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第四章 学校に行きたい

#38 友達になりたい2

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「あの、その、さ。遊びに行くとか、ってさ、何の意味があるの?」

 ところどころでつっかえながらも夜宵は自分の正直な気持ちを吐露していく。
 夜宵からしたら友達とウィンドウショッピングしたり買い食いしたり、そうやってブラブラと遊ぶ時間には何の価値も見いだせなかった。
 それを続けたとこで、何か積み重なるものはあるのだろうか?
 そんなものは時間の無駄だ。
 それなら自分はその時間を魔法人形マドールのネット対戦に使ったほうが有意義だと思っていた。
 魔法人形マドールは対戦を重ねれば重ねるほど、色んな経験が得られる。
 立ち回りの改善点、相手との駆け引き、勝負勘、相手の使う機体それぞれへの知識や対処法など。
 そういったものを得る度に夜宵は自分の上達を実感できる。ランキングでもっと上を目指せると強く感じるのだった。
 中学時代、魔法人形マドールを始めてすぐの頃、夜宵はインターネットを通じて尊敬するプレイヤーと知り合い、彼に魔法人形マドールの手解きを受けた。
 彼の成しえなかった世界ランキング一位の夢を果たしたい。
 自分の成長を結果で示し、師匠に恩返ししたい。
 だから友達と遊ぶことよりも何よりも、自分にとっては家で魔法人形マドールをすることの方が大事なのだ。
 そんなに魔法人形マドールが楽しいの? とたまに訊かれる。
 他人と腕を競いながら上を目指すというのは単純に楽しいことばかりではない。
 思い通りにいかない試合だって多いし、敗北感や劣等感に悩み苦しみ、辛い思いをすることだって沢山ある。
 だからこそ夜宵は一時の享楽の為だけに魔法人形マドールをやってるわけではない。
 辛く苦しい山道を登り切った先にある頂上の景色、それを目指して日々努力を重ねているのだ。
 口下手で何度も言い淀み、言葉に詰まりながらも、夜宵はそんな自分の想いを水零へ伝えた。
 水零はそれを時折相槌を打ちながらも真摯に聞き続けた。

「そっか、そっかあ。私も魔法人形マドールはちょっと遊んだことがあったけど、ガチ勢の世界がそんなだってのは初めて知ったよ。夜宵ちゃんが頑張ってるんだなー、ってのがよくわかった」

 そんな水零の態度を見て夜宵も感じ取った。
 本当に彼女の言葉には何の裏表もないのだと。
 水零は友達のいない夜宵を見下してなんかいない。学校に来ない夜宵を否定したりしない。夜宵自身が学校や友達より大事にしているものを知りたい。
 夜宵の価値観を理解しようと、夜宵に寄り添ってくれる。
 そんな水零の誠実な態度を見て、夜宵は心を開きかけていた。
 そこで水零は部屋に備え付けられた時計を見て声を上げる。

「もうこんな時間か。今日は遅いからそろそろお暇するね。あっ、次に遊びに来るときは私も魔法人形マドール持ってくるから対戦しましょ」
「ボコボコにしてもいいなら」
「えー、ちょっとは手加減してもいいでしょー」

 そんな風に笑いながら、水零は帰っていった。
 残された夜宵は考える。一体彼女は何をしに来たのだろう?
 最初は学校に来るように説得されるのかと身構えたが、そんなことはなかった。
 説得も説教も一切されなかった。
 学校では彼女から遊ぼうと何度も誘われ、それを断り続けて。
 そして今度は家に押しかけ、夜宵の好きな物を訊いてきた。
 自分の提案した遊びは断られたから、次は夜宵の好きなゲームで遊ぼうと約束を取り付けた。
 それではまるで、夜宵と遊びたかっただけではないか。
 夜宵と仲良くしたかっただけ。夜宵と友達になりたかっただけ。
 水零の行動理由は全く裏も表もなく、そんなシンプルなものだった。

「友達か」

 夜宵はポツリと呟く。その二文字の言葉は今まで遠い異国のもののように感じていた。
 またその内、彼女はこの家に遊びに来るのだろう。
 その時は相手をしてあげるのも悪くない。そう思い始めた。
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