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「混雑はすると思いますけど、どうですかね」
「俺は構わないよ。だけど妊婦さんだから心配だね」
「早めに着いたら場所取れますかね」
「どうだろう。俺、花火大会とか見に行ったことないかも知れない」
「本当ですか」
「うん。多分行ってたとしても、子どもの頃じゃないかな」
「じゃあ尚更行きましょう」
「香澄ちゃんは浴衣着ないの?」
「残念ながら持ってなくて。それに今突然決めたので、レンタルとかも難しいでしょうし」
「花火大会は何時からなんだっけ」
樹貴さんに言われてスマホをチェックすると、まだまだ時間には余裕がある。
「打ち上げは十九時半からみたいですね」
「それなら移動時間から逆算して……うん、ギリギリいけるかな」
「何がいけるんですか」
「とりあえず、すぐ出ようか。俺がうちの店に連絡入れるから、お友だちも一緒に浴衣着て花火大会に行こう」
「え、良いんですか」
「香澄ちゃんの浴衣姿、見たいからね」
すぐに支度してと言われて、まずは美咲に声を掛けると、突然のことに驚きながらも嬉しそうなので、私は部屋に引き返して服を着替える。
まさか樹貴さんの店に行くのに、こんなTシャツとハーフパンツで出向く訳にはいかない。
「着替えやすいように、前開きの服の方が良いよ」
「あ、そうですね」
クローゼットから黒のノースリーブシャツとグリーンのフレアスカートを取り出すと、樹貴さんには後ろを向いてもらって着替えを済ませる。
「なんかバタバタしちゃって、しかもお休みなのにごめんなさい」
「いいよ。俺が香澄ちゃんの浴衣見たいだけだもん」
「樹貴さんは着ないんですか」
「え、俺も? その発想はなかった」
「どうしてですか。用意出来るなら一緒に着ませんか」
「あ、その顔、俺の浴衣を脱がせたいのかな」
「もう、また揶揄う」
「でもちょっと想像したでしょ」
くだらないやり取りをして、持ちやすいポーチに最低限の荷物を詰めると、樹貴さんが突然後ろから私を抱き締める。
「どうしたんですか」
「うん。お友だちも居るしイチャつけないだろうから、今のうちに香澄ちゃん補給してる」
「本当にありがとうございます」
「いいよ。お礼は身体で払ってね」
「また、そういうことを」
「あはは。じゃあ早めに出ようか」
「はい」
二人でそのまま雑談しながら部屋を出ると、リビングで目を冷やしながら待っていた美咲が、樹貴さんを見るなり口をあんぐり開けて固まった。
「ちょっと美咲」
この顔は樹貴さんのカッコ良さに驚いているんだろうことは分かっていても、初対面でこんな反応は失礼だ。
肘で脇腹を突くと、ハッと我に返った美咲が小さく咳払いをして頭を下げながら挨拶する。
「ゆっくりお過ごしのところ、邪魔してしまってすみません」
「構いませんよ。浴衣に着替えた方が楽しめると思うので、ちょっと早いけどもう出られますか」
「はいっ。私はいつでも大丈夫です」
完全にのぼせ上がった様子の美咲に、思わず樹貴さんと一緒に苦笑すると、早速玄関に移動して家を出る。
家の鍵を閉めたのを確認すると、エレベーターに乗り込んで一階のエントランスでポストの中身を確認すると、外気が入り込む場所は、むっとした湿気を含んだ熱気に頭が痛くなる。
「やっぱりまだ暑いですね」
「俺ちょっと先に行って車冷やすから、香澄ちゃんはお友だちとゆっくりおいで」
そう言い残して先に駐車場に向かった樹貴さんを見送ると、ここぞとばかりに美咲から質問攻めに合った。
「俺は構わないよ。だけど妊婦さんだから心配だね」
「早めに着いたら場所取れますかね」
「どうだろう。俺、花火大会とか見に行ったことないかも知れない」
「本当ですか」
「うん。多分行ってたとしても、子どもの頃じゃないかな」
「じゃあ尚更行きましょう」
「香澄ちゃんは浴衣着ないの?」
「残念ながら持ってなくて。それに今突然決めたので、レンタルとかも難しいでしょうし」
「花火大会は何時からなんだっけ」
樹貴さんに言われてスマホをチェックすると、まだまだ時間には余裕がある。
「打ち上げは十九時半からみたいですね」
「それなら移動時間から逆算して……うん、ギリギリいけるかな」
「何がいけるんですか」
「とりあえず、すぐ出ようか。俺がうちの店に連絡入れるから、お友だちも一緒に浴衣着て花火大会に行こう」
「え、良いんですか」
「香澄ちゃんの浴衣姿、見たいからね」
すぐに支度してと言われて、まずは美咲に声を掛けると、突然のことに驚きながらも嬉しそうなので、私は部屋に引き返して服を着替える。
まさか樹貴さんの店に行くのに、こんなTシャツとハーフパンツで出向く訳にはいかない。
「着替えやすいように、前開きの服の方が良いよ」
「あ、そうですね」
クローゼットから黒のノースリーブシャツとグリーンのフレアスカートを取り出すと、樹貴さんには後ろを向いてもらって着替えを済ませる。
「なんかバタバタしちゃって、しかもお休みなのにごめんなさい」
「いいよ。俺が香澄ちゃんの浴衣見たいだけだもん」
「樹貴さんは着ないんですか」
「え、俺も? その発想はなかった」
「どうしてですか。用意出来るなら一緒に着ませんか」
「あ、その顔、俺の浴衣を脱がせたいのかな」
「もう、また揶揄う」
「でもちょっと想像したでしょ」
くだらないやり取りをして、持ちやすいポーチに最低限の荷物を詰めると、樹貴さんが突然後ろから私を抱き締める。
「どうしたんですか」
「うん。お友だちも居るしイチャつけないだろうから、今のうちに香澄ちゃん補給してる」
「本当にありがとうございます」
「いいよ。お礼は身体で払ってね」
「また、そういうことを」
「あはは。じゃあ早めに出ようか」
「はい」
二人でそのまま雑談しながら部屋を出ると、リビングで目を冷やしながら待っていた美咲が、樹貴さんを見るなり口をあんぐり開けて固まった。
「ちょっと美咲」
この顔は樹貴さんのカッコ良さに驚いているんだろうことは分かっていても、初対面でこんな反応は失礼だ。
肘で脇腹を突くと、ハッと我に返った美咲が小さく咳払いをして頭を下げながら挨拶する。
「ゆっくりお過ごしのところ、邪魔してしまってすみません」
「構いませんよ。浴衣に着替えた方が楽しめると思うので、ちょっと早いけどもう出られますか」
「はいっ。私はいつでも大丈夫です」
完全にのぼせ上がった様子の美咲に、思わず樹貴さんと一緒に苦笑すると、早速玄関に移動して家を出る。
家の鍵を閉めたのを確認すると、エレベーターに乗り込んで一階のエントランスでポストの中身を確認すると、外気が入り込む場所は、むっとした湿気を含んだ熱気に頭が痛くなる。
「やっぱりまだ暑いですね」
「俺ちょっと先に行って車冷やすから、香澄ちゃんはお友だちとゆっくりおいで」
そう言い残して先に駐車場に向かった樹貴さんを見送ると、ここぞとばかりに美咲から質問攻めに合った。
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