上 下
84 / 125
第六章 布教に行きたい

#84 コスモとクロリス2

しおりを挟む
 話を戻そう。

「おっ、丁度クロリスも生放送始めたところらしい。覗いてみるか?」
「いいね。さんせーい」

 夜宵の同意を受け、俺はスマホからクロリスの配信へのリンクを押す。
 どうやら彼女も魔法人形マドールのネット対戦を始めたところらしい。
 金髪に黒いドレス姿のアバターがStandスタンドを操作し、シングルスのランキング戦をこなしていく。
 そこに視聴者からのコメントが投下されていった。

――わこつです。
――クロリスちゃんこんにちは。
――今日もクロリスちゃんの声が聞けて幸せ。

『はい、わこつありがとうございます。平日の昼間から私の配信を見るくらいしかやることのない暇人さん達こんにちはー』

 ゲームをプレイしながら毒のある言葉を返すVを見て、夜宵が驚く。

「えっ、いいの? こんなこと言って嫌われないの?」
「まあこれがこの子のキャラだからね」

 コメント欄を見ると、クロリスの台詞にも視聴者の反応は好意的だった。

――クロリスちゃんの毒舌キター!
――ありがとうございますありがとうございます。
――クロリスちゃんに罵られる為だけに生きてる。

 初見の夜宵は驚いたようだが、クロリスの配信はいつもこんな空気である。
 彼女の発言に不快感を覚えるような人はそもそも放送など見に来ない。視聴者厳選済みというわけだ。
 クロリスは可愛らしいソプラノ声でコメントに反応していく。

『あはは、私に罵られる為に生きてるんですかー? じゃあ死ぬまでに沢山貢いでくださいねー』

 その発言に対して、視聴者がコメントと同時に投げ銭機能を使ってきた。

――貢ぎます! いつも生き甲斐をありがとう!

『こんなに貰っちゃっていいんですか? このお金で彼女さんとデートでも行った方がいいんじゃないですか?』

――俺の彼女はクロリスちゃんだけだよ。

『ありがとうございます。普通に気持ち悪いです』

 にこやかな笑顔でいつも通りの毒舌を返すクロリス。

「お、おお、Vってこんなに儲かるんだね」

 Vの配信を殆ど見たことがなかったらしい夜宵が目を丸くする。

「まあ、貰った金額の何割かは動画サイト側の取り分だけどね」

 そんな風に視聴者と交流しながらクロリスは対戦もこなしてく。

「へー、上手いねこの子。お喋りしながら対戦にもちゃんと集中してる」
「だなー。うお、ここでトラップか。完全に敵の裏をかいてたな」
「しかも相手の足元を徹底的に狙ってるよ。敵のマドールは重量のあるオプションパーツを大量につけてるから、脚部を破壊するとパーツの重さに耐えられなくなって、一気に動きが鈍るんだよね」
「クロリスの狙いはそれか、遠距離攻撃を仕掛けてくる腕パーツに翻弄されながらも、相手の足狙いの作戦を一貫してるな」

 クロリスの戦いぶりを俺と夜宵は分析する。
 かなりの場数を踏んでいるであろう洗練された立ち回り。
 アバターの可愛さやトーク力だけで視聴者を得ているわけではない。魔法人形マドールに関しても卓越した腕を持っている実況者だと感じた。

「いいねこの子! 可愛いし、トークも面白いし、魔法人形マドールも上手い! チャンネル登録するよ」

 どうやら夜宵のお気に召したらしい。
 俺も紹介した甲斐があるというものだ。
 夜宵の目から見ても魔法人形マドールが上手いと言わせるのだから、クロリスの実力は本物だろう。
 コスモの配信を見てた時はここまでのテンション高くなかったし、男性Vと女性Vの格差ってこうして広がっていくんだな。
 可愛い女の子は男女問わず人気を集めるのだ。
 まあ今の時代、声を変える方法なんていくらでもある。
 女性アバターで女声を出していようが、中の人が本当に女とは限らないだろうけど。
 そんなことを考えると、再び俺のスマホに通知が来た。

「あっ、悪い」

 俺のスマホで配信を見ていたので、通知のせいで夜宵の視聴を妨げてしまった。

「あっ、いいよ続きは自分のスマホで見るから」
「ああ、サンキュ」

 夜宵がそう言ってくれたので、俺は遠慮なく自分の通知を確認する。
 友達からLINEメッセージが届いていた。
 差出人の名前は土倉つちくら

『やっほー、元気? 最近全然会えてないから久しぶりに日向と遊びたくなっちゃった。
 明日、日向の家行っていい?』 

 親しい友人からのメッセージを読み、俺の心も自然と弾む。
 そうだな、夏休みに入ってから夜宵以外のクラスメイトと殆ど会っていなかったし。
 明日は久しぶりにこいつと遊ぶか。
 そんな俺の思考をよそに、クロリスの配信を見ていた夜宵は楽しそうに呟いた。

「それにしても本当にクロリスちゃんは強いよね。魔法人形マドールの知識や判断力がズバ抜けてる。私もこの子と戦ってみたいなー」

 彼女の魔法人形マドールプレイヤーとして闘争本能から漏れ出た、何気ない一言。
 その呟きが意外な形で実現することになるとは、この時の俺は想像もしていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...