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(39)彼の本気
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デセールのパヴロヴァとマカロンについつい頬を緩めていると、気に入ったみたいで良かったと一稀さんが優しい笑顔を浮かべた。
「ここはね、フランスの三つ星レストランでシェフも務めた新海さんが、日本でも気軽に本格的なフレンチをって、始めた店なんだ」
「さっきご挨拶に来たシェフ?」
「そう。どうしても彼のフレンチを食べて欲しくて。ズルしちゃったけどね」
「もうそれは良いよ。凄く美味しかったし」
思わず苦笑してしつこいのは嫌だと言うと、一稀さんが困ったように笑う。
「それでね、なーたん」
「ん?」
「君の左手の薬指、俺に予約させてくれないかな」
向かい合って座るテーブルの上で私の手に手を重ねると、一稀さんは至極真面目な顔で私を見つめた。
「それって」
「Life is not worth living without you.I love you from the bottom of my heart.I want to marry you.」
目を見つめたまま懇願するように呟くと、一稀さんはポケットから取り出したジュエリーケースを開けて私に差し出す。
可愛らしいシンプルなデザインのリングには、真ん中に大粒のダイヤと、その脇にメレダイヤの粒が連なっている。
「奏多、君の生涯をすぐ隣で見つめて過ごしたい。俺の願いを叶えてくれないかな」
出会ってからの時間なんて関係ないのかも知れない。一稀さんのそばに居ると疑問なくそう思える。
もちろんこれからたくさん色んなことが起こるだろうし、今日みたいに価値観や感覚が違うことも見えてくるだろう。
だけど私も彼のそばに居て、その生涯を一番近くで見ていたい。一緒に泣いたり笑ったり、一稀さんの隣で一緒にたくさんのことを感じていたいと思う。
「Don't you want to spend time together instead of just watching?The answer to the proposal is, of course, "yes." I say thousand times yes.」
久々に使う英語に自信はなかったけど、してやったりで笑う私とは対照的に、面食らったように驚いた顔をした一稀さんを見てると、ちゃんと通じたみたいでホッとする。
「私で良いなら叶えてあげる」
左手をグッと差し出して、はめてくれるんでしょと呟けば、破顔した一稀さんが少し震える手で薬指にエンゲージリングを着けてくれる。
「ああ、ダメだ。まだ緊張してる」
「一稀さんでも緊張するんだね」
「そりゃそうだよ。一生に一度のことだし」
「一度かどうか分かんないよ?人の心ってすぐに変わるんだから」
「なら何度でも君に恋をする。そして愛が深まる度にプロポーズしようかな」
「重たっ」
「酷くない?」
照れ隠しで重たいなんて言ったけど、嬉し過ぎてどうにかなりそうで、目の前の一稀さんの笑顔を見てると、凄く不思議な気持ちになる。
あの日、あんな風に拾うことがなければ、一稀さんと私の人生が交わることなんてなかったはずで、気持ちがすれ違ってしまった時だって、親に断ってれば今ここに座ることもなかった。
「なーたんどうしたの、そんな顔して」
「いや、生きてると想像もつかない面白いことが起こるなって。今二人で居ることもそうだし、こんな素敵なドレスとかもさ」
「俺ちょっとお小遣いあるんだよね。まあ冗談は置いといて、ゴミ捨て場に全裸の男が捨てられてることなんて、滅多にあることじゃないからね」
「そうだよ。しかもそんな人のこと、まさか好きになる?普通あり得ないよね、恋に落ちるなんて。私本当に、自分の危機管理意識の持ち方を見直したい」
「俺は最初からなーたんに興味津々だったよ。家に置かざるを得ないように駄々こねたでしょ」
「それは適当に試食したかっただけじゃないの」
「違うよー」
「どうだかね」
焦った一稀さんを揶揄うように舌を出すと、伸びてきた指で鼻を摘まれる。
「ちょっとやめてよ」
「あーもう、早くなーたん食べちゃいたい」
「またそれだ。一稀さんの頭の中にはそれしかないワケ?」
「それだけ魅力的ってことじゃない。今日のドレスだって凄くセクシーだし」
急に色っぽい視線を向けられて、一稀さんの本気にドキドキ心臓が跳ねる。私はどうしたってこの顔や声、この人自身に弱いのだ。
「随分と顔が真っ赤だね」
「そういうところが好きじゃない」
「本当に?」
「だから分かってるクセにそういうこと言うところ!」
「ふふ。じゃあそろそろ移動しようか」
立ち上がった一稀さんにエスコートされて店を出ると、タイミングを見計らって到着したリムジンに再び乗り込んで、シャンパンを呑みながら別の場所に移動する。
窓の外を流れていくイルミネーションを眺めながら、嘘のように贅沢な今の時間にまだ馴染めずにソワソワしてると、一稀さんの不埒な手が私の背中に忍び込んで脇腹をなぞる。
「こら」
「だって綺麗なんだもん。俺、なーたんの背中も好き。大好物」
「オッサンだねぇ」
「確かに若くはないけどさ」
私の手を取ってリング越しにキスをすると、一稀さんはとんでもなく甘い笑顔で私を見つめている。
「それより、これからどこ行くの」
ドキドキし始めたうるさい心臓の音を誤魔化すようにシャンパンを飲み干すと、握られた手を握り返して一稀さんを見つめる。
「それは着いてからのお楽しみ」
意味深に笑う一稀さんはそれ以上何も答えない。
そして、度肝を抜かれるって言葉がどういう意味なのか、私はその時初めて実感して身を震わせた。
なぜならそこは空港で、目の前にプライベートジェットがスタンバイしてたから。
「ここはね、フランスの三つ星レストランでシェフも務めた新海さんが、日本でも気軽に本格的なフレンチをって、始めた店なんだ」
「さっきご挨拶に来たシェフ?」
「そう。どうしても彼のフレンチを食べて欲しくて。ズルしちゃったけどね」
「もうそれは良いよ。凄く美味しかったし」
思わず苦笑してしつこいのは嫌だと言うと、一稀さんが困ったように笑う。
「それでね、なーたん」
「ん?」
「君の左手の薬指、俺に予約させてくれないかな」
向かい合って座るテーブルの上で私の手に手を重ねると、一稀さんは至極真面目な顔で私を見つめた。
「それって」
「Life is not worth living without you.I love you from the bottom of my heart.I want to marry you.」
目を見つめたまま懇願するように呟くと、一稀さんはポケットから取り出したジュエリーケースを開けて私に差し出す。
可愛らしいシンプルなデザインのリングには、真ん中に大粒のダイヤと、その脇にメレダイヤの粒が連なっている。
「奏多、君の生涯をすぐ隣で見つめて過ごしたい。俺の願いを叶えてくれないかな」
出会ってからの時間なんて関係ないのかも知れない。一稀さんのそばに居ると疑問なくそう思える。
もちろんこれからたくさん色んなことが起こるだろうし、今日みたいに価値観や感覚が違うことも見えてくるだろう。
だけど私も彼のそばに居て、その生涯を一番近くで見ていたい。一緒に泣いたり笑ったり、一稀さんの隣で一緒にたくさんのことを感じていたいと思う。
「Don't you want to spend time together instead of just watching?The answer to the proposal is, of course, "yes." I say thousand times yes.」
久々に使う英語に自信はなかったけど、してやったりで笑う私とは対照的に、面食らったように驚いた顔をした一稀さんを見てると、ちゃんと通じたみたいでホッとする。
「私で良いなら叶えてあげる」
左手をグッと差し出して、はめてくれるんでしょと呟けば、破顔した一稀さんが少し震える手で薬指にエンゲージリングを着けてくれる。
「ああ、ダメだ。まだ緊張してる」
「一稀さんでも緊張するんだね」
「そりゃそうだよ。一生に一度のことだし」
「一度かどうか分かんないよ?人の心ってすぐに変わるんだから」
「なら何度でも君に恋をする。そして愛が深まる度にプロポーズしようかな」
「重たっ」
「酷くない?」
照れ隠しで重たいなんて言ったけど、嬉し過ぎてどうにかなりそうで、目の前の一稀さんの笑顔を見てると、凄く不思議な気持ちになる。
あの日、あんな風に拾うことがなければ、一稀さんと私の人生が交わることなんてなかったはずで、気持ちがすれ違ってしまった時だって、親に断ってれば今ここに座ることもなかった。
「なーたんどうしたの、そんな顔して」
「いや、生きてると想像もつかない面白いことが起こるなって。今二人で居ることもそうだし、こんな素敵なドレスとかもさ」
「俺ちょっとお小遣いあるんだよね。まあ冗談は置いといて、ゴミ捨て場に全裸の男が捨てられてることなんて、滅多にあることじゃないからね」
「そうだよ。しかもそんな人のこと、まさか好きになる?普通あり得ないよね、恋に落ちるなんて。私本当に、自分の危機管理意識の持ち方を見直したい」
「俺は最初からなーたんに興味津々だったよ。家に置かざるを得ないように駄々こねたでしょ」
「それは適当に試食したかっただけじゃないの」
「違うよー」
「どうだかね」
焦った一稀さんを揶揄うように舌を出すと、伸びてきた指で鼻を摘まれる。
「ちょっとやめてよ」
「あーもう、早くなーたん食べちゃいたい」
「またそれだ。一稀さんの頭の中にはそれしかないワケ?」
「それだけ魅力的ってことじゃない。今日のドレスだって凄くセクシーだし」
急に色っぽい視線を向けられて、一稀さんの本気にドキドキ心臓が跳ねる。私はどうしたってこの顔や声、この人自身に弱いのだ。
「随分と顔が真っ赤だね」
「そういうところが好きじゃない」
「本当に?」
「だから分かってるクセにそういうこと言うところ!」
「ふふ。じゃあそろそろ移動しようか」
立ち上がった一稀さんにエスコートされて店を出ると、タイミングを見計らって到着したリムジンに再び乗り込んで、シャンパンを呑みながら別の場所に移動する。
窓の外を流れていくイルミネーションを眺めながら、嘘のように贅沢な今の時間にまだ馴染めずにソワソワしてると、一稀さんの不埒な手が私の背中に忍び込んで脇腹をなぞる。
「こら」
「だって綺麗なんだもん。俺、なーたんの背中も好き。大好物」
「オッサンだねぇ」
「確かに若くはないけどさ」
私の手を取ってリング越しにキスをすると、一稀さんはとんでもなく甘い笑顔で私を見つめている。
「それより、これからどこ行くの」
ドキドキし始めたうるさい心臓の音を誤魔化すようにシャンパンを飲み干すと、握られた手を握り返して一稀さんを見つめる。
「それは着いてからのお楽しみ」
意味深に笑う一稀さんはそれ以上何も答えない。
そして、度肝を抜かれるって言葉がどういう意味なのか、私はその時初めて実感して身を震わせた。
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