるみは、その環境を最大限に活かし、教養きょうようを深める。衣食住いしょくじゅう、お稽古けいこ費用は全額ぜんがく、置屋おきやが面倒めんどう見てくれるさかい、生活に困る事はあらへん。ちゃんと雑用ざつようこなしとったら、人として扱あつこうてもらえるし、何不自由ふじゆうあらへん。
　とはいえ、花街かがいは厳きびしい世界。誰一人として、胡桃くるみらを子たち扱いしいひん。粗相そそうしたら、徹底的てっていてきに矯正きょうせいされる。耐えられんと、逃にげ出そうとする子たちは、ぎょうさんおる。そら、置屋おきやよりも、ええ生活を送っとったちゅうこっちゃ。その子たちには、逃げ帰りたい思える場所があるさかい、羨うらやましいとは思う。胡桃くるみには、逃げ帰る場所あらへんし、心折おる暇ひまも許されへん。あるのんは、置屋おきやで生きていくしかあらへんちゅう、現実だけや。そやけど、その重圧じゅうあつが、精神せいしんと思考能力の成長を加速かそくさせとることは事実やさかい、悲観ひかんしたことはあらへん。