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(4)禁煙に失敗した私
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愛花との久々の飲み会を終え、ラッシュも過ぎた週末の電車で自宅の最寄駅に到着すると、いつから降っていたのか、もの凄い土砂降りで辺りにビニール傘の花が咲いている。
「すご、土砂降りじゃん」
駅前のコンビニまで小走りで向かうと、濡れたところをハンドタオルで拭きながら、懲りずにビールを数本と乾き物のおつまみ、ポテトチップスなんかをカゴに放り込む。
雑誌コーナーでチラリと見えた結婚情報誌に、なんとも言えない気持ちにさせられるのは、別に元彼がどうこうより、この歳でもやっぱり結婚には憧れがあるからかも知れない。
(結婚か……)
確かに。着られるものなら純白のウェディングドレスに身を包んで、教会のステンドグラスから差し込む日差しがプリズムみたいに光る中で、子供の頃に夢見たようなお嫁さんになりたい。
まあそうするためにも、その隣に立ってくれる愛しい人を見つけなきゃいけないんだけど、愛花にも答えたけど、正直なところ今は恋愛に前向きにはなれない。
それにしたって、自分の幼稚過ぎる漠然とした結婚のイメージに苦笑しながら、新商品らしいアイスとスイーツを適当に追加すると、レジに並ぶライターを見てタバコが切れているのを思い出した。
「すみません、袋付けてもらって良いですか。あと、KOOLの12ミリ二つください」
私の悪い癖。彼氏と別れて2年半続けた禁煙が呆気なく終わったこと。またヘビースモーカーに逆戻りするのはあっという間だった。
30にもなって、タバコが害悪なのは百も承知してるけど、吸ってないとやってられない気持ちになるのは、長く喫煙を続けてきた弊害なんだと思う。
たくさん買い込んで、ガサガサ音がするビニール袋を肘の内側に引っ掛けるように持つと、コンビニを出た瞬間更に雨足が強まった。
「うわ、これ大丈夫かな」
肩に掛けたカバンから折り畳み傘を引っ張り出すと、土砂降りの雨が傘を叩く音を聞きながら家に向かって歩き出す。
雨はもの凄い勢いで叩きつけるように降っていて、風がないのは幸いだけど、折り畳み傘では追い付かないほどの勢いに、駅から7、8分程度の帰り道もタクシーを使いたくなる。
ブルっと大きく震えてライダースジャケットの胸元を合わせると、マフラーを巻いてくればよかったと今更ながら後悔して、ずぶ濡れになった足で水溜りを蹴る。
今日に限ってワイヤレスイヤホンの充電が切れちゃって、雨の音を聞きながら大通りを走る車が水飛沫を上げる様子を眺めて歩く。
その大通りからビジネスホテルの角を裏道に入って次の角を右、さらにその先の路地を左、そうすればもう自宅のマンションに着く。
雨音に掻き消される鼻唄を歌いながら、チカチカ光る街灯が照らす夜道を歩いて、いつも通りに裏通りに向かって角を曲がる。
いつもなら気にも掛けない曲がり角の先、パシパシと雨を弾く音が大きく響いて、通りからは死角になったゴミ捨て場に、山のように積まれたゴミ袋が目に入った。
「ここって解放されてたっけ」
ホテルのゴミ捨て場なのに扉が解放されてることに違和感を覚えたけど、何気なく呟いて通り過ぎようとした時、積まれたゴミ袋の上にある大きな黒い影がマネキンだと気付いてギョッとする。
「うわっ」
思わず声が出たけど、この土砂降りではその声も掻き消される。
(ホテルの備品?よく分かんないけど脅かさないでよ……)
ゴミ袋がベッドのように、マネキンはそこに埋もれて仰向けになっている。
街頭が照らす暗い夜道でも、そんなゴミはあまりにもミスマッチで、薄気味悪くて少し背筋がゾクっとする。
視線の端の珍しいゴミに驚きつつも、恐怖が勝ってそのまま通り過ぎようとしてから、どうしてだか不意に胸騒ぎを覚えた。
「え、あれ。なんだろ」
プラスチックであろうマネキンに雨が当たっている割に、ゴミ袋に打ち付ける雨の音は響いてるのに、マネキン本体に降り付ける雨音がどうも鈍い。
明らかに薄気味悪さを感じながらも、心に湧き上がった好奇心を抑えられずに、そこでようやく目を凝らして、ゴミ捨て場に近付いた私は驚きのあまり息を呑んだ。
「ひっ」
「…………」
ゴミ袋に大粒の雨が叩きつけて、弾ける音が辺りに響いてる。
そのゴミ捨て場のゴミ袋に混ざって捨てられてるのは、マネキンなんかじゃなくて人だった。
「すご、土砂降りじゃん」
駅前のコンビニまで小走りで向かうと、濡れたところをハンドタオルで拭きながら、懲りずにビールを数本と乾き物のおつまみ、ポテトチップスなんかをカゴに放り込む。
雑誌コーナーでチラリと見えた結婚情報誌に、なんとも言えない気持ちにさせられるのは、別に元彼がどうこうより、この歳でもやっぱり結婚には憧れがあるからかも知れない。
(結婚か……)
確かに。着られるものなら純白のウェディングドレスに身を包んで、教会のステンドグラスから差し込む日差しがプリズムみたいに光る中で、子供の頃に夢見たようなお嫁さんになりたい。
まあそうするためにも、その隣に立ってくれる愛しい人を見つけなきゃいけないんだけど、愛花にも答えたけど、正直なところ今は恋愛に前向きにはなれない。
それにしたって、自分の幼稚過ぎる漠然とした結婚のイメージに苦笑しながら、新商品らしいアイスとスイーツを適当に追加すると、レジに並ぶライターを見てタバコが切れているのを思い出した。
「すみません、袋付けてもらって良いですか。あと、KOOLの12ミリ二つください」
私の悪い癖。彼氏と別れて2年半続けた禁煙が呆気なく終わったこと。またヘビースモーカーに逆戻りするのはあっという間だった。
30にもなって、タバコが害悪なのは百も承知してるけど、吸ってないとやってられない気持ちになるのは、長く喫煙を続けてきた弊害なんだと思う。
たくさん買い込んで、ガサガサ音がするビニール袋を肘の内側に引っ掛けるように持つと、コンビニを出た瞬間更に雨足が強まった。
「うわ、これ大丈夫かな」
肩に掛けたカバンから折り畳み傘を引っ張り出すと、土砂降りの雨が傘を叩く音を聞きながら家に向かって歩き出す。
雨はもの凄い勢いで叩きつけるように降っていて、風がないのは幸いだけど、折り畳み傘では追い付かないほどの勢いに、駅から7、8分程度の帰り道もタクシーを使いたくなる。
ブルっと大きく震えてライダースジャケットの胸元を合わせると、マフラーを巻いてくればよかったと今更ながら後悔して、ずぶ濡れになった足で水溜りを蹴る。
今日に限ってワイヤレスイヤホンの充電が切れちゃって、雨の音を聞きながら大通りを走る車が水飛沫を上げる様子を眺めて歩く。
その大通りからビジネスホテルの角を裏道に入って次の角を右、さらにその先の路地を左、そうすればもう自宅のマンションに着く。
雨音に掻き消される鼻唄を歌いながら、チカチカ光る街灯が照らす夜道を歩いて、いつも通りに裏通りに向かって角を曲がる。
いつもなら気にも掛けない曲がり角の先、パシパシと雨を弾く音が大きく響いて、通りからは死角になったゴミ捨て場に、山のように積まれたゴミ袋が目に入った。
「ここって解放されてたっけ」
ホテルのゴミ捨て場なのに扉が解放されてることに違和感を覚えたけど、何気なく呟いて通り過ぎようとした時、積まれたゴミ袋の上にある大きな黒い影がマネキンだと気付いてギョッとする。
「うわっ」
思わず声が出たけど、この土砂降りではその声も掻き消される。
(ホテルの備品?よく分かんないけど脅かさないでよ……)
ゴミ袋がベッドのように、マネキンはそこに埋もれて仰向けになっている。
街頭が照らす暗い夜道でも、そんなゴミはあまりにもミスマッチで、薄気味悪くて少し背筋がゾクっとする。
視線の端の珍しいゴミに驚きつつも、恐怖が勝ってそのまま通り過ぎようとしてから、どうしてだか不意に胸騒ぎを覚えた。
「え、あれ。なんだろ」
プラスチックであろうマネキンに雨が当たっている割に、ゴミ袋に打ち付ける雨の音は響いてるのに、マネキン本体に降り付ける雨音がどうも鈍い。
明らかに薄気味悪さを感じながらも、心に湧き上がった好奇心を抑えられずに、そこでようやく目を凝らして、ゴミ捨て場に近付いた私は驚きのあまり息を呑んだ。
「ひっ」
「…………」
ゴミ袋に大粒の雨が叩きつけて、弾ける音が辺りに響いてる。
そのゴミ捨て場のゴミ袋に混ざって捨てられてるのは、マネキンなんかじゃなくて人だった。
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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