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第1章 アカデミー編
#06.U うまく騙せているかしら
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うれぴ姫の寝室。
「かなぴ、うまく騙せているかしらね」
そわそわし、落ち着かないうれぴ姫。
かなぴのお尻を心配しているのではない。騙しきれたら楽しいという期待でわくわくしている。
「おうえおうえ」
肯定も、否定もせず、にこりと微笑むメアリ。
メアリは知っている。うれぴ姫は応答がほしいだけで、意見を求めているわけではない。
「見に行ってみようかしら。でも、私が二人いることになるのは困るわね……」
かなぴが脱いだメイド服に、わざとらしくチラチラと視線を送りながら、その周りをウロウロするうれぴ姫。着替えさせてくれるよう、メアリに要求している。
メアリは無駄のない動きで、うれぴ姫の服を脱がす。
かなぴの体型との大きな違いは胸。体型を近付けるには、胸をなくさなければならない。メアリは、うれぴ姫の胸を潰すようにサラシを巻き付ける。服のサイズは同じなので着るだけ。
あとは、ヘアメイクをすれば完成。メアリは、皇女からヘアメイクを一任されている唯一の存在。メアリの手にかかれば、かなぴのヘアメイクを再現する程度のことはお茶の子さいさい。
メアリの手により、見事にかなぴの外見へと変貌したうれぴ姫。
単身、食堂へと向かう。かなぴは朝食を食べに行っただけ。バレずに食事を終えられていれば、廊下のどこかで顔を合わせる。この姿を見たかなぴが、どのような反応をするか。うれぴ姫は楽しみでわくわくする。
* * *
かなぴと合流したのは食堂前。
うれぴ姫を見て、驚きのあまり大きく開けた口を、手のひらで塞ぐかなぴ。
「バレなかったようね。さすが私のメアリだわ」
したり顔で、腕を組むうれぴ姫。メアリが施したヘアメイクが、完璧であると証明されたことを喜ぶ。
「一人で来たことを不審がられて、焦ったかな」
伏し目で、もじもじするかなぴ。
食堂の扉が開く。
出てきたぷんぷんの視界に入ったのは、偉そうな態度のかなぴと、困っているように見えるうれぴ姫。
主従逆転――ぷんぷんの顔から血の気が引く。
メイド長は秩序を守ることを最優先にしなければならない。秩序を乱す者には罰を与え、躾ける責任を負う。
「申し訳ありません!」
うれぴ姫――の姿をしたかなぴに向かって、深々と頭を下げるぷんぷん。すぐさま、かなぴ――の姿をしたうれぴ姫の腕を掴むと、憤怒の顔で引きずっていく。
うれぴ姫は腕を掴まれたことも、引きずられたこともない。気が動転し声を出せない。ぷんぷんに、自分がうれぴ姫であると伝える機を逸した。
* * *
お仕置き部屋。
鞭打ちするため、むき出しにされたうれぴ姫のお尻。
* * *
イメージ映像。
うれぴ姫のお尻の接写映像がひたすら流れる。
マシュマロのような弾力と柔らかさを兼ね備えた質感。ぷりんとして、傷一つないきめ細かいシルクのような肌。生まれてから一度も叩かれたことがない無垢のお尻。
* * *
ぷんぷんが首をかしげる。
「もう傷痕が消えたのね」
傷がないのは当然。かなぴのお尻ではなく、うれぴのお尻。鞭打ちされた事実が存在しない。けれどぷんぷんは、眼前のお尻がうれぴ姫のものとは知らない。
「若いから、治りが早いのね。痕が残らないのなら……」
ぷんぷんは手に持っている、音の割に刺激が少ないレザー鞭から特注鞭に持ち替える。
* * *
叩く度に皮膚が裂け、ミミズ腫れになる過程がノーカットで映し出される。
ぷんぷんは、傷は一時的なもので綺麗に消えると思い込んでいる。痛々しい見目を気にしたり、躊躇することはない。
うれぴ姫は初回だけ、うめくような声を発したけれど、その後は無言。ぷんぷんはその様子を、見目の割に痛くないと判断したようで、鞭の勢いを徐々に強める。しかしうれぴ姫は反応しない。
ぷんぷんは、八つ当たりでもしているかのように、力任せにお尻を叩き続ける。
* * *
飽きたのか、疲れたのか――鞭打ちが止まる。
「あら、もう満足したのかしら?」
うれぴ姫自身の口調。
持っていた鞭を床に落とし、腰を抜かすぷんぷん。
「終わったのなら、解放してくださらない? 動けないのだけれど」
うろたえながら、手足の拘束を解くぷんぷん。
ぷんぷんに視線をやることすら無く、無言で退室するうれぴ姫。
うれぴ姫は、怒っているわけではない。
ぷんぷんは秩序を守るため、責任を全うしただけ。うれぴ姫は、かなぴが嫌がっていたものを体験し、共通の話題として話せるようになったことに満足している。
* * *
うれぴ姫の寝室。
うれぴ姫はお尻が熱い。
「痛っ……」
シーツをギュッと握り、ベッドにうつ伏せになっているうれぴ姫。お尻に、メアリとかなぴが薬を塗る。
「かなぴが、お仕置きを嫌がるのも無理ないわね」
「見た目がエグいかな」
「聞きたくないわ」
* * *
うれぴ姫の痛々しいお尻の接写映像がひたすら流れる。
謎の指先が、生々しい傷の上をツーっと這う。
* * *
「嫌がらせかしら……見たくもないのだけれど」
かなぴは大きな溜め息を吐く。
「はぁ……姫様が朝早く起きてくだされば、私のお尻は叩かれないかな。起きてくだされば……」
* * *
イメージ映像。
うれぴ姫とかなぴが横並びでお尻を突き出し、交互に鞭で叩かれる映像が流れる。
そのような事実はない。捏造された光景。
当たり前のように流れるナレーション。
うれぴ姫もかなぴと同じ痛みを味わったから、かなぴの気持ちを誰よりも理解できる。だからこそ、悪態をつかれても負の感情は湧いてこない。
* * *
「何を言っているのよ。そんなことはないわよ。映像とナレーションに悪意を感じるのだけれど、恨みでもあるのかしら?」
* * *
突如流れる回想シーン。
選択肢はいくつか提示されていた。
VFX、特殊メイク、代役。そして本物。
VFXはCGを活用し、実際の映像と組み合わせて映像を作るもの。危険であったり、多額のコストがかかる等、非現実的なものを表現する際に用いる。撮影した映像を後から加工する。
特殊メイクは撮影時に直接行なう。俗に言うSFX。
カメラを止めては撮りを繰り返すので、画面が切り替わると、そうなっていたという構成になる。
代役は、鞭打ちシーンだけスタンドインの役者が代わりに行なう。映画の濡れ場シーンで、画面が切り替わり、顔を映さず胸や体だけを映し出す類は代役の体を用いている。
うれぴ姫とかなぴがお尻を突き出し、鞭で打たれる映像が流れる。鞭が当たった箇所が赤みを帯びていく過程、皮膚が裂ける瞬間、耐える表情がワンカットで流れる。
実際に起きているものを捉えている、本物の映像。
* * *
お尻を押さえるかなぴ。
「事あるごとに鞭打ちシーンを撮っていたら、いつまで経っても治らないかな」
深呼吸し、息を整えるかなぴ。
「私たち自体が代役だったかな。第一候補はスケジュールの都合で断った。他の候補も断った。それで仕方なく声が掛かった。もしも本物以外を選んでいたら、他の人になっていたかな」
ワンカット撮影を行えるのは、VFXか本物の場合のみ。制作側のメリットが大きいのは、手間とコストが掛からない本物を撮れる役者。
「そうね。デビューは、一生に一度しかない。もしも他の誰かが演じていれば、なんて思わせたら終わり。絶対に失敗できないのだから我慢よ。そのために準備してきたのだもの」
うれぴ姫のお尻も真っ赤に染まり痛々しい。
しかし、気丈に振る舞ううれぴ姫。
「表情とあわせてワンカットで撮りたいと言われたかな」
「本物であることが売りだもの。見せ場を増やすためよ」
* * *
腕を組み、仁王立ちしているうれぴ姫のお尻を、左右両方向から鞭で打つ映像が流れる。
全く気に留めないうれぴ姫。
とはいえ、反射運動が生じていることは見て取れる。
* * *
「かなぴ、うまく騙せているかしらね」
そわそわし、落ち着かないうれぴ姫。
かなぴのお尻を心配しているのではない。騙しきれたら楽しいという期待でわくわくしている。
「おうえおうえ」
肯定も、否定もせず、にこりと微笑むメアリ。
