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高校生編

23 春の海で(1)

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明日からゴールデンウィーク!!
番寮に引っ越してきてからそれはもう大翔とイチャイチャしてしまった。

事件翌日から月曜朝の登校時間までを二人で過ごした。
電話では礼央くんや颯斗さんにも連絡したし。
颯斗さんにはお礼も言った。
明くんにも連絡しておいた。
まだ番になってないって言ったら驚かれてしまった。

家にいる間、僕の定位置は大翔の膝の上か足の間に座ったり、真横に座っててもぴったりと寄り添っている。
大翔も僕も離れがたくって引っ付いてたら定位置になってしまった。

月曜に学校に行ったらみんなに心配をかけたらしくて、クラスメイト達に泣かれてしまった。
もう大丈夫だよ、ありがとうって言ったら大翔が僕をぎゅっと抱き寄せてこめかみにキスをしてきて僕は固まってしまった。
クラスメイトのみんなはなぜか拝んでいた…。

神宮寺くんにもお礼を言ったら、少し照れていた。
最初出会った時はチャラくて、デカくて怖かったけど。
最近の神宮寺くんは落ち着いてて、多少物言いはチャラいけどなんとなく大人びて見えた。

今日は寮で大翔と過ごして、明日の朝柴田さんが迎えにきてくれる事になっている。

放課後は『料理研究部』があったので、大翔とわかれて部室にやってきた。

料理研究部は昔から結構人気のある部活で、礼央くんと未亜さんも在学中に在籍していた。
特別棟の1階に調理室と着席してご飯を食べれるキャンティーンと呼ばれる食堂が併設されている。

今日はゴールデンウィーク前なので子供の日メニューにしようかと話が出ていたんだけど、部長の相良先輩 
が4~5月は初ガツオだ!と初ガツオを使った「初ガツオのてこね寿司」、「青菜の白和え」、「高野豆腐入りの若竹煮」、「鶏団子入りのキノコ汁」という非常に渋めのメニューになった。

もちろん女子たちはもっと写真映えのするメニューをと反対したが…うちの部活は部長が強いからあっけなく渋めのおばあちゃんが作ってくれるようなご飯に決まった。

うちの部活は決まったメニューを作ることも多いが、個人で自由に作ることも許されているので、僕は明日からでかけるので通常の献立にプラスして生地だけ用意して来ていたクッキーを焼かせてもらう事にしていた。

「う~ん、相変わらず芦屋くんは手際がいいね。」
「ほんとですか?毎日作ってるからかな…昔よりちょっとうまくなったような気がします。」
「あぁ~、そうよね番寮に移ったんだっけ。」
「はい、まぁまだ番ではないんですけど。」
「ふふふ、あんだけ外でイチャついててまだ番じゃないなんて信じられないけどね!」

相良さんはアルファで、すでに校外に番がいるらしい。女性アルファはすごくめずらしい。
男オメガも少ないといわれているけど、女アルファも同じぐらい少ないと聞いたことがある。
相良先輩の番はオメガの女性で、幼馴染なんだって。去年番ったと教えてくれた。

相良先輩は豪快な人で、非常にサバサバしていていわゆる姉御肌といわれる人だ。

実家が有名な料亭で将来はその料亭を継ぐらしい。

「ねぇ、芦屋くんはどう?一緒に暮らしてみて!っていってもまだ数日か…。」
「そうですね、1週間も経ってないんですけど…。すごく楽しいです!それに、別々の寮に帰らなくていいのが嬉しくって…。」

僕がそう言うと、相良さんが優しげに笑った。

「はぁ~~~可愛い…うちの嫁の方が可愛いけど、芦屋くんも負けず劣らず可愛いわ…こりゃ六浦くんが全方位に威嚇して回ってるのも頷けるわ…。」
「いかく??」
「あ~、まぁそれは置いといて。一緒に暮らせるのが嬉しいかぁ~うちの嫁もそう言ってくれるかなぁ~。」
「え、絶対嬉しいに決まってますよ!好きな人と暮らせるんですよ?」
「かぁー!!素直かっ!うちの嫁は極度のツンデレちゃんだからねぇ、そう言うこと言ってくれないのよ。まぁツンツンしてるのも可愛いんだけどね~。」

相良先輩は嬉しそうに話していた。
番がすごく大事なんだって顔をしていた。

いつか大翔と僕もそうなれるのかな…。

相良先輩と話しながらどんどんと料理を仕上げていく。
途中クッキーをオーブンに入れて、焼いている間に煮物やキノコ汁を仕上げて最後にてこね寿司を仕上げた。
先輩曰く、てこね寿司は三重県の郷土料理らしい酢飯に万能ネギやガリ、大葉と胡麻を混ぜ合わせて漬けにした鰹を最後に乗せていく。

