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第29話 ハニトラパニック
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「お前さぁ、ほんと……ほんっとさぁ」
夏の日差しが、痛いほど肌に照りつける。校門前は一段と日当たりがいいようで、まともに目が開けられないほどの眩しさだ。
「教室来んのはいい。でも誤解を招くような言い方すんのはマジでやめろ」
「あっはは、ごめんじゃん。そんくらいでキレんなし」
いきなり教室へ来るものだから何事かと焦ったが、実際その焦りは正しかった。俺は学校内の、いわば偶像《アイドル》。偶像に彼女がいるとなれば、たちまちスキャンダルだ。なので俺とツヴァイが付き合っているかのようなことをほのめかすような発言は、非常に困る。
「やっぱセンパイの困る顔、面白いね。クセになっちゃう♪」
「その悪癖は本当に直した方がいいぞ。俺だって男。お前みたいなメスガキは、最終的に分からされるのがオチだろ?油断してると、襲っちまうかもな~」
「ははっ、普通にセクハラなんだけどwチクっちゃおっかな~」
俺の少し先を歩きながら、ツヴァイは楽しそうに笑う。コイツはほんと、根っからのSというか。人が困惑してる姿を見ていっつも楽しんでる。きっと前世は拷問か何かを担当していたに違いない。コイツが「ブタ♡ブタやろう♡」と言いながらケツに鞭打つ光景が容易に想像できる。
「あ、でも。一緒に帰りたかったのは本当だよ?」
そして時折、男心を揺さぶる爆弾発言をしてくるので要注意。
「つ、付き合ってもない男子にそういうこと言わないの。大体、お前が一緒に帰りたいとか言った時点で、クラスの女子からはあらぬ疑惑をかけられつつあるんだからな」
俺がそう言ってため息をつくと、先を行くツヴァイの足が止まった。そしてくるりとこちらへ振り返り、顔を近づける。バニラのような甘い香りに鼻をくすぐられ、それによって一層煽られる緊張感。
「……何、急に」
「疑惑、かけられてもいいよ……って言ったらどうする?」
耳元で囁かれる、悪魔の誘惑。これは嘘?それとも……という混乱が、頭の中を掻き乱す。これがハニートラップというものか。
「ドキッとした?」
「……」
「なぁんて、ツヴァイちゃんジョークだよ」
ツヴァイは軽快に笑った。多分、コイツにとっては冗談のつもりなのだろう。だからこそ、俺は問いたい。
「……お前、俺のこと好きなの?」
瞬間、その場が凍りつくのを感じた。先程までうだるような暑さの中にいたはずなのだが、なぜだろう。異様に寒い。全身に冷や汗が滴っている。
「センパイさぁ、なんか勘違いしてない?」
「勘違い、とは……」
「あたしがセンパイと一緒にいるのは、面白いからであって好意があるわけじゃないんだよ。ていうか今の、冗談にしてもキツイわw」
ツヴァイは苦笑する。目が笑っていない。完全にこちらを蔑んでいるようだ。こういう時、あえて直接「キモイ」という言葉を使われないのは、中々心にくるものがある。
「ナニユートルノォ?アサヒズジョーク、ツタワラナイノハジダイオクレヨォ?」
「え~ほんとにそうかなぁ。今のセンパイ超ガチ感あったけど」
「そういうフリです。俺演技派だから、冗談にも手は抜かない主義なんすよ~あははははぁ。すんませんしたァ!」
後追いの羞恥心に襲われ、深く頭を下げる。周囲に人がいないのが幸いだ。
俺は問いたい、じゃねーよバーカ!何自ら恥かきにいってんの?
「……センパイ、顔上げて」
「い、いかなる処罰も受ける所存でいづっ!」
恐る恐る顔を上げると、唐突に渾身のデコピンを食らった。額がじんじんと痛む。
「ふふっ、調子。乗っちゃったね」
俺の足を踏みつけながら、ツヴァイはニヤリと笑う。精神的にも肉体的にも、デコピンからの追い討ちが凄まじい。
「でもさぁ、こよりんセンパイを惚れさせるとか何とか言ってたけど……このままじゃマジで無理だね」
「グハッ!」
そして極めつけはこれ。今の俺にとって最も効く攻撃だ。無事クリティカルヒットしている。
「じ、じゃあどうすればいいってんだよ。そんなに言うなら、お前がやってみればー?」
「無理無理。まず好きじゃない相手をキュンとさせたいとか常人は考えないって」
「ぎゃあ!やめて、朝日のライフはもうゼロよ!」
棒付きキャンディの包装紙を剥がしながら、ツヴァイは「ざまぁ」と楽しそうに話す。
「でもそっか、キュンとねぇ……なぁんか面白そうだし、あたしも首突っ込んじゃおっかな~」
「絶対にやめてくれ、ろくな事にならん」
「なるよ、こう見えてあたし恋愛マスターだから」
「本当か?にわかには信じ難い……」
「なんだよ、一回協力してあげたじゃん」
「最終的に敵に寝返ったけどな」
でも確かに。先程の言動といい、ツヴァイは男心の掴み方を分かっている。男子がどういうことを言われればドキッとするか、それを熟知しているのだろう。心和は強敵だ。この俺でも落とすどころか好感度が上がっているのかさえ怪しい。となると、協力者は必須。俺とツヴァイの知識が合わされば、ワンチャンいけるっ!
