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(8)その提案、呑みましょう
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どうしてこんなことになったんだろうか。
ソファーの上で足を折って座る彼の手首と足首に、ビニール紐を通してくくりつける。
「ここまでしなくても良かったのでは」
「もっときつく縛られたら興奮しちゃうかも」
「ついでに口も塞いどきますか」
別に用意したガムテープをビリっと剥がすと、冗談だからと固定した手をバタバタさせる。
「ごめんごめん。でもこうしとかないと安心してお風呂入れないでしょ」
そうなのだ。
私がお風呂に安心して入れるようにと、彼が自分を拘束することを提案してきた。
痛くない、けれど身動きは取れないギリギリのラインを見極めつつ紐を固定すると、久々に触れる人の肌に体がゾワリと反応する。
くすぐったいねと笑う顔を盗み見ると、やっぱりこっちが照れてしまうくらい整った顔をしているので困る。
「じゃあ、お風呂入って来ます」
「ごめんね、テレビまでつけてもらって」
「リモコン持てますか」
「大丈夫。ありがと」
こうして私は、ゴミ捨て場で拾った彼を紐で拘束して風呂に入ることにして、着替えを持ってバスルームに入ると一気に大きな溜め息を吐き出す。
「はあ、何やってんだろうな」
実際そうだった。
ゴミ捨て場に捨てられた全裸の男の人だなんて、きっとロクなもんじゃない。なのに彼のあの限界突破した綺麗な顔に、感覚が麻痺してしまったんだろうか。
浴室の扉を開くと、まだ中が暖かくて他人が使ってたんだと嫌でも認識させられる。
元彼とは、彼の家に行くことの方が多くて、彼が家に泊まることはほとんどなかったから、この家で他人の気配を感じることに緊張が走る。ましてリビングにいる人は全くの赤の他人だ。
パネルを操作して湯船を張り直しながらシャワーを浴びると、ようやく肩の力が抜けて来て、この後どうするべきなのか、まともに考える冷静さが戻ってきた。
彼は通報しようとした私の腕を取って、保険証や身分証を持ってないからダメだと言った。
「拾ったものの、帰る場所があるなら帰した方がいいよね」
捨てた人が居るとして、今になって探してるかも知れない。中身までは分からないけどあの見た目だ。痴話喧嘩の延長上、怒りに任せた行動だったのかも知れない。
(そんなヒステリックな彼女、私ならヤダけど)
くだらないことを考えながらトリートメントを洗い流すと、髪を一纏めにしてお団子を作り、ちょうどいい温度になった湯船に浸かって体を伸ばす。
「はぁああ」
本当なら今頃は、コンビニで買ってきたビールを呑んでツマミを頬張りながら、ソファーでそのまま寝落ちしてた頃だろう。
普段ならイヤホンで音楽を爆音で流しながら通る帰り道で、たまたま充電が切れて音楽が聴けなかったから、僅かな雨音の違いに気付いてゴミ捨て場に捨てられたあの人を見つけてしまった。
「本当に、ヤバい人だったらどうしよ」
一抹の不安を感じながらも、そんな人が紐で自分を拘束するだろうかなんて、呑気なことを考えて、ゆっくりと湯船で体を温める。
(あのお兄さんも、このお風呂入ったんだよね)
不意に思い出して、のぼせたくらい顔が真っ赤になるのを感じたから、バシャンと音を立てて湯船を何度か叩くと、冷静になるように自分言い聞かせる。
充分体が温まったところで浴室を出ると、ロングパーカーの下にレギンスを穿いて、ドライヤーを手に髪を乾かす。
自分の髪を乾かしているのに、彼が近付く度にふわりと香ったシャンプーの匂いがして、嗅ぎ慣れた香りなのにドキドキする。
「だって、めちゃくちゃカッコいいんだもん。あんなの反則じゃない?」
誰に言うでもなく小さく呟くと、その声はドライヤーの音に掻き消され、チラリと鏡越しに目があった自分は、恋でもしてるような顔をしてて恥ずかしくなった。
30年生きてきて、それなりに恋もしてきたけど、自分が面食いだと思ったことは一度もない。だけどそれは、本物の男前と呼ばれる人を、見たことがなかっただけなんだと思い知らされる。
「大丈夫。整い過ぎてドキッとしただけ」
引き締まった体や顔が思い浮かぶけど、暗示のように呟いて、ドライヤーを止めて伸ばしっぱなしで手入れもしてない髪に、久々にヘアオイルを馴染ませて丁寧に手入れをする。
決して彼の気を引きたいわけじゃない。自分の髪から彼と同じ香りがしてくるだけでドキドキするのをどうにかしたかっただけ。
バスルームを出てリビングに向かうと、縛られた格好のままで楽しげにテレビを見る彼の姿があって、なんだか拍子抜けする。
「お待たせしました。痛いですよね、それ取りましょうか」
「上がったんだ。おかえり」
足首の辺りで掌をパタパタさせるのを苦笑して受け流すと、ペン立てからハサミを取り出して固く結んだビニール紐を切って拘束を解く。
「これでだいじょ……」
大丈夫ですよね。そう言って離れようとした瞬間に、長い手脚を絡めて閉じ込めるように抱き締められた。
「あはは、捕まえた。ホカホカしててあったかいね、さすがお風呂上がり。あれ、何この甘い匂い。俺これ好きかも」
「ちょっ」
膝立ちの状態で目一杯抱き締められて、片手に持ってたハサミがラグの上に滑り落ちた。
ソファーの上で足を折って座る彼の手首と足首に、ビニール紐を通してくくりつける。
「ここまでしなくても良かったのでは」
「もっときつく縛られたら興奮しちゃうかも」
「ついでに口も塞いどきますか」
別に用意したガムテープをビリっと剥がすと、冗談だからと固定した手をバタバタさせる。
「ごめんごめん。でもこうしとかないと安心してお風呂入れないでしょ」
そうなのだ。
私がお風呂に安心して入れるようにと、彼が自分を拘束することを提案してきた。
痛くない、けれど身動きは取れないギリギリのラインを見極めつつ紐を固定すると、久々に触れる人の肌に体がゾワリと反応する。
くすぐったいねと笑う顔を盗み見ると、やっぱりこっちが照れてしまうくらい整った顔をしているので困る。
「じゃあ、お風呂入って来ます」
「ごめんね、テレビまでつけてもらって」
「リモコン持てますか」
「大丈夫。ありがと」
こうして私は、ゴミ捨て場で拾った彼を紐で拘束して風呂に入ることにして、着替えを持ってバスルームに入ると一気に大きな溜め息を吐き出す。
「はあ、何やってんだろうな」
実際そうだった。
ゴミ捨て場に捨てられた全裸の男の人だなんて、きっとロクなもんじゃない。なのに彼のあの限界突破した綺麗な顔に、感覚が麻痺してしまったんだろうか。
浴室の扉を開くと、まだ中が暖かくて他人が使ってたんだと嫌でも認識させられる。
元彼とは、彼の家に行くことの方が多くて、彼が家に泊まることはほとんどなかったから、この家で他人の気配を感じることに緊張が走る。ましてリビングにいる人は全くの赤の他人だ。
パネルを操作して湯船を張り直しながらシャワーを浴びると、ようやく肩の力が抜けて来て、この後どうするべきなのか、まともに考える冷静さが戻ってきた。
彼は通報しようとした私の腕を取って、保険証や身分証を持ってないからダメだと言った。
「拾ったものの、帰る場所があるなら帰した方がいいよね」
捨てた人が居るとして、今になって探してるかも知れない。中身までは分からないけどあの見た目だ。痴話喧嘩の延長上、怒りに任せた行動だったのかも知れない。
(そんなヒステリックな彼女、私ならヤダけど)
くだらないことを考えながらトリートメントを洗い流すと、髪を一纏めにしてお団子を作り、ちょうどいい温度になった湯船に浸かって体を伸ばす。
「はぁああ」
本当なら今頃は、コンビニで買ってきたビールを呑んでツマミを頬張りながら、ソファーでそのまま寝落ちしてた頃だろう。
普段ならイヤホンで音楽を爆音で流しながら通る帰り道で、たまたま充電が切れて音楽が聴けなかったから、僅かな雨音の違いに気付いてゴミ捨て場に捨てられたあの人を見つけてしまった。
「本当に、ヤバい人だったらどうしよ」
一抹の不安を感じながらも、そんな人が紐で自分を拘束するだろうかなんて、呑気なことを考えて、ゆっくりと湯船で体を温める。
(あのお兄さんも、このお風呂入ったんだよね)
不意に思い出して、のぼせたくらい顔が真っ赤になるのを感じたから、バシャンと音を立てて湯船を何度か叩くと、冷静になるように自分言い聞かせる。
充分体が温まったところで浴室を出ると、ロングパーカーの下にレギンスを穿いて、ドライヤーを手に髪を乾かす。
自分の髪を乾かしているのに、彼が近付く度にふわりと香ったシャンプーの匂いがして、嗅ぎ慣れた香りなのにドキドキする。
「だって、めちゃくちゃカッコいいんだもん。あんなの反則じゃない?」
誰に言うでもなく小さく呟くと、その声はドライヤーの音に掻き消され、チラリと鏡越しに目があった自分は、恋でもしてるような顔をしてて恥ずかしくなった。
30年生きてきて、それなりに恋もしてきたけど、自分が面食いだと思ったことは一度もない。だけどそれは、本物の男前と呼ばれる人を、見たことがなかっただけなんだと思い知らされる。
「大丈夫。整い過ぎてドキッとしただけ」
引き締まった体や顔が思い浮かぶけど、暗示のように呟いて、ドライヤーを止めて伸ばしっぱなしで手入れもしてない髪に、久々にヘアオイルを馴染ませて丁寧に手入れをする。
決して彼の気を引きたいわけじゃない。自分の髪から彼と同じ香りがしてくるだけでドキドキするのをどうにかしたかっただけ。
バスルームを出てリビングに向かうと、縛られた格好のままで楽しげにテレビを見る彼の姿があって、なんだか拍子抜けする。
「お待たせしました。痛いですよね、それ取りましょうか」
「上がったんだ。おかえり」
足首の辺りで掌をパタパタさせるのを苦笑して受け流すと、ペン立てからハサミを取り出して固く結んだビニール紐を切って拘束を解く。
「これでだいじょ……」
大丈夫ですよね。そう言って離れようとした瞬間に、長い手脚を絡めて閉じ込めるように抱き締められた。
「あはは、捕まえた。ホカホカしててあったかいね、さすがお風呂上がり。あれ、何この甘い匂い。俺これ好きかも」
「ちょっ」
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