さっぱりしてて美味しそう。大翔も好きそう。大翔って生姜とか薬味も結構好きなんだよね。

「はは~ん、芦屋くん今王子のこと考えてるね!」
「お、王子?」
「そ、裏では王子って呼ばれてるらしいよ六浦くん。まぁ、あの六浦ホールディングスの子息であり、あの顔面…そして頭も良ければ運動もできる…。そして姫の事を一途に愛するあたり完璧王子様でしょ!」
「…も、もしかして姫って…。」
「芦屋くん以外どこにいんのよ、当たり前でしょ。」

やっぱり~!もしかして、って思ったよね。いやまぁそう…うーん、僕男なんだけどなぁ。

「芦屋くんさ、無自覚なのかもしれないけど…めちゃくちゃに可愛いんだからね…ほんと…そこだけは認識しといて。」
「そ、そうですかね…普通だと思ってたんですけど…。」
「そんな色白で!目が大きくて!口もぽってりしててちっちゃくて可愛いし…料理はできるし、運動はちょっと難ありらしいけど…勉強だって特進Aに行ける頭もある…どう考えたって姫と呼ばれて然るべきよ!!!もっと胸張んなさいよ!ほんと番になるまでは…いやなってからもほんと魑魅魍魎みたいな女だけじゃない男だって六浦くんには群がるのよ!まぁ跡取りじゃないだけ幾分かマシかもしれないけど…もはや大差ないわ!私のとこだってくるんだからね!いい!もっと自信持ちなさい!」

なぜだか相良先輩に肩を掴まれてガシガシと揺すられるので、僕はただひたすら首を縦に動かすことしかできなかった。
魑魅魍魎か~やだなぁ…。

「先輩、俺の凛に言い寄ってるわけじゃないですよね?」

声のした方を見ると調理室の入り口のところに大翔が立っていた。
僕と相良先輩を満面の笑みで見ている。
あ、これ良くない時の笑顔だ…。

「んなわけないでしょ。私には可愛い可愛い嫁がいるのよ!今芦屋くんには自覚を促してたところよ。」
「自覚?」
「だって…こんだけ可愛いのにま~~~ったく自覚してないのよ?」
「何でそんな話になったんですか…。」
「あ、大翔が王子って呼ばれてるって話になって、そしたら…僕が…その…」
「あ~凛が姫って呼ばれてるやつね。」
「大翔知ってたの!?」
「当たり前でしょ?凛に関すること俺が知らないわけないじゃん。」

「怖っ…」
「何ですか?先輩。」
「いえ…。」
「先輩だって先輩の嫁が何て呼ばれてるとか、学校でどうやって生活してるとか把握してるでしょ?」
「…してます…。」

え、そういうもんなの?
当たり前なの???

「まぁ番がいるアルファの執着心は半端ないからね。これぐらいならみんなそうじゃないのかなぁ。」

そうなのか…。
…っていうかまた僕の考えてることを読んで普通に大翔が会話成立させるからスルーしちゃったけど。
すぐ僕の考えてること読むんだよね、エスパーかな…。
僕が怪訝な顔をして大翔を見ると、大翔は息を吐くように笑った。

「凛はポーカーフェイスだと思ってるみたいだから言わなかったけど、ものすごく顔に出てるからね。」
「えっ!」
「…まさか芦屋くん…気づいてなかったの…全部顔に出てるわよ。」

うそ…ふと周りの部員を見渡すと、みんな首を縦に振ってるんだけど…。
僕、六浦家の人だけわかってるのかと思ってたけど…もしかしてみんなにバレてた…?

「姫はそこが可愛いのよ…。ツンツンしようとしてるんだけど全然無理なところとか、王子のこと考えてると勝手に顔がにやけちゃってるところも可愛いわ。」
「さっきも完全に王子のこと考えていたわよね。」
「えぇ、こっちが照れちゃうわ。」

はっ!今大翔いるのにそんなこと言わないで!

