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24-②
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「急で説明が足りなくて悪い」
「いえ。それで、どうして私が同席するんでしょうか」
「会長は、俺が浦野を名乗るために戸籍上の親になってくれた人でね。今日のことが耳に入ったらしくて、すぐに相手を連れて来いって話になった訳だ」
「なるほど。ではご挨拶ということですね」
「まあそうなんだが、気分の悪い思いをさせるかも知れない」
響騎さんはそう答えると、私の手を握ってごめんと呟く。
彼の言い方から察するに、私が婚約者だということが、少なくとも喜ばしい状況ではないのが分かる。
だけど彼が浦野の姓を名乗ることになったのは、私のせいでもあることだから、これはきちんと自分の力で乗り越えなければいけないことだと思う。
「私はなにを言われても大丈夫ですよ」
ギュッと手を握り返して響騎さんの顔を見つめると、少しでも安心させたくてニッコリ笑う。
「華……」
「大丈夫。それより四名って前園さんが言ってましたよね。お見えになるのは会長だけではないんですか」
「ああ。おそらく会長の末娘、てまりって奴が出張ってくると思う」
「もしかして、その方との縁談とかそういう話ですか」
あの時見た、白いワンピースの後ろ姿が頭をよぎる。
「平たく言えばそうだと思う。昔断ったし念書も書いてもらってるけど、浦野を名乗らせてもらった恩義はあるからな」
さっき響騎さんが言った、私が嫌な思いをするというのはそういう意味だったのか。
それでも、私はもう響騎さんのそばを離れるつもりもないし、彼の婚約者という立場を誰にも譲るつもりはない。
「響騎さんがそうせざるを得なかったのは、私にも責任があることです。今回は私も引いたりしません」
「心強いな」
響騎さんはようやく柔らかく微笑むと、指を絡めて手を握り直し、ありがとうと小さな声で呟いた。
確かに今の響騎さんがあるのは、浦野の姓を名乗ることを認めてくれた会長のおかげでもあると思う。
会長にとっても、これから先の響騎さんの立場を考えても、私は不要な存在かも知れない。それでも、私を諦めないでいてくれた彼に応えたい。
なかなか考えが纏まらない中ハイヤーが目的地に到着すると、響騎さんにエスコートされて老舗料亭の大きな門を潜る。
「さて。行こうか」
「はい」
担当の仲居さんに案内されて、広い敷地内に延々と続く廊下を奥へと進むと、渡り廊下で離れになった部屋に案内された。
「お連れ様が一名様、先にお見えになっています」
襖を開けて中に通されると、そこに居た想像とは違う意外な人物にギョッとして思わず変な声が出てしまう。
「ふぇっ⁉︎」
響騎さんは驚いた様子で私を見て、座敷で寛いでいる人物も愉快そうな顔で私を見る。
(なんで? どうしてこんなところに……)
訳が分からず混乱していると、案内してくれた仲居さんが退席して部屋に三人だけになる。
「会長なら、さっき出たと連絡があったぞ」
「そうなんですね」
顔馴染みなのか、談笑を始めた二人に驚いていると、響騎さんではなく先客が私に声を掛けた。
「いつまでアホ面して突っ立ってんだ。早よ座らんか」
「アホ面って。いや、あの……どういうことですか」
「それを今から説明してやるから、お前さんも響騎の隣に座れ」
促されて腰を下ろすと、響騎さんもよく分かっていないのか、どういうことですかと首を傾げている。
「もしかして華と面識があるんですか。伯父さん」
「おう。面識もなにもコイツを育てたのは俺だ。なあ、マキよ」
「リンダさん。どういうことなんですか」
三者三様の言葉が飛び交う中、林田さんだけがニヤッと笑い、私と響騎さんは顔を見合わせた。
「いえ。それで、どうして私が同席するんでしょうか」
「会長は、俺が浦野を名乗るために戸籍上の親になってくれた人でね。今日のことが耳に入ったらしくて、すぐに相手を連れて来いって話になった訳だ」
「なるほど。ではご挨拶ということですね」
「まあそうなんだが、気分の悪い思いをさせるかも知れない」
響騎さんはそう答えると、私の手を握ってごめんと呟く。
彼の言い方から察するに、私が婚約者だということが、少なくとも喜ばしい状況ではないのが分かる。
だけど彼が浦野の姓を名乗ることになったのは、私のせいでもあることだから、これはきちんと自分の力で乗り越えなければいけないことだと思う。
「私はなにを言われても大丈夫ですよ」
ギュッと手を握り返して響騎さんの顔を見つめると、少しでも安心させたくてニッコリ笑う。
「華……」
「大丈夫。それより四名って前園さんが言ってましたよね。お見えになるのは会長だけではないんですか」
「ああ。おそらく会長の末娘、てまりって奴が出張ってくると思う」
「もしかして、その方との縁談とかそういう話ですか」
あの時見た、白いワンピースの後ろ姿が頭をよぎる。
「平たく言えばそうだと思う。昔断ったし念書も書いてもらってるけど、浦野を名乗らせてもらった恩義はあるからな」
さっき響騎さんが言った、私が嫌な思いをするというのはそういう意味だったのか。
それでも、私はもう響騎さんのそばを離れるつもりもないし、彼の婚約者という立場を誰にも譲るつもりはない。
「響騎さんがそうせざるを得なかったのは、私にも責任があることです。今回は私も引いたりしません」
「心強いな」
響騎さんはようやく柔らかく微笑むと、指を絡めて手を握り直し、ありがとうと小さな声で呟いた。
確かに今の響騎さんがあるのは、浦野の姓を名乗ることを認めてくれた会長のおかげでもあると思う。
会長にとっても、これから先の響騎さんの立場を考えても、私は不要な存在かも知れない。それでも、私を諦めないでいてくれた彼に応えたい。
なかなか考えが纏まらない中ハイヤーが目的地に到着すると、響騎さんにエスコートされて老舗料亭の大きな門を潜る。
「さて。行こうか」
「はい」
担当の仲居さんに案内されて、広い敷地内に延々と続く廊下を奥へと進むと、渡り廊下で離れになった部屋に案内された。
「お連れ様が一名様、先にお見えになっています」
襖を開けて中に通されると、そこに居た想像とは違う意外な人物にギョッとして思わず変な声が出てしまう。
「ふぇっ⁉︎」
響騎さんは驚いた様子で私を見て、座敷で寛いでいる人物も愉快そうな顔で私を見る。
(なんで? どうしてこんなところに……)
訳が分からず混乱していると、案内してくれた仲居さんが退席して部屋に三人だけになる。
「会長なら、さっき出たと連絡があったぞ」
「そうなんですね」
顔馴染みなのか、談笑を始めた二人に驚いていると、響騎さんではなく先客が私に声を掛けた。
「いつまでアホ面して突っ立ってんだ。早よ座らんか」
「アホ面って。いや、あの……どういうことですか」
「それを今から説明してやるから、お前さんも響騎の隣に座れ」
促されて腰を下ろすと、響騎さんもよく分かっていないのか、どういうことですかと首を傾げている。
「もしかして華と面識があるんですか。伯父さん」
「おう。面識もなにもコイツを育てたのは俺だ。なあ、マキよ」
「リンダさん。どういうことなんですか」
三者三様の言葉が飛び交う中、林田さんだけがニヤッと笑い、私と響騎さんは顔を見合わせた。
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