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ダミー
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「えっ!」
理久は、そこにいる、クロに笑いかける余りに自分クリソツの男子に驚愕した。
「あれ、誰?どういう事?」
理久は呆然として言って、アビの方を見た。
「すいません…僕は、陛下にも助けていただいたのに、理久さんを元の世界に返してしまうはずだったし、何より魔法陣を直せなかったお詫びのつもりで…陛下には、理久さんそっくりの別人を造り…陛下を愛するようインプットしてプレゼントしました」
アビは、申し訳なさそうに理久から視線を逸らせた。
「そんな…そんな…俺を今すぐクロの所へ返してくれ!それに、俺に似た奴を贈って、クロが喜ぶとでも思ったのか?」
理久の声が、怒りで震えた。
「もし、理久さんが一人御自分の世界に帰ったなら、陛下の悲しみはいかばかりに深かったでしょう。そうなれば、自分の都合の悪い真実より、自分の都合の良い嘘の方が幸せだと言う事もあります。それは、人も獣人も同じですよ…」
唖然とする理久を尻目に、アビは続ける。
「理久さん…魔法と言うのは、神の真似事でしかありません。魔法で誰かそっくりのダミーを造ったとしても神のように完璧は難しいのです。だから、理久さんとあのダミーの理久さんには、やはり若干の違いが出るはずです」
「はぁ?!」
「でも、陛下はきっと、それに気付こうか気付くまいが理久さんそっくりのダミーの方もちゃんと愛するようになりますよ。それに、どちらかと言えば陛下にとってダミーの方が体が自由に出来るだろう分…ダミーの方に夢中になるかもしれません。ほら、見て下さい」
アビが、暗闇に動画のように映る、ジュリを抱くクロと偽の理久を指さした。
クロと偽理久は、お互いをじっと見詰め合っていた。
「クっ…クロ!それ、俺じゃない!」
理久はこの状況を見て、焦りに焦り叫んだ。
そこに…
「なークロ…もうジュリはいいじゃん…アビが、少し庭を散歩したらって言ってたからさぁ…二人で行こうよぉ」
偽の理久が、妙に媚びた感じでクロの服を引っ張り誘う。
「えっ?」
クロが少し戸惑うと偽理久は、強引にジュリをクロから取り上げベビーベッドに寝かせた。
そして、クロの左腕をとり引きずるように、緑と花に溢れる庭に出た。
すると…
「メ~エ~!メ~エ~!」
一匹の、放し飼いにしていたヤギが理久の元に来た。
この世界には、動物のヤギはいるがヤギの獣人はいない。
偽理久は両手を振り回し、ヤギを思いきり追い払おうとした。
「あっち行けよ!あっち行け!あっち行け!」
ヤギは、すぐにいなくなったが…
クロは最初、偽の理久のその態度に驚いていたが、やがてその様子を黙って、怖いほど神妙な面持ちで見ていた。
しかし、そうしている内。
「なぁ、クロ…あそこ…誰も居ない倉庫っぽいね…」
次に偽理久が、ヤギに対する口調とは全く違う、又媚びた感じでクロの腕を強引に掴んで引っ張った。
そして、偽理久はクロを、使われない鍋や日用品の置かれた案外広い小屋に押し込み、自分も中に入り戸を閉め、クロの顔を妖しく凝視しながら中から鍵をかけた。
そして…
「クロぉ…」
偽理久は甘える声を出して、クロの逞しく大きな体に抱き着いた。
「ウソだろ!ダメだ、クロ!ダメだ!そいつは俺じゃ無い!俺じゃ無い!」
本物の理久は、声を限りに叫んだ。
理久は、そこにいる、クロに笑いかける余りに自分クリソツの男子に驚愕した。
「あれ、誰?どういう事?」
理久は呆然として言って、アビの方を見た。
「すいません…僕は、陛下にも助けていただいたのに、理久さんを元の世界に返してしまうはずだったし、何より魔法陣を直せなかったお詫びのつもりで…陛下には、理久さんそっくりの別人を造り…陛下を愛するようインプットしてプレゼントしました」
アビは、申し訳なさそうに理久から視線を逸らせた。
「そんな…そんな…俺を今すぐクロの所へ返してくれ!それに、俺に似た奴を贈って、クロが喜ぶとでも思ったのか?」
理久の声が、怒りで震えた。
「もし、理久さんが一人御自分の世界に帰ったなら、陛下の悲しみはいかばかりに深かったでしょう。そうなれば、自分の都合の悪い真実より、自分の都合の良い嘘の方が幸せだと言う事もあります。それは、人も獣人も同じですよ…」
唖然とする理久を尻目に、アビは続ける。
「理久さん…魔法と言うのは、神の真似事でしかありません。魔法で誰かそっくりのダミーを造ったとしても神のように完璧は難しいのです。だから、理久さんとあのダミーの理久さんには、やはり若干の違いが出るはずです」
「はぁ?!」
「でも、陛下はきっと、それに気付こうか気付くまいが理久さんそっくりのダミーの方もちゃんと愛するようになりますよ。それに、どちらかと言えば陛下にとってダミーの方が体が自由に出来るだろう分…ダミーの方に夢中になるかもしれません。ほら、見て下さい」
アビが、暗闇に動画のように映る、ジュリを抱くクロと偽の理久を指さした。
クロと偽理久は、お互いをじっと見詰め合っていた。
「クっ…クロ!それ、俺じゃない!」
理久はこの状況を見て、焦りに焦り叫んだ。
そこに…
「なークロ…もうジュリはいいじゃん…アビが、少し庭を散歩したらって言ってたからさぁ…二人で行こうよぉ」
偽の理久が、妙に媚びた感じでクロの服を引っ張り誘う。
「えっ?」
クロが少し戸惑うと偽理久は、強引にジュリをクロから取り上げベビーベッドに寝かせた。
そして、クロの左腕をとり引きずるように、緑と花に溢れる庭に出た。
すると…
「メ~エ~!メ~エ~!」
一匹の、放し飼いにしていたヤギが理久の元に来た。
この世界には、動物のヤギはいるがヤギの獣人はいない。
偽理久は両手を振り回し、ヤギを思いきり追い払おうとした。
「あっち行けよ!あっち行け!あっち行け!」
ヤギは、すぐにいなくなったが…
クロは最初、偽の理久のその態度に驚いていたが、やがてその様子を黙って、怖いほど神妙な面持ちで見ていた。
しかし、そうしている内。
「なぁ、クロ…あそこ…誰も居ない倉庫っぽいね…」
次に偽理久が、ヤギに対する口調とは全く違う、又媚びた感じでクロの腕を強引に掴んで引っ張った。
そして、偽理久はクロを、使われない鍋や日用品の置かれた案外広い小屋に押し込み、自分も中に入り戸を閉め、クロの顔を妖しく凝視しながら中から鍵をかけた。
そして…
「クロぉ…」
偽理久は甘える声を出して、クロの逞しく大きな体に抱き着いた。
「ウソだろ!ダメだ、クロ!ダメだ!そいつは俺じゃ無い!俺じゃ無い!」
本物の理久は、声を限りに叫んだ。
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