上 下
76 / 125
第五章 お泊りに行きたい

#76 うちの妹は甘えん坊で可愛い4

しおりを挟む
 夏の日差しがアスファルトの地面に降り注ぐ。
 歩いているだけで汗が滲む熱気の中、俺は自宅である一軒家に辿り着いた。
 玄関の鍵を開け、中に足を踏み入れる。

「ただいまー、帰ったぞ光流」

 声を張り上げてみるも返事がない。
 両親は仕事に出ているだろうが、光流は家に居ると思っていたが。
 玄関の靴を見てみるも、光流は何種類かの靴を持っているので出かけているかどうかの判断はつかなかった。

「光流ー、いないのか?」

 家の奥へと呼びかけながら、荷物を置くために俺は自室を目指す。
 自分の部屋の前に立ち、そのまま扉を開ける。
 一歩室内に足を踏み入れると、気温が変わったのを肌で感じた。
 あれ? 冷房つけてるのか?
 不思議に思って室内を見渡すと、俺の視線はある一点に釘付けになった。

「な、なんだあれ?」

 自分がいつも寝ているベッド、その上にある掛布団がこんもりと膨らんでいた。
 まるで誰かが布団に潜り込んでるように。

「どちら様ですかー」

 その正体を確かめる為、若干ビビりながらも布団を捲り上げた。
 そしてその下から現れた人物を見て、俺の思考はフリーズする。
 緩くウェーブのかかった亜麻色のロングヘア―、その頭につけられた可愛らしいリボンカチューシャ。
 長年一緒に暮らしていた愛しい妹の寝顔がそこにあった。
 なんで光流が俺のベッドに? しかも彼女が着てるぶかぶかのワイシャツはひょっとしなくても俺のものでは?
 えっ、どういう状況?
 俺が混乱していると、うーん、と光流が顔をしかめゆっくりを瞼を開く。

「あれ、お兄様?」
「お、おう、お兄ちゃんだぞ」

 彼女の寝ぼけ眼が俺を捉えたと思うと、すぐにその瞼は再度閉じられる。

「夜宵さんの家にお泊りしてニャンニャンしてる筈のお兄様がウチに居るなんて、これは夢ですねえ」

 ふにゃふにゃっとした感じで一人呟き、彼女は再び眠りに落ちようとする。

「夢じゃないよ。光流に会いたくてお兄ちゃん帰ってきたのよ」

 ぺしぺしと彼女の柔らかいほっぺを軽く叩いて起こそうとする。
 むにゃむにゃと眠そうにしていた彼女だったが、かっと目を見開き、すぐさま飛び起きた。

「お、お兄様! 本物ですか!? 私の心が生み出した幻覚ではなく?」
「本物のお兄ちゃんですよ。今日帰るってLINEしたでしょ」
「け、携帯、今日は見てませんでした」
「どうりで既読つかないと思った」

 光流は狼狽しながらも、なんとか平静を装いベッドから飛び降りる。

「では、私はこれで失礼します。お兄様はお疲れでしょうからごゆっくり休んでください」
「待ちなさい」

 出口へ向かおうとする彼女の背中に俺は声をかける。

「キミが着ているそれはひょっとして俺のワイシャツじゃないかね?」

 俺のベッドで寝てたことも気になるが、まずはシャツの一件から問いただすことにする。
 光流はこちらに振り向くと狼狽えながら弁明した。

「こ、これは違います! 誤解しないでください。お兄様の大きなシャツを着ると彼シャツみたいだなーとか思ってないですから!
 このシャツを着て、お兄様の匂いが残ったベッドに飛び込めばなんだか事後みたいな雰囲気で、エッチな気分になるなー、なんてこれっぽっちも考えてませんから」

 顔を真っ赤にしながら必死に言い繕う光流。めっちゃ早口だ。
 だがその台詞は自爆にしか聞こえない。

「そうか、うんわかった。光流もお年頃だもんな、詮索しちゃいけないことの一つや二つあるもんな」
「ですから、誤解しないでください」

 ひとまずこの件については、これ以上突っ込まないことにしよう。うん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん
青春
都内の大学に進学し、春から一人暮らしを始める北の大地からやってきた南大地(みなみだいち)は、上京後、幼馴染・隣人・大学の先輩など様々な人に出会う。 そして、気が付けば毎日自分の家に美少女が毎日泊まりに来るようになっていた!? ※この作品は、カクヨムで『日替わり寝泊りフレンド』として投稿しているものの改変版ですが、内容は途中から大きく異なります。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...