「まあ?お前がどうしても協力したいってんなら?話ぐらい?聞いてやらんことも無い」
「てことは、決まりだね。うーんとじゃあ、センパイこの後ヒマ?」
「ん、それなりに」
「じゃあいい機会だし……作戦会議、しよっか」
作戦開始の合図のように、カランコロンとキャンディの音が鳴った。
夏の日差しが、痛いほど肌に照りつける。校門前は一段と日当たりがいいようで、まともに目が開けられないほどの眩しさだ。
「教室来んのはいい。でも誤解を招くような言い方すんのはマジでやめろ」
「あっはは、ごめんじゃん。そんくらいでキレんなし」
いきなり教室へ来るものだから何事かと焦ったが、実際その焦りは正しかった。俺は学校内の、いわば偶像《アイドル》。偶像に彼女がいるとなれば、たちまちスキャンダルだ。なので俺とツヴァイが付き合っているかのようなことをほのめかすような発言は、非常に困る。
「やっぱセンパイの困る顔、面白いね。クセになっちゃう♪」
「その悪癖は本当に直した方がいいぞ。俺だって男。お前みたいなメスガキは、最終的に分からされるのがオチだろ?油断してると、襲っちまうかもな~」
「ははっ、普通にセクハラなんだけどwチクっちゃおっかな~」
俺の少し先を歩きながら、ツヴァイは楽しそうに笑う。コイツはほんと、根っからのSというか。人が困惑してる姿を見ていっつも楽しんでる。きっと前世は拷問か何かを担当していたに違いない。コイツが「ブタ♡ブタやろう♡」と言いながらケツに鞭打つ光景が容易に想像できる。
「あ、でも。一緒に帰りたかったのは本当だよ?」
そして時折、男心を揺さぶる爆弾発言をしてくるので要注意。
「つ、付き合ってもない男子にそういうこと言わないの。大体、お前が一緒に帰りたいとか言った時点で、クラスの女子からはあらぬ疑惑をかけられつつあるんだからな」
俺がそう言ってため息をつくと、先を行くツヴァイの足が止まった。そしてくるりとこちらへ振り返り、顔を近づける。バニラのような甘い香りに鼻をくすぐられ、それによって一層煽られる緊張感。
「……何、急に」
「疑惑、かけられてもいいよ……って言ったらどうする?」
耳元で囁かれる、悪魔の誘惑。これは嘘?それとも……という混乱が、頭の中を掻き乱す。これがハニートラップというものか。
「ドキッとした?」
「……」
「なぁんて、ツヴァイちゃんジョークだよ」
ツヴァイは軽快に笑った。多分、コイツにとっては冗談のつもりなのだろう。だからこそ、俺は問いたい。
「……お前、俺のこと好きなの?」
瞬間、その場が凍りつくのを感じた。先程までうだるような暑さの中にいたはずなのだが、なぜだろう。異様に寒い。全身に冷や汗が滴っている。
「センパイさぁ、なんか勘違いしてない?」
「勘違い、とは……」
「あたしがセンパイと一緒にいるのは、面白いからであって好意があるわけじゃないんだよ。ていうか今の、冗談にしてもキツイわw」
ツヴァイは苦笑する。目が笑っていない。完全にこちらを蔑んでいるようだ。こういう時、あえて直接「キモイ」という言葉を使われないのは、中々心にくるものがある。
「ナニユートルノォ?アサヒズジョーク、ツタワラナイノハジダイオクレヨォ?」
「え~ほんとにそうかなぁ。今のセンパイ超ガチ感あったけど」
「そういうフリです。俺演技派だから、冗談にも手は抜かない主義なんすよ~あははははぁ。すんませんしたァ!」
後追いの羞恥心に襲われ、深く頭を下げる。周囲に人がいないのが幸いだ。
俺は問いたい、じゃねーよバーカ!何自ら恥かきにいってんの?
「……センパイ、顔上げて」
「い、いかなる処罰も受ける所存でいづっ!」
恐る恐る顔を上げると、唐突に渾身のデコピンを食らった。額がじんじんと痛む。
「ふふっ、調子。乗っちゃったね」
俺の足を踏みつけながら、ツヴァイはニヤリと笑う。精神的にも肉体的にも、デコピンからの追い討ちが凄まじい。
「でもさぁ、こよりんセンパイを惚れさせるとか何とか言ってたけど……このままじゃマジで無理だね」
「グハッ!」
そして極めつけはこれ。今の俺にとって最も効く攻撃だ。無事クリティカルヒットしている。
「じ、じゃあどうすればいいってんだよ。そんなに言うなら、お前がやってみればー?」
「無理無理。まず好きじゃない相手をキュンとさせたいとか常人は考えないって」
「ぎゃあ!やめて、朝日のライフはもうゼロよ!」
棒付きキャンディの包装紙を剥がしながら、ツヴァイは「ざまぁ」と楽しそうに話す。
「でもそっか、キュンとねぇ……なぁんか面白そうだし、あたしも首突っ込んじゃおっかな~」
「絶対にやめてくれ、ろくな事にならん」
「なるよ、こう見えてあたし恋愛マスターだから」
「本当か?にわかには信じ難い……」
「なんだよ、一回協力してあげたじゃん」
「最終的に敵に寝返ったけどな」
でも確かに。先程の言動といい、ツヴァイは男心の掴み方を分かっている。男子がどういうことを言われればドキッとするか、それを熟知しているのだろう。心和は強敵だ。この俺でも落とすどころか好感度が上がっているのかさえ怪しい。となると、協力者は必須。俺とツヴァイの知識が合わされば、ワンチャンいけるっ!
「まあ?お前がどうしても協力したいってんなら?話ぐらい?聞いてやらんことも無い」
「てことは、決まりだね。うーんとじゃあ、センパイこの後ヒマ?」
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