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第一章

19.悪魔との出会い

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ゆっくりと近づいて来る男度にベッドの上でほんの少しの抵抗を示す。遠くからでもわかる男の迫力にまるで身体が貫かれているみたいだった。

その場から数歩進めた時、男はピタリと動きを止めた。マントの擦れる音が響く。それほどに辺りは静寂だった。

「ゔっ…」

今までは音がしない動作をしていた男は、突如として唸り声をあげ、ドサッとその場に崩れ落ちた。

「ぐあっ…」

男は肩で息をする。先程までの恐怖心が芽生えるような覇気や視線は一切感じられない。
その様子に私は何も出来ずあたふたと慌てた。
恐る恐る男が倒れた場所に目を凝らすと、男は声にならない悲鳴をあげた。

苦しがり方が尋常じゃない。何が起きてるのかさっぱり分からないが、とりあえず男の傍に行こうと動き出す。早く近づいてどうなっているのか確かめたいのに、先程の恐怖に引きづられ、あまり早く動けない。

男は苦しみが少し和らいだようで、ほんの少しずつ息が整っていく。

「あの、大丈夫ですか?」

震える手を堪えながら男の身体にそっと触る。
すると、男がまた小さな呻き声をあげ、苦しみ始めた。

「だ、誰かっ」

使用人を呼ぼうとした時、ぐっと腕を掴まれた。

「待て…っ誰も呼ぶな…」
「っでも!」

男は荒い呼吸を繰り返し、虚ろになりながらもしっかりと私の目を見た。

「お前に…用があった……はぁはぁ…用がすんだらそのまま帰る……」
「用ってなんですか?」

喉を鳴らし呼吸を無理やり整え、男は口を開く。

「聞いたんだ…お前…なら…俺の呪いを……解けると。」

呪い?この人は呪いをかけられてるというの?
私は生憎呪いを解ける力は持ってない。呪いを解けるような技術もなければ、解ける方法を知っている訳でもない。

「私に…そんな力はありません。」

思いっきり首を横に振る。

「そんな…はずは無い…ぐぁっ……はぁはぁ…あいつらは…っ嘘は……つかない。」

今まで私の腕をを掴んでいた手は離れ、自分の胸元を必死で掻くように掴み、男はどんどん荒くなっていく呼吸の中で必死に喋る。

あいつらとは、いったい誰…?

男の言うあいつらが誰なのか問おうとしたが、それを問い、答えるほどの時間がない事は男から見てとれる。

「あの…っ。本当にわからなくて……どうすれば……どうすればいいんですか?私は何をすれば貴方は助かりますか?」

なんでもいい。何かわかれば、助けられるかもしれない。それに私なら助けられるって知っているということは、呪いの解き方を知っている可能性だってあるのだ。

「頼っておいて…なんだが……俺にも…わからない……」

返って来た言葉は私が期待していた言葉ではなかった。

わからないって…それじゃあどうすればいいの?
なにも出来ない。その言葉は私に重くのしかかる。
ここで何もしなければ、私はこの人を見殺しにしてしまうのだろうか。嫌だ。誰も死んで欲しくない。






『まま…?ぱぱ…?』

前世の幼い頃の私の声が心の中で木霊する。






それからは私も切迫感に駆られ、どうしたのかあまりよく覚えていない。
彼に触れたまま、ただただ強く願った。

神様どうか、この人を助けてください。
お願い。お願いだから。どうか。どうか…呪いよ…消えて。

目の前で人が死んでいく光景に両目から涙がはらはらと流れていた。

涙が視界を歪ませていく。
視界を晴らそうと目を瞑った。

なんの前触れもなかった。特別なことは何も。
ただ、スっと男の荒い呼吸が和らいだのだ。苦しく歪みきった顔は落ち着いた表情に変わっていて、心臓近くをマントに皺が着くほどに握っていた手は力が抜け、地面に置かれていた。

治ったのか、呪いが解けたのかは私には分からなかった。けれど明らかに先程までと違う様子に戸惑いながらも安堵する。男はそのまま深く目を閉じ、気絶したように眠ってしまった。


_____________________どうしよう


男が安らいだのはよかったと思う。
ただ、男が眠っているのは、ほぼ中央と言っていい程の私の寝室の床である。

ベッドまでは幾分距離がある。

子供が、自分の倍程の男をベッドに運ぶなんてできるはずはない。

男は使用人を呼んで欲しくなさそうだった。だからこそ窓からひっそりと入ってきたのだ。余程使用人達に会いたくないのだろう。
しかしこのままここに寝かせておくことも出来ない。最近では日中でも気温が低く、夜は布団からはみ出た足がスースーするほどに寒くなってきた。

悩んだ結果、自分の毛布を男にかけることにした。
寒くないようにとニケが三重に毛布をかけてくれたのだ。1枚なくなったからといって寒くて寝れないことはないだろう。
ベッドから1番上にかかっていた毛布を引きずりながら男の傍まで運ぶ。そっと男に被せると、自分のベッドに戻り、目を閉じた。眠気はすぐに訪れ、それはいつになく深く落ちていった。
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