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(11)評価マイナスのお兄様とご縁がありまして

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 騒ぐ翔璃に強引に拉致されるように、私は勝手知ったる実家のリビングのソファーで家族と向き合っている。
「急に帰ってきたと思ったら、翔ちゃんと一緒なんて珍しいのね」
 のんびりしたお母さんとは対照的に、カナダにいた頃はあまり時間が噛み合わずにやり取りが少なかったお父さんは、私の変わり果てた姿にずっと驚いてる。
「美都真、お前本当に美都真か」
「お父さん、自分の娘を見ても分からないとか終わってるよ」
 私の変化に動揺するお父さんを宥めていると、翔璃は優吾と楽しそうに全く関係のない話をし始めた。
「それで今日はどうしたの」
「いや、私もよく分かんないけど、翔璃が実家に顔出せってうるさくて」
 笑って誤魔化して頭を掻くと、目ざとく指輪に気付いたお母さんが、ニヤニヤしながらちょっと待っててと席を立ってしまった。
「翔くん、姉ちゃん帰ってきてから会ったりしてたんだ」
「いや、偶然再会してそれからだから、そんなに」
「だよね。前に飲んだ時そんなこと言ってなかったもんね」
「優吾、翔璃に奢らせたんだってね」
「そりゃそうでしょ。俺まだ社会人になって一年目だよ。ナっちゃんだって奢ってくれるし。姉ちゃんもせっかく日本に帰ってきたんだし、今度飲みに行こうよ」
「仕方ないなあ」
 動転してるお父さんは放っておいて、翔璃と優吾を交えてたわいない雑談で盛り上がっていると、慌てた様子でリビングに菜智が駆け込んできた。
「美都真! ずっと連絡してんのに全然既読になんないと思ったら、アンタこんなとこでなにしてんの」
「そうだったの。ごめん、スマホ見てなかった」
「本当にそういうとこあるよね。て言うかちょっと、なんで兄貴が居んのよ」
「よお」
「よお、じゃないわよ。え……ちょっと美都真、話あるからこっち来て」
 菜智の鬼の形相に、翔璃と顔を合わせてから目配せすると、ソファーを立ち上がってリビングを出て、昔私が使ってた二階の部屋に移動する。
「どういうことか説明してくれるよね」
 バタンと激しく音を立ててドアを閉めると、お母さんが今でも掃除をしてくれてるらしい部屋のベッドに座って、学習机の椅子に反対向きに座った菜智と対峙する。
「どういうって言うか、どこから話せばって言うか、どうするのが良いんだろうね」
「アンタまさか、本当に兄貴に手ぇ出されたの」
「いやぁ、妹の菜智にあまり生々しい話は、ね」
「待って、ちょっと待って。その顔まさか、こっちに帰って来てからの関係じゃないってこと」
「う……、その、なんて言うか」
「マジでか。うわぁ、最低じゃんクソ兄貴」
 なんとなく全容を理解したらしい菜智は、咄嗟に渋い顔をして頭を抱えて唸り始めた。
「いや違う、ちょっと説明出来ないけど違うから」
「え、待って。じゃあ兄貴が女遊び辞めたってのが本当の話で、それは美都真が原因ってこと」
「は?」
 初めて聞く話題に少しばかり驚く。
「え、だって、カナダ行ってる間も連絡取ってたんじゃないの」
「いや、それはしてない」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ。え? どういうことよ。じゃああのバカ、大人しくしてると思ったらやっぱり遊んでるってこと?」
「いや、それも知らない」
「はあ?」
 仕方なく切っ掛けだけは端折って、留学以前にひと騒動あったことと、つい一昨日の夜のこととは言わず、帰国してから偶然再会したことを説明する。
「え、じゃあなに、あのヤリチンがアンタに操立てるって言ったってこと? ウケるんだけど」
「いや、そもそも宝刀を収めたかどうかも分からないし、今でも相手が私だけなのかどうなのか。とりあえず片想いじゃないみたいで、なんだかんだで今日一緒にここに来たんだけどね」
「じゃあその指輪、やっぱりそういうことなの」
「うん。まあ、翔璃の気持ちが変わらなければね」
「うわぁ。ごめん、美都真の恋人って分かってても、そのがっつき具合いに引くわぁ」
「勢いがね、こうグイグイね」
「まあでも兄貴にとってもアンタはある意味で、ちっさい頃から特別だったもん。だからこそ、美都真にだけは一生手は出せないと思ってたんだけどな」
「や、色々タイミング的なね。あったんじゃないかな」
 まさか菜智を相手に、自分の恋人として翔璃の話をする日が来るとは夢にも思わなかった。
「私だって美都真の恋バナ聞きたいけど、相手が兄貴だと思うと萎えるから我慢してんの。あぁもう! もっとガッツリ話したいのに」
「だったら私のこの微妙な気持ちも分かるでしょ」
 それでもおめでとうと苦笑を浮かべる菜智は、相手には納得できないけどと不服そうにするので、やんわりとそれを宥める。
「美都真、ナっちゃん、下降りて来て」
 一階から私たちを呼ぶ声が聞こえて、とりあえず話を切り上げてリビングに戻ると、お母さんが呼んできたらしく、植垣のおじさんとおばさんがソファーに座っていた。
「ご無沙汰してます」
「やだ美都真ちゃん! どうしたの、そんなにスレンダーな美人さんになって」
 立ち上がったおばさんは、私をハグしてからマジマジと観察するように頭のてっぺんか爪先まで念入りに視線を巡らせる。
 それはそうだ。赤ん坊の頃からの付き合いで、ころころに太ってた私しか知らないおばさんにとっては、この姿の方が違和感もあるだろう。
 同じようにおじさんも、見違えたねとニコニコして私を見てる。
「ちょっと母さん、美都真が困るでしょ」
 菜智がおばさんを引き剥がすと、それを待っていたかのように翔璃が口を開く。
「ちょっとみんなに話があって。美都真おいで」
 手招きされてなんとなく翔璃の隣に立つけど、どうも緊張する上になんとなくバツが悪い。
「どうしたのお兄ちゃん」
 植垣のおばさんが朗らかに笑いながら翔璃に声を掛けると、みんなに座ってもらってから、改めて翔璃は私の腰に手を添える。
「おじさんもおばさんも、俺じゃ不服だろうけど絶対大事にするから、美都真と結婚前提に付き合うの許して欲しい」
 翔璃が私の両親に頭を下げるので、私も慌てて植垣のおじさんとおばさんに頭を下げる。
 リビングの空気がなんだかおかしなものになると、咳払いした優吾が口火を切る。
「良かったんじゃない? 姉ちゃん奥手だし、翔くんなら昔のことも知ってるし。あれ、昔から付き合ってたのかな。まあどっちでも良いんだけど」
 昔のことと聞いて、全員が私を見つめながら遠くに意識を飛ばしているのが分かる。
 そう。ダイエットに成功したけど、元々は九十キロ超えのおデブちゃんの私だ。きっと翔璃を知ってるからこそ、私が痩せて変身を遂げたからこの関係になったと思うんだろう。
「ふふ、お兄ちゃん、やっと自分が誰のこと好きなのか気が付いたのね」
 そんな中、植垣のおばさんとおじさんだけは、ニコニコしながら美都真ちゃんは特別だものねと笑っている。
「由香里ちゃん、うちの美都真で手を打って良いの」
「どうしてよ、美都真ちゃんなら翔璃もお利口にするでしょ」
 お母さんとおばさんはそんな会話をしながらキッチンに消えていき、お父さんは驚きながらもおじさんに諭されて翔璃の手を取ると、私をよろしくと言ってようやく笑った。
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