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11.⑤
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明け方になって目を覚ました私は、まだ眠っている凌さんを起こさないようにベッドを出ると、服を着替えて帰り支度を整える。
何度も激しく抱かれ、まだ奥に彼の存在を感じるほど違和感が残っているけれど、ショーツを履いてブラをつけると、着てきた服に着替えて彼に借りたパジャマを畳む。
窓の外はまだ暗いけれど、この時間ならもう電車は走っているはずだ。
「凌さん、私帰りますね」
眠っている彼にキスをすると、不意に手が伸びて抱き留められ、啄むだけのキスのはずが、舌を絡めた濃厚なものに変わる。
「んぅっ、凌さん」
「……んっ。帰るなら送ってく」
「大丈夫ですよ。電車で帰ります」
「ダメ」
そう答えてまたキスをすると、凌さんはゆっくり起き上がり、床に散らばった服をかき集めてその場でサッと着替えを済ませる。
「コーヒーだけ飲ませて」
「私なら本当に大丈夫ですよ」
「俺がそうしたいから送らせて」
「……はい」
凌さんはキッチンに移動すると、マグカップにインスタントコーヒーを適当に放り込み、ケトルで沸かしたお湯でそれを溶いて大きなあくびを噛み殺す。
「秋菜ちゃんも飲む?」
「私は大丈夫です」
テーブルの上にあったペットボトルのお茶を指差すと、コーヒーの良い香りにグゥッとお腹が鳴った。
「ごめんね、食べるもののことまで考えてなかった」
申し訳なさそうな顔をする凌さんに首を振ると、家に帰ればどうとでもなると返してお茶を飲んだ。
「あ、そうだ」
「ん? どうしたんですか」
突然なにかを思い出したように膝を叩いた凌さんの様子にびっくりすると、彼はそのまま立ち上がって寝室に向かう。
そして作業用のデスクの引き出しを探ると、なにかを掴んでまたリビングに戻ってきた。
「はい。これ忘れ物」
凌さんがそう言って差し出したのは、私が彼と初めて会った日につけていたピアスだ。
あの時泊まったホテルに忘れてきたものとばかり思っていたから、諦めてすっかり忘れていたのに、まさか凌さんが持っていたとは。
「どうしたんですか、これ」
「あの日、忘れ物がないか確認してる時に見つけたんだよ。咄嗟にポケットに入れたまま、渡すの忘れてた」
「そうだったんですね」
「うん。改札で見送った時に気付いたんだけど、もう声が聞こえてないみたいで、あの時渡せなかった」
「なんだかすみません」
「いや、やっと返せて良かったよ」
凌さんは安堵したようにそう答えた。
何度も激しく抱かれ、まだ奥に彼の存在を感じるほど違和感が残っているけれど、ショーツを履いてブラをつけると、着てきた服に着替えて彼に借りたパジャマを畳む。
窓の外はまだ暗いけれど、この時間ならもう電車は走っているはずだ。
「凌さん、私帰りますね」
眠っている彼にキスをすると、不意に手が伸びて抱き留められ、啄むだけのキスのはずが、舌を絡めた濃厚なものに変わる。
「んぅっ、凌さん」
「……んっ。帰るなら送ってく」
「大丈夫ですよ。電車で帰ります」
「ダメ」
そう答えてまたキスをすると、凌さんはゆっくり起き上がり、床に散らばった服をかき集めてその場でサッと着替えを済ませる。
「コーヒーだけ飲ませて」
「私なら本当に大丈夫ですよ」
「俺がそうしたいから送らせて」
「……はい」
凌さんはキッチンに移動すると、マグカップにインスタントコーヒーを適当に放り込み、ケトルで沸かしたお湯でそれを溶いて大きなあくびを噛み殺す。
「秋菜ちゃんも飲む?」
「私は大丈夫です」
テーブルの上にあったペットボトルのお茶を指差すと、コーヒーの良い香りにグゥッとお腹が鳴った。
「ごめんね、食べるもののことまで考えてなかった」
申し訳なさそうな顔をする凌さんに首を振ると、家に帰ればどうとでもなると返してお茶を飲んだ。
「あ、そうだ」
「ん? どうしたんですか」
突然なにかを思い出したように膝を叩いた凌さんの様子にびっくりすると、彼はそのまま立ち上がって寝室に向かう。
そして作業用のデスクの引き出しを探ると、なにかを掴んでまたリビングに戻ってきた。
「はい。これ忘れ物」
凌さんがそう言って差し出したのは、私が彼と初めて会った日につけていたピアスだ。
あの時泊まったホテルに忘れてきたものとばかり思っていたから、諦めてすっかり忘れていたのに、まさか凌さんが持っていたとは。
「どうしたんですか、これ」
「あの日、忘れ物がないか確認してる時に見つけたんだよ。咄嗟にポケットに入れたまま、渡すの忘れてた」
「そうだったんですね」
「うん。改札で見送った時に気付いたんだけど、もう声が聞こえてないみたいで、あの時渡せなかった」
「なんだかすみません」
「いや、やっと返せて良かったよ」
凌さんは安堵したようにそう答えた。
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