25 / 125
第三章 オフ会に行きたい
#25 スピードスター虎衛門1
しおりを挟む
夜宵の操るジャック・ザ・ヴァンパイアは森林フィールドに足を踏み入れる。
そろそろ敵とかち合う頃だ。夜宵は暗い森の中を移動しながら警戒を強めた。
その時、ジャックの頭上に不穏な気配を感じ、即座に夜宵はAコンを操作して、その場から飛び退く。
次の瞬間、木の枝の上にいた忍び装束のマドールが、一瞬前までジャックがいた場所に飛び降り、鋭い爪を地面に突き刺した。
大河忍者、琥珀の操るそのマドールの右手には鋭く伸びた三本爪の手甲鉤が装備されている。
夜宵の反応がわずかでも遅れていたら、今頃ジャックはその爪で串刺しにされていただろう。
「気付かれたっすか。流石の反応速度っすね。ヴァンピィ!」
夜宵は声の方向に視線を向ける。
そこには不敵に笑いながらコントローラーを操作する琥珀の姿があった。
そして休む間もなく大河忍者は爪を振り回し、ジャックに襲いかかってくる。
ジャックが爪を躱しながら後方へ飛べば、森の木が一本、代わりに斬り倒された。
葬送爪牙、大河忍者の右腕特性はこの爪による斬撃らしい。
恐らく近接戦闘を得意とする機体なのだろう。
そう把握すると、夜宵はアナログスティックを回転させながら素早くボタンを叩く。
今まで回避一辺倒だったジャックが、力強く地面を蹴ると疾風の如き速さで忍者へと肉薄し、魔剣を振るう。
その剣先が描く軌跡は前後左右の空間を何重にも切り裂いていく。
次の瞬間、森に立っていた大木が五本まとめて斬り飛ばされた。
お陰で隙間なく木が並んだ森の中に、一ヵ所だけポッカリとした空間ができてしまう。
だが別に夜宵の目的は森林伐採ではない。
「随分スッキリしたっすね」
琥珀の軽口がその場に響く。
彼女の操る大河忍者は、軽やかな身のこなしで無事な木の枝の上にいた。
標的であった忍者は掠り傷ひとつない。
それを見て夜宵の口許が微かに緩んだ。
これは楽しい勝負になりそうだ、と。
接近戦は夜宵も得意とする分野だ。
近接戦闘においてジャック使いのヴァンピィの右に出る者はいない、多くの魔法人形プレイヤーにそう言わしめたほどに。
シングルスランカーの夜宵とダブルスランカーの琥珀は普段のオンライン対戦でもマッチングすることはない。
久しく会ったことのなかった近接戦闘のエキスパートとの邂逅に、夜宵の闘争心は昂るのだった。
「次にスッキリしたするのは、その忍者の首だよ」
言葉とともにジャックが跳躍し、木の上にいた大河忍者に魔剣を振り下ろす。
大河忍者がその場から飛び退くと、枝は綺麗な断面を残して切り落とされた。
地面へ降り立った忍者にジャック・ザ・ヴァンパイアは再び斬りかかる。
忍者は三本爪で魔剣をいなしつつ、爪を伸ばしジャックの首元を狙ってきた。
ジャックは上半身を反らしてその爪を躱すと、長い足で虎忍者の顎を蹴りあげる。
予想外の反撃を受け、忍者は後方宙返りしながら後ろへ飛び、吸血鬼と距離をとった。
そのまま二体のマドールは睨み合う。
琥珀は夜宵の顔を見ながら、ニヤリと笑った。
「やるっすね」
それに対し、夜宵も笑みを返す。
「近接戦闘なら私は負けない」
「それは楽しみっすね。相手の得意分野で叩きのめすのが!」
琥珀の言葉ととも大河忍者が地を蹴り、ジャックに襲いかかった。
忍者が三本爪でジャックを貫こうとするも、剣で受け止め攻撃を防ぐ。
(さっきより速くなった?)
大河忍者の動きがより俊敏さを増してるのを夜宵は感じとった。
何か秘密があるのか?
対戦への集中を維持したまま、夜宵はステータス表示を確認し、大河忍者の特性説明を読む。
「脚部特性・怪踏乱打」
Lボタンを連打し続けてる間、移動・攻撃・回避速度が上がり続ける。そう書かれていた。
なるほど、それなら大河忍者の動きがどんどん速くなってるのも納得がいく。
そう思いながら琥珀の手元を見るも、夜宵の中に新たな疑問が生まれた。
琥珀が使ってるのは卍手裏剣を象った特殊コントローラーだ。Lボタンの位置も通常のAコンとは異なるのだろう。
それがどのボタンなのか夜宵は知らないが、どうも琥珀は通常通り大河忍者を操作しているだけで、どこかのボタンを連打してるようには見えない。
そして夜宵はひとつの可能性に思い至った。
「まさか、そのコントローラーは!」
「おや、気付いたっすか」
クックック、と不適に笑いながら琥珀は言葉を吐き出す。
「そう、この卍手裏剣コントローラーは連射機能を持ってるんすよ!」
連射コントローラー。指定したボタンを自動で連打し続ける機能を持ったコントローラーだ。
本来であれば、特定のボタンを連打しながら通常のマドール操作を同時に行うのは非常に難易度が高い。
普通はどちらかがおざなりになるだろう。
だが連射コントローラーによりボタン連打を自動化したことで、琥珀は大河忍者の操作に集中しながら脚部特性による加速の恩恵も受けられる。
大河忍者の能力を最大限発揮する為に選んだコントローラー、これが琥珀のプレイスタイルというわけだ。
そろそろ敵とかち合う頃だ。夜宵は暗い森の中を移動しながら警戒を強めた。
その時、ジャックの頭上に不穏な気配を感じ、即座に夜宵はAコンを操作して、その場から飛び退く。
次の瞬間、木の枝の上にいた忍び装束のマドールが、一瞬前までジャックがいた場所に飛び降り、鋭い爪を地面に突き刺した。
大河忍者、琥珀の操るそのマドールの右手には鋭く伸びた三本爪の手甲鉤が装備されている。
夜宵の反応がわずかでも遅れていたら、今頃ジャックはその爪で串刺しにされていただろう。
「気付かれたっすか。流石の反応速度っすね。ヴァンピィ!」
夜宵は声の方向に視線を向ける。
そこには不敵に笑いながらコントローラーを操作する琥珀の姿があった。
そして休む間もなく大河忍者は爪を振り回し、ジャックに襲いかかってくる。
ジャックが爪を躱しながら後方へ飛べば、森の木が一本、代わりに斬り倒された。
葬送爪牙、大河忍者の右腕特性はこの爪による斬撃らしい。
恐らく近接戦闘を得意とする機体なのだろう。
そう把握すると、夜宵はアナログスティックを回転させながら素早くボタンを叩く。
今まで回避一辺倒だったジャックが、力強く地面を蹴ると疾風の如き速さで忍者へと肉薄し、魔剣を振るう。
その剣先が描く軌跡は前後左右の空間を何重にも切り裂いていく。
次の瞬間、森に立っていた大木が五本まとめて斬り飛ばされた。
お陰で隙間なく木が並んだ森の中に、一ヵ所だけポッカリとした空間ができてしまう。
だが別に夜宵の目的は森林伐採ではない。
「随分スッキリしたっすね」
琥珀の軽口がその場に響く。
彼女の操る大河忍者は、軽やかな身のこなしで無事な木の枝の上にいた。
標的であった忍者は掠り傷ひとつない。
それを見て夜宵の口許が微かに緩んだ。
これは楽しい勝負になりそうだ、と。
接近戦は夜宵も得意とする分野だ。
近接戦闘においてジャック使いのヴァンピィの右に出る者はいない、多くの魔法人形プレイヤーにそう言わしめたほどに。
シングルスランカーの夜宵とダブルスランカーの琥珀は普段のオンライン対戦でもマッチングすることはない。
久しく会ったことのなかった近接戦闘のエキスパートとの邂逅に、夜宵の闘争心は昂るのだった。
「次にスッキリしたするのは、その忍者の首だよ」
言葉とともにジャックが跳躍し、木の上にいた大河忍者に魔剣を振り下ろす。
大河忍者がその場から飛び退くと、枝は綺麗な断面を残して切り落とされた。
地面へ降り立った忍者にジャック・ザ・ヴァンパイアは再び斬りかかる。
忍者は三本爪で魔剣をいなしつつ、爪を伸ばしジャックの首元を狙ってきた。
ジャックは上半身を反らしてその爪を躱すと、長い足で虎忍者の顎を蹴りあげる。
予想外の反撃を受け、忍者は後方宙返りしながら後ろへ飛び、吸血鬼と距離をとった。
そのまま二体のマドールは睨み合う。
琥珀は夜宵の顔を見ながら、ニヤリと笑った。
「やるっすね」
それに対し、夜宵も笑みを返す。
「近接戦闘なら私は負けない」
「それは楽しみっすね。相手の得意分野で叩きのめすのが!」
琥珀の言葉ととも大河忍者が地を蹴り、ジャックに襲いかかった。
忍者が三本爪でジャックを貫こうとするも、剣で受け止め攻撃を防ぐ。
(さっきより速くなった?)
大河忍者の動きがより俊敏さを増してるのを夜宵は感じとった。
何か秘密があるのか?
対戦への集中を維持したまま、夜宵はステータス表示を確認し、大河忍者の特性説明を読む。
「脚部特性・怪踏乱打」
Lボタンを連打し続けてる間、移動・攻撃・回避速度が上がり続ける。そう書かれていた。
なるほど、それなら大河忍者の動きがどんどん速くなってるのも納得がいく。
そう思いながら琥珀の手元を見るも、夜宵の中に新たな疑問が生まれた。
琥珀が使ってるのは卍手裏剣を象った特殊コントローラーだ。Lボタンの位置も通常のAコンとは異なるのだろう。
それがどのボタンなのか夜宵は知らないが、どうも琥珀は通常通り大河忍者を操作しているだけで、どこかのボタンを連打してるようには見えない。
そして夜宵はひとつの可能性に思い至った。
「まさか、そのコントローラーは!」
「おや、気付いたっすか」
クックック、と不適に笑いながら琥珀は言葉を吐き出す。
「そう、この卍手裏剣コントローラーは連射機能を持ってるんすよ!」
連射コントローラー。指定したボタンを自動で連打し続ける機能を持ったコントローラーだ。
本来であれば、特定のボタンを連打しながら通常のマドール操作を同時に行うのは非常に難易度が高い。
普通はどちらかがおざなりになるだろう。
だが連射コントローラーによりボタン連打を自動化したことで、琥珀は大河忍者の操作に集中しながら脚部特性による加速の恩恵も受けられる。
大河忍者の能力を最大限発揮する為に選んだコントローラー、これが琥珀のプレイスタイルというわけだ。
0
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった
さばりん
青春
都内の大学に進学し、春から一人暮らしを始める北の大地からやってきた南大地(みなみだいち)は、上京後、幼馴染・隣人・大学の先輩など様々な人に出会う。
そして、気が付けば毎日自分の家に美少女が毎日泊まりに来るようになっていた!?
※この作品は、カクヨムで『日替わり寝泊りフレンド』として投稿しているものの改変版ですが、内容は途中から大きく異なります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる