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第四章 学校に行きたい
#43 六月三十日2
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夜宵はゲームを操作し、ランキング戦に進む。
夕食前にやった時は五十位くらいで中断したが、今はどうなってるか。
現在の順位を確認する。七十五位だった。
やはり追い抜かれている。
最終日の順位変動は目まぐるしいのだ。
そこから夜宵はオン対戦を開始する。
開幕二連勝で調子よく順位を上げたものの、次の試合はジャック・ザ・ヴァンパイアが不利をとる天使タイプの相手とマッチングして敗北を喫した。
どうも今日は天使タイプのマドールが多い。
夜宵の実力なら並大抵の相手なら相性不利を地力の高さで覆すことが可能だ。
とは言え、マッチングする相手も二桁順位の猛者が多く、簡単に連勝はさせてくれない。
時折来る相性不利なマドールとのマッチングに苦戦しながらも試合数をこなしていく。
深夜三時まで対戦を続けたところで夜宵は一息ついた。
三十戦やって二十勝十敗。二歩進んで一歩下がるペースだ。
時間はかかるが、対戦数を稼げばやはり順位は上がっていく。
手応えはある。今夜は一位を狙える、と。
エナジードリンクを飲みながら、夜宵は気合を入れ直す。
眠気はない。昼夜逆転生活に慣れた自分の体はこういう戦いには強い。
それに半日くらいぶっ通しで対戦を続けることにも慣れている。
二十位以内に入ってからはさらに厳しい戦いが続いた。
一勝一敗ペースが続き、順位が伸び悩む。
それでも下に転落しないだけマシだ。まだ戦える。
そしてギリギリの戦いを制し、なんとか九位に浮上した!
『一桁順位来た!』
九位と表示された画面のスクリーンショットを撮り、ツイッターにアップする。
瞬く間にフォロワー達のいいねがついた。
だが瞬間九位なら以前も獲ったことがある。ここから上にこそ自分の目指す頂上はあるのだ。
既に窓の外は明るい。
朝六時だった。
そこからは興奮状態だった。
順位が一つ上がるごとに、夜宵自身の自己最高順位更新となる。
そして朝八時にはついに。
『二位!』
瞬間二位、目標としていた一位まであと一息。
記念にその画面もスクショし、ツイッターに上げた。
しかし六月シーズンはあと一時間で終わる。
早く次の対戦をこなし、順位を上げなければ。
同時にこれ以降一敗でもしたら、もう取り戻す時間はないだろうとも感じていた。
ランキング戦を続行し、次の対戦相手を探す。
しかしこの時間に潜っている人はもはや少ないのだろう。
多くのプレイヤーは自分の適性な順位で保存するか、諦めて撤退している。
マッチングまで時間がかかった末、対戦相手が表示された。
相手の順位は五十位!
バトルが開始され、相手のマドールを確認する。
これは――カモだ。瞬時に夜宵はそう判断した。
現在のシングルス環境でかなり流行っている騎士タイプのマドールだが、流行っているが故に対処手段は確立していた。
イージーウィンできる相手だ。
万に一つの負け筋も無いよう慎重に立ち回り、二十分の戦闘の末、夜宵は勝利した。
順位を更新し、確認する。
夜宵の順位は、二位のままだった。
まだ一位には届かないのか。
内部の持ち点で順位を決めているのだろうが、ゲーム画面には順位しか表示されない。
一体持ち点的には一位とどれほど離れているのだろう?
この時間だと既に現在の一位は、ここで保存すれば最終一位を獲れるかも、と考え始めてるかもしれない。
夜宵はリビングの時計を見る。
八時四十五分。もう時間がない、戦わなくては。
ランキング戦を続行、次の対戦相手を探す。
マッチング画面で長い時間待たされた。
もう潜ってる人は殆どいないのかもしれない。
お願い、マッチングして。
夜宵がそう願った瞬間、対戦相手が見つかった。
相手は、プレイヤーネーム『ねこるんば!』。順位、一位。
それは見覚えのあるプレイヤーネームだった。
ねこるんば! ツイッターのアカウント名は猫ルンバ。
自分の相互フォローであり、社会人でありながら高順位を維持する怪物プレイヤーである。
夜宵はツイッターのタイムラインを更新する。
丁度、ロボット掃除機に乗った猫のアイコンの人物が呟きを発していた。
『対戦よろしくお願いします』
それは特に宛先を指定したものではない空リプだったが、現在の対戦相手である自分に向けたものだとわかった。
夜宵はその呟きにリプライを送る。
『よろしくお願いします。なんでこの時間で保存してないんですか?』
『ヴァンピィくんが追い上げてきてるみたいだから安全圏まで差をつけておきたくてね。まさか直接対決になるとは思ってなかったけど』
ということはやはり、一位と二位の持ち点はそれほど差があるわけではなさそうだ。
この試合で自分が勝てば二位のヴァンピィには加点、一位の猫ルンバは減点となり順位の逆転は十分あり得る。
正真正銘、このシーズンの最終一位を決める戦い。
夜宵は神経を研ぎ澄まし、運命の一戦に臨む。
彼女は自分の集中力を引き出す為の言葉を口にした。
「コロス」
対戦ゲームとは、常にたった一人の勝者を決める為に行う。
本当に負けられない試合において必要なのは、相手の夢を打ち砕き、それを踏み台にして、自分が上に行くという強い気持ち。
相手の血液を根こそぎ吸い尽くす吸血鬼の様に。
勝利への貪欲さこそが夜宵の武器だった。
一位を獲る。そうしたらツイッターのみんなも祝福してくれる。
師匠のヒナにも恩を返すことができる。
何より自分はこのゲームで最高の結果を出したことで満足できる。
そうしたら魔法人形をやめられる。
そして明日から学校に行こう。
夜宵の気力は漲っていた。
すでに十時間近く対戦を続けているが、極限の集中と高揚が勝り、体の疲れなど微塵も感じなかった。
勝ちたい理由は山ほどある。
自分は、この試合勝つんだ。
夕食前にやった時は五十位くらいで中断したが、今はどうなってるか。
現在の順位を確認する。七十五位だった。
やはり追い抜かれている。
最終日の順位変動は目まぐるしいのだ。
そこから夜宵はオン対戦を開始する。
開幕二連勝で調子よく順位を上げたものの、次の試合はジャック・ザ・ヴァンパイアが不利をとる天使タイプの相手とマッチングして敗北を喫した。
どうも今日は天使タイプのマドールが多い。
夜宵の実力なら並大抵の相手なら相性不利を地力の高さで覆すことが可能だ。
とは言え、マッチングする相手も二桁順位の猛者が多く、簡単に連勝はさせてくれない。
時折来る相性不利なマドールとのマッチングに苦戦しながらも試合数をこなしていく。
深夜三時まで対戦を続けたところで夜宵は一息ついた。
三十戦やって二十勝十敗。二歩進んで一歩下がるペースだ。
時間はかかるが、対戦数を稼げばやはり順位は上がっていく。
手応えはある。今夜は一位を狙える、と。
エナジードリンクを飲みながら、夜宵は気合を入れ直す。
眠気はない。昼夜逆転生活に慣れた自分の体はこういう戦いには強い。
それに半日くらいぶっ通しで対戦を続けることにも慣れている。
二十位以内に入ってからはさらに厳しい戦いが続いた。
一勝一敗ペースが続き、順位が伸び悩む。
それでも下に転落しないだけマシだ。まだ戦える。
そしてギリギリの戦いを制し、なんとか九位に浮上した!
『一桁順位来た!』
九位と表示された画面のスクリーンショットを撮り、ツイッターにアップする。
瞬く間にフォロワー達のいいねがついた。
だが瞬間九位なら以前も獲ったことがある。ここから上にこそ自分の目指す頂上はあるのだ。
既に窓の外は明るい。
朝六時だった。
そこからは興奮状態だった。
順位が一つ上がるごとに、夜宵自身の自己最高順位更新となる。
そして朝八時にはついに。
『二位!』
瞬間二位、目標としていた一位まであと一息。
記念にその画面もスクショし、ツイッターに上げた。
しかし六月シーズンはあと一時間で終わる。
早く次の対戦をこなし、順位を上げなければ。
同時にこれ以降一敗でもしたら、もう取り戻す時間はないだろうとも感じていた。
ランキング戦を続行し、次の対戦相手を探す。
しかしこの時間に潜っている人はもはや少ないのだろう。
多くのプレイヤーは自分の適性な順位で保存するか、諦めて撤退している。
マッチングまで時間がかかった末、対戦相手が表示された。
相手の順位は五十位!
バトルが開始され、相手のマドールを確認する。
これは――カモだ。瞬時に夜宵はそう判断した。
現在のシングルス環境でかなり流行っている騎士タイプのマドールだが、流行っているが故に対処手段は確立していた。
イージーウィンできる相手だ。
万に一つの負け筋も無いよう慎重に立ち回り、二十分の戦闘の末、夜宵は勝利した。
順位を更新し、確認する。
夜宵の順位は、二位のままだった。
まだ一位には届かないのか。
内部の持ち点で順位を決めているのだろうが、ゲーム画面には順位しか表示されない。
一体持ち点的には一位とどれほど離れているのだろう?
この時間だと既に現在の一位は、ここで保存すれば最終一位を獲れるかも、と考え始めてるかもしれない。
夜宵はリビングの時計を見る。
八時四十五分。もう時間がない、戦わなくては。
ランキング戦を続行、次の対戦相手を探す。
マッチング画面で長い時間待たされた。
もう潜ってる人は殆どいないのかもしれない。
お願い、マッチングして。
夜宵がそう願った瞬間、対戦相手が見つかった。
相手は、プレイヤーネーム『ねこるんば!』。順位、一位。
それは見覚えのあるプレイヤーネームだった。
ねこるんば! ツイッターのアカウント名は猫ルンバ。
自分の相互フォローであり、社会人でありながら高順位を維持する怪物プレイヤーである。
夜宵はツイッターのタイムラインを更新する。
丁度、ロボット掃除機に乗った猫のアイコンの人物が呟きを発していた。
『対戦よろしくお願いします』
それは特に宛先を指定したものではない空リプだったが、現在の対戦相手である自分に向けたものだとわかった。
夜宵はその呟きにリプライを送る。
『よろしくお願いします。なんでこの時間で保存してないんですか?』
『ヴァンピィくんが追い上げてきてるみたいだから安全圏まで差をつけておきたくてね。まさか直接対決になるとは思ってなかったけど』
ということはやはり、一位と二位の持ち点はそれほど差があるわけではなさそうだ。
この試合で自分が勝てば二位のヴァンピィには加点、一位の猫ルンバは減点となり順位の逆転は十分あり得る。
正真正銘、このシーズンの最終一位を決める戦い。
夜宵は神経を研ぎ澄まし、運命の一戦に臨む。
彼女は自分の集中力を引き出す為の言葉を口にした。
「コロス」
対戦ゲームとは、常にたった一人の勝者を決める為に行う。
本当に負けられない試合において必要なのは、相手の夢を打ち砕き、それを踏み台にして、自分が上に行くという強い気持ち。
相手の血液を根こそぎ吸い尽くす吸血鬼の様に。
勝利への貪欲さこそが夜宵の武器だった。
一位を獲る。そうしたらツイッターのみんなも祝福してくれる。
師匠のヒナにも恩を返すことができる。
何より自分はこのゲームで最高の結果を出したことで満足できる。
そうしたら魔法人形をやめられる。
そして明日から学校に行こう。
夜宵の気力は漲っていた。
すでに十時間近く対戦を続けているが、極限の集中と高揚が勝り、体の疲れなど微塵も感じなかった。
勝ちたい理由は山ほどある。
自分は、この試合勝つんだ。
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