38 / 80
13-② 〈響騎視点〉
しおりを挟む
だからそんな日が当たり前みたいに、ずっと続いていくんだろうって思い始めた頃、今度は家柄がそもそも釣り合わないと、秘書を通じて狸オヤジがダメ押しの嫌味を言ってきた。
(家柄ってどういことだよ)
生まれた環境は変えようがない。そもそも俺の親は真面目に働いているし、小さいながらも整備工場を経営して人だって雇ってる。
その時に初めて、華が家族の話題が出る度に暗い顔をしていた理由をようやく悟った。
そんなある日、親戚の伯父さんが家を訪ねてきて、誰にも愚痴ることが出来なかった華とのことを何気なく溢した。世の中には理不尽が溢れてると。
だったらその理不尽を覆してみせろと、伯父さんは俺の肩を叩き、伯父さんとお袋は浦野の血縁者だと説明してくれた。
だから俺は、伯父さんに頼み込んで、狸オヤジが口にした家柄だとか地位なんてものに、なんとかして縋り付く算段をつけた。
(そう。算段がついたから、その時の俺は浮かれてた)
久々にゆっくりと華と過ごせる花火大会の日、あまりにも可愛過ぎて不意打ちみたいにキスした。
華は俺を拒まなかったし、全部が上手くいくと思い込んでた。
だけど現実はまたも思いとは反対の結果を生む。
あれは浦野の姓を名乗り、大学を卒業後にウラノに就職することが決まる大事な時期で、戸籍上俺の養父になるオッサンと、その末娘のご機嫌取りが忙しい時期だった。
浦野の血縁者であるお袋に挨拶がしたいと、お嬢様がうちに顔を出したタイミングで、まさかその場に華が鉢合わせするなんて考えもしなかった。
あの日は華と約束してたのに。
華がキスしてたと思い込んだのは、目にゴミが入ったとか騒ぐ女のご機嫌を取っていた時のことだろう。
正直なところどうでも良過ぎて一切覚えていないが、間違ってもキスなんかしてない。
そんな嫌な偶然が原因で、華から一方的に別れを告げられ、俺はそれが花火大会の日の華への身勝手なキスのせいだと思い込んでいた訳だけど、もつれた糸は十年経ってようやく解けた。
ちょっと考えれば分かるはずなのに、あの頃は狸オヤジに一泡吹かせることに必死になって、華自身をちゃんと見ていなかったのかもしれない。
「本当に、バカだったよな」
飲み終わったウイスキーを片付けると、足音を立てないように階段を上ってベッドルームに向かう。
スヤスヤと無防備に寝顔を晒して可愛らしい寝息を立てる華を見ていると、ようやく彼女を取り戻せたことに安堵の色が広がっていく。
「安心し切って寝やがって」
すぐ隣に腰掛けて、むにゃむにゃ呟く唇を摘んでやると、無意識だろうけど眉を寄せてすぐに手で振り払われてしまう。
俺は華がいればそれで良い。ようやく欲しかった彼女が俺の元に戻ってきた。
俺が浦野の姓を名乗り、実家の整備工場を辞めてウラノに入った切っ掛けに、あの狸オヤジが絡んでる話をしないのは、華が自分のせいだと思いかねないからだ。
(きっと自分のせいだって、また思い悩むだろうしな)
無防備に寝息を立てるあまりにも可愛らしい寝姿に、ひどく邪な劣情が込み上げるのを必死に堪えると、大きく深呼吸してベッドの隣に潜り込む。
もしかしたら二度と訪れることがなかったはずの、この幸せな時間がとんでもなく愛おしくて仕方ない。
華の頭をそっと抱え、首筋に腕を差し込み腕枕をして抱き寄せると、可愛い唇が先輩と寝言を呟いた。
「だから、響騎って呼べよ」
朝起きた時、華はどんな顔をするんだろうか。そう考えると寝るのが勿体無い気がしたけど、程よく酔いが回って、俺もすぐに夢の中に落ちていった。
(家柄ってどういことだよ)
生まれた環境は変えようがない。そもそも俺の親は真面目に働いているし、小さいながらも整備工場を経営して人だって雇ってる。
その時に初めて、華が家族の話題が出る度に暗い顔をしていた理由をようやく悟った。
そんなある日、親戚の伯父さんが家を訪ねてきて、誰にも愚痴ることが出来なかった華とのことを何気なく溢した。世の中には理不尽が溢れてると。
だったらその理不尽を覆してみせろと、伯父さんは俺の肩を叩き、伯父さんとお袋は浦野の血縁者だと説明してくれた。
だから俺は、伯父さんに頼み込んで、狸オヤジが口にした家柄だとか地位なんてものに、なんとかして縋り付く算段をつけた。
(そう。算段がついたから、その時の俺は浮かれてた)
久々にゆっくりと華と過ごせる花火大会の日、あまりにも可愛過ぎて不意打ちみたいにキスした。
華は俺を拒まなかったし、全部が上手くいくと思い込んでた。
だけど現実はまたも思いとは反対の結果を生む。
あれは浦野の姓を名乗り、大学を卒業後にウラノに就職することが決まる大事な時期で、戸籍上俺の養父になるオッサンと、その末娘のご機嫌取りが忙しい時期だった。
浦野の血縁者であるお袋に挨拶がしたいと、お嬢様がうちに顔を出したタイミングで、まさかその場に華が鉢合わせするなんて考えもしなかった。
あの日は華と約束してたのに。
華がキスしてたと思い込んだのは、目にゴミが入ったとか騒ぐ女のご機嫌を取っていた時のことだろう。
正直なところどうでも良過ぎて一切覚えていないが、間違ってもキスなんかしてない。
そんな嫌な偶然が原因で、華から一方的に別れを告げられ、俺はそれが花火大会の日の華への身勝手なキスのせいだと思い込んでいた訳だけど、もつれた糸は十年経ってようやく解けた。
ちょっと考えれば分かるはずなのに、あの頃は狸オヤジに一泡吹かせることに必死になって、華自身をちゃんと見ていなかったのかもしれない。
「本当に、バカだったよな」
飲み終わったウイスキーを片付けると、足音を立てないように階段を上ってベッドルームに向かう。
スヤスヤと無防備に寝顔を晒して可愛らしい寝息を立てる華を見ていると、ようやく彼女を取り戻せたことに安堵の色が広がっていく。
「安心し切って寝やがって」
すぐ隣に腰掛けて、むにゃむにゃ呟く唇を摘んでやると、無意識だろうけど眉を寄せてすぐに手で振り払われてしまう。
俺は華がいればそれで良い。ようやく欲しかった彼女が俺の元に戻ってきた。
俺が浦野の姓を名乗り、実家の整備工場を辞めてウラノに入った切っ掛けに、あの狸オヤジが絡んでる話をしないのは、華が自分のせいだと思いかねないからだ。
(きっと自分のせいだって、また思い悩むだろうしな)
無防備に寝息を立てるあまりにも可愛らしい寝姿に、ひどく邪な劣情が込み上げるのを必死に堪えると、大きく深呼吸してベッドの隣に潜り込む。
もしかしたら二度と訪れることがなかったはずの、この幸せな時間がとんでもなく愛おしくて仕方ない。
華の頭をそっと抱え、首筋に腕を差し込み腕枕をして抱き寄せると、可愛い唇が先輩と寝言を呟いた。
「だから、響騎って呼べよ」
朝起きた時、華はどんな顔をするんだろうか。そう考えると寝るのが勿体無い気がしたけど、程よく酔いが回って、俺もすぐに夢の中に落ちていった。
2
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる