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咆哮

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「嘘!嘘よ!私が幽霊なんて嘘よ!絶対違う!私は幽霊なんかじゃない!私はまだ死んでなんかないわ!」

エリザベートは叫び、ベッドの上でゼインにしがみついた。

「ゼイン、そいつは危険だ…こっちへ来い!」

グレイの長髪の男が、少し離れた所からゼインに向かい手を差し出す。

途端に…何故か分からないが…

この前、雪の窓越しに初めてチラリと見た、ただそれだけの男のはずなのに…

ゼインの胸はドクドクと激しく鼓動を打ち、異様に熱くなる。

ずっと前から知っているような、どこか懐かしくて、切なくて泣きたくなる。

「さぁ…ゼイン…私の所へ来い…来い…ゼイン…」

グレイの髪の男の声は命令口調だが、どこか愛の囁やきのような滴るような甘さがある。

ゼインは体がたまらなくなり、その言葉に従いベッドを降りようとした。

だが…

「ダメ!行っちゃダメ!アイツはもの凄く悪い奴なの!」

エリザベートが、尚小さい手で必死にしがみつく。

「エリザベート?」

ゼインが戸惑って彼女の顔を覗きこむと、涙が溢れ出したブルーのはずの瞳が白く光っていた。

そして…

「ダメ…行ってはダメ…もう…寂しいのは嫌…嫌なの…お前は、私の兄上になるのよ。それに、あの男は…あの男は邪狼神だから…行ってはダメ!」

エリザベートのその声は、幼女と思えない低い男のもののように変わっていた。

(邪狼神?…彼が?…)

ゼインは、グレイの髪の男を見て
体を固めた。

(なら…俺が教皇様の為に殺すの
は、彼なのか?…)

呆然としていると、突然…

エリザベートの横で同じようにゼインにしがみついていたかわいいグリーンドラゴンが、羽を広げ飛んで、グレイの髪の男の前に降り立った。

バキバキバキバキバキバキ!

ミチミチミチミチミチミチ!

あんなに小さかったドラゴンの体が、耳障りな音を立て…

みるみるこの部屋の高い天井ギリギリまで背が伸びた。

体全体もおぞましい程に筋骨隆々に变化し、目付きも血走り凶暴になった。

「グオーー!!!グオーー!!!グオーー!!!グオーー!!!」

巨大化したドラゴンは、グレイの髪の男に向かい激しく咆哮しながら片足を踏み鳴らした。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

その衝撃で、部屋の高価そうな花瓶や絵画が落ちて破壊され、家具の幾つかが倒れ、壁にも複数の亀裂が入った。

しかし、グレイの髪の男は、その声の起こす強い風に髪を靡かせながら、地響きにも腕組し全く平然とし動じない。

「ジータ!邪狼神をやっておしまい!」

エリザベートは、又野太い声で、
グリーンドラゴンに命令した。

















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