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15-①
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家からすぐのカフェで、予定通りブランチを済ませると、響騎さんの車で改めて出かけることになった。
「あの、出る時にスマホ触ってましたけど大丈夫なんですか」
「心配ない。野暮用だ」
「野暮用って」
「それより、買い物行くなら服買うぞ」
「それ本気だったんですか」
「せっかくなんだ。仕事で着る服は戦闘服と同じだろ。無難にまとめてそれなりに見える服はいくらでもあるが、相手に舐められたくなければ、それなりの装備が必要だ」
「舐められるって、喧嘩でもしに行くんですか」
「似たようなもんだろ」
「違うと思います」
「そうか?」
可笑しそうに肩を揺らす響騎さんの休日スタイルはかなりラフで、アイボリーのヘンリーネックシャツに下はネイビーのクロップドパンツ。そして足元はフラットな白いエスパドリーユ。
髪はあえて崩した感じで、前髪を下ろしてルーズな感じにセットした上で、眼鏡までかけている。
「どうした。そんなじっくり見て」
「響騎さんて、視力悪かったんですか」
「フェイクだよ、考えてもみろ。華は昨日と同じ服。俺まで会社と同じ風体だったら、万が一誰かに見られた時、嫌なんじゃないか」
「そんなことまで考えてくれてたんですか」
「華が気にするだろうと思って気を遣ったのに。こんな変装は要らなかったか」
「いえ! ありがたい配慮です」
「俺は別に誰に見られても気にしないけどな」
「私は困ります。ただでさえこれからのことを考えると頭が痛いのに」
「別に良くないか? 元々恋人なんだから」
ちょうどタイミングよく信号待ちで停車すると、よく見るとレンズの入っていないフレームを動かしてふざけながら、オープンな関係で問題ないと響騎さんはつまらなさそうに顔を歪める。
「それは確かにそうかもしれせんけど、ずっと付き合ってたワケじゃないですし、話がややこしいんですよ。今回の人事が公私混同と取られて、響騎さんの立場が悪くなるでしょう?」
「公私混同ね。お互いに仕事を蔑ろにするようじゃ文句も出るだろうけど、そうじゃなければ言われる筋合いはないだろ」
「そんな訳ないじゃないですか。秘書課には優秀な人材が揃ってるんです。それをわざわざ、エンジニアの私を引っ張ってきただけでも不満が出てるのに、恋人だなんて知られたら」
「だからって華を指名した訳じゃない。人選は偶然だ」
「そんな言い訳は通用しませんよ」
楽観的とも取れる響騎さんの返事に食い下がると、信号が変わって車が動き出す。
「分かってるよ。だからこの変装だろ」
「そうですけど」
「そもそも、華は会社に認められた人材だから抜擢されたんだ。そんな公私混同が通るような規模の会社じゃないことくらい、考えたら分かるだろ」
「でも」
頭では分かっていても否定の言葉が出てしまう。
そんな私に少しだけ苛ついた様子で、響騎さんは被せ気味に反論してきた。
「だから俺は譲歩してるだろ。この先、会社でも必要以上に華に構うつもりはない。それともなにか? 会社でベタベタして欲しいのか」
「もう、また揶揄う」
「華が困ることはしない。出掛けるのもなるべくなら遠くにしよう。誰かしらの目に留まることはあるかもしれないけど、今日みたいに変装だってする。そこまでしか譲れない」
「私だって、別に響騎さんを困らせたくはないんです」
「ならもうこの話は終わり。どうしたって別れるつもりはないし、秘書の条件も譲れない」
「……分かりました」
響騎さんの言い分は分かる。だけど私の考えを受け入れてもらえないようでモヤモヤして消化不良になってしまう。
もちろん仕事をきちんとこなせば、確かに文句を言われる筋合いはない。
だけど私だって好きで異動した訳じゃないし、ずっとエンジニアでいたかった。そう思うと悔しくて、行き場を失った手を膝の上に乗せて力なく拳を握る。
