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第六章 布教に行きたい

#101 祭りの準備

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「じゃあ試合当日も俺の家にみんなで集まるってことにするか」

 最初はネット越しに通話しながら対戦するスタイルを考えていたが、チーム戦をする上での意志疎通のしやすさを考えて直接顔を会わせた方がいいという結論になった。
 なにより最初のミーティング以来、チーム練習の度にみんなでウチに集まっているので、もはやその方が自然になってしまった。
 この日も全員で日向家に集合し、リビングにパソコンを持ってきて大型モニターに繋いでいた。
 モニターにはコスモのテスト配信画面が映っている。パソコンにインストールしたチャットツールの画面共有機能によるものだ。
 ボイスチャットツールなので通話もできる。
 画面越しにコスモが言葉をかけてきた。

『ひとまず配信当日もこのスタイルでいいか』
「ああ、チーム内だけでやりとりをするときとかは通話は切らせてもらう。相手チームとの会話が必要になったら、こっちで通話をオンにするさ」

 画面の端には俺達のチーム五人のツイッターアイコンが表示されている。
 俺達の声から喋ってる人を判別して、対応するアイコンが点滅するという代物だ。
 しかしこうして見ると。

「うちのチームのアイコン、統一感ないな」

 最近アカウントを作った水零は初期アイコンのまま。
 俺はラーメンの画像。夜宵は人気アニメの吸血鬼ヒロイン、光流は美味しそうな卵焼きの自作イラスト、琥珀は自宅で飼ってる愛犬の画像をアイコンにしている。

「イラストだったり実写だったり、見事にバラバラだね」
「食べ物だったり人だったり犬だったりするっすね」

 夜宵と琥珀もそう言って同意する。
 そこに光流が意気揚々に提案してきた。

「なら私が全員のアイコンを描きます! 折角の晴れ舞台ですからね。アイコンは私達の顔です。皆さんの魅力が伝わるイラストを描きますよ」
「えっ、いいの光流ちゃん! 楽しみ!」

 光流のファンである夜宵はその言葉に目を輝かせた。
 と、そこに画面の中からコスモが忠告してくる。

『そうだ、一応言っておくけど通話するときにうっかり本名ポロリとかされると、こっちじゃどうしようもないからな』

 まあ確かに。多くの視聴者の集まる生放送だし、本名暴露はよくないな。
 オフ会の時と同様、ハンドルネーム呼びを徹底するべきだろう。

「えー、じゃあヒナくんとか呼ぶの? なんか恥ずかしい」

 水零がそう言って苦笑する。
 一方で琥珀が神妙な顔で呟く。

「前々から言いたかったんだけどさ、光流のハンネのたまごやきって人名感ないよね。リアルで口に出すのは違和感が凄い」
「えっ!?」

 予想外の言葉に光流が驚くが、それには俺にも同意見だった。

「わかる。ネットで文字だけのやり取りするにはいいんだけど、チーム戦の最中にたまごやきって呼ぶのは呼び辛いっていうか、シリアスな空気を壊しかねないというか」
「そ、そんなお兄様まで」

 人のハンドルネームにケチをつけるのはよくないが、ちょっと別の呼び方が欲しいと思う。

「そうまで言うならわかりました! 改名します。これから私の名前はひよこにします!」

 言って光流はスマホを操作する。
 ツイッターを確認すると、彼女のアカウント名が、ひよこ@旧たまごやき、となっていた。

「あっ、いいんじゃない。ひよこちゃんって名前可愛いよね」

 夜宵のフォローのおかげで、場の空気が軽くなる。
 圧力をかけるみたいになって申し訳ないが、確かにひよこなら大分呼びやすくなった。
 そこで琥珀が真剣な顔をして考え込んだ。

「たまごやきが調理前に戻って、ひよことして卵から孵った。これは別の世界線へ移動したってことなのか?」
「いえ、ただの改名にそんなガチ考察されても困ります」

 そんな風に練習と準備を繰り返しながら俺達の夏休みは進んでいった。
 そしていよいよエキシビションマッチ当日を迎える。
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