42 / 125
第四章 学校に行きたい
#42 六月三十日1
しおりを挟む
六月三十日、二十三時。
月詠夜宵はパジャマ姿でリビングのテレビにゲーム機を繋いでいた。
この前のオフ会の優勝賞品として貰った魔法人形モデルStand。
彼女の宝物であるそれは、以前使っていたStandからセーブデータの引っ越しを行い、現在はメインで使うゲーム機となっていた。
そしてあの日、ヒナから交換してもらった彼のAコンをStand本体から取り外す。
二つあるそれをグリップ付きの付属パーツと合体させ、一つにまとめることで操作性が向上する。
それと同時にこのAコンを使ってる間は、ヒナに守られているような気持ちになれるのだ。
コントローラーを片手にソファに座り、テレビに向き合う。
これで準備は整った。
今夜は六月シーズンの最終日。朝まで戦い抜く覚悟はできている。
母は夜勤に出ている為、家には自分一人だ。
スマホをテーブルに置いて、何気なくツイッターを開く。
彼女のアカウントは魔法人形を通して繋がった魔法人形プレイヤー達がフォロー・フォロワーの大半を占める。
最終日の夜のタイムラインは、ランキング戦に挑む魔法人形プレイヤー達のツイートで賑やかになるのだ。
『今から潜るぞー』『現在三千位くらい、朝までに三桁順位目指す!』『うおおお! 二桁が見えてきたー!』『残業で終電無くなっちまった。ネカフェから最終日参戦します!』
千位以内とか百位以内、あるいは十位以内。人それぞれで目標順位は違うだろうが、魔法人形プレイヤー達の活気に満ちた最終日のタイムラインが夜宵は好きだった。
明日も平日なのに彼らは徹夜でゲームをして大丈夫なのだろうか?
大学生なら午前の講義が無いから大丈夫とか、社会人なら有休をとったりとか、あるいは自営業なので好きなタイミングで休める。そういった具合に人それぞれスケジュールを管理しているようだった。
中には魔法人形のプレイ動画を動画サイトにアップし、その広告収入で生計を立てているゲーム実況者もいる。
そういうタイプの人間は強い。引きこもりの自分同様、全ての時間をゲームにつぎ込めるのだ。
流石に自分のように完全な不登校は少数派だろうな、という自覚はある。
そんなタイムラインの中で毛色の違うツイートを見つけた。
『ジャックのアナログ絵完成。剣を描くのは難しいね』
それはたまごやきだった。
言葉通り、シャーペンで描いたと思しきジャック・ザ・ヴァンパイアのアナログ絵がアップされていた。
即座に夜宵はそれにいいねとリプライを送る。
『カッコいいです。たまごやきさんは女の子ばかり描いてるのを見てきましたが、男性キャラもカッコいいですね』
『ありがとう、ヴァンピィさん。この前のオフの影響もあって今後は魔法人形キャラも描いていきたいなーって思ったんだよ。喜んでもらえたなら幸いだ』
ツイッター上では年上のお兄さんっぽいキャラを演じる光流。
しかしその正体が年下の女の子であることを夜宵は知っている。
ちなみにヴァンピィはヒナ以外には年上・年下問わず大体敬語である。
『本当にこれ素晴らしいですよ。八重歯とか鎖骨とか萌えポイント高いですし!』
そこまでメッセージを送ったところで、ふと気付いた。
最終日なのに光流はさっきまでお絵かきしていたのか。ランキング戦はしないのだろうか?
『ところでたまごやきさんは、最終日これから潜るんですか?』
夜宵はその疑問をリプライで訊いてみる。
光流と琥珀のタッグはダブルスランキングで高順位に位置していた筈だ。
だがこのゲームは最終日に潜らなければ、どんどん順位を追い抜かれていく。
潜らないのは勿体ないと思っていた。
『明日は学校だしね。私も虎ちゃんもそろそろ寝るよ。ヴァンピィさんはトップ目指して頑張ってくれ』
そんなまともな回答を見て、夜宵は急速に現実に引き戻されたような気がした。
「学校か」
そうだ。普通の学生は明日も学校があるのだ。
自分が普通じゃない側の人間なのはわかっていた。
「夜の世界に生きるヴァンパイアは、昼の住人と同じ生活はできないから」
そんな厨二っぽいことを呟いてみるも、冷静に考えれば自分はヴァンパイアではなく人間だ。
ゲームをやる為に学校をサボり、昼夜逆転生活しているだけのダメ人間だ。
「私も、学校に行けるかなあ」
自分に問う。
一年の頃はクラスに友達なんていなかった。学校に何の楽しさも感じられなかった。
でも今はヒナも水零もいる。
今なら行けるかもしれない。自分にも普通の学校生活が送れる気がする。
だが魔法人形で世界一を獲るという夢も捨てる気はない。
六月シーズン最終日の今日、一位を獲る。
そしてその目標が達成出来たら、魔法人形に一区切りつけよう。
ゲームを封印し、遅れていた勉強を再開し、そして普通に学校に通う。
ヒナや水零と一緒に過ごせる学校生活。
他の子達とうまく付き合っていけるかは不安だが、今度は前向きに友達を作ろうと思う。
その為に今夜の戦いを勝ち抜く!