「納得してない顔だな」
「あの、出る時にスマホ触ってましたけど大丈夫なんですか」
「心配ない。野暮用だ」
「野暮用って」
「それより、買い物行くなら服買うぞ」
「それ本気だったんですか」
「せっかくなんだ。仕事で着る服は戦闘服と同じだろ。無難にまとめてそれなりに見える服はいくらでもあるが、相手に舐められたくなければ、それなりの装備が必要だ」
「舐められるって、喧嘩でもしに行くんですか」
「似たようなもんだろ」
「違うと思います」
「そうか?」
可笑しそうに肩を揺らす響騎さんの休日スタイルはかなりラフで、アイボリーのヘンリーネックシャツに下はネイビーのクロップドパンツ。そして足元はフラットな白いエスパドリーユ。
髪はあえて崩した感じで、前髪を下ろしてルーズな感じにセットした上で、眼鏡までかけている。
「どうした。そんなじっくり見て」
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「フェイクだよ、考えてもみろ。華は昨日と同じ服。俺まで会社と同じ風体だったら、万が一誰かに見られた時、嫌なんじゃないか」
「そんなことまで考えてくれてたんですか」
「華が気にするだろうと思って気を遣ったのに。こんな変装は要らなかったか」
「いえ! ありがたい配慮です」
「俺は別に誰に見られても気にしないけどな」
「私は困ります。ただでさえこれからのことを考えると頭が痛いのに」
「別に良くないか? 元々恋人なんだから」
ちょうどタイミングよく信号待ちで停車すると、よく見るとレンズの入っていないフレームを動かしてふざけながら、オープンな関係で問題ないと響騎さんはつまらなさそうに顔を歪める。
「それは確かにそうかもしれせんけど、ずっと付き合ってたワケじゃないですし、話がややこしいんですよ。今回の人事が公私混同と取られて、響騎さんの立場が悪くなるでしょう?」
「公私混同ね。お互いに仕事を蔑ろにするようじゃ文句も出るだろうけど、そうじゃなければ言われる筋合いはないだろ」
「そんな訳ないじゃないですか。秘書課には優秀な人材が揃ってるんです。それをわざわざ、エンジニアの私を引っ張ってきただけでも不満が出てるのに、恋人だなんて知られたら」
「だからって華を指名した訳じゃない。人選は偶然だ」
「そんな言い訳は通用しませんよ」
楽観的とも取れる響騎さんの返事に食い下がると、信号が変わって車が動き出す。
「分かってるよ。だからこの変装だろ」
「そうですけど」
「そもそも、華は会社に認められた人材だから抜擢されたんだ。そんな公私混同が通るような規模の会社じゃないことくらい、考えたら分かるだろ」
「でも」
頭では分かっていても否定の言葉が出てしまう。
そんな私に少しだけ苛ついた様子で、響騎さんは被せ気味に反論してきた。
「だから俺は譲歩してるだろ。この先、会社でも必要以上に華に構うつもりはない。それともなにか? 会社でベタベタして欲しいのか」
「もう、また揶揄う」
「華が困ることはしない。出掛けるのもなるべくなら遠くにしよう。誰かしらの目に留まることはあるかもしれないけど、今日みたいに変装だってする。そこまでしか譲れない」
「私だって、別に響騎さんを困らせたくはないんです」
「ならもうこの話は終わり。どうしたって別れるつもりはないし、秘書の条件も譲れない」
「……分かりました」
響騎さんの言い分は分かる。だけど私の考えを受け入れてもらえないようでモヤモヤして消化不良になってしまう。
もちろん仕事をきちんとこなせば、確かに文句を言われる筋合いはない。
だけど私だって好きで異動した訳じゃないし、ずっとエンジニアでいたかった。そう思うと悔しくて、行き場を失った手を膝の上に乗せて力なく拳を握る。
「納得してない顔だな」
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