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第2章 ぼちお君、奮闘

第36話 醜すぎる争奪戦

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「では主人公役のヘンゼルとグレーテルを決めます。まず、やりたい人はいますか?」

 あの、なぜ呼ばれたか分からない誕生日パーティーから1週間。我々2Dは、再びLHRで文化祭について話し合っている。

「だれするー?」「俺しよっかなw」「いや無理無理w」

 クラスメイトの他愛ない会話が始まる。

「グレーテル役はやっぱり絵里奈さんだよな~」

 隣の西条がそんなことを言ってくる。
 というか、俺はそもそも内容をよく知らない。委員長の話の途中でトイレに行ってしまったのがいけなかった。確かお菓子の家がどうたらこうたら、みたいな内容だった気がする。劇なんて今までずっと見る側だったので、いざやる側になるとそんなに実感がわかない。ま、別に俺が出演するわけじゃないけどね。精々小物や大道具係だろう。

「西条は何か役演じるのか?」

「絵里奈さんがグレーテル役なら俺がヘンゼル役をする」

 寸分の迷い無しの言い切った西条。
 どんだけお近づきになりたいんだよ・・。俺から頑張れとしか言えない。

「そう・・・」

「芦田、お前我が高校の文化祭の、劇でのジンクスって知ってるか?」

 ジンクス・・・?

「知らん」

「ずばり、劇で共演した男女は結ばれるという奴だ・・・」

「・・・男女が結ばれる?」

「ああ、言うなれば俺と絵里奈さんが無事、カップルになれるという事だ」

 ・・・そんなジンクスを信じているとは。ちょっと可哀想な西条君である。そもそも、共演した男女って結構な数になるでしょ。不特定多数の女性と付き合うってことかね?・・・女の敵じゃん。

「・・・そうですか」

「だから俺は、必ず絵里奈さんと共演するんだ・・・」

「そうか、まぁ頑張れ」

 ほんとに、頑張れとしか言いようがない。西条のこの感じから見るに、冗談で言ってるわけでは無いのだろう。本気で付き合いたいと思っているのかは謎だが。


 その後、中々決まらないため推薦による決定方法となった。誰も挙手しないため、もう授業終了時刻まであと10分だ。委員長も相当焦ってるらしく「推薦された人は無条件で従ってもらいますっ」とクラスの委員長ならぬ暴挙にでました。

「・・・わ、私?」

 グレーテル役の推薦の結果、大多数の推薦により絵里奈が推薦された。うん、知ってた。

「では、ヘンゼル役に推薦したい人を言ってください」

 委員長が次の役を決めようとしたその時、

「はいっ。俺がヘンゼル役します!」

 西城が勢いよく手を挙げ、立候補の旨を伝えた。
 
 そして、その波乗るように。

「俺も!」「やっぱ俺ヘンゼル役しよっかなー」「・・・ヘンゼル役は我にしか出来ん・・・」

「「「・・・」」」

 女性陣の冷たい視線が挙手した男共に刺さる。
 てっきり西条だけだと思っていたのだが、まさかこんなにそのジンクスとやらを信じていたとは・・・。男ってほんとに単純な生き物byぼちお君

「・・・はぁ、ではその4名で話し合ってください」

 頭を抱えながら、心底呆れたといった様子で指示を出す委員長。
 というか、男子陣の今の行為は、絵里奈さん好きです!と言ってるようなものだ。それを分かってやってるのか、阿呆なのか・・・。なんかほんとに西条の隣嫌なんですけど。

「は、はは・・・」

 ふと、絵里奈の方を見ると、苦笑い蓄えながら友達に慰められていた。・・・そうか、今の絵里奈の立ち位置は、彼女自身にとって相当居心地が悪いのだろう。絵里奈の言っていた事が少しだけ、分かったような気がする。