メアリは知っている。うれぴ姫は応答がほしいだけで、意見を求めているわけではない。
「見に行ってみようかしら。でも、私が二人いることになるのは困るわね……」
かなぴが脱いだメイド服に、わざとらしくチラチラと視線を送りながら、その周りをウロウロするうれぴ姫。着替えさせてくれるよう、メアリに要求している。
メアリは無駄のない動きで、うれぴ姫の服を脱がす。
かなぴの体型との大きな違いは胸。体型を近付けるには、胸をなくさなければならない。メアリは、うれぴ姫の胸を潰すようにサラシを巻き付ける。服のサイズは同じなので着るだけ。
あとは、ヘアメイクをすれば完成。メアリは、皇女からヘアメイクを一任されている唯一の存在。メアリの手にかかれば、かなぴのヘアメイクを再現する程度のことはお茶の子さいさい。
メアリの手により、見事にかなぴの外見へと変貌したうれぴ姫。
単身、食堂へと向かう。かなぴは朝食を食べに行っただけ。バレずに食事を終えられていれば、廊下のどこかで顔を合わせる。この姿を見たかなぴが、どのような反応をするか。うれぴ姫は楽しみでわくわくする。
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かなぴと合流したのは食堂前。
うれぴ姫を見て、驚きのあまり大きく開けた口を、手のひらで塞ぐかなぴ。
「バレなかったようね。さすが私のメアリだわ」
したり顔で、腕を組むうれぴ姫。メアリが施したヘアメイクが、完璧であると証明されたことを喜ぶ。
「一人で来たことを不審がられて、焦ったかな」
伏し目で、もじもじするかなぴ。
食堂の扉が開く。
出てきたぷんぷんの視界に入ったのは、偉そうな態度のかなぴと、困っているように見えるうれぴ姫。
主従逆転――ぷんぷんの顔から血の気が引く。
メイド長は秩序を守ることを最優先にしなければならない。秩序を乱す者には罰を与え、躾ける責任を負う。
「申し訳ありません!」
うれぴ姫――の姿をしたかなぴに向かって、深々と頭を下げるぷんぷん。すぐさま、かなぴ――の姿をしたうれぴ姫の腕を掴むと、憤怒の顔で引きずっていく。
うれぴ姫は腕を掴まれたことも、引きずられたこともない。気が動転し声を出せない。ぷんぷんに、自分がうれぴ姫であると伝える機を逸した。
* * *
お仕置き部屋。
鞭打ちするため、むき出しにされたうれぴ姫のお尻。
* * *
イメージ映像。
うれぴ姫のお尻の接写映像がひたすら流れる。
マシュマロのような弾力と柔らかさを兼ね備えた質感。ぷりんとして、傷一つないきめ細かいシルクのような肌。生まれてから一度も叩かれたことがない無垢のお尻。
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ぷんぷんが首をかしげる。
「もう傷痕が消えたのね」
傷がないのは当然。かなぴのお尻ではなく、うれぴのお尻。鞭打ちされた事実が存在しない。けれどぷんぷんは、眼前のお尻がうれぴ姫のものとは知らない。
「若いから、治りが早いのね。痕が残らないのなら……」
ぷんぷんは手に持っている、音の割に刺激が少ないレザー鞭から特注鞭に持ち替える。
* * *
叩く度に皮膚が裂け、ミミズ腫れになる過程がノーカットで映し出される。
ぷんぷんは、傷は一時的なもので綺麗に消えると思い込んでいる。痛々しい見目を気にしたり、躊躇することはない。
うれぴ姫は初回だけ、うめくような声を発したけれど、その後は無言。ぷんぷんはその様子を、見目の割に痛くないと判断したようで、鞭の勢いを徐々に強める。しかしうれぴ姫は反応しない。
ぷんぷんは、八つ当たりでもしているかのように、力任せにお尻を叩き続ける。
* * *
飽きたのか、疲れたのか――鞭打ちが止まる。
「あら、もう満足したのかしら?」
うれぴ姫自身の口調。
持っていた鞭を床に落とし、腰を抜かすぷんぷん。
「終わったのなら、解放してくださらない? 動けないのだけれど」
うろたえながら、手足の拘束を解くぷんぷん。
ぷんぷんに視線をやることすら無く、無言で退室するうれぴ姫。
うれぴ姫は、怒っているわけではない。
ぷんぷんは秩序を守るため、責任を全うしただけ。うれぴ姫は、かなぴが嫌がっていたものを体験し、共通の話題として話せるようになったことに満足している。
* * *
うれぴ姫の寝室。
うれぴ姫はお尻が熱い。
「痛っ……」
シーツをギュッと握り、ベッドにうつ伏せになっているうれぴ姫。お尻に、メアリとかなぴが薬を塗る。
「かなぴが、お仕置きを嫌がるのも無理ないわね」
「見た目がエグいかな」
「聞きたくないわ」
* * *
うれぴ姫の痛々しいお尻の接写映像がひたすら流れる。
謎の指先が、生々しい傷の上をツーっと這う。
* * *
「嫌がらせかしら……見たくもないのだけれど」
かなぴは大きな溜め息を吐く。
「はぁ……姫様が朝早く起きてくだされば、私のお尻は叩かれないかな。起きてくだされば……」
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イメージ映像。
うれぴ姫とかなぴが横並びでお尻を突き出し、交互に鞭で叩かれる映像が流れる。
そのような事実はない。捏造された光景。
当たり前のように流れるナレーション。
うれぴ姫もかなぴと同じ痛みを味わったから、かなぴの気持ちを誰よりも理解できる。だからこそ、悪態をつかれても負の感情は湧いてこない。
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「何を言っているのよ。そんなことはないわよ。映像とナレーションに悪意を感じるのだけれど、恨みでもあるのかしら?」
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突如流れる回想シーン。
選択肢はいくつか提示されていた。
VFX、特殊メイク、代役。そして本物。
VFXはCGを活用し、実際の映像と組み合わせて映像を作るもの。危険であったり、多額のコストがかかる等、非現実的なものを表現する際に用いる。撮影した映像を後から加工する。
特殊メイクは撮影時に直接行なう。俗に言うSFX。
カメラを止めては撮りを繰り返すので、画面が切り替わると、そうなっていたという構成になる。
代役は、鞭打ちシーンだけスタンドインの役者が代わりに行なう。映画の濡れ場シーンで、画面が切り替わり、顔を映さず胸や体だけを映し出す類は代役の体を用いている。
うれぴ姫とかなぴがお尻を突き出し、鞭で打たれる映像が流れる。鞭が当たった箇所が赤みを帯びていく過程、皮膚が裂ける瞬間、耐える表情がワンカットで流れる。
実際に起きているものを捉えている、本物の映像。
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お尻を押さえるかなぴ。
「事あるごとに鞭打ちシーンを撮っていたら、いつまで経っても治らないかな」
深呼吸し、息を整えるかなぴ。
「私たち自体が代役だったかな。第一候補はスケジュールの都合で断った。他の候補も断った。それで仕方なく声が掛かった。もしも本物以外を選んでいたら、他の人になっていたかな」
ワンカット撮影を行えるのは、VFXか本物の場合のみ。制作側のメリットが大きいのは、手間とコストが掛からない本物を撮れる役者。
「そうね。デビューは、一生に一度しかない。もしも他の誰かが演じていれば、なんて思わせたら終わり。絶対に失敗できないのだから我慢よ。そのために準備してきたのだもの」
うれぴ姫のお尻も真っ赤に染まり痛々しい。
しかし、気丈に振る舞ううれぴ姫。
「表情とあわせてワンカットで撮りたいと言われたかな」
「本物であることが売りだもの。見せ場を増やすためよ」
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腕を組み、仁王立ちしているうれぴ姫のお尻を、左右両方向から鞭で打つ映像が流れる。
全く気に留めないうれぴ姫。
とはいえ、反射運動が生じていることは見て取れる。
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