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第六章 布教に行きたい

#114 光を喰らう闇

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『ほう、ラビット・バレットか』

 突然現れたウサギガンマンを見て、配信画面のコスモはニヤリと笑う。

『ヴァンピィを自滅クラッシュさせて控えのマドールを守りに回すとは、中々の好判断だな、ヒナ』

 熟練のゲーマー同士の対戦で相手の妙手に唸るように、コスモは心底嬉しそうにこちらの指し手を褒め称えた。
 敵が強ければ強いほど楽しい、そんな彼の感情が伝わってくる。
 そこでクロリスが言葉を継ぐ。

『石化の呪いを受けたジャック・ザ・ヴァンパイアは本来の力を発揮できない。チームの足手まといになるくらいなら敢えて自滅を選ぶ。くっころ戦法というわけですね』
『えっ、何そのネーミング』

 目を点にするコスモを尻目に俺は通話を一旦切る。
 そして落ち込んでいるであろう夜宵にフォローの言葉をかけた。

「ごめんなヴァンピィ。不本意な形で退場させちまって」
「謝らないでよヒナ。ヒナはチームの為に最善の選択をしたんだから」

 予想に反して夜宵の表情は明るかった。

「私はもう試合に復帰できないけど、みんなの戦いを応援してるから! 頑張って勝ってね!」
「あ、ああ。サンキュ」

 そうだ。夜宵に対して申し訳なく思ってる場合じゃない。
 チームの為に犠牲になった彼女に報いる方法は唯一つ、この試合に勝つことだ。

「ヒナは本当に謝る必要なんてないんだよ。私が役立たずなのが悪いんだから。
 あれだけ敵のゴールデンマドールに近づいてたのに結局倒せないなんて、ホント私ダメだよね。ファーストウォリアー失格だよね。
 せっかくチームに誘ってくれたのに期待外れでごめんね。何の役にも立たないお荷物でごめん。生きててごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」
「ちょ、夜宵ちゃん! ストップストップ!」

 めちゃくちゃ暗い顔で落ち込んでたー!
 つい本名呼びに戻りながら俺は彼女に励ましの言葉を投げかける。

「そんなことないぞ夜宵。お前じゃなければあそこまで敵陣深くまで攻め込めなかったろうし、お前がクロリスの手の内を暴いてくれたからこそ対策を考えられるんだ。
 いやもうね。夜宵は我がチームの精神的支柱というか、マスコットというか、癒やし枠というか、とにかく居るだけでみんなの士気を高めてくれる大事な存在なんだ!」

 自分でももはや何を言ってるのかわからないが、とにかく思いつく限りのフォローの言葉を並べ立てる。
 一方の夜宵は顔を俯かせて押し黙っている。
 と、その時だった。

「くっ、ふふ、もう、ヒナはホント優しいんだから」

 俯いたままの彼女から押し殺した笑いが漏れる。
 えっ、ちょっ、何?
 そこで夜宵は顔を上げ、堪えきれないといった様子で破顔した。

「あはは、ヒナはホント面白いなあもう」
「おいおい、ひょっとして落ち込んだフリだったの? 心配させやがって!」
「うんうん、心配してくれてありがとうね。ほら、試合に集中して」

 くっそー、夜宵にからかわれるとは。
 俺はコントローラーを持ち直し、試合に意識を戻す。

「ほんと、二人は仲良しなんだからねー」

 ニヤニヤと笑いながらこちらを見つめる水零。

「先輩、ふざけてる場合じゃないっすよ。まじめに戦ってください」

 俺達のやりとりに釘を刺す琥珀。
 そんな雰囲気の中、光流だけが黙っていることに気付いた。
 そちらを見れば、彼女は真剣な表情でピストル型コントローラーをバトルフィールドを向けていた。
 その視線の先では、グランドランス・ユニコーンが停止フェイリアから回復し、動き出すところだった。

天罰の光パニッシュ・レーザー

  呟きとともに光流が引き金を引くと、ラビット・バレットが右手に持った銃が再び光線を発射する。
 放たれたビームは動き出す寸前のグランドランス・ユニコーンを貫き、もう一度動きを封じた。

『なんだと!』

 絶妙なタイミングでの攻撃に、ランスの声に驚きの色が滲む。
 そうだ。これこそが光流の得意とするハメパターン。
 停止フェイリアが終了した瞬間、相手がマドールを操作する前に再び天罰の光パニッシュ・レーザーを打ち込むことで、再度停止フェイリア状態にする。
 停止フェイリアの終了前に攻撃しても、停止時間が伸びることはない。
 逆に停止フェイリアの回復後に少しでも時間を与えれば相手がマドールを操作し、攻撃を回避してしまうだろう。
 停止フェイリア復帰後の一瞬のタイミングを射抜く光流の実力があってこそ、このハメ技は成立するのだ。
 一方でコスモは落ち着いた様子で戦局を分析する。

