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(7)このイケメン、キケンかも

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「ごちそうさまでした」
「あり物だったけど、お腹の足しになりましたか」
「それどころか美味しくて、あっという間に食べちゃった。料理上手だね」
「それなら良かったです」
 極上の笑顔で微笑まれて、どうしていいか分からなくて曖昧に笑って返すと、彼が食べ終えた皿を片付けるために立ち上がる。
「あ、片付けは俺がするよ」
「いいですよ。大した量じゃないんで」
「ダメだよ。自分で食べた分だからやるよ」
「じゃあ、お願いします。その間タバコ吸ってもいいですか」
「いーよ」
 一瞬嫌がられるかと思ったけど、眉ひとつ動かさずに笑顔を向けられてホッとした自分に違うでしょと思う。
 ここは私の家だし、彼はゴミ捨て場から拾った人。私が気を遣う必要なんてどこにもないんだと心の中で苦笑した。
 そう広くないキッチンに並んで立つと、私は換気扇の下でタバコに火をつけた。
「へえ、KOOL吸うんだ」
 思いの外手早く洗い物をする彼の手元を見つめていると、洗い物は得意なんだよと目線より上から不意打ちの笑顔を向けられてしまう。
「これで良ければ吸いますか」
「え、いいの」
「別に構いませんよ」
「ありがと」
 そう言って嬉しそうに笑いながら、キッチンペーパーで水気まで拭き取って、食器を棚に戻す姿が印象的だった。私は自然乾燥派で、その手順を踏む癖がないからだ。
 ガスコンロの上に無造作に置いてるタバコとライターを手に取ると、彼はボックスから取り出した一本を口に咥えて火をつける。
「タバコ吸うんですね」
「全然。実は10年ぶりくらい」
「え?」
「これ吸ってたからさ、懐かしくて。お姉さん美味そうに吸うし」
 美味そうにタバコを吸うなんて言われたことがない。どういう意味か分からないまま、私は黙って煙を吐き出す。
「10年ぶりのタバコはどうですか」
「んまい」
「そうですか。やめるに越したことないですけどね」
「お姉さんはいつから吸ってるの」
 彼氏と別れて禁煙もやめたことを思い出して、ついなんとも言えない顔をしてしまう。
「2年半頑張りましたけど、ダメでしたね」
「そんな顔するほど好きだったの」
「へ?」
「恋人のためにタバコやめてたんじゃないの」
 覗き込むように目を合わされてドキッとする。
 それに何より、顔色ひとつでそんなことまでバレてしまうものなのかと驚かされる。
 何も言えなくて曖昧に笑うと、キスされるのかと思うほど近付いた唇が弧を描いて妖艶に引き上げられる。
「今キスしたらどんな味がするだろうね」
「…………」
 やめてだとか、揶揄わないでと一言でも返したら、彼の唇が触れてしまいそうで声が出せない。
 この人から感じるキケンな香りはきっと気のせいじゃない。冷静に考えれば分かる、ゴミ捨て場に捨てられるような人なんだから。
「ごめん、びっくりさせたみたいだね」
 そしてまた悪びれた様子もなく謝ると、彼は姿勢を戻してタバコをふかし、少しだけ短くなったそれを灰皿に押し付けた。
 自分は吸い終わったクセに食器棚にもたれて、リビングに戻らずに私がタバコを吸い終わるのを待ってる感じがどうも緊張する。
「ソファーに座ってた方があったかいですよ」
「お姉さんは優しいね」
「いや、風邪とか引かれたら看病の手間が増えるんで」
「へえ」
 暗にリビングに行って欲しいと伝えても、分かってないのか聞く気がないのか、彼はその場を動く気配がない。
「ぶぇえっ、くしゅん」
 そんなタイミングで、私が汚点とする他人に聞かれたくない最低のくしゃみが出てしまった。
「随分カワイイね、くしゃみ」
「いや可愛くないんで忘れてくだ……へえぇっ、くしゅん」
「はは、本当カワイイ。それよりやっぱり冷えたんじゃないの、お風呂入っておいでよ」
「さすがにそこまで不用心になれないです」
 タバコを吸い終えて灰皿を片付けると、その様子を見ながら彼が思い至ったように呟く。
「ああ俺か。そっか」
 それから何か考え込むように黙り込んだ彼を置いてリビングに戻ると、ようやく何か思いついたのか、閃いたような顔をしてまた声を掛けられる。
「雑誌とか縛る紐ないかな。それかガムテープ」
「荷造りでもするんですか」
「そうね、ある意味そうかもね」
 クスッと笑う彼だけど、ゴミ捨て場に捨てられた全裸男のクセに何を言っているんだろう。
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