上 下
87 / 125
第六章 布教に行きたい

#87 銀河級の男1

しおりを挟む
「それにしてもお前なんなんだよ、あの気色悪いLINE」

 客人と共に廊下を歩きながら、俺はそう問いをぶつける。
 昨日、夜宵との勉強中にこいつから送られてきたメッセージは、女子のように可愛い子ぶった文面だった。
 しかし土倉つちくらは紛うことない俺の男友達である。

「ええー、可愛い彼女風のメッセージ頑張ったんだけどなあ。嬉しかったろ日向」
「嬉しくないっての」

 そんな会話をしながらリビングの扉の前に到着する。
 俺がドアノブに手をかけるより早く、中から扉が開かれた。
 出てきた光流は目をぱちくりさせて俺達二人を交互に見る。
 良かった。さっき琥珀と揉み合った着衣の乱れは直っている。
 俺が何か言うより先に土倉が片手を挙げて挨拶した。

「こんにちはー! キミは日向の妹ちゃん? 初めまして。いつも日向から話は聞いてるよ」

 ニカっと眩しい笑みを浮かべる彼に気圧された様子で光が言葉を返す。

「あっ、はいそうです。お兄様のお友達ですか? シスコンなお兄様のことですから普段から私のことを可愛い可愛いって自慢してるんでしょうね」
「そうそう、してるしてる。日向はマジでシスコンだから」

 いや、流石にそこまで日頃から光流の話ばかりしてないよ。
 土倉も悪ノリすんな。
 ツッコミ待ちだったであろう光流が予想外の同意を受けて、驚いたように俺を見つめ、再度土倉に問い返す。

「本当ですか? お兄様は普段からウチの妹が可愛すぎて欲望を抑えきれないとか言っちゃってるんですか?」
「うん言ってる言ってる」
「そんな、お兄様のケ・ダ・モ・ノ」

 照れた様子で両頬を抑えながら、恥ずかしそうにこちらを窺う光流。

「お前ら、悪ノリもそこら辺にしとけ。土倉はとりあえず部屋に入っててくれ。俺は茶の準備してくる」
「あっ、私も手伝います」

 そんなこんなで、リビングのテーブルに四人分の麦茶を置き、その周囲に俺と光流と琥珀と土倉が腰を下ろす。
 初対面の男子に、琥珀も興味深そうに様子を窺っていた。

「えー、初めまして。日向のマブダチの土倉銀河です」

 ニカっと朗らかに笑いながら彼はそう挨拶する。
 場を明るくする人懐っこい笑顔だ。
 俺の目から見ても爽やかな好青年と言う以外ない彼を見て、琥珀と光流は目配せしあう。

「い、イケメンですね」
「そうだな。光流、ひょっとしてあれじゃない? ちょっと訊いてみよう」

 なんか二人でヒソヒソと話してるが、まあ聞こえてるぞ。
 一体何を訊く気なのかと思っていると、光流が土倉へと向き直り、真剣な顔で問いかけた。

「あの、お二人はお付き合いしてるんですか?」
「本当に何を訊いてるのこの子は!」

 うん? と疑問符を浮かべている土倉を尻目に、俺は光流と琥珀の頭を掴んだ。

「キミ達は、お兄ちゃんに何を期待してるのかな?」
「いえいえ、冗談じゃないっすか先輩」
「そうですよ。お兄様が道を踏み外していないか心配する妹心ですって」
「そんな心配はいりません」

 さて、気を取り直して自己紹介タイムの再開である。

「火神光流です。お兄様の従兄妹だったのですが、その昔、可愛すぎる私のことをお兄様が誘拐して、今ではこの家に軟禁されています」
「なあ光流ちゃん。キミの妹ジョーク、日々きつくなってない? 初対面の人にはハードルが高いぞ」
「あー、わかるわー。確かに妹ちゃん可愛いもんな。日向がシスコンになるのも納得だわ」

 土倉もあらゆる理不尽設定を軽々と受け入れないでくれ。

「次は私の番っすね。白金琥珀っていいます! 先輩の永遠のライバルっす!」
「おお、キミが話に聞く日向の幼馴染ちゃんね。よろしくう!」

 と、自己紹介が終わったところで光流が疑問を投げかける。

「土倉さんは今日は何の御用でしょうか?」
「んー、特にこれといった目的とか無いんだよね。日向と遊びたいだけだったし」
「じゃあ折角だからみんなでゲームでもするか」

 俺はそう提案する。

「おっ、いいっすね。何で勝負します先輩?」

 目を輝かせる琥珀。そして光流と土倉の顔を順に見渡しながら俺は告げる。

魔法人形マドールやろうぜ。四人対戦のバトルロイヤルモードだ」

 そして俺は土倉に視線を向け、親指で妹分二人を指し示す。

「こいつら、魔法人形マドール結構強いんだぜ」
「おおお、そりゃ楽しみだ」

 嬉しそうに笑いながら土倉もバッグからStandスタンドを取り出す。

「よーっし、今日こそ先輩の首を取るっすよ」
「土倉さん、お手柔らかにお願いします」

 光流と琥珀もやる気になり、準備を始める。
 そして暫くの間、俺達はゲームに興じるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼との最後の恋をします

まったり
青春
ずっと好きだった彼 でも彼は学校に来なくなりました。 先生から入院してるらしいからと言い、お見舞いをお願いされました。 病室に入るといつもの元気はなく外を眺めている彼がいました。 そして私は言われました。 「僕の最後の彼女になってください」

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

将来私を殺す旦那様は激重感情を隠しながら溺愛してくる

わゆ
恋愛
幼い頃からなんとなく未来を予知する能力を持っていたシルフレイヤ。 何故そんな能力が自分にあるのか解らないまま、年齢を重ねるうちに徐々に予知できなくなった。 そんなある日10歳の誕生日に自分に婚約者ができたと両親に知らされる。 相手は現皇帝の異母弟で帝国の【軍神】とも呼ばれる帝国の英雄だった。 その話を聞いたシルフレイヤは突然意識を失い、彼に首を斬られる夢を見た。 また未来を予知したの?このまま婚約したら夢のように殺されるの? ―――いいや違う!ここは本の中の世界だ!そして旦那様は悪役で、自分は悪妻だった!? 目が覚めたシルフレイヤは幼い頃読んだ本の中にそっくりだったことを思い出す。 本のシナリオ通りなら夢の通り私は旦那になるであろう人に殺される!どうにかして彼に嫌われないように、殺されないようにしないといけない! ところが彼はとても優しいどころか、これでもかと言うほど愛情を与えてくれる…? 彼に騙されているのだろうか。それとも何か思惑があるのだろうか…。 一線を引いていたシルフレイヤだったが、次第に彼女にも彼に対する感情が溢れていく。 ✿ 独占欲と執着心と若干のヤンデレを含んだ旦那様に愛でられながら、悲劇の結末にならないよう奮闘する物語り。 第一章のテンポはめちゃくちゃに悪いです。 なろう様にも投稿しております。 そちらは三話程度先にアップしております。

【完結】ポチャッ娘令嬢の恋愛事情

かのん
恋愛
 侯爵家令嬢のアマリー・レイスタンは舞踏会の隅っこで静かに婚約破棄をされた。  誰も見ていないし、誰も興味なさそうではあったが、アマリーはやはりショックで涙を流す。  これは、ポチャッ娘令嬢のアマリーが、ありのままの自分を愛してくれる人を見つけるまでの物語。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...