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15.②
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美鳥は早速セールになったブーツとコートを買ってご機嫌な様子だけど、私はピンとくるものがなくてまだなにも購入していない。
既に小一時間はうろうろしてるので、そろそろ少しお茶でも飲みたいねと休憩モードになった私たちは、飲食店が軒を連ねるコーナーに移動した。
「ねえ、ここのタルト美味しそうじゃない?」
「本当だ。あ、なんか雑誌で見たよ。海外の有名なパティシエのお店じゃないかな」
「うわ、すごい行列」
「なるべく並ばずに休憩したいよね」
「でも土曜日だし、家族連れも多いもんね」
「そっか。ランチの時間だからどの店も混むのか」
「カフェならマシだと思うけどね」
どの店でお茶するか、混雑状況も見ながらゆっくり出来る店を探していると、美鳥が不意に辺りを見回してキョロキョロし始めた。
「どうかしたの」
「いや、今知り合いが居た気がして」
「そうなの?」
「気のせいかも。あ、あの店はどうかな。席が空いてるっぽい」
「よし、入ってからメニュー決めよう」
ショーウィンドウにケーキがたくさん並んだカフェに目星をつけると、案内された席に座って注文を終え、ようやく一息つく。
「秋菜もなんか買いなよ。さっきのアウター気になってたんじゃないの」
「うん。でも少し待てばセールになるかなって」
「あー。確かに。そういうタイミングってあるよね。買ってすぐセールになるとか、ゲンナリしちゃうもんね」
「そうなんだよ。なんでもタイミングだよ」
不意に凌さんのことが頭をよぎり、せっかくリフレッシュしにきたのにと小さく首を振る。
そして運ばれてきたチーズケーキにフォークを入れると、中からトロッとベリーソースが溢れてきた。
「うわ、これ凄いよ美鳥。食べる?」
「え、いいの。じゃあこっちもどうぞ」
美鳥が頼んだザッハトルテは、ジューシーなアプリコットジャムの酸味とチョコのほろ苦さ、シャリッとした舌触りがクセになるほど美味しい。
「このカフェ当たりだったね」
「ね」
もう一個くらいペロリと食べられそうだとか、他のメニューも気になるなんて話しながら、ケーキと紅茶を楽しんでいると、何気なく窓の外に目を向けた美鳥が驚いた顔で動きを止めた。
「美鳥? どうかしたの」
「ごめん、やっぱりさっきの知り合いだったみたい。ちょっと声掛けて来てもいいかな」
「そうなの? それは別に構わないけど」
「本当ごめん。ちょっと席外すね」
ショッピングモールで見かけたからって、声を掛けるほどの知り合いなんてどんな関係の人なんだろうか。
仕事関係の人なんだろうかと思いながら、店の外に出た美鳥を何気なく視線で追うと、人混みに紛れて上品なご婦人の手を握って深刻そうな顔をして話し込んでいる。
(なんだろう。仕事関係じゃないのかな)
あまりプライベートに立ち入ってはいけないかと思い、視線を戻そうとした瞬間、ご婦人の隣に立つ男性に目を奪われた。
「え……」
思わずフォークを落とし、食器とぶつかる音が鳴ってハッとする。
美鳥が手を握る女性の隣に立っているのは、紛れもなく凌さんで、彼は美鳥と面識があるのか、深刻そうな雰囲気の中、美鳥の肩を叩いて励ますような仕草を見せる。
(どういうこと? 二人は知り合いだったの)
状況が分からずに窓の外を覗いていると、ちょうど美鳥がこちらを指して何かを説明してる様子だった。
だけど店内の様子までは分からないのだろう。凌さんもチラリとこちらを見たけど、私に気が付いた様子はない。
急にドキドキし始めた心臓が痛い。
確かに取引先の社員なんだから凌さんが美鳥と知り合いだったとしても、別に不思議なことじゃないかも知れない。
