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第六章 布教に行きたい

#111 鉄壁のキング

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 室内は冷房が効いているにも関わらず、夜宵のコメカミを汗が伝う。
 それはシンプルに今の戦況の悪さを物語っていた。

「ねえ、太陽くん。これどうやって倒すの?」

 水零が不安げに吐き出すも、俺は答えることができなかった。
 このゲームで俺達が倒すべき敵のキングが目の前にいるにも関わらず、石化の呪いによる防御強化が敵の守りを強固なものにしている。
 並大抵の攻撃ではまともなダメージは通らないと思っていい。
 敵のゴールデンキングマドールの装甲ヒットポイントは残り九百九十九。
 それをなんとかして削り取らなければ俺達に勝利はない。
 バトルフィールドでは、ブラックアリスがハープの弓を構えて攻撃態勢をとっていた。
 その弓から矢が放たれ、ジャック・ザ・ヴァンパイアへと迫る。

「くっ、この」

 夜宵が表情を歪めながらコントローラーを操作すると、ジャックが剣を振って矢を叩き落とす。
 そして吸血鬼は返す刀でブラックアリスの肩を斬りつけた。
 しかしそれはブラックアリスの装甲を僅かに削ったに過ぎなかった。
 ブラックアリス自身も石化の呪いを受けて鉄壁の防御力を手に入れている。
 ジャックがいくら攻撃しようと、碌にダメージを与えられない。
 埒が明かないと判断し、ジャック・ザ・ヴァンパイアはブラックアリスに背を向けて敵のゴールデンマドールを睨む。
 そして夜宵のコントローラーからガチャガチャと複雑なコマンド入力の音が響いた。

鮮血の雨ブラッド・レイン!」

  ジャックが剣を構え、目にも留まらぬ速さでキングマドールの体を連続で突き刺す。
 鮮血の雨ブラッド・レインは一秒間に十連撃を叩き込むジャックの必殺コマンドの一つだ。
 これならいけるか?
 俺は改めてキングの残装甲ヒットポイントを確認する。
 今の攻撃で九百九十九から九百八十九まで減少していた。
 十連撃でたったの十ダメージ。つまり一撃あたり一ポイントしかダメージを与えられてない。
 相変わらず馬鹿げた防御力だった。
 そこで配信画面からクロリスの声が響く。

『ぱちぱちぱち、見事な連続攻撃でした。今の攻撃をあと九百八十九回繰り返せば、私達に勝てますよ。是非とも無駄な努力をこれからも頑張ってください』

 嘲るように彼女はそう吐き出す。
 それだけの攻撃をクロリスがなんの邪魔もせずに見過ごす筈もないし、このままではキングマドールを倒すのに時間がかかりすぎる。
 もたもたしている間に敵の残り二体のマドールがこちらのクイーンマドールを狙って攻め込んでくるだろう。
 このまま夜宵が攻撃を続けてキングを陥落させるのはあまりに非現実的と言わざる負えない。

「石化の呪いか。なんて防御力だ。一体どうやって突破すれば」

 閉口する俺に、苦しげに表情を歪めた夜宵が言葉を挟んでくる。

「ぐっ、なんとかする。私がなんとかするから」

 確かに、今は最もキングに近い位置にいる夜宵に攻め手を託すしかない。
 ならばその間、俺達の守りはどうする?
 俺は改めてフィールド全体を確認する。
 コスモの操るコズミック・ドラグオンは既にバトルフィールドの半分を超えてこちらの陣地に踏み込んできていた。
 このままでは俺達が守るゴールデンクイーンマドールへ到達するのも時間の問題か。
 それともう一体、ランスの操るグランドランス・ユニコーンはどこだ?
 そう思ってフィールドを見渡すも、一角獣に跨る騎士の姿はどこにも見当たらない。
 おかしいな。一体どこに――
 そこで俺の脳裏に一つの可能性がよぎる。
 しまった! 何故この方法を考えなかった!?
 グランドランス・ユニコーンは地面に穴を掘り地中に潜る能力を持つ。
 俺達がモタモタやってるうちにやつは既に――

「水姫、警戒しろ! 奴が来るぞ!」

 俺は即座に水零に声を飛ばす。
 水零の操る水晶の魔法使いクリスタル・メイジは俺達のクイーンマドールの前に陣取っている。
 その足元の地面が突如として隆起した。

「きゃあっ!」

 水零は咄嗟にコントローラーを操作し、水晶の魔法使いクリスタル・メイジは後方へ飛び退く。
 遅れて地面を突き破り、茶色い一角獣とプレートアーマーに身を包んだ騎士が姿を現した。
 こいつ、俺達に気付かれずにこんなに近くまで来ていたのか。
 地中から夜宵を攻撃していたことばかりが印象に残っていたが、本来の奴の能力は地下を掘り進んで移動するものだったのだ。
 そこで配信画面からランスの声が響いた。

『ライオンハートのゴールデンキーパー、水姫殿よ。
 我が名はランス! 貴殿らが守護せし女王クイーンの首をいただきに参った!』

 そんな彼の名乗りに、水零も不敵に笑いながらボイスチャットツール越しに言葉を返す。

「あら、ご丁寧にどうも。申し訳ないけど、女王様のお城は立入禁止なの。早急にお帰り願えるかしら?」
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