「ちょっ!だ、だめです!!!」
「ん、何がだめなの?凛。」

ほら!僕のこと後ろから抱きしめる大翔が嬉しそうな顔をしてる。

「俺のこと考えてニヤついてたんだ…。」
「うっ、さっき…てこね寿司作ってて…大翔好きだろうなって思ってただけだし。」
「そっか…。」

うぅっ!ちょっと二人じゃない時に外でこんなに密着して、イケメンスマイルを受けるの久々すぎて少し目眩がした気がする…。
かっこいい…。

「はぁ、照れてる凛可愛い。どうしよう。凛が可愛すぎてつらい。先輩この子持って帰っていい?」
「せめて最後までご飯を作らせてやってほしいし、何なら食べてから帰って。」
「相良先輩…。」
「どっちにしろおんなじ家に帰るだうが。」

大翔が僕の背中にピッタリくっついてぎゅうぎゅうと抱きしめる。
もう、動きづらい…けど、嬉しいから何も言えないんだよね。
ちょっとだけ離れてもらって、その間に焼き上がったクッキーを袋に詰めていく。
明くんと、あと部員のみんな用と大翔の分それと明日みんなに会うからみんなの分。
結構いっぱい焼いた。そのために前日からクッキーの生地を用意して、調理室のオーブンの方が大きいので借りて焼いたんだ。

作った料理も全部完成して、キャンティーンでみんなで食べる。
僕が料理研究部に入ってからというもの、大翔は迎えに来てくれるので良くこうやって部員のみんなとご飯を食べる。
と言っても食べるのは僕が作ったものだけなんだけど。

今日も少し薬味を多めに入れたてこね寿司はやっぱり大翔の好みに合ってたみたい。
今度寮でも作ってみよう。
鶏団子も生姜をちょっと多めにして、少しお味噌を入れてあと軟骨も入れたから食感も変わって美味しい。
大翔は僕の作った料理は何でも美味しいって食べてくれる、その中でも好きなのは茶色いおかずなんだけど…でも野菜とかの副菜も結構好きなんだよね。前に作ったほうれん草と春菊の胡麻和えも好きだったみたいだし。
今日は白和を美味しそうに食べている。

「大翔、美味しい?」
「あぁ、やっぱり凛の作ったご飯は美味しいよ。」
「へへへ、よかった。」


「ハァ~いつものことながら王子と姫の新婚の食卓を盗み見てる気分になるの私だけかしら。」
「奇遇ね…私もよ…。」
「クラスが違うからほとんど会うことはないと思ってたけど…この部活に入ってよかったと心から思うわ。」

「早く帰っていちゃつきなさいよって言いたい所だけど、部員の士気が高まってるから何とも言えないわね…。」

相良先輩は少し疲れたような顔をして僕らを見ていた。
何だか申し訳ない、でもこの時間も僕はすごく楽しいんだ。


****

「凛、準備できた?」
「うん。そういえば結局別荘ってどこに行くの?」

「あぁ、今回は沖縄の離島だよ。」
「へぇー…え!?」
「ん?」
「そんな遠くに行くんだ。」
「あぁ、だから明日柴田にはここから羽田まで送ってもらう予定。」
「もっと近場に行くんだと思ってた。」

沖縄に行くならちょっとこっちより暖かいじゃん。
長袖多めに入れてたけど、半袖にしなきゃ。
それにバッグじゃなくてスーツケースの方が良さそう。

僕は一旦つめたバッグから引っ張り出してきたスーツケースに服を詰め直した。

「あぁ、近場だと思ってたのか。ごめん。」
「ううん。沖縄かぁ…僕行ったことないんだよね!」
「そうか。」
「日本に遊びにきても礼央くんの家行くぐらいで、あんまり遠出したことなかったから楽しみ!」
「よかった。」

僕はいそいそと半袖のTシャツなんかを詰めていく。
そっか、沖縄かぁ~楽しみだなぁ。
別荘って言ってたけどどんなところなんだろうな…。

大翔と僕は一緒にお風呂に入って、明日からの旅行のことをいっぱい話した。

僕は大翔がかいたあぐらの上に座って浴槽に浸かる。
後ろからは大翔が抱きついたまま僕のかたに顎を乗せてくるので、僕は大翔の頭を撫でながら明日の行程の話をしていた。

明日は朝から羽田に向かって、那覇空港を経由して石垣島に向かいそこから船で別の島にフェリーで行ってからさらに小さな船に乗り換えて行くらしい。
結構遠いんだなぁ、大体多めに見積もって5~6時間はかかると教えてくれた。
離島…と言っても個人所有の島で僕ら以外誰もいないらしい。
…個人所有の島…しかも沖縄に…。
六浦家ってやっぱり破格のお金持ちなんだな…。

僕はキャンプ場のバンガローやロッジ的なものを想像して現地に行ったんだけど、現地でさらに驚かされることになるとは思わなかった。

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