「じゃんけんっぽん!」

 ジンクス信徒の4名が、とうとう合戦を開始した。

「あー!負けたー!」

 一名、敗れる。

「じゃんけんっぽん!」

 そしてまた、一名堕ちる。 

「よっしゃー!」

 西条が歓喜の声を上げる。・・・ちょっときもい。

「ほう、残ったのは西城殿か、敵に不足なしっ、ゆくぞっ」

 ・・・ノーコメントで。

「「じゃんけんっぽんっ」」

 二人の声が、まるで重低音のように重なる。

 勝者は・・・

「いよっしゃー!」

 西条であった。

「な、何という事だ・・・我が負けるなどあり得ん・・・くっ、申し訳ありません絵里奈さん・・・共演し、誠心誠意お守り通す予定だったのですが・・・この醜態は必ずや挽回して見せましょうぞ・・・」

 ・・・なんか一人でブツブツ言ってる不審者居るんですけど。こいつヤバくない?大丈夫なのこれ。前々から思っていたのだが、このクラスの人達色々と濃すぎる。ほんと、濃すぎる。

「・・・では、ヘンゼル役は西条君という事でいきます」

 不服不服といった様子で言う委員長。はぁ、とため息が止まらない様子である。


 結局、残り5分程度余った授業時間で他の役を決めた。俺は無事、小道具係になった。この係が一番安牌あんぱいなので、嬉しい限りである。ちなみに若山さんも小道具。

「よっし、ここまでは予定通り、あとは劇を無事成功させれば・・・よしっ」

「・・・」

 なんか隣のお猿さんが発情してるんですけど。ウキウキウキウキと煩い。誰か動物園に連れて帰ってください。

「な?言っただろ芦田っ、これは神様が俺に味方してくれてるぜ」

「そうか・・・」

「やっぱり、俺の日頃の行いが良かったんだなっ」

「だな」

 はぁ、疲れるから話しかけないで欲しい。猿条うるさい。

 ◇


 
「うん?」

 現在夜の10時。小説でも読もうかと思っていたところ、俺のスマホから滅多に聞こえない着信音が鳴った。

「<2D文化祭!>・・・?」

 俺のトークアプリに、一通のグループ招待メールが来ていた。これはまさか・・・。俺にも到頭グループ招待される日が来るとは・・・ちょっと嬉しい(内心かなり嬉しいが、表に出さないボッチ君)。
 
 早速、入ってみよう。

《おっ、新人さん?よろしく~》

 す、すごい・・・入って秒でメッセージが来た。みなみ、と表示されているので、このメッセージは神咲さんだろう。流石陽キャである。ちなみに俺は、名前を武流、と設定した。

《よろしくお願いします》

 礼儀として俺も返事をする。

《全然タメでおkよ~》

《分かった》

《というか、君だれ~?》

 うん?あぁ、陽キャのそういうノリね。わかるよ。わざと知らない振りしてるんだろう。

《当ててみて》

 おぉ、これがトークアプリか・・・なんか良い。この言葉で言い表せないこの高揚感、なんか、すごい・・・楽しい。

《えーだれだよー》

《最近話したよ》

《マジだれ~?》

 ・・・?まだこのノリ続けるのか。そろそろいいと思うんだけど。・・・っ!既読数が増えてきた。これは30人がこのトーク画面を見ているということか。なんか恥ずかしいな・・・。

《名前見れば分かるよ》

 そろそろ恥ずかしくなってきたのでこのノリは終わらせよう。

《武流?》

 うん?

《そうだよ》

《・・・だれ?》

 ・・・うん?

《武流、だけど》

《・・・ねぇもしかしてこの人、荒らしじゃない?》 

 ・・・・・

《みなみ!武流君だよ!芦田武流っ。いつもアッシーって呼んでるじゃん!》

《アッシ―!?ごめん!さっきの冗談!》

 ・・・・・

《も、もう、みなみ冗談きついよー》

《だ、だよねー、えりっちもそう思う?》


 ・・・このグループ抜けよ。
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