殉剣の焔

みゃー

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祭囃子

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定吉が、これ程怪我をしたのは元服前だろう。  

背中の深い傷は、南蛮渡来の妙薬のお陰で痛みも無いが、医師から一生大きな傷跡が残ると言われた。

「うむ…なかなか回復は順調じゃな。まぁ、本人の体力に依る所が大きいが。身体を拭く位ならそろそろ大丈夫だろう」

観月家に来て三日。

出入りの医師は定吉を診察した。

それを布団に横たわる定吉の傍らで、胡座で見ていた春陽はほっと安堵したが…

それは、春陽の中に閉じ込められている優も同じで…

春陽の瞳を通し…

医師からの傷への処置を黙って受ける定吉の横顔を見て、泣きそうになっていた。

春陽はそうしながら、ふと、定吉を傷付けたあの一つ目の化け物の事を思い出し…

次に最近、父と大ゲンカした春頼だけで無く、朝霧が元気が無い事を思い浮かべた。

春陽が心配をかけ過ぎた事が原因か、それとも、朝霧自身の結婚が近い事からの緊張なのか…

春陽が何度も朝霧に大丈夫か?と尋ねても、朝霧は、曖昧に「ああ…」と答えるだけだった。

やがて、ボーッと思考する春陽
に、医師が処置の終了を声掛けして医師は退出して行った。

その後布団に横たわる定吉は、座敷に春陽と二人きりになった。

「どうして…」

ずっと傍らに胡座する春陽に、定吉が天井を見たまま呟きかけて言葉を続けた。

「どうして…俺を助ける?俺は、お前に斬りつけた男だぞ…」

僅かに、二人沈黙の時間が流れるが…

「それを言うなら、その言葉、そっくりそのままお前に返す。何
故、私を助けた?」

春陽の声は、この部屋の気のように静かで穏やかだ。

定吉は、返事に困窮する。

ふっ…と春陽が息を漏らし、仄かに微笑んだ。

「余計な事を考えないで、今はゆっくり怪我を治してくれ…」

その笑みにあのマリア菩薩が重なり、春陽を見る定吉は更に困惑した。

仏像などに全く興味が無いのに、どうしてこうもチラつくのか?

定吉は、観月家の恩人として、衣食住破格の看護の待遇を受けていた。

栄養のある健康的な食事。

安らかな睡眠。

そして、医師、何人もの使用人も含め…

この過酷な時世にも、観月家の人間は皆親切だ。

特に春陽はしょっちゅう食事や飲み物を持って来たりする。

清らかな里の空気や暖かな春の光ものんびり感じる事が出来る。

こんなに穏やかに日々を過ごしたのは、何年ぶりか分からない位久しぶりだった。

そして、ここ数日、遠くから美しい笛の音と太鼓、雅楽の笙の音が頻繁に聞こえ、今日もさっきから
始まった。

「すまない…音…五月蝿くはないか
?なんなら部屋を変えるが…」

気を遣い、春陽が定吉に尋ねた。

「五月蝿くなんかねぇよ…」

定吉のボソボソとしたその返事は嘘では無い。

天井を眺めながら、それは子守り唄の様に耳に心地いい。

「春祭りが六日後あって、今練習の追い込みに入っている。祭りの頃に少しでも起き上がれるなら見られるといいんだが…どうだ、今から身体は拭けそうか?」

そう春陽が尋ねると…

「ああ」と定吉が返事をし、用意を頼んで来るとニコリとして春陽は部屋を出た。

だが、定吉には謎だった。

春陽は、あの山小屋で一緒に過ごした男と同一人物のはずで…

顔は全く一緒だが…

やはり所作と言うか、全体の身体の動きや喋り方や雰囲気があの男と全く違う。

もしかして…

春陽は双子なのではないか?と思ったが、暗闇の崖の斜面で入替ったと言うのもおかしな話しだ。

いや…

もしかしたら…

山で定吉が助けたのは、最初から春陽では無かったのでは?と疑念すら浮かぶ。

だが、春陽に聞いた所で、本当の事は言わないのは分かっていた。

だがそれは向こうもそうだと、お互いそうだと、定吉は薄々勘付いている。

春陽は、定吉が本当は何者か一切聞いてこない。

定吉が言えない訳が有る事を察して、まるでこちらを思いやるかの様に…

だが、自分の方は違う…

春陽を思いやって聞かない訳じゃない…

ただ、聞いても無駄だと諦めているだけだ…

ただ、それだけ…それだけのはずだ


神妙に考えながら布団の上で横になっていると、春陽の声がした。

「入るぞ」

「おお…」

定吉は、天井を見詰めていた視線を春陽に向ける。

春陽は手に小さなたらいに湯を入れ手拭いを持って入室して来た。

「私がお前の身体を拭く」

定吉は、てっきり観月家の使用人がしてくれるとばかり思っていたので、声の無いまま驚愕した。

その頃、江戸時代では…

時間の流れが違い、戦国時代と違い殆ど時は過ぎていなかった。 

しかし、尋女は決意し…

幼巫女千夏の力を媒介に、優達をこちらへ呼び戻す、危険な準備を神殿内に即整えた。

だが、それは、危険過ぎる賭けだった。


















































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