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第六章 布教に行きたい

#84 コスモとクロリス2

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 話を戻そう。

「おっ、丁度クロリスも生放送始めたところらしい。覗いてみるか?」
「いいね。さんせーい」

 夜宵の同意を受け、俺はスマホからクロリスの配信へのリンクを押す。
 どうやら彼女も魔法人形マドールのネット対戦を始めたところらしい。
 金髪に黒いドレス姿のアバターがStandスタンドを操作し、シングルスのランキング戦をこなしていく。
 そこに視聴者からのコメントが投下されていった。

――わこつです。
――クロリスちゃんこんにちは。
――今日もクロリスちゃんの声が聞けて幸せ。

『はい、わこつありがとうございます。平日の昼間から私の配信を見るくらいしかやることのない暇人さん達こんにちはー』

 ゲームをプレイしながら毒のある言葉を返すVを見て、夜宵が驚く。

「えっ、いいの? こんなこと言って嫌われないの?」
「まあこれがこの子のキャラだからね」

 コメント欄を見ると、クロリスの台詞にも視聴者の反応は好意的だった。

――クロリスちゃんの毒舌キター!
――ありがとうございますありがとうございます。
――クロリスちゃんに罵られる為だけに生きてる。

 初見の夜宵は驚いたようだが、クロリスの配信はいつもこんな空気である。
 彼女の発言に不快感を覚えるような人はそもそも放送など見に来ない。視聴者厳選済みというわけだ。
 クロリスは可愛らしいソプラノ声でコメントに反応していく。

『あはは、私に罵られる為に生きてるんですかー? じゃあ死ぬまでに沢山貢いでくださいねー』

 その発言に対して、視聴者がコメントと同時に投げ銭機能を使ってきた。

――貢ぎます! いつも生き甲斐をありがとう!

『こんなに貰っちゃっていいんですか? このお金で彼女さんとデートでも行った方がいいんじゃないですか?』

――俺の彼女はクロリスちゃんだけだよ。

『ありがとうございます。普通に気持ち悪いです』

 にこやかな笑顔でいつも通りの毒舌を返すクロリス。

「お、おお、Vってこんなに儲かるんだね」

 Vの配信を殆ど見たことがなかったらしい夜宵が目を丸くする。

「まあ、貰った金額の何割かは動画サイト側の取り分だけどね」

 そんな風に視聴者と交流しながらクロリスは対戦もこなしてく。

「へー、上手いねこの子。お喋りしながら対戦にもちゃんと集中してる」
「だなー。うお、ここでトラップか。完全に敵の裏をかいてたな」
「しかも相手の足元を徹底的に狙ってるよ。敵のマドールは重量のあるオプションパーツを大量につけてるから、脚部を破壊するとパーツの重さに耐えられなくなって、一気に動きが鈍るんだよね」
「クロリスの狙いはそれか、遠距離攻撃を仕掛けてくる腕パーツに翻弄されながらも、相手の足狙いの作戦を一貫してるな」

 クロリスの戦いぶりを俺と夜宵は分析する。
 かなりの場数を踏んでいるであろう洗練された立ち回り。
 アバターの可愛さやトーク力だけで視聴者を得ているわけではない。魔法人形マドールに関しても卓越した腕を持っている実況者だと感じた。

「いいねこの子! 可愛いし、トークも面白いし、魔法人形マドールも上手い! チャンネル登録するよ」

 どうやら夜宵のお気に召したらしい。
 俺も紹介した甲斐があるというものだ。
 夜宵の目から見ても魔法人形マドールが上手いと言わせるのだから、クロリスの実力は本物だろう。
 コスモの配信を見てた時はここまでのテンション高くなかったし、男性Vと女性Vの格差ってこうして広がっていくんだな。
 可愛い女の子は男女問わず人気を集めるのだ。
 まあ今の時代、声を変える方法なんていくらでもある。
 女性アバターで女声を出していようが、中の人が本当に女とは限らないだろうけど。
 そんなことを考えると、再び俺のスマホに通知が来た。

「あっ、悪い」

 俺のスマホで配信を見ていたので、通知のせいで夜宵の視聴を妨げてしまった。

「あっ、いいよ続きは自分のスマホで見るから」
「ああ、サンキュ」

 夜宵がそう言ってくれたので、俺は遠慮なく自分の通知を確認する。
 友達からLINEメッセージが届いていた。
 差出人の名前は土倉つちくら

『やっほー、元気? 最近全然会えてないから久しぶりに日向と遊びたくなっちゃった。
 明日、日向の家行っていい?』 

 親しい友人からのメッセージを読み、俺の心も自然と弾む。
 そうだな、夏休みに入ってから夜宵以外のクラスメイトと殆ど会っていなかったし。
 明日は久しぶりにこいつと遊ぶか。
 そんな俺の思考をよそに、クロリスの配信を見ていた夜宵は楽しそうに呟いた。

「それにしても本当にクロリスちゃんは強いよね。魔法人形マドールの知識や判断力がズバ抜けてる。私もこの子と戦ってみたいなー」

 彼女の魔法人形マドールプレイヤーとして闘争本能から漏れ出た、何気ない一言。
 その呟きが意外な形で実現することになるとは、この時の俺は想像もしていなかった。
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