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5.☆ 凌視点

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 秋菜ちゃんと出会う切っ掛けになったとはいえ、果穂乃からパーティーに顔を出せと言われた時は、俺を晒し者にして笑うつもりなのかと、さすがに怒りで頭が沸騰しそうだった。
 だから気合いを入れてパーティー会場に足を運んだのは、果穂乃に直接文句を言うためだったけれど、そんな祝いの席で、まるでお通夜に来たみたいな空気の彼女が目に入って冷静になった。
 秋菜ちゃんは泣いてなかったけど、俯いた姿はあまりにも悲痛で、放っておいたら泣き出すのは時間の問題なんじゃないかと思って思わず声を掛けてしまった。
 お誕生日席で下品に笑う二人を見て胸糞悪いと呟くと、そんな俺をギョッとした様子で見てたなと、思い出し笑いをしてしまう。
「しかし、彼女の理由はハードだったな」
 浮気男の結婚しようなんて言葉、彼女は本気で信じてたらしく深く傷付いてて、声を殺して泣く姿は思わず抱き締めたくなって焦ったくらいだ。
(まあ結果的に手も出しちゃったんだけど)
 休日出勤しているメンツの様子を見ながら、自分のオフィスにこもるとパソコンの電源を入れ、とりあえず残してしまった仕事を片付けるためにキーボードを叩く。
 俺の職場は、俺自身が学生時代に立ち上げたメンズ向けのアパレルブランドで、ありがたいことに売り上げを伸ばした結果、企業として俺が社長を任されている。
 幼い頃からファッションには興味があって、人と被らずに着たい物を着るにはどうするか考えた結果、自分でデザインした服や小物を使っているのを友人に褒められた。
 その言葉を間に受けて、細々とネットで売り始めたのが始まりで、あれよあれよと商売の規模がデカくなり、十年以上経った今では社員を百人以上抱える立場になった。
 だけど恋愛はからっきし。服を作ることに没頭して、いつの間にか自分を着飾る楽しみからも遠ざかって、毎日目まぐるしいほどに仕事に追われる日々。
 すっかり見た目に気を遣わなくなった俺を心配したのか、友人が良かれと思って紹介してくれたのが果穂乃だった訳だけど、あれは完全にハズレ。
 本気でパーティーをぶち壊すつもりで会場に殴り込んだけど、あんな女にクレームをつけたところで、小馬鹿にされて終わりだろう。
 だからあの程度の暴言が精一杯だった。
 そもそも果穂乃は俺の仕事を知らないし、いつものダサい見た目で判断したのか、俺の財布にしか興味を持たなかった。
 だから秋菜ちゃんに言った通り、あの女が野暮ったくて冴えない俺を彼氏にするつもりはなくて、財布としてしか見てなかったのは事実だ。
 嫌なことを思い出してしまったと首を振ると、ポケットの中でスマホが震えた。
 明け方に電話が鳴った時は何事かと思ったけれど、生産工場の倉庫から出火して、商品の大半がダメになった可能性が高いと報告を受けた時はさすがに動揺した。
(秋菜ちゃん、無事に家に着いんだろうか)
 倉庫の火事の件で、急遽現地に向かうことになってしまって、結局駅までしか彼女を送ることは出来なかった。
 改札口で秋菜ちゃんを見送りながら、ふとポケットに入れたままのピアスに気付いて、連絡先すら交換してないことにあの時初めて気が付いた。
 だから咄嗟に呼び戻そうと声を張り上げたけど、彼女が戻ってくることはなかった。
 秋菜ちゃんは多分、純粋で真面目な人なんだと思う。だからこそ傷付いても、幼馴染みの誘いを断ることが出来なくてあの場所に来たんだろう。
 それを考えると胸の奥がズクンと重く痛む気がして、自分のことではないのに酷く悲しい気持ちになった。
 そんな彼女をこの腕の中に堕としたことに、罪悪感を感じながらも、僅かな多幸感を抱えた自分が嫌になる。
「もう一度会いたいな」
 きっと俺は秋菜ちゃんに肩入れしてしまっている。
 向こうはただ単に、傷付いた心を癒して欲しかったから、縋るような思いしかなかったはずだ。
 だけど俺は、華奢な肩が震えるのをすぐそばで見てしまった。
 秋菜ちゃんが心底良い人間だからこそ、今度は楽しい会話をしてみたい。そんな欲が出てきてしまう。
「……ガキじゃあるまいし」
 長く恋愛をしてこなかった反動のように、彼女を思い浮かべると、俺に好意があるのかと勘違いしそうになる。
(可愛くて、そのまま腕の中に閉じ込めておきたかった)
 それなのに連絡先の一つすら聞き出さないまま、仕事の話も詳しくは聞かなかったので、彼女のことを探そうにも手立てがない。
「本当、なにやってんだろうな」
 情けなくてそんな声が漏れた。
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