上 下
44 / 125
第四章 学校に行きたい

#44 世界一位への挑戦

しおりを挟む
 猫ルンバの使用機体は迷彩服に身を包んだ二足歩行の猫型マドールだ。その名をアーミーミーミーという。
 右手に持ったナイフで近接攻撃を、左手のライフル銃で遠隔攻撃を可能とするテクニカルな機体だ。
 夜宵の操るジャック・ザ・ヴァンパイアは早々に相手の懐に入り込み、接近戦に持ち込んだ。

 両者の実力は拮抗していた。
 夜宵が相手の左腕レフトパーツを破壊すれば、すぐさまこちらの左腕レフトパーツも壊され、次にジャックの脚部レッグパーツが破壊されれば、お返しとばかりに相手の脚部レッグパーツを壊して食らいついた。
 そして勝負は最終局面を迎える。
 脚部レッグパーツが壊れたことで相手の防御・回避性能は半減している。今なら頭部ヘッドパーツへの攻撃が通る可能性は高い。
 アーミーミーミーとジャックが睨み合う。
 猫型マドールはふらつきながらも一歩足を踏み出す。そこで地面の窪みに足をとられ体のバランスを崩した。
 アーミーミーミーの左半身が揺らぎ、倒れそうになる。

 チャンスだ! と夜宵は瞬時に判断した。
 ジャックは敵に接近し、右手の魔剣を猫の頭部を狙って突き出す。
 コンマ数秒先の未来に魔剣がアーミーミーミーの頭部ヘッドパーツを貫く光景が夜宵の目には見えた。
 その時、彼女は勝利を確信した。

 しかし次の瞬間、敵マドールは上半身をひねり器用に魔剣を躱す。
 剣は勢いそのままに猫の顔の横を通過、それを持つジャックが近づいたタイミングで敵は右手を伸ばし、その手に持ったナイフでジャック・ザ・ヴァンパイアの喉元を切り裂いた。
 ジャックの頭部装甲ゲージがゼロを示し破壊、そして機能停止ダウンが決定した。
 まさか、体勢を崩したように見えたのはわざと?
 こちらの攻撃を誘われていた?
 攻勢に出たジャックにカウンターを仕掛け、防御の隙を与えず倒す算段だったのか。
 自分は勝ちを焦って罠にかかったのか?
 様々な考えが頭の中を巡る。
 夜宵は呆然とテレビ画面を見つめた。
 YOU LOSEの文字が表示された後、画面が切り替わり、今の敗戦が成績に反映される。
 夜宵の順位が五位まで下がった。
 時刻は朝九時過ぎ、これで六月シーズンは終わったのだ。
 勝てなかった。
 一位まであとちょっと、あと一勝だったのに。
 拳をソファに打ち付ける。
 気付けば瞳から熱いものが溢れ出していた。
 喪失感が胸に広がる。
 何が悪かった? どこが敗因だった? あの場面か? いやあそこで判断を誤らなければ。
 だがいくら試合を振り返っても結果は変わらない。
 夜宵はテーブルのスマホを拾い、ツイッターを見る。

『対戦ありがとうございました』

 猫ルンバがそう呟いていた。
 すぐにそれにリプライを送る。

『ありがとうございました。最後の場面、わざと隙を作って、こちらの攻撃を誘ったんですか?』
『そうだよ。とは言ってもヴァンピィくんは勘がいいから罠にかかってくれるかは賭けだった。正直ギリギリの戦いだったよ』

 ギリギリ、か。
 世界ランキング一位にギリギリの戦いと言わしめたのだ。
 夜宵は思う。
 恐らく実力の差は殆どなかった。十回戦えば五分五分くらいには持ち込めただろう。
 だが現実は一発勝負で、自分は負けた。それが厳然たる結果だ。
 テレビを消し、Aコンをゲーム機に付け直す。
 しかしStandスタンドを片付ける気力もなく、夜宵はスマホを片手にフラフラと自室へと向かった。

 部屋に入り、ベッドに横たわる。
 あとちょっとだった。なにかの行動が一つ変わるだけで勝敗は逆転していたかもしれない。
 いくら後悔してもしたりない。
 この気持ちをどう処理すればいいのかわからず、夜宵はもう一度スマホを見た。
 ツイッターのタイムラインに表示されている猫ルンバのアカウント。

『最終一位をとったぞ』

 そのツイートに多くのいいねとリプライがついている。
 それを見るだけで悔しくて、夜宵は気持ちを吐き出す先を決めた。
 自分も猫ルンバにリプライを送る。

『一位おめでとうございます。少しDMでお話ししても大丈夫ですか?』
『うん。これから会社に行かなきゃいけないから、移動中で良ければ』

 何の用件かも告げてないのに早々はやばやと承諾してくれた。
 夜宵は折角なのでその優しさに甘えることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました

星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位! 高校2年生の太郎の青春が、突然加速する! 片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。 3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される! 「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、 ドキドキの学園生活。 果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか? 笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!

処理中です...