月詠夜宵はパジャマ姿でリビングのテレビにゲーム機を繋いでいた。
この前のオフ会の優勝賞品として貰った魔法人形モデルStand。
彼女の宝物であるそれは、以前使っていたStandからセーブデータの引っ越しを行い、現在はメインで使うゲーム機となっていた。
そしてあの日、ヒナから交換してもらった彼のAコンをStand本体から取り外す。
二つあるそれをグリップ付きの付属パーツと合体させ、一つにまとめることで操作性が向上する。
それと同時にこのAコンを使ってる間は、ヒナに守られているような気持ちになれるのだ。
コントローラーを片手にソファに座り、テレビに向き合う。
これで準備は整った。
今夜は六月シーズンの最終日。朝まで戦い抜く覚悟はできている。
母は夜勤に出ている為、家には自分一人だ。
スマホをテーブルに置いて、何気なくツイッターを開く。
彼女のアカウントは魔法人形を通して繋がった魔法人形プレイヤー達がフォロー・フォロワーの大半を占める。
最終日の夜のタイムラインは、ランキング戦に挑む魔法人形プレイヤー達のツイートで賑やかになるのだ。
『今から潜るぞー』『現在三千位くらい、朝までに三桁順位目指す!』『うおおお! 二桁が見えてきたー!』『残業で終電無くなっちまった。ネカフェから最終日参戦します!』
千位以内とか百位以内、あるいは十位以内。人それぞれで目標順位は違うだろうが、魔法人形プレイヤー達の活気に満ちた最終日のタイムラインが夜宵は好きだった。
明日も平日なのに彼らは徹夜でゲームをして大丈夫なのだろうか?
大学生なら午前の講義が無いから大丈夫とか、社会人なら有休をとったりとか、あるいは自営業なので好きなタイミングで休める。そういった具合に人それぞれスケジュールを管理しているようだった。
中には魔法人形のプレイ動画を動画サイトにアップし、その広告収入で生計を立てているゲーム実況者もいる。
そういうタイプの人間は強い。引きこもりの自分同様、全ての時間をゲームにつぎ込めるのだ。
流石に自分のように完全な不登校は少数派だろうな、という自覚はある。
そんなタイムラインの中で毛色の違うツイートを見つけた。
『ジャックのアナログ絵完成。剣を描くのは難しいね』
それはたまごやきだった。
言葉通り、シャーペンで描いたと思しきジャック・ザ・ヴァンパイアのアナログ絵がアップされていた。
即座に夜宵はそれにいいねとリプライを送る。
『カッコいいです。たまごやきさんは女の子ばかり描いてるのを見てきましたが、男性キャラもカッコいいですね』
『ありがとう、ヴァンピィさん。この前のオフの影響もあって今後は魔法人形キャラも描いていきたいなーって思ったんだよ。喜んでもらえたなら幸いだ』
ツイッター上では年上のお兄さんっぽいキャラを演じる光流。
しかしその正体が年下の女の子であることを夜宵は知っている。
ちなみにヴァンピィはヒナ以外には年上・年下問わず大体敬語である。
『本当にこれ素晴らしいですよ。八重歯とか鎖骨とか萌えポイント高いですし!』
そこまでメッセージを送ったところで、ふと気付いた。
最終日なのに光流はさっきまでお絵かきしていたのか。ランキング戦はしないのだろうか?
『ところでたまごやきさんは、最終日これから潜るんですか?』
夜宵はその疑問をリプライで訊いてみる。
光流と琥珀のタッグはダブルスランキングで高順位に位置していた筈だ。
だがこのゲームは最終日に潜らなければ、どんどん順位を追い抜かれていく。
潜らないのは勿体ないと思っていた。
『明日は学校だしね。私も虎ちゃんもそろそろ寝るよ。ヴァンピィさんはトップ目指して頑張ってくれ』
そんなまともな回答を見て、夜宵は急速に現実に引き戻されたような気がした。
「学校か」
そうだ。普通の学生は明日も学校があるのだ。
自分が普通じゃない側の人間なのはわかっていた。
「夜の世界に生きるヴァンパイアは、昼の住人と同じ生活はできないから」
そんな厨二っぽいことを呟いてみるも、冷静に考えれば自分はヴァンパイアではなく人間だ。
ゲームをやる為に学校をサボり、昼夜逆転生活しているだけのダメ人間だ。
「私も、学校に行けるかなあ」
自分に問う。
一年の頃はクラスに友達なんていなかった。学校に何の楽しさも感じられなかった。
でも今はヒナも水零もいる。
今なら行けるかもしれない。自分にも普通の学校生活が送れる気がする。
だが魔法人形で世界一を獲るという夢も捨てる気はない。
六月シーズン最終日の今日、一位を獲る。
そしてその目標が達成出来たら、魔法人形に一区切りつけよう。
ゲームを封印し、遅れていた勉強を再開し、そして普通に学校に通う。
ヒナや水零と一緒に過ごせる学校生活。
他の子達とうまく付き合っていけるかは不安だが、今度は前向きに友達を作ろうと思う。
その為に今夜の戦いを勝ち抜く!
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる