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第四章 学校に行きたい

#37 友達になりたい1

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 月詠夜宵、高校一年の一月。
 冬休み明けから彼女は仮病を使い学校を休むようになった。
 やがて仮病は親にバレたが、夜宵はそれでも不登校を続けた。
 父は単身赴任中で家を空けていたし、昔から彼女を甘やかしてくれた母を押しきることは簡単だった。

 ずっと家に引き籠もる彼女にある日、来客があった。
 学校のお友達が来てくれたわよ、と母は言った。
 夜宵の認識では学校に友達などいないと思っていたが、友達の定義など曖昧なもので、二三言、言葉を交わした程度のクラスメイトでも友達を自称する権利を得られるらしい。
 上品な黒のフリルリボンで頭の両サイドの髪を結わえたツインテールの少女がリビングのソファに座っていた。
 仕方なく夜宵もテーブルを挟んだ対面の席に腰を下ろすも言葉が出てこない。
 客人の名は星河水零。クラスでも何度か話しかけられたことがあるので記憶に残っていた。
 品行方正で成績優秀、人望もあり友達も多い。そしてスタイルもよくて美人ときている。
 彼氏がいるのかどうかまでは知らないが、夜宵が最も苦手とするリア充と呼ばれる人種であることは間違いない。
 劣等感の塊である夜宵はリア充を前にすると、自分は見下されているのではないかという被害妄想にかられるのだ。
 ずっと押し黙ったままの夜宵を前にして、水零は気まずそうに言葉をかける。

「えーっと、なんか私、夜宵ちゃんに嫌われてる? というか怖がられてるのかな?」

 その表現は適切だった。確かに夜宵はリア充が怖い。
 たいして親しくもないクラスメイトの家に押しかけてくるその理解不能な行動力に対して、どんな言葉を返せばいいのかわからなかった。
 沈黙に耐えられなくなったのか、水零が大きな声を上げる。

「よーし、わかった。夜宵ちゃん、私のこと怖いとか嫌いだとか、嫌なところがあれば遠慮なく言って! どんな悪口がきても怒らないから」

 年下の子供を諭すように優しく告げる彼女に、流石の夜宵もこれ以上黙り続けるのは失礼だと感じ始めた。

「あの」
「うん」
「あの、まず、その、背が高くて、美人で、頭もよくて、友達もいっぱい居て、リア充で」
「うんうん」

 悪口を言ってもいいと言われたがここまではむしろ誉め言葉だ。
 だが長所という名の塔は、その高さに比例して長い影を生む。

「偉そう、自分より成績の低い人とか見下してそう、性格悪そう」

 遠慮なく言っていいと言われた手前、夜宵は自分の偏見も含めて正直な水零の印象を吐き出した。

「そっか、そっかー、そんな風に思われてたんだ」

 怒らないという公約通り、水零は興味深そうに夜宵の言葉を聞いていた。
 そして最後まで聞き終えると彼女は静かな声音で意見を返す。

「夜宵ちゃん。私はね、自分が偉いなんて思ってないよ。
 勉強ができることが偉いの? 友達が沢山いることが偉いの? そんな価値観はどこかの誰かが決めたものであって私達がそれに従う必要はないでしょう」

 夜宵の瞳を真っ直ぐに見つめながら水零は言葉を紡ぐ。

「だからさ、夜宵ちゃんの価値観も教えて欲しいな。夜宵ちゃんが何を大事にしてるのか。普段何をやってるのか」

 水零の暖かい声色は夜宵の耳朶に優しく染み込んでいく。

「私さ、放課後とかによく夜宵ちゃんを遊びに誘ったりしたよね。でも毎回断られてた。それは悪いことじゃないし責めたりもしないわ。けど夜宵ちゃんって学校終わるといつもすぐに家に帰ってたし、最近は学校にも来なくなって、お家で何をしてるんだろうなって気になってるの」

 夜宵はクラスに友達がいない。そんな彼女を見かねてなのか、水零はよく夜宵に話しかけてきた。
 学校帰りに遊びに誘われたことも何度かあった。
 それを断り続けた理由は、夜宵自身、人との会話が苦手で、よく知らない相手と遊びに行くこと自体が苦痛であるというのが一つ。
 そしてもう一つの理由は。
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