永久なる聖域エターナルエデンが完成したか、これはちょっと厄介な展開になってきたな』

 そしてリスナーに説明するように言葉を並べる。

永久なる聖域エターナルエデンは一度完成すれば、外からの攻撃を完全に遮断する絶対の安全地帯となる。こうなってはこちらからはもう相手のゴールデンマドールに手を出せない。
 ただし、ライオンハート側も無敵の防御結界を維持する為に代償を支払わなければならないがな』

 そう、それこそが永久なる聖域エターナルエデンをギリギリまで出し惜しんだ理由でもある。
 永久なる聖域エターナルエデンを維持する代償として、聖域の中にいる水晶の魔法使いクリスタル・メイジの頭部装甲は三分ごとに二十パーセント削られていく。
 六分経過すれば四十パーセント、九分後には六十パーセント、とダメージが蓄積されていき、十五分経てばダメージは百パーセントに達し頭部ヘッドパーツは破壊される。
 頭部ヘッドパーツが壊れれば水晶の魔法使いクリスタル・メイジ機能停止ダウンすると共に永久なる聖域エターナルエデンは消滅する。
 十五分間の安全が保証される代わりに、十五分後、水零はゲームから脱落し、こちらの防壁は失われる。
 これが永久なる聖域エターナルエデンの代償。
 コスモはそれを視聴者に説明し終えると、結論を吐き出す。

『俺達は十五分経つまで聖域には手出しできない。ならば今やるべきことは――ウサギ狩りだ!』

 そう言って彼はニヤリと笑う。
 聖域に守られたゴールデンマドールを攻撃できないなら、奴らの次の標的は聖域の外に居るラビット・バレットになるのは妥当な判断だろう。

『やれ、ランス! あの銃刀法違反ウサちゃんを叩き潰せ!』
『貴様の指図など聞かんと言ってるだろう』

 調子に乗るコスモに対し、ランスは不愉快そうに言葉を返す。
 そして画面の中の鎧騎士がコントローラーを操作しようとしたところで、三度みたびウサギガンマンの銃口から光線が放たれた。
 天罰の光パニッシュ・レーザーは今度も停止フェイリア解除直後のグランドランス・ユニコーンを貫き、一歩足りとも動くことを許さなかった。
 槍騎兵の全身に電流が走り、体の自由を奪う。

『おのれ、我が愛馬の足を止めて狙い撃ちにするとは、何という屈辱!』

 怒りに震えるランスを見て、「お兄様、通話を繋いでください」と光流から注文か飛んできた。
 言われた通り通話を再開すると、光流が口を開く。

「ふっふっふっ、もう手遅れですよ。
 スナイパーひよこちゃんの銃は百発百中!
 私にかかれば停止フェイリアの解ける五秒後ピッタリに天罰の光パニッシュ・レーザーを再度当てて永遠に動きを封じ続けるなんて朝飯前です。
 もう諦めてください!」

 いつの間にスナイパーなんて通り名がついたのかね、ひよこちゃん。
 それと彼女が正確無比に五秒間隔で攻撃できるのは、その手に持つガンショット・コントローラーのマクロ機能のお陰なのだが、相手からはこちらがどんなコントローラーを使ってるかなんて見えないので、ここは光流のプレイスキルの高さということにするらしい。
 確かにこのままラビット・バレットとグランドランス・ユニコーンの一対一タイマンになれば光流が勝ちそうではあるが。
 そんなことを考えていると、ラビット・バレットが四度目の光線を放つ。
 その光はユニコーンに真っ直ぐ向かい――
 射線上に突如現れた闇色の球体に吸い込まれて消滅した。
 こいつは!

『ブラックホールシールド。こいつの前では全ての光属性攻撃は無効化され、ダメージも追加効果も発生しない』

 配信画面のコスモが不敵な笑みと共にそう吐き出す。
 そしてバトルフィールド上でも青い体の竜皇が、グランドランス・ユニコーンを庇うように立っていた。
 とうとう来たか。

『銀河竜皇コズミック・ドラグオン! ここに再臨!
 さあウサギちゃん。ガンマンごっこはここまでだぜ!』

 愉しげにコスモはそう吐き出す。
 こいつ、光流相手なら楽に戦えると思って調子に乗ってるな。

『ラビット・バレットの攻撃パーツは両手に持った光線銃のみ。どちらも光属性攻撃だ。
 しかしコズミック・ドラグオンのブラックホールシールドの前では光属性の攻撃スキルは全て無力と化す!』

 上機嫌に彼はそう説明する。
 以前土倉がうちに遊びに来たとき、ブラックホールシールドによる絶望的な相性不利によって光流のラビット・バレットはなす術なく敗北した。
 それは光流自身も決して忘れてないだろう。
 そこで彼女はクスリと笑った。

「それはどうでしょう? 何の対策もせずに貴方との戦いに臨むほど私は甘くないですよ」
「ほう。ってことは何か作戦でもあるのかな?」

 コスモの問いかけに、光流も自信を持って返す。

「もちろんです。今から教えてあげましょう。貴方のコズミック・ドラグオンの致命的な弱点を」
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