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第六章 布教に行きたい

#86 光流と琥珀のドキドキ野球拳2

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 しかし俺の抗議は聞き入れられず、琥珀はクククと邪悪に笑う。

「先輩はせいぜい航行商業を応援してください。これは野球拳でもあるので、負けたらもちろん脱いでもらうっす」

 えー、何よそれ。

「言っとくけど本来の野球拳には服を脱ぐルールなんてなくてね」
「航行がこのまま負けたら、先輩にはこの後とられたアウトの数分かずぶん脱いでもらうっす」

 俺の意見は無視され、ペナルティが言い渡される。
 えっと、つまり後攻の航行商業が裏の攻撃で点がとれずに負けたらスリーアウトで三枚脱ぐってことか。
 今の自分の服装を見る。三枚脱ぐということはシャツとズボンとパンツを脱いで、晴れて全裸決定である。

「で、お前が負けたらどうするんだ?」
「線香がこの後とられた点数分脱ぐってことでどうっすか? まあ私が先輩に負けることなんてあり得ないっすけどね」

 勝ち誇った顔でそう答える琥珀。
 今の彼女はTシャツにスカート姿、仮に二点とられて逆転負けしても下着くらいは残りそうだ。
 そこに光流が口を挟む。

「でも負けのペナルティが脱ぐだけですと、その後すぐに服を着て、はい終わりってなりません?」
「むっ、確かに光流の言う通りだな。じゃあこうしましょう。負けた方は脱いだ上でさらに罰ゲームを受けるっす」

 うわー、なんか厄介な追加ルールをつけてきたな。
 琥珀はテーブルの上にあったマジックを手に取ると邪悪な笑みをこちらに向ける。

「せーんぱい! 先輩が負けた時には全裸にひん剥かれた先輩の身体に落書きしてあげるっすね! 楽しみにしててください」

 可愛い子ぶった猫なで声で極悪非道な罰ゲームを提案する後輩。
 そこに光流が便乗してくる。

「面白そうですね。では私も参加させてください。線香の勝ちに賭けるので、お兄様が負けた時は全裸に首輪をつけてお家の中をお散歩してあげますね」

 ファッションアイテムらしき首輪を手に取り、お淑やかに微笑む光流。
 しかし言ってる内容はドS妹の本性が漏れだしていた。
 こいつら、どうしてこうもえげつない罰ゲームを思いつくんだ。

「お前らわかってんのか? 航行が勝った時はお前らがその罰ゲームをするんだぞ!」
「別に構わないっすよ。もうこの勝負はもらったも同然っすから」

 その言葉に釣られてテレビの画面を見る。
 試合は一点差を追う九回裏、航行商業の攻撃に移っていた。
 状況はツーアウト、ランナー無しの崖っぷちである。
 あっ、これは流石にヤバい。

「あっとひっとり! あっとひっとり! あと一人で先輩の身体の隅々まで落書きっすよ!」
「あと一人でお兄様を全裸に首輪つきでお散歩ですね。あっとひっとりー、です」

 俺を辱しめることを全力で楽しみにして線香を応援する妹と後輩。
 いかん。流石にこれは兄として、先輩のとしての尊厳に関わる。

「航行! 勝ってくれ、野球はツーアウトからだぞ!」
「無駄っすよ先輩。私達が負けることは絶対にありえないっす」
「そうですよお兄様、大人しくお散歩されてください」

 俺達が盛り上がっていると、テレビから実況の興奮した声が響いた。

『三振! 航行のラストバッター、三振に倒れました!』

「やったーっす!」
「やりましたね琥珀ちゃん」

 うおおおおおおおお!
 俺が絶望に内心呻いていると、テレビの中では意外な展開が起きていた。

『キャッチャー小林、ボールをこぼしている! 振り逃げだあああああ!』
「ええええええええ!」

 琥珀が驚愕の声を上げる。
 た、助かった。
 振り逃げのバッターは一塁に辿り着き、なんとか首の皮一枚繋がった。

『ああっといけません。ピッチャーの大林、先程の振り逃げで集中が切れたか。二者連続フォアボールでツーアウト満塁です!』

「ちょちょちょちょっと、マズイっすこれは」
「おち、おちつつつついてください琥珀ちゃん。私のミットを見て、いつも通りの球を投げ込めばきっと勝てます!」

 動揺してるのはわかるが、光流お前バッテリーに感情移入しすぎだろ。
 お前らが試合してるわけじゃないから。
 光流と琥珀は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「いいですか琥珀ちゃん、正義は必ず勝つんです」
「ちょっと待って光流ちゃん、ひょっとしてお兄ちゃんは悪役扱いなの?」

 俺がそう問うと、光流は非難するような眼差しでこちらを見つめ返す。

「当然です。お兄様はいたいけな妹に首輪をつけてお散歩したいとか考えている邪悪な存在なんですよ」
「それお前が言い出したヤツだから! 人のせいにするな!」

 そこに便乗して琥珀も口を挟む。

「可愛い幼馴染の体に落書きしたいとか、先輩最低っすね。ドン引きっす」
「これほど酷い責任転嫁は初めて見たわ。どんな人生歩んだらこんな汚い人間に育つんだお前ら」

 と、テレビから目を離した瞬間そちらから歓声が響いた。

『ホームラン! 逆転サヨナラ満塁ホームランで航行商業サヨナラ勝ち! 劇的な幕切れです!』

 お、おおおおおおお!
 よーっし、勝ったああああああ。
 何とか兄の尊厳と威厳は守られたのであった。
 その時。ソファに座っていた光流は後ろに立つ琥珀へと振り返り、ニッコリと微笑んで見せた。

「満塁ホームランで四失点ですね。つまり琥珀ちゃんは罰としてお洋服を四枚脱ぎ脱ぎしてください。シャツとスカートとパンツとブラの四枚で晴れてすっぽんぽんですね」

 楽しそうに吐き出す光流に対し、琥珀は目元を歪める。

「ひーかーるー、お前もだろ! お前も線香に賭けてたんだから、すっぽんぽんになるのはお前も同じだぞ」
「キャー」

 言葉とともに琥珀はソファへと飛び込み、光流の上に飛び乗る。
 そして二人でお互いに相手の服を脱がせようと取っ組み合いを始めた。

「おら脱げ! お前が先に脱ぐんだ!」
「言い出しっぺは琥珀ちゃんですよ。まずは琥珀ちゃんがお手本となる脱ぎっぷりを見せてください」
「ちょ、ちょっと二人とも、止めなさい!」

 琥珀が光流のスカートに手を突っ込みパンツを脱がせようとすると同時に光流も琥珀のシャツへと手を突っ込みブラらしきものを引きずり出す。
 その光景は非常に目のやり場に困る。
 その時、玄関からインターホンの音が響いた。
 同時に光流と琥珀の動きが固まる。

「ほら、お客さんが来たから。ちゃんと服を着てなさい」

 色々とナイスタイミングで助かった。
 俺は内心で来客に感謝しながら、玄関に向かうのだった。
 丁度約束の時間だ。客人の正体はモニターで確かめるまでもなく予想がついた。
 玄関の扉を開け、彼を出迎える。

「おっす。久しぶり、土倉つちくら

 そこに立っていたのは見知ったクラスメイトだった。
 短く切り揃えられた髪とガッシリとした肩幅。
 爽やかな好青年と言った風貌の彼が、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶を返す。

「元気がないぞ日向! そんな挨拶じゃ銀河の果てまで届かないぜ!」
「相変わらずうっぜえ。宇宙には空気がないんだから、どっちみち声は届かねえだろ」
「いいや、宇宙に空気はなくても魂はある。心のこもった挨拶は星々を越えて銀河系の全てに届く筈だ。俺はそう信じてる」
「おう、謎理論やめろ」
「俺は常に宇宙規模で物事を考えてる。ビッグな人間ってのはそういうものなのさ」

 暫くぶりに会った俺の級友、土倉つちくら銀河ぎんがはいつも通りの宇宙論を誇らしげに語るのであった。
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