8 / 125
第二章 おでかけに行きたい
#8 返事はまだかな?
しおりを挟む
その夜、夜宵と水零のLINE画面に一枚のスクリーンショットが投下された。
それはヒナとヴァンピィのツイッターDMのやりとりを切り取った一枚であり、内容はヒナがヴァンピィへ一緒に服を見に行こうと誘ったものだ。
『どどどどどどうしようどうしようどうしようどうしよう』
スクショの投下と共に困惑する気持ちを書き込む夜宵。手の震えが書き込みにもそのまま現れていた。
その画像を見たのだろう、すぐに水零のレスがつく。
『あら、デートのお誘いね。夜宵もやるじゃない』
『デデデデデデートじゃないから、ちょっと一緒にお買い物に行こうって誘われただけだから』
『はいはい、そういうことにしといてあげる』
書き込みとともに、はいはいする赤ん坊のスタンプを投下する水零。
『それで、どうしよう?』
改めて夜宵が相談を持ちかける。
『そうねー、まず夜宵の気持ちを確認したいんだけど、太陽くんとお出かけに行きたい? 行きたくない?』
『えっと、それは』
返事を打つ手が止まる。
ヒナとはツイッター上では長い付き合いになる。
ネット上では冗談を言いあったり、クソリプを送ったり、ダル絡みをしても許容されるくらい仲良くなれたという自覚はある。
だがツイッターで知れるお互いのことなど、うわべだけだ。
ネットだけの付き合いなら自分のカッコ悪いところを見せなくて済んだ。
自分の正体が不登校で引きこもりの陰キャコミュ障だなんて知られずに済んだ。
このままもっと彼との距離が縮まれば、自分の本当の姿を晒すことになる。
他人との会話もままならない、社交性の欠片もない、そんな自分を知っていけば彼に失望されるかもしれない、嫌われるかもしれない。
考えるだけでも、彼と出掛けることにとてつもなく高いハードルを感じた。
『どちらかと言えば、行きたくない寄り』
『そっか、じゃあ断っちゃっおうか』
『でも、それはそれで』
一度誘いを断った程度で嫌われるとまでは言わないが、やはり今後彼の中で夜宵に対する遠慮が生まれてしまうのではないか。そんな心配もある。
『一回断ったら、次からもう誘われなくなるってこともあるじゃん』
不安を吐露する夜宵。
本心でもまだ行くべきか断るべきか決めかねていた。だから水零に相談したのだ。
『迷ってるなら行ってみることをオススメするわ。太陽くんは紳士だから優しくエスコートしてくれるわよ』
そんな風に背中を押されて、夜宵は改めて、うむむむと顔をしかめる。
『ちょっと考えてみる』
そう書き込んで、スマホから手を離す。
モヤモヤとした気持ちを抱えながら彼女はいつものようにゲーム機を起動した。
いったん気分転換した上で、考えをまとめようと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして翌日の昼、夜宵は再びLINEにメッセージを書き込む。
『ねえ、水零』
しかし暫く経っても返事はなく、既読がつく様子もない。
『そっか、今学校か。使えねー』
水零がそれに返信したのは夕方になっての事だ。
『引きこもりニートの夜宵ちゃんヤッホー! 私がいない間、寂しかったかなー?』
『ウッザー』
『それで決めた? 太陽くんとお出かけに行くかどうか?』
いきなり本題を切り出してきたが、それに対する答えは、夜宵も一晩考えて覚悟を決めていた。
『うん、ヒナとお出かけに、行きたいと思う』
『そっかそっか、決めてくれたかー』
『断ったら嫌われちゃう気がする』
『案外ネガティブな理由だったかー』
汗を流した困り笑いのスタンプが投下され、水零の書き込みは続く。
『それで返信はもうしたの?』
『それなんだけどさ、なんて返事すればいいかなって』
既にヒナのDMを受け取ってから大分時間が経過している。
今メッセージを見て即答したみたいなテンションで返すのは難しい。
どんな文面を送るべきか。
『そうねー、確かに時間が経ってるもんね。太陽くんも返事がなくて不安がってるかもね。ここは男の子を喜ばせる内容で返信しましょう』
『男の子を喜ばせる? それってどんなことを書けばいいの?』
『まずは、「お誘いいただきありがとうございます。とても嬉しいです」とか』
『なるほど』
少々、言葉遣いが他人行儀な感はあるが、ニュアンスとしてはいい切り出し方だと夜宵も感じた。
『「日向くんの都合が合う日であれば是非ご一緒したいです。私は引きこもり不登校なので予定とかは無いので、いつでも大丈夫です」』
『よーし、喧嘩売ってるね水零。買うよ、一円未満なら買うよ』
『えっ! 夜宵、予定あるの?』
水零はビックリという文字とともに、ムンクの叫びのようなスタンプを貼り、驚きを表現する。
『そりゃ、シーズン最終日とかは徹夜で魔法人形しないといけないし』
『あー、そっか。一ヶ月を一シーズンとして区切って成績がつくんだっけ。シーズンの終わるタイミングの最終順位は大事ってことね』
また一歩、水零が魔法人形廃人への理解を深めてくれた。
そこで水零は話を戻す。
『で、最後は「日向くんに可愛いお洋服たくさん選んで欲しいです。楽しみにしてますね(はあと)」って感じでいきましょ』
『な、な、何その勘違いされそうな文章! 書かないよ! ハートとか絶対書かないからね!』
『えー、私なら書いちゃうけどなー』
とにもかくにも、水零のアドバイスのお陰で方向性は見えてきた。
その後は夜宵が自分の言葉で文章を組み立て、DMへ返信を投下した。
それはヒナとヴァンピィのツイッターDMのやりとりを切り取った一枚であり、内容はヒナがヴァンピィへ一緒に服を見に行こうと誘ったものだ。
『どどどどどどうしようどうしようどうしようどうしよう』
スクショの投下と共に困惑する気持ちを書き込む夜宵。手の震えが書き込みにもそのまま現れていた。
その画像を見たのだろう、すぐに水零のレスがつく。
『あら、デートのお誘いね。夜宵もやるじゃない』
『デデデデデデートじゃないから、ちょっと一緒にお買い物に行こうって誘われただけだから』
『はいはい、そういうことにしといてあげる』
書き込みとともに、はいはいする赤ん坊のスタンプを投下する水零。
『それで、どうしよう?』
改めて夜宵が相談を持ちかける。
『そうねー、まず夜宵の気持ちを確認したいんだけど、太陽くんとお出かけに行きたい? 行きたくない?』
『えっと、それは』
返事を打つ手が止まる。
ヒナとはツイッター上では長い付き合いになる。
ネット上では冗談を言いあったり、クソリプを送ったり、ダル絡みをしても許容されるくらい仲良くなれたという自覚はある。
だがツイッターで知れるお互いのことなど、うわべだけだ。
ネットだけの付き合いなら自分のカッコ悪いところを見せなくて済んだ。
自分の正体が不登校で引きこもりの陰キャコミュ障だなんて知られずに済んだ。
このままもっと彼との距離が縮まれば、自分の本当の姿を晒すことになる。
他人との会話もままならない、社交性の欠片もない、そんな自分を知っていけば彼に失望されるかもしれない、嫌われるかもしれない。
考えるだけでも、彼と出掛けることにとてつもなく高いハードルを感じた。
『どちらかと言えば、行きたくない寄り』
『そっか、じゃあ断っちゃっおうか』
『でも、それはそれで』
一度誘いを断った程度で嫌われるとまでは言わないが、やはり今後彼の中で夜宵に対する遠慮が生まれてしまうのではないか。そんな心配もある。
『一回断ったら、次からもう誘われなくなるってこともあるじゃん』
不安を吐露する夜宵。
本心でもまだ行くべきか断るべきか決めかねていた。だから水零に相談したのだ。
『迷ってるなら行ってみることをオススメするわ。太陽くんは紳士だから優しくエスコートしてくれるわよ』
そんな風に背中を押されて、夜宵は改めて、うむむむと顔をしかめる。
『ちょっと考えてみる』
そう書き込んで、スマホから手を離す。
モヤモヤとした気持ちを抱えながら彼女はいつものようにゲーム機を起動した。
いったん気分転換した上で、考えをまとめようと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして翌日の昼、夜宵は再びLINEにメッセージを書き込む。
『ねえ、水零』
しかし暫く経っても返事はなく、既読がつく様子もない。
『そっか、今学校か。使えねー』
水零がそれに返信したのは夕方になっての事だ。
『引きこもりニートの夜宵ちゃんヤッホー! 私がいない間、寂しかったかなー?』
『ウッザー』
『それで決めた? 太陽くんとお出かけに行くかどうか?』
いきなり本題を切り出してきたが、それに対する答えは、夜宵も一晩考えて覚悟を決めていた。
『うん、ヒナとお出かけに、行きたいと思う』
『そっかそっか、決めてくれたかー』
『断ったら嫌われちゃう気がする』
『案外ネガティブな理由だったかー』
汗を流した困り笑いのスタンプが投下され、水零の書き込みは続く。
『それで返信はもうしたの?』
『それなんだけどさ、なんて返事すればいいかなって』
既にヒナのDMを受け取ってから大分時間が経過している。
今メッセージを見て即答したみたいなテンションで返すのは難しい。
どんな文面を送るべきか。
『そうねー、確かに時間が経ってるもんね。太陽くんも返事がなくて不安がってるかもね。ここは男の子を喜ばせる内容で返信しましょう』
『男の子を喜ばせる? それってどんなことを書けばいいの?』
『まずは、「お誘いいただきありがとうございます。とても嬉しいです」とか』
『なるほど』
少々、言葉遣いが他人行儀な感はあるが、ニュアンスとしてはいい切り出し方だと夜宵も感じた。
『「日向くんの都合が合う日であれば是非ご一緒したいです。私は引きこもり不登校なので予定とかは無いので、いつでも大丈夫です」』
『よーし、喧嘩売ってるね水零。買うよ、一円未満なら買うよ』
『えっ! 夜宵、予定あるの?』
水零はビックリという文字とともに、ムンクの叫びのようなスタンプを貼り、驚きを表現する。
『そりゃ、シーズン最終日とかは徹夜で魔法人形しないといけないし』
『あー、そっか。一ヶ月を一シーズンとして区切って成績がつくんだっけ。シーズンの終わるタイミングの最終順位は大事ってことね』
また一歩、水零が魔法人形廃人への理解を深めてくれた。
そこで水零は話を戻す。
『で、最後は「日向くんに可愛いお洋服たくさん選んで欲しいです。楽しみにしてますね(はあと)」って感じでいきましょ』
『な、な、何その勘違いされそうな文章! 書かないよ! ハートとか絶対書かないからね!』
『えー、私なら書いちゃうけどなー』
とにもかくにも、水零のアドバイスのお陰で方向性は見えてきた。
その後は夜宵が自分の言葉で文章を組み立て、DMへ返信を投下した。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる