上 下
31 / 36

第30話 ファミレス会議

しおりを挟む
 「お待たせしました、季節限定ホイップマシマシ完熟桃のパフェで御座います」

   テーブルに置かれたそれは、ローズクォーツのような眩い輝きを放ち、天使の羽根を纏っている。まさに至極の一品だ。それを前に、JKの如くはしゃぐ男子高生が一人。

「え~可愛い!ちょ~可愛い!写真撮っちゃお~」

   あまりの美しい造形に、連写する手を止められない。だって可愛いんだもの。
   今俺は、作戦会議と銘打ってツヴァイと共にファミレスへ赴いている。あまり公表していないが、俺は無類の甘党であらゆる洋菓子和菓子に目がないスウィーツ系男子なのだ。ちなみに食べる専門。せっかくファミレスへ来たんだ。限定桃パフェなんて、食べる以外の選択肢がない。

「そしてツヴァイちゃんもいつになくテンション高いセンパイの写真を撮って、ピンスタに上げるのでした~。#拡散希望」

「おまっ、やめろ!いくらパフェが美味しそうだからって、逆恨みするな」

「いやそうじゃねぇし。ただ単に面白いからだっつの~」

   対するツヴァイは大盛りの白飯とカルボナーラ。ドリンクにメロンソーダをオーダーしている。二人で食べて満腹くらいの量だ。意外と胃袋はデカいらしい。

(炭水化物のオンパレード……)

「お前、見かけによらず結構食べるんだな」
   
「ん~日による。今日はいっぱい食べたい気分だから食べる。逆にマジで何も食べたくない日とかは水しか飲まない」

「それ死ぬだろ普通に。あんま不安定な食生活してっと、ぶっ倒れるぞ?」

「大丈夫だよ、健康健康。センパイのくせに他人の心配とか、頭壊れてんね」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ……」

   ツヴァイはフォークに巻き付けたパスタを美味しそうに頬張っている。それに続き、スプーンで白桃とミルクソフトをすくい上げた。果肉のジューシーな甘酸っぱさとミルクの優しい香りが口いっぱいに広がる。これが幸せの具現化か。

「うめぇ……このためだけに生きてる」

「ははっ、センパイ。随分パフェに夢中だけど、肝心なこと忘れてない?」

「ん、そうだ。ここにはお遊びで来たわけじゃないんだった」

「あたしからしたら、センパイのなんたら勝負もお遊びだけどね」

「お前にとってはそうでも、俺にとっては真剣なんだよ。馬鹿にすんな。で?ハニトラの達人ツヴァイ師匠の見解をお聞かせ願おうか」

   テーブルに肘をつきながら「ん~」と唸るツヴァイ。食事中に肘をつくとはこれ如何に。

「なんだお前、作戦会議とか言っといて何も考えてなかったのかー?」

「無謀なセンパイと違って、あたしは割と計画的だから。いくつか策は思いついてるんだけど……」

   ツヴァイにしては珍しく、本気で考えてくれているようだ。これはいつになく頼もしい助っ人かもしれない。
  
「じゃ手始めに、ちょっと口説いてみてよ」

「は?なんで?」

「いいから。あたしを好きな人だと思って」

「いやなんで……」

「早くやれよ」

   いきなりツヴァイの眼光が鋭くなる。もしや助っ人と見せかけて謎に脅されてる?俺。

「分かった、分かったからもうちょい表情筋を柔らかくしてください」

    軽く咳払いをし、スイッチを入れるために頭の中で暗示を唱える。俺はイケメン。誰もが振り向く色男。立てばクラウド座ればノクティス歩く姿はゴルベーザ……。

「お前って、食べる時めっちゃ可愛い顔するな。なんかそういうの、ギャップ萌え?っていうか、凄いグッとくる」

   ツヴァイは気心の知れた仲。露骨な口説きは通用しない。なのでここは、あえてナチュラルに攻めてみよう。さあ、反応はどうだ?

「さすがモテ男、ムカつくけど口説くの上手い!てっきり自称してるだけかと思った~」

「当然だ。自称してるだけなら、こんなにモテてないっつの」

「じゃあさ、それ言う時何考えてる?」

「何……を?えー、ん~そうだな。ひたすら暗示かけてるっつうか。俺なら落とせる!みたいな。あと、どうやったら相手の心を掴めるか探ってる」

   するとツヴァイは不満げな顔でため息をついた。どうやら俺の回答がお気に召さなかったらしい。

「マジで言ってる?有り得ないんだけど」
   
「大マジだよ。何、なんか変なこと言った?」

「センパイってさ、自分がどう思われるしか考えてないよね。口ばっかり上手くて心がこもってないてか、なんてーの?誠意?誠意が足りない、圧倒的に」

 「恋愛は自分がどう思われるかが重要なんだから、当たり前だろ」

    さらに顔をしかめられる。先程よりも視線が一層冷たい。お気に召さないどころか、癪に障ることを言ってしまったようだ。

「間違ってないけどさ、ただ口説いてるだけなんだよね。相手の上辺しか見てないし、自分も上辺しか見せない的な」

「……どゆこっちゃ。俺みたいな天才でも分かるように説明してくれ」

「えぇ?!これだけ言ってもまだ意味わかんないの?バカなの死ねば?」

「シンプルに酷い!」

    上辺だけか。思えば、一人の人間にちゃんと向き合ったことなんて無いのかもしれない。

『朝日くんってほんと、顔だけだよね』

そういえば、元カノにそんなこと言われたっけ。そうだよ、顔だけだよ。初恋もデートも、俺にとっては未知の存在だ。恋愛経験もないのに知ったような顔をして、『人気者』というレッテルに必死でしがみついている。でも本当は、人を好きになることを避けているだけ。だって、求められてるのは誰かのものになった俺じゃない。朝日くんなんだ。

「いい?センパイ。大事なのは相手に気に入られるよう媚び売るんじゃなくて、自分がどう思ってるか、ちゃんと正直に伝えることなんだよ。そもそもさぁ、自分をさらけ出せないヤツとなんて上手くいくわけないじゃん?」

「俺、別に心和と付き合いたいわけじゃない」

「でもキュンとさせたいわけじゃん。だったら口説くことに無駄な時間割いてないでさ~、もっと過程を大事にしな?センパイ欲張りだから、早く全員に好かれなきゃ~って結果を急いでんの。こよりんセンパイ頭良さそうだし、その辺気づいてると思う」

「!!」

(自分が、どう思ってるか……)

   俺自身、心和のことをどう思っているのか、この関係性について答えが出ていない。それにアイツは、上辺も素も含めて俺のことを嫌っている。……でも。

『いつも自然体な人の方が好きです』

  多分、あれは嘘じゃないから。俺も正直になろう。時間はかかるかもしれないけど、せめてお互いを理解し合えるようにはなりたい。そしていつか、この関係性に答えを出す。

(相手の内面を知るには、まず自分の内面を出さないとってことか。まあここ最近は割と出しまくってるんだけど)

「なんか、思ったより真面目でビックリした。さんきゅー。さすが世界のツヴァイ」

「あたしいつの間に世界進出してたん?ま、いいや。どいたマダガスカル!」

   何言ってんのコイツ。ダメだ、JK語よく分からない。

「さて、お話も聞いたことですし……」

    ツヴァイは俺に向けて手を出してくる。まるでお金を下さいと言わんばかりの表情だ。

「なんだよいきなし。金ならやんねーぞ」

「え、払うでしょ普通。タダで聞いてもらえると思ってたの?」

    ほんとに金目当てだったんかい!

「やだ、却下断る。てかそういうのは事前に言え」

「そしたらセンパイ着いてきてくんないじゃぁん。ほら、もったいぶってないで」

「当たり前だ!払わん、払わんからマジで」

「は~ケチ。スーパーにいるババアかよ。……じゃあ分かった。今日のファミレス代だけでいいから奢って♡」

「無理!ノー!ガッデム!」

「へ~そんなこと言うんだ。じゃあこよりんセンパイの連絡先はいらないよね~」

「なっ、お前持ってるのか?てかなんでその事を……」

「実はセンパイがこよりんセンパイにジュース奢ってるところを、偶然目撃してしまったツヴァイちゃんなのでしたぁ。ちなみにあたしは連絡先持ってない。持ってるヤツを知ってるだけ」

「誰だよそれ。早く教えろ!」

「ご飯奢ってくれない人には教えらんねぇなあ。はい早く決めて?10、9、8、7……」
   
     ニヒルな笑みを浮かべ、地獄のカウントダウンを始めるツヴァイ。ちくしょう嵌められた!さてはコイツ、最初からこれが目的で俺を誘ってきたな?男心を弄びやがって。

「ぐっ、今日だけだかんな……」

「きゃっは、ありがとう~♡センパイ大好き~」

「言ってろ、パパ活JKもどき」

   しかし、ちゃんと収穫はあった。不本意な形ではあるが、連絡先問題は解決しそうで少し安心。あとは心和の連絡先を交換したヤツを紹介してもらうだけなんだが……どれだけ強者だよソイツ。ちょっと興味出てきたわ。
  

    とりあえず、この後ツヴァイは追加のデザートを注文し、俺の財布が少し軽くなったということだけ伝えておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...