69 / 80
24-①
しおりを挟む
遅めのランチで前園さんがお気に入りだというお蕎麦屋さんに来ると、ようやく響騎さんの秘書を続けることになった報告を済ませる。
「なるほど。やっぱりそういう判断が降りたのね」
「そうなりました」
「色々と思うところはあるかも知れないけど、そう決まったのなら頑張りましょう」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
前園さんおすすめの山菜の天ぷらを頬張ると、話題は自然とおめでたいことに移る。
「それにしても、浦野さんってロマンチストなのね」
私の婚約指輪を見つめて前園さんがニヤッと笑う。
「はい?」
「だって、再会してすぐに婚約でしょ。よっぽど槇村さんが好きなのね」
「それはその、なんて言えば良いのか」
「分かってるわ。貴方を以前の部署に戻してあげようとしての配慮も含まれてるのよね」
「そうですよ。だからその、そういうことではないです」
「いやいや、かなり情熱的よ。なんせ十年諦めなかったんだものね」
「前園さん、あんまり揶揄わないでください」
「ふふ。ごちそうさま」
婚約指輪を買い直したことをうっかり話してしまったので、それからも食事中はしばらく揶揄われてしまったけれど、前園さんは自分のことのように喜んでくれた。
私に姉は居ないけれど、もし居たらこんな感じなのかも知れない。
ランチを終えてオフィスに戻ると、バタバタと仕事に追われて時間の流れが一気に早くなる。
前園さんに出された課題でテストと称したチェックを受けつつ、ミーティングの準備や片付けをこなし、浦野さんの秘書としてやっていく決意のようなものが固まっていく。
(引き継ぎが終わったら、これを一人でこなさないといけなくなるんだ)
気を引き締めて、先輩の胸を借りられるうちに、前園さんには些細なことも含めていくつも質問をして、覚えるべきことを頭に叩き込む。
「そろそろね」
前園さんの声にハッとして時間を確認すると、定時が迫っていることにようやく気付いて、デスクに広げていた書類をファイルに纏めていく。
「なんだか吹っ切れた顔をしてるわね、槇村さん」
「そうですか? 自分ではよく分からないですけど、きちんと向かい合おうとは思ってます」
「良い心掛けね。技術部門に居た秘書なんて他には居ないんだから、強みを活かしていきましょう」
「はい」
デスク周りを片付けてから、明日の予定を再確認しつつ前園さんと談笑していると、背後のドアが開いて柳川さんと響騎さんが顔を出した。
「お疲れ様です」
前園さんに続いて立ち上がると、二人に挨拶をして頭を下げる。
「前園さん、〈よし乃〉の手配は済んでるかな」
「はい。四名で手配済みです」
「助かるよ。森宮さんが今日は不在でね。では浦野さん、会長をお待たせしてはいけないから、槇村さんと一緒に早めに出なさい」
「はい」
話の流れに突然私の名前が出てギョッとすると、隣に立つ前園さんも少し驚いた顔をしているので、私が絡んでいることは把握していなかったらしい。
「槇村さん、もう出られるかな」
響騎さんは改めて私を見ると、帰り支度は整っているかと確認してきた。
「はい。すぐに出られます」
よく分からないままバッグを手に取ると、先にフロアを出ていく響騎さんをすぐに追う形で、柳川さんと前園さんに頭を下げて彼を追いかけた。
「悪いね。会長との会食が急遽決まって、その席に同席してもらう」
チラホラと社員の姿があるからか、響騎さんは対外的な様子で私に話しかける。
「私が同席ですか」
エレベーターホールでボタンを押すと、詳細が知りたくて響騎さんの顔を見上げる。
「詳しくは移動中に話す」
「分かりました」
到着したエレベーターに乗り込むと、無言のまま一階に降り、正面玄関から手配済みのハイヤーに乗って会社を後にした。
「なるほど。やっぱりそういう判断が降りたのね」
「そうなりました」
「色々と思うところはあるかも知れないけど、そう決まったのなら頑張りましょう」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
前園さんおすすめの山菜の天ぷらを頬張ると、話題は自然とおめでたいことに移る。
「それにしても、浦野さんってロマンチストなのね」
私の婚約指輪を見つめて前園さんがニヤッと笑う。
「はい?」
「だって、再会してすぐに婚約でしょ。よっぽど槇村さんが好きなのね」
「それはその、なんて言えば良いのか」
「分かってるわ。貴方を以前の部署に戻してあげようとしての配慮も含まれてるのよね」
「そうですよ。だからその、そういうことではないです」
「いやいや、かなり情熱的よ。なんせ十年諦めなかったんだものね」
「前園さん、あんまり揶揄わないでください」
「ふふ。ごちそうさま」
婚約指輪を買い直したことをうっかり話してしまったので、それからも食事中はしばらく揶揄われてしまったけれど、前園さんは自分のことのように喜んでくれた。
私に姉は居ないけれど、もし居たらこんな感じなのかも知れない。
ランチを終えてオフィスに戻ると、バタバタと仕事に追われて時間の流れが一気に早くなる。
前園さんに出された課題でテストと称したチェックを受けつつ、ミーティングの準備や片付けをこなし、浦野さんの秘書としてやっていく決意のようなものが固まっていく。
(引き継ぎが終わったら、これを一人でこなさないといけなくなるんだ)
気を引き締めて、先輩の胸を借りられるうちに、前園さんには些細なことも含めていくつも質問をして、覚えるべきことを頭に叩き込む。
「そろそろね」
前園さんの声にハッとして時間を確認すると、定時が迫っていることにようやく気付いて、デスクに広げていた書類をファイルに纏めていく。
「なんだか吹っ切れた顔をしてるわね、槇村さん」
「そうですか? 自分ではよく分からないですけど、きちんと向かい合おうとは思ってます」
「良い心掛けね。技術部門に居た秘書なんて他には居ないんだから、強みを活かしていきましょう」
「はい」
デスク周りを片付けてから、明日の予定を再確認しつつ前園さんと談笑していると、背後のドアが開いて柳川さんと響騎さんが顔を出した。
「お疲れ様です」
前園さんに続いて立ち上がると、二人に挨拶をして頭を下げる。
「前園さん、〈よし乃〉の手配は済んでるかな」
「はい。四名で手配済みです」
「助かるよ。森宮さんが今日は不在でね。では浦野さん、会長をお待たせしてはいけないから、槇村さんと一緒に早めに出なさい」
「はい」
話の流れに突然私の名前が出てギョッとすると、隣に立つ前園さんも少し驚いた顔をしているので、私が絡んでいることは把握していなかったらしい。
「槇村さん、もう出られるかな」
響騎さんは改めて私を見ると、帰り支度は整っているかと確認してきた。
「はい。すぐに出られます」
よく分からないままバッグを手に取ると、先にフロアを出ていく響騎さんをすぐに追う形で、柳川さんと前園さんに頭を下げて彼を追いかけた。
「悪いね。会長との会食が急遽決まって、その席に同席してもらう」
チラホラと社員の姿があるからか、響騎さんは対外的な様子で私に話しかける。
「私が同席ですか」
エレベーターホールでボタンを押すと、詳細が知りたくて響騎さんの顔を見上げる。
「詳しくは移動中に話す」
「分かりました」
到着したエレベーターに乗り込むと、無言のまま一階に降り、正面玄関から手配済みのハイヤーに乗って会社を後にした。
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる