ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第六章 布教に行きたい

#113 永久なる聖域

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 水晶の魔法使いクリスタル・メイジはクルクルと杖を振り回しながら、空中へ放り投げる。
 その杖が落下し地面へ突き刺さると、その場所を中心に広範囲に魔法陣が展開された。
 魔法陣の外周部にはオーロラの壁が生み出され、少しづつ背を伸ばしている。
 それを見て、感心した様子でコスモは言葉を吐き出した。

水晶の魔法使いクリスタル・メイジ頭部特性ヘッドスキル永久なる聖域エターナルエデンはあらゆる攻撃を防ぐ不可侵の聖域を構築する。
 完成すればまさに無敵の城壁となる強力な特性スキルだ。
 ただし完成すればの話だがな』

 コスモめ、対戦環境では殆ど使用者のいない水晶の魔法使いクリスタル・メイジの能力も把握済みか。
 流石のマドール知識だな。
 そう、確かに永久なる聖域エターナルエデンは完成すれば、外界からのあらゆる干渉を受け付けない絶対の安全地帯となる。
 しかしその発動から完成までには少々時間を要する。
 魔法陣の上に現れたオーロラの壁はまだ水晶の魔法使いクリスタル・メイジの背丈の高さにも及んでいない。
 聖域が完成するまでランスの攻撃を凌ぐ。
 それが水零に託された使命だ。

「水姫、頼むぞ」
「ヒナくんの頼みならなんでも聞いちゃうわ。ちゃんと守りきれたらあとでご褒美頂戴ね」

 いつもの調子で投げキッスをひとつすると、彼女はコントローラーを握り直す。

右腕特性ライトスキル多層水晶壁マルチクリスタル・ウォール!」

 水晶の魔法使いクリスタル・メイジが右手を前に出すと、彼女の正面に十枚の鏡の壁が出現する。
 そこでコスモが言葉を放つ。

『行け、ランス。永久なる聖域エターナルエデンが完成する前にライオンハートのクイーンを倒すんだ!』
『貴様に指図される謂れはない。我が主君はクロリス様ただ一人!
 女王の首をクロリス様への手土産としてくれる!』

 言葉と共に一角獣のヒヅメが大地を蹴り、鏡の壁へと突進してくる。
 そして騎士の持つ槍と、ユニコーンの角が同時に壁を叩いた。

二重槍殺デュアルペネトレイト!』

 重量感溢れるその攻撃は、十枚の鏡の壁の最初の一つを粉々に打ち砕いた。
 その恐るべき威力に、水零も苦々しく口元を歪める。
 まずい、これは彼女一人には荷が重いかもしれない。
 落ち着け、冷静に考えろ。
 永久なる聖域エターナルエデンの完成前にランスの侵攻を許せば、俺達のゴールデンマドールは倒され、チームの敗北が決まる。
 現実問題、このペースで鏡の壁を破られ続けたらどうなる?
 ランスが全ての壁を突破する前に聖域の完成は間に合うか?
 この先の盤面を予測してみるが、大分際どい。
 もはや判断の遅れは許されない。
 水零を援護するなら今すぐにでも決断すべきだ。
 ならばなりふり構ってはいられない、こちらも手札カードを切る!
 俺は夜宵に指示を飛ばした。

「ヴァンピィ! クラッシュだ!」
「っ!」

 俺の言葉を聞いて、夜宵は目を丸くする。
 無理もない。しかし彼女には申し訳ないが、今はこの手しかない。

「わかったよヒナ」

 そして彼女は静かに頷いた。
 そうしている間にもランスの猛攻は続く。
 魔法陣から伸びるオーロラの障壁は水晶の魔法使いクリスタル・メイジの倍ほどの高さまで成長しつつある。
 それが完全なドーム型になれば永久なる聖域エターナルエデンの完成なのだが。

「水姫、聖域の完成まであとどれくらいかかる?」
「あと、十秒」

 苦しげに彼女は答える。
 そこでランスはいよいよ九枚目となる鏡の壁を突破した。

『あと一枚! ライオンハートよ、覚悟を決めよ! 二重槍殺デュアルペネトレイトおお!』

 そして十回目の突進攻撃! ユニコーンの角と騎士の槍は最後の壁を打ち砕き、鏡の破片がその場に散らばる。
 聖域を形作るオーロラの防壁はまだ実体化していない。
 もはやゴールデンクイーンマドールとグランドランス・ユニコーンの間を阻む物はない。
 俺はもう一度彼女に問いかける。

「水姫、聖域は」
「ごめん。あと、五秒」

 申し訳なさそうに告げる水零とは対照的に、ランスの興奮した声が響く。

『トドメだ! 我が槍に貫かれることを光栄に思うがいい!』

 グランドランス・ユニコーンが槍を構え、クイーンへ狙いを定めたその時――
 一筋の閃光が空気を切り裂き、騎士の胸を貫いた。

『な、に?』

 ランスが絶句する。
 どこからともなく飛んできた光線に撃ち抜かれた瞬間、グランドランス・ユニコーンの体に電流が走り、動きが止まる。
 そこに楽しげな少女の声が割り込む。

天罰の光パニッシュ・レーザー。この光線を受けたマドールは五秒間、停止フェイリア状態になり操作不能となります」

 五秒。
 そう、欲しかった五秒がようやく手に入った。
 間に合った。
 俺はバトルフィールドの北端を見る。
 さっきまで夜宵とクロリスが戦っていたその場所では、ジャック・ザ・ヴァンパイアが自らの剣で胸を貫き、木に背を預けながら倒れていた。
 自滅による停止交代クラッシュアンドダウンリリーフにより、控えのマドールが交代地点リリーフスポットからバトルに参戦し、ここまで駆けつけてくれたのだ。
 両手に拳銃を持ったウサギのガンマンがその場に降り立つ。
 俺の自慢の妹は、ピストル型コントローラーを構えながら得意気に言葉を吐き出した。

「お待たせしましたお兄様、水姫さん。私とラビット・バレットが来たからにはもう安心ですよ」

 そして魔法陣が生み出すバリアは遂に天井を覆い尽くし、虹色に輝き出す。
 それを見て、水零は満足気に微笑んだ。

「ありがとう、ひよこちゃん。これで、永久なる聖域エターナルエデン! 完成!」
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