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第33話 頼もしい相談相手

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ジャンケン。それは古今東西、果てない勝負に決着をつけるために使われてきた最終手段である。俺は今、その最終局面に立っていた。

「雪木。ジャンケンをするということは、それ相応の覚悟があるってことだよな?」

「誰に聞いてんだよ。朝日だって、手震えてるじゃん。そんなで大丈夫?」

「俺のコレは武者震いだから。全く問題ないね」

「そう、じゃあ……」

「始めるぞ」

   呼吸を整え、拳にぐっと力を込めた。この勝負で、俺の全てを出し切り、アイスを手に入れるっ!

(どうか神様……俺の手に勝利を!)

   お互い呼吸を整えた後、同時に拳を振り下ろした。

「ジャン!」

「ケン!」

『ポン!』











「はぁ~~~ツイてねぇなぁ」

     照り返す太陽の下、俺は敗北のソーダ味を味わっていた。しかも棒にははずれの三文字。つくづく運が無さすぎて、自分でも嫌になるほどだ。対する雪木の手には、勝利のレモン味。クソ、羨ましすぎる!

「悔しがる朝日の横で食うアイスうめ~」

「あーうるさいうるさい。ソーダだって美味しいもんねぇ~。つかお前、心和の連絡先寄越せよ」

    すっかり忘れていたが、俺は雪木に連絡先を聞き出さなければならないのであった。ぼちぼち予定も決めないとだし。

「好きじゃないのに、欲しいんだ。連絡先」

「皆聞いてくるんだよ、それ」

「そりゃ聞くでしょ。朝日、めっちゃ不毛なことしてる自覚ない?」

「サラッと爆弾投下するのやめてくんない?!……でも正直、ちょっと思ってる」

     このまま勝負を続けることで、俺はどこに向かっているんだろう。最初は、誰かから嫌われる事が嫌で、なんとか好かれようとしてた。でも最近は、ちょっと違う。

「と、言いますと」

「別に心和と付き合いたいとか、恋愛したいとかは思ってないし、最初はくそムカついてた。いや、今もムカつくはムカつくんだけどね?アイツ、ことある事に暴言吐いてくるし。でもなんか、今は前ほど……嫌いじゃない、かも」

「それ、私に話しちゃっていいの?」

「自分でもなんでお前に相談してるか分かんねぇ。けど、誰でもいいから話聞いて欲しい時ってあるじゃん?」

「無い」

「お前に無くても俺にはあるの!」

    雪木は黙々とアイスを食べながら、淡々と話す。

「別にさぁ、男女の仲が恋愛だけって訳じゃないやん。その勝負だけどさぁ、お互いに変な意地張ってるだけじゃないの?」

「まあ……だからこそ、この関係性をハッキリさせたいと言いますか」

「関係性がどうとか、んな無駄なこと考えなくて良いと思うんだよ。二人がなんでしょーもない勝負してるかは本当に謎だけど、このままダラダラ交流するってのも、一つの手じゃないすかね」

「良いのか?それで」

「人間関係に良いも悪いも無いから。もっと気楽にいこうよ。って事で、ほい」

   雪木がスマホを弄り出したと思えば、突然俺のスマホがピロンっ♪と軽快な通知音をポケットに響かせる。見るとトーク画面には、『心和瑞月』と書かれた連絡先。

「……俺、お前とLINUライヌ交換してたんだな」

「みたいだね。まぁ、同中だし。どっかで交換したんでしょ」

「……なんか、色々ありがとな。変なとこで急ぎすぎてたわ。まだもう少し、勝負続けてみる」

「何?いきなり。キモっ」

「キモ要素どこにあった?え?」

   出ました突然の罵倒。また俺の心がすり減っちゃう。
   そんな俺を他所に、雪木はヘッドフォンを装着し、リュックを背負い直した。

「じゃ、私そろそろ帰る。お腹いっぱいだから、これあげるよ」

   そう言って雪木は、食べかけのレモンアイスを俺に手渡し、颯爽と歩き始める。

「え、お、ども……」

「あ、そだ。誤解がないように一応」

    少し先で、雪木は立ち止まる。

「男女仲は恋愛だけじゃないけど、もし仲良くし続けたら、そういうこともあるかもね」

「……さっきと言ってること矛盾してね?」

「まあつまり、思わせぶりなことはしない方がいいよ。女子ってどこで惚れるか分かんないから」

   そうして、再び歩き出した。言いたいことひとしきり全部行った後にその場を去る姿は、正直ちょっとかっこいい。雪木の背中を眺めつつ、俺は言葉の意味を考える。

「男女仲は恋愛だけじゃないけど恋愛に発展する事もあって、俺は心和を落としたいけど別に好きな訳じゃない……よく分かんねぇな?」

    とにかく、連絡先はゲットした。デートは遂行する、心和の好感度アップ。あわよくば惚れさせてさらに俺はモテモテ。よし、当面の目標はこれでいこう。雪木の言う通り、考えすぎなくて良いんだ。それに、ツヴァイも過程が大事って言ってたしな。このまま何となく交流していれば、自ずと答えが出てくるかもしれないし。

「そして第一目標はやはり、デート大作戦だなっ」

   雪木から貰ったアイスにがっつく。大分溶けているが、持ち前の甘酸っぱさは健在。喉に流し込み、ゴクリと飲み込む。これで気合いは十分だ。必ず、成功させてみせる!









◇◇◇

「なぁ翼、デートしたことってある?」

「えっ、無いけど……どうしたのお兄ちゃん」

 「いや、その、大変お恥ずかしいんですが……」

「今更そんなこと気にしないよ。で?どうしたの」

「あのですね、実は心和とデート、あ、これもキュン堕ち作戦の一環でして」

「え?!えっと……おめでとう?で良いのかな」

「それでその、お互いの予定合わせようと連絡先をですね?交換したんですが」

「うんうん」

「……最初、なんて切り出せばいい?」

 「……ん?」

   前にも言ったが、俺は女子とデートなるものをしたことが無い。故に今、めちゃくちゃパニクっている。

「あ、ちなみに。最初のメッセージはもう送ったんだけど、エリアマネージャーの翼さん、ちょっと拝見して貰えます?」

「僕いつの間にそんな大役を……どれどれ」

   翼はスマホの画面をまじまじと見つめる。他人に自分の話した内容を見られるのは、結構恥ずかしいものがある。

「お兄ちゃん」

「なんだ、弟よ」

「初手『よお心和。連絡先もお前のハートも、ゲットだぜ☆』はかなりキツいと思う」

「えっ」

   もちろん本気で言った訳では無い。俺なりにちょっとネタに走ったと言いますか。ウェルカムドリンクならぬジョークみたいな感じの軽いノリだったのだが、翼的にはまずかったらしい。

「冗談にしても無理あるよこれ……お兄ちゃん。デートでこのノリ絶対やっちゃダメだよ、絶対」

   翼は顔面蒼白でそう言った。俺はそこまでいけないことを言ってしまったんだろうか。まあ送ってから6時間くらい既読ついてないけど。

「わ、分かった……でさ、なんて切り出せばいいと思う?ね、ね?」

「デートの経験無い僕に聞かれてもなぁ……」

「まあそうだよな。俺もデートの経験な」

    ちょっと待て。俺はツヴァイと計2回ゲーセンやらファミレスやらへ赴いている。しかも二人きりで。ならばもはや、デートと呼称して良いのでは無いだろうか。つまりツヴァイは俺の初デートの相手という事になる。もちろんツヴァイと俺はそういう関係じゃない。にしても、だ。やはり多少は意識してしまうものであって……
  
(す、スーパーこそばゆい!)

「お兄ちゃん大丈夫?顔赤いよ?」

「あ、や、なんでもない。ノープロブレムマイブロ」

「なら良いんだけど……でね、心和さんの件、僕なりにちょっと考えてみたんだけど。心和さんってお兄ちゃんの本性知ってるわけじゃん?」

「本性言うな」

「だから余計なこと考えずに、いつものテンションで行けば良いんじゃないかな~。僕と会話するみたいな感じで」

「いつものテンションねぇ……いざ言われてみると難しいんだよなぁ、これが」

「大丈夫、お兄ちゃんなら出来るよ。頑張って!」

    出ました、翼のエンジェルスマイル。きゃわいい弟にここまで言われちゃ頑張らない訳にはいかない。

(でも、心和ちゃんと読んでくれるかね。追加どころか、ブロックされてるかも……)

「お兄ちゃん、ブロックされてるかもって思った?」

「エスパー!」

「とりあえず送る!心和さんだって一応デートの許可はしたんでしょ?だったらメッセージくらいはちゃんと見てくれるって」

「そうだな……よし」

    俺なりに、少し緊張はしている。いくら相手が心和とはいえ、だ。なるべく簡潔に、伝えたい情報だけを載せたつもりではある。若干震える指で文字を打ち込み、送信。

「そ、送信しました……」

   一気に肩の力が抜け、ベッドに倒れ込む。今の俺、童貞丸出しでめちゃくちゃダサい!

「よく頑張りました。よしよし」

「翼ぁ、そんなことされたらお兄ちゃん嬉しすぎて昇天しちゃうよ~」

「はいはい、分かったから」

   勝負はこの日にかかってる。神頼みするのもどうかと思うが、頼むぞ神様!

『今週の日曜日、空いてたら10:30に最寄り駅集合!』
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