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一人暮らしを続けるとなると、最低限の条件に絞り込んでも、希望通りの物件が見つからない住宅情報サイトのホームページを閉じて、タブレットを投げ出して大きく伸びをした。
「考えてても仕方ないし、気晴らしにご飯食べに行こっかな」
冷蔵庫に食材がないワケじゃないけど、どうしても自炊してご飯を食べる気力が湧かないし、夕飯を食べる程度ならお財布事情に響かない。
どの店に行こうかと、駅前のご飯屋さんを思い浮かべながら着替えを済ませて、スマホが入る小さなポーチを手に取る。
私の休みはシフト制で不規則だし、今日は週末でもないから店が混雑してる事もないだろう。
「ビール飲みたいし、あそこの中華にしようかな」
誰に聞かせるでもない独り言を呟きながら、ポーチに財布とスマホ、ハンドタオルをねじ込むと、姿見の前で服装をチェックする。
ワンショルダーのスモーキーオレンジのカットソーに、ボトムは黒のガウチョパンツ。
これから行こうと思ってるお店は、町に馴染んだ古くからある中華屋さんだし、これくらいラフでも問題ないだろう。
「よし。餃子とビールだな」
すっかり中華を食べるつもりの口になったところで、トングサンダルを履いて玄関を開けると、夏独特の湿度をはらんだ空気に、腕が早くもジトっとしてくる。
「もう二十時なのに、まだこんな暑いのやめてよ」
エレベーターに乗り込んでマンションを出ると、帰宅する人波に逆らうように駅前を目指す。
とにかく、引越しのことをきちんと考えないといけないのは分かってるけど、独り身の現実を叩き付けられて、正直なところ今はあまり何も考えたくない。
美咲と二人、彼氏がいない生活は、本当に気楽で居心地が良すぎたんだと思う。
だけど私も、もう二十七。
「私だって、出来るものなら彼氏欲しいよ。どっかにイイ男落ちてないかな」
呟いて悲しくなった。だってそれくらい独り身のブランクは長すぎるし、もうどうやって男の人と出逢うのかすら分からない。
美咲は運命の出会いを果たしたけど、私の場合はもう三年も恋人が出来る気配がないんだから、このまま波風立たずに気が付いたら三十、四十と一人で過ごすのかも知れない。
そう思うとゾッとした。
だって、今までずっと誰かと一緒にしか生活してこなかった。
それがここに来て急に一人きりになるなんて、そんな日常に耐えていけるんだろうかと思うと、寂しさと焦燥感に襲われるのと同時に情けなくなってくる。
「あら、いらっしゃい。今日は一人なの? 悪いけどカウンターでいいかしら」
「はい。もうお腹ぺこぺこで。それにしても凄い混んでますね」
「そうなのよ。嬉しい悲鳴ね」
店に入るなり想像とは違った盛況ぶりに、聞けば雑誌の取材を受けてお客さんが増えたのだと、愛想の良い女将さんが答えてくれた。
「じゃあ、とりあえず生ビールと焼き餃子、それから茄子の山椒揚げください」
セルフで水を汲んでからカウンターの一番端の席に座って、渡されたおしぼりで手を拭くと、早速運ばれてきた生ビールをガッと喉に流し込む。
「あぁあ! 生き返るぅう」
キンキンに冷えたビールを飲んで思わず声に出すと、一つ椅子を挟んだ隣に座ったお客さんが、クスッと笑う声が聞こえて気が立ってしまう。
女が一人で生ビール飲んじゃ悪いんですかね、そんな意味を込めて少しイラついた視線を向けると、私を笑ったお客さんと目が合って、今度は驚きでしゃっくりが出た。
「んひっ」
咄嗟に口元を手で覆ったものの、一つ椅子を挟んだ隣のお客さんは、僅かに目を見張ってから、笑いを堪えるように肩を揺らしている。
「考えてても仕方ないし、気晴らしにご飯食べに行こっかな」
冷蔵庫に食材がないワケじゃないけど、どうしても自炊してご飯を食べる気力が湧かないし、夕飯を食べる程度ならお財布事情に響かない。
どの店に行こうかと、駅前のご飯屋さんを思い浮かべながら着替えを済ませて、スマホが入る小さなポーチを手に取る。
私の休みはシフト制で不規則だし、今日は週末でもないから店が混雑してる事もないだろう。
「ビール飲みたいし、あそこの中華にしようかな」
誰に聞かせるでもない独り言を呟きながら、ポーチに財布とスマホ、ハンドタオルをねじ込むと、姿見の前で服装をチェックする。
ワンショルダーのスモーキーオレンジのカットソーに、ボトムは黒のガウチョパンツ。
これから行こうと思ってるお店は、町に馴染んだ古くからある中華屋さんだし、これくらいラフでも問題ないだろう。
「よし。餃子とビールだな」
すっかり中華を食べるつもりの口になったところで、トングサンダルを履いて玄関を開けると、夏独特の湿度をはらんだ空気に、腕が早くもジトっとしてくる。
「もう二十時なのに、まだこんな暑いのやめてよ」
エレベーターに乗り込んでマンションを出ると、帰宅する人波に逆らうように駅前を目指す。
とにかく、引越しのことをきちんと考えないといけないのは分かってるけど、独り身の現実を叩き付けられて、正直なところ今はあまり何も考えたくない。
美咲と二人、彼氏がいない生活は、本当に気楽で居心地が良すぎたんだと思う。
だけど私も、もう二十七。
「私だって、出来るものなら彼氏欲しいよ。どっかにイイ男落ちてないかな」
呟いて悲しくなった。だってそれくらい独り身のブランクは長すぎるし、もうどうやって男の人と出逢うのかすら分からない。
美咲は運命の出会いを果たしたけど、私の場合はもう三年も恋人が出来る気配がないんだから、このまま波風立たずに気が付いたら三十、四十と一人で過ごすのかも知れない。
そう思うとゾッとした。
だって、今までずっと誰かと一緒にしか生活してこなかった。
それがここに来て急に一人きりになるなんて、そんな日常に耐えていけるんだろうかと思うと、寂しさと焦燥感に襲われるのと同時に情けなくなってくる。
「あら、いらっしゃい。今日は一人なの? 悪いけどカウンターでいいかしら」
「はい。もうお腹ぺこぺこで。それにしても凄い混んでますね」
「そうなのよ。嬉しい悲鳴ね」
店に入るなり想像とは違った盛況ぶりに、聞けば雑誌の取材を受けてお客さんが増えたのだと、愛想の良い女将さんが答えてくれた。
「じゃあ、とりあえず生ビールと焼き餃子、それから茄子の山椒揚げください」
セルフで水を汲んでからカウンターの一番端の席に座って、渡されたおしぼりで手を拭くと、早速運ばれてきた生ビールをガッと喉に流し込む。
「あぁあ! 生き返るぅう」
キンキンに冷えたビールを飲んで思わず声に出すと、一つ椅子を挟んだ隣に座ったお客さんが、クスッと笑う声が聞こえて気が立ってしまう。
女が一人で生ビール飲んじゃ悪いんですかね、そんな意味を込めて少しイラついた視線を向けると、私を笑ったお客さんと目が合って、今度は驚きでしゃっくりが出た。
「んひっ」
咄嗟に口元を手で覆ったものの、一つ椅子を挟んだ隣のお客さんは、僅かに目を見張ってから、笑いを堪えるように肩を揺らしている。
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