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第五章 お泊りに行きたい

#80 うちの妹は甘えん坊で可愛い8

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「あわっ、あわー、お兄様が買ってきてくれた泡のおっふろー」

 楽しげな様子で自作の歌を口ずさむ光流。
 湯船の中では首から下は完全に泡に隠れて見えなくなる。
 その安心感もあってか、彼女は上機嫌だった。

「お気に召したようで良かったよ」
「はい、とても気に入りました。お兄様が私と一緒にお風呂に入る口実の為に買ってきてくれた入浴剤ですから」
「そのような意図は一切ありません、とお兄様は声明を出します」
「そんなの公式が勝手に言ってるだけですよ」

 どうやら公式と解釈違いを起こしてしまったようだ。

「お兄様と一緒にお風呂って今まで入ったことなかったですが、いざ入ってみるとなんというか照れますね。狭い湯船でくっつきあっちゃって」

 のぼせた様に顔を赤くして、彼女は照れ笑いを浮かべる。
 それはそうだろう。
 恥ずかしいのはわかりきってたろうに、何故こんなことをしたのか。

「やっぱり今日のお前はちょっと暴走気味だよな」
「お兄様が悪いんですよ」

 そう言って彼女は口を尖らせる。

「お兄様が夜宵さんと一緒にお風呂に入ったって聞いて、なんだかその、気になってしまって」

 その話題まだ引っ張られるのかー。

「えーっとね、俺と夜宵は清く正しいお友達同士なので、お前が心配するようなことはありませんよ」

 悲しいことにね。
 光流は不満そうに頬を膨らませながら言葉を吐き出す。

「夜宵さんと仲良くするのは構いません。けど、一番の仲良しは譲りたくないと言いますか」

 なるほど、やっぱり光流は寂しかったのかな。

「ところでお兄様、夜宵さんと一緒にお風呂に入って、背中を洗いあったりしましたか?」
「してないよ」

 髪は洗ったけど、まあ言わないでおこう。

「じゃあ、背中を洗った私の方がお兄様と仲良しですね」

 満足そうな顔で光流はそう吐き出す。
 変なところで夜宵に対抗意識燃やしてるのなこの子。
 と思っていたらすぐに問題発言が飛び込んできた。

「背中だけでなく、前も洗えれば完全勝利だったんですが」
「だからそれは駄目だって言ってるでしょ!」
「なんで駄目なんですかー」

 ぷくーっと彼女は頬を膨らませて不満を露わにする。
 なんでって、そんなことを説明しないといけないのか。
 ブラコンが行き過ぎて貞操観念が危うくなってる妹に、しっかりと現実を教える必要があるな。

「あのね、タオルの下は男の子の理性暴発スイッチなの! 下手に触ったら光流のこと襲っちゃうかもしれないんだよ!」
「えっ? えっ!」

 俺の言葉がよっぽど意外だったのか、光流は顔を真っ赤にして狼狽する。

「お、襲う? 私をですか? お兄様、その私達は兄妹であってですね」
「そもそも兄妹じゃないし、本当は従兄妹だろ。その気になれば結婚だってできるし――」

 慌てふためく光流に俺はその言葉を突き付ける。

「今この場で、光流を美味しく食べちゃうことだってできるんだから」

 う、うえええ! と光流は驚き、両手で自分の胸元をガードしながら問い返した。

「お兄様は、普段から私のこと、その、襲いたいとか考えてるんですか?」
「普段はともかく、こんな風に裸で一緒にお風呂入ったら、年頃の男の子の理性なんて簡単に吹き飛んじゃうの。わかった?」

 そう告げると、光流はいよいよ落ち着かない様子であたふたし始める。

「あ、あの、私、先に上がりますね。ちょっとだけ目を閉じていてください」
「お、おう」

 言われた通り瞼を落とす。
 光流が湯船から立ち上がり、浴槽の外に出た気配があった。
 しばらくして脱衣所の扉が開閉する音が響き、もういいですよーという声が聞こえてくる。
 そこでようやく俺は目を開くのだった。

「はーっ、まったくアイツは」

 滅茶苦茶ドキドキしたんだからな。お兄ちゃんだって男の子なのだ。決して安全なわけじゃない。それを少しはわかってくれ。
 しばらくして俺も風呂から上がる。
 そして服を着てリビングへ向かうと、光流と鉢合わせた。

「あっ、あの、お兄様」

 泡を食った様子で彼女は言葉に詰まる。
 顔が赤いのは単に風呂でのぼせたせい、というわけではないだろう。

「あの、私、もう寝ますね! 部屋にもちゃんと鍵をかけて寝ますから!」

 そう言い残して彼女は逃げるように去っていった。
 うん。まあ、なんというか。
 一歩大人になったってことかな。
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