だけど彼が大輔の奥さんである果穂乃さんの元カレで、騒動の渦中に居る人であることに変わりはない。
既に小一時間はうろうろしてるので、そろそろ少しお茶でも飲みたいねと休憩モードになった私たちは、飲食店が軒を連ねるコーナーに移動した。
「ねえ、ここのタルト美味しそうじゃない?」
「本当だ。あ、なんか雑誌で見たよ。海外の有名なパティシエのお店じゃないかな」
「うわ、すごい行列」
「なるべく並ばずに休憩したいよね」
「でも土曜日だし、家族連れも多いもんね」
「そっか。ランチの時間だからどの店も混むのか」
「カフェならマシだと思うけどね」
どの店でお茶するか、混雑状況も見ながらゆっくり出来る店を探していると、美鳥が不意に辺りを見回してキョロキョロし始めた。
「どうかしたの」
「いや、今知り合いが居た気がして」
「そうなの?」
「気のせいかも。あ、あの店はどうかな。席が空いてるっぽい」
「よし、入ってからメニュー決めよう」
ショーウィンドウにケーキがたくさん並んだカフェに目星をつけると、案内された席に座って注文を終え、ようやく一息つく。
「秋菜もなんか買いなよ。さっきのアウター気になってたんじゃないの」
「うん。でも少し待てばセールになるかなって」
「あー。確かに。そういうタイミングってあるよね。買ってすぐセールになるとか、ゲンナリしちゃうもんね」
「そうなんだよ。なんでもタイミングだよ」
不意に凌さんのことが頭をよぎり、せっかくリフレッシュしにきたのにと小さく首を振る。
そして運ばれてきたチーズケーキにフォークを入れると、中からトロッとベリーソースが溢れてきた。
「うわ、これ凄いよ美鳥。食べる?」
「え、いいの。じゃあこっちもどうぞ」
美鳥が頼んだザッハトルテは、ジューシーなアプリコットジャムの酸味とチョコのほろ苦さ、シャリッとした舌触りがクセになるほど美味しい。
「このカフェ当たりだったね」
「ね」
もう一個くらいペロリと食べられそうだとか、他のメニューも気になるなんて話しながら、ケーキと紅茶を楽しんでいると、何気なく窓の外に目を向けた美鳥が驚いた顔で動きを止めた。
「美鳥? どうかしたの」
「ごめん、やっぱりさっきの知り合いだったみたい。ちょっと声掛けて来てもいいかな」
「そうなの? それは別に構わないけど」
「本当ごめん。ちょっと席外すね」
ショッピングモールで見かけたからって、声を掛けるほどの知り合いなんてどんな関係の人なんだろうか。
仕事関係の人なんだろうかと思いながら、店の外に出た美鳥を何気なく視線で追うと、人混みに紛れて上品なご婦人の手を握って深刻そうな顔をして話し込んでいる。
(なんだろう。仕事関係じゃないのかな)
あまりプライベートに立ち入ってはいけないかと思い、視線を戻そうとした瞬間、ご婦人の隣に立つ男性に目を奪われた。
「え……」
思わずフォークを落とし、食器とぶつかる音が鳴ってハッとする。
美鳥が手を握る女性の隣に立っているのは、紛れもなく凌さんで、彼は美鳥と面識があるのか、深刻そうな雰囲気の中、美鳥の肩を叩いて励ますような仕草を見せる。
(どういうこと? 二人は知り合いだったの)
状況が分からずに窓の外を覗いていると、ちょうど美鳥がこちらを指して何かを説明してる様子だった。
だけど店内の様子までは分からないのだろう。凌さんもチラリとこちらを見たけど、私に気が付いた様子はない。
急にドキドキし始めた心臓が痛い。
確かに取引先の社員なんだから凌さんが美鳥と知り合いだったとしても、別に不思議なことじゃないかも知れない。
だけど彼が大輔の奥さんである果穂乃さんの元カレで、騒動の渦中に居る人であることに変